第27話 魔道具コンテスト
「アッシュ。それは何だ?」
こだわりにこだわって描かれた魔法陣を見下ろしながら、バインドが首をひねった。
それは天才と呼ばれる彼の知識と、アッシュの異常なまでのこだわりが融合した結晶だった。
「見事としか言いようがないが……しかしな」
バインドが小さく唸る。
「どうしたの?」
アッシュは不思議そうに首をかしげた。
「お主、最後の最後でなぜそんなふざけたマークを書くのだ?」
バインドが指さした先には、魔法陣の中心部に描かれた豚のマークがあった。
しかも、それは最重要の魔力制御点に配置されている。
「え? これは豚輩先生のマークだよ」
「それは分かっている。しかし、そこに必要か?」
「え? 『豚輩先生の魔法陣規則』に則った実証実験だけど」
アッシュは当然のように言った。
「まあ、そういう趣旨ではあったがな。その理論の大半は、そもそも我の考案だぞ」
バインドは苦笑する。
「ああ、バインドは面白いけど、本当に天才だよね」
「今さら褒めるな。だがまあ……良い勉強にはなった」
バインドは腕を組み、少し楽しげに続けた。
「無駄に思えるほどの精緻さ、徹底した正確さ、そして規則への異常なまでの忠実さ。どれを取っても、変態という言葉では足りん」
「バインド、それは職人魂って言うんだよ」
「職人魂か……悪くない響きだ」
バインドは満足げに頷いた。
☆★☆
魔道具コンテスト当日。
「あれが、アッシュとバインドの作品らしいぞ」
商人の息子エディが、隣にいる魔眼のソフィアへ囁いた。
「魔導国の魔導砲の模造品だって噂よ」
「ああ、例のやつか」
剣鬼が楽しげに声を上げる。
「アッシュ君、その“豚輩先生の魔法陣規則の実証実験”って何なの?」
「名前の通りだよ」
アッシュはあっさり答えた。
「アッシュのこだわりは本当に凄かったぞ」
バインドが笑いながら横から補足する。
「さあ、実証実験だ」
☆★☆
魔導砲に魔力が込められる。
「バインド、入れすぎるなよ。理論上かなりの威力が出るはずだ」
「分かっている」
バインドは慎重に、通常の百分の一ほどの魔力を流し込んだ。
「準備完了だ」
「じゃあ、いくよ」
アッシュが発射ボタンを押す。
次の瞬間──
砲身からピンク色の煙が、爆ぜるように散った。
「ボンッ!」
間の抜けた音とともに、空へと力なく飛んでいく。
そして校庭の端に着弾すると──
ぽわん、と柔らかく広がった。
「おお……」
「なんだこの規模は」
見学の生徒たちがどよめく。
広がったピンクの霧は、やがて模様を形作っていく。
「……あれ、豚の鼻か?」
「豚の鼻だな」
「完全に豚だ」
学園は一瞬で笑いの渦に包まれた。
「さすがアッシュとバインドだな。実に面白い趣向だ」
剣鬼が嬉しそうに跳ねる。
「アッシュ……やはりあのマークのせいではないか?」
バインドが呆れたように言う。
「でも、この出力でこの効果なら成功だな」
バインドはすぐに笑いに変えた。
「ふーん、そう解釈するのか」
アッシュは首をかしげる。
「アッシュ様、神……豚輩先生の魔法陣を進化させたのです」
レディが感心したように言う。
「いや、ただの自然現象だろ」
「「「またそれかよ!」」」
クラスメイトの声が重なり、いつもの学園の光景が広がった。
あとがき
魔道具コンテスト編、いかがでしたでしょうか。
今回は「理論とこだわりが融合すると、だいたいロクでもない方向に暴走する」という話でした。
アッシュとバインドは真面目にやっているつもりなのに、結果だけ見るとどうしてもふざけた方向に寄ってしまうのが、この作品らしさかなと思っています。
ちなみに豚マークは、最初はただの冗談のつもりだったのですが、気づいたら魔法陣の中心に居座っていました。
たぶん一番仕事をしているのはあのマークです。
今後も「真面目にやっているのに何かがおかしい」世界をゆるく書いていきますので、気が向いたらまた読んでいただけると嬉しいです。
それでは次回もよろしくお願いします。




