第49話 一輪の花びら
戦いの火蓋は勘違いから起こった。
聖王ラーディーンは、軽く頷いた。いや、俯いただけだったのかもしれない。
しかし、その頷きを聖騎士団長は攻撃の命令だと判断した。
彼は右手に持つ剣を高々と掲げて振り下ろす。
「突撃」
大声で叫ぶ。
一瞬、聖王が止めようと手をあげそうになるが、彼はそれほど愚かではない。
突撃を始めた大軍勢を急に止めればどんな混乱が生じ、それが破滅に繋がるかを理解しているのだ。
戦場は動いた。
セレン神聖国の動きが日常の小競り合いとは格の違う動きだとは武王軍も魔導国軍も直ぐに悟る。
しかしセレン神聖国の突撃の方向は意表を突くものだった。
真ん中だったのだ。
三軍が衝突する真ん中だ。
☆★☆
「セレンめ、何を考えている」
魔導王が叫ぶ。
「砲を、半分ずつセレンと武王軍に……」
それをバインドが遮る。
「親父どの、それでは威力が分散するぞ」
バインドが叫ぶ。
「やむを得ぬ」
魔導王が叫び返す。
どちらかに砲撃を向ければ、結果的に魔導国は両陣営から攻められる。
ならば最初から両方に砲門を向けるしかない。
無傷の大軍を真正面から受け止めるような防御力は魔導国には無いからだ。
しかも戦いは既に混戦状態だ。
武王軍もセレン神聖国も魔導国軍も全軍が全軍と戦う。
三すくみが一転し、三つ巴の戦いに変化したのだ。
「醜いぞ」
戦場にすら美を求めるバインドは眉をしかめて混乱する戦場を見た。
彼の視線の先には同級生達の戦う姿がある。
「行くぞ」
バインドは叫ぶと召喚した魔物を引き連れて混戦する渦に向けて魔馬を進めた。
剣鬼ライドが嬉しそうにその行方を遮る。
「バインド。一度勝負したかったんだよ」
「おう、まぁ良い。かかってこい剣馬鹿と戦うのもまた一興」
バインドの口角も上がっている。
一方、聖姫騎士アテナは、大聖女マリアを前に剣を構えていた。
「お前には、その聖女服がある。わたくしは遂には専用アーマーを作っては貰えなかったがな。
さて、その服のバフを使ってもわたくしには勝てないことを証明して見せようか」
アテナが言う。
「はい。わたくしはアッシュ様に守って頂いております。
負ける気がしません」
マリアが魔法の杖を掲げる。
そんな混乱する戦場に異質な音が混入する。
戦場の騒乱をさえ上回る狂乱の音。
誰かがその音に目を向けて凍りついた。
呆然とその一点を見つめる。
その戦士に攻撃しようとした敵兵も相手の視線に釣られて見た瞬間、動きを止めて目を見開く。
そこには数の暴力があった。
高山スバイツ。
天を覆うと称される山。
その山がオークで埋め尽くされていた。
数えるのも馬鹿馬鹿しい。
数の暴力。
グギャー
咆哮が戦場を包む。
オークの超大軍の前には、エルフの傷付き、みすぼらしい隊が壊走して来るのが見える。
戦士の誰かが指を指す。
オークに覆われた高山スバイツ。
戦場の騒乱が収まって行く一方、山からの狂乱の吠え声が響き、いやます。
聖姫騎士アテナの前に一人の少年が走り寄る。
「アテナ殿下!」
アテナが、馬上から覗き込む。
「エディではないか」
「あれは魔物のスタンピード。こんな平原で迎えうってはいけないよ。直ぐに軍をまとめて」
エディが叫ぶ。
一方、大聖女の元に一人の少女が駆け寄っていた。
「ソフィア。どうしてこんなところに?」
大聖女マリアが尋ねた。
「あれを、直ぐに戦いを止めるのよ」
ソフィアが高山スバイツの方を指差した。
☆★☆
数百まで数を減らしたハイエルフ達を迎え入れつつ、隊列をまとめる神聖国。
軍をまとめて迎撃体制に入る武王軍。
魔物に向けて魔導砲が火を吹く。
しかし、見渡す限り魔物の群れが彼らに襲いかかろうとしていた。
武王軍、魔導国軍、聖騎士軍の三国三軍を合わせても僅かに5万。
それは目の前の数の暴力にはあまりにもささやかな数。
クラスメイト達は、自然と真ん中に集まっていた。
聖女が杖を高々と掲げて聖壁の大魔法を発動する。
オークキングが吠える。
その時、一輪の花びらがクラスメイト達の目の前に舞う。
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