第1話 追放された厨二な儀式は、神の御技と誤解される
新連載
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「魔なしのクズが、何をやってんだ?」
辛辣な悪態。
──魔なしでも凄い魔法が使えたんだ。それを証明しようとしているんだよ。
アッシュは心の中で反発する。
しかし世界は彼を嘲笑う。
「見ていられないな」
「さっさと行こう、馬鹿がうつる」
口々に罵倒する人達を横目に見つつ、アッシュはそれでも奇妙な踊りと魔法の呪文をやめない。
「……我は命ず、火の精霊王よ、炎の矢を、ファイアアロー」
不必要なほどに大袈裟な格好をつけて、アッシュは手を前に振った。
ビシッ! そんな音が聞こえてきそうだ。
その手には複雑な模様が刻まれた魔法の杖が握られている。
しかし、何も起こらない。それどころか空気が重くなり風が止む。
音が静まる。
アッシュは足元に視線を落とした。
「くそ! ダメか。よし!」
アッシュは、パンパンに膨れたカバンから何かを取り出し始めた。
それは、謎の幾何学模様が派手に刺繍された極彩色のローブだった。
彼は悪戦苦闘してローブを着た。
しかしそのローブのサイズは異常だ。裾が長く地面に垂れて引き摺らないと歩けない。
ようやくその変な服を着終わったかと思うと、アッシュはもう一度カバンから何かを取り出す。
それは、相当な太さに膨れあがった巻物だった。
サッと大きく振りかぶると巻物の端を掴み全力投球!
巻物は地面を狂ったようにぐるぐる回って遥か向こうまで転がって行く。
アッシュはその様子に満足してできる限りの大声を張り上げる。
「…….奉る……大いなる……れん……はあ、はあ……我は求め訴える……はーあー」
呪文が長い。あまりにも長過ぎて息切れし、遂には膝に手を置いてしまう。
「おいおい、あいつ息切れしてんぞ、大丈夫か?」
そんな声が聞こえる。
アッシュは苦しそうだがそれでもやめない。
それからも更に長々と呪文を唱える。
「……最上級魔法ファイアストーム‼︎」
最後は絶叫のようになっていた。その大声は校庭の隅々にまで響いた。
プス
微かな音がアッシュの耳に響いた。誰もその音に気付かなかった。
その瞬間、アッシュは視線を地面の魔法陣に向けていた。
魔法陣の中心付近に普通の人なら気づかないほどの小さな点があるように見えた。
「ん?」
アッシュは目を瞑ってその場に崩れた。
両手を地面につけて肩で息をする。彼の喘ぎが虚しく澄んだ空気を震わせていた。
☆★☆
「お前をこの学園から追放する」
その無慈悲な宣言にアッシュは身を強張らせた。
「え! 追放? 落第でなくて」
アッシュは驚いて聞き返した。まさか追放されるとは思っていなかった。
「お前の奇行が学園の品位を下げているのが分からないのか?」
学園長の目は冷たく鋭い。
「いえ。あれは魔法のプロセスの研究です。
ふざけていたのでは無いのです。信じてください」
アッシュは必死に抗弁した。
アッシュの必死の訴えに学長は冷笑を浮かべた。
「アッシュ。お主のお父様のロベルト公爵殿から伝言だ。『お前は帰ってくるな』だそうだ。
もはやお主は公子でもなんでも無い。
ようやく厄介払いできる」
「学園長、この世界の魔法は誤解されています」
「何を根拠に言っているのだ」
「私には以前、確かな成功体験が有ります」
「偶然か妄想なんじゃないか?」
学園長はアッシュの説明など取り合わずに言った。
アッシュは何かを伝えようとして、言葉が詰まる。
「無能が……」
そう呟く学園長の瞳には憐れみすらなかった。
その瞳には何もかも自分の責任だと書かれているかのように無表情だった。
☆★☆
それでもアッシュの奇行は止まらなかった。
バージョンアップされたヘンテコな衣装、精緻化し過ぎの魔法陣の上で、アッシュは呪文を唱える。
既にあの長々とした呪文を全て暗記しているのか、朗々とした声で淀み無く呪文が唱えられる。
「我は命ず、火の精霊王よ、万物を統べる運命の王よ、放てファイアアロー」
アッシュの呪文が終わった瞬間、何度も練習したらしい見事な体捌きを披露し、杖を突き出していた。
その瞬間、空気が静止する。
アッシュの背後の岩が僅かに浮かび上がる。
アッシュの極彩色のローブの裾が舞い上がり孔雀のように広がった。
次の瞬間、アッシュの思っ切り突き出した杖の先に閃光が輝き、その中心から更に眩い炎の矢が、目にも止まらない速さで迸っていった。
ズドンと腹に響く発射音、目にも止まらぬ速さで空を切り裂いて、真っ赤な炎の矢が飛翔する。
矢が空の彼方に消えた次の一瞬、空が真っ赤に染まり、僅かに遅れて轟音が空全体を揺るがした。
「わお」
凄い爆発に一瞬アッシュは身体を固くした。
世界は一瞬で凍りついたかのように静寂に包まれた。
ハッと我に返るアッシュ。
慌てて足元の魔法陣に視線を移す。
彼の描いた魔法陣には先程まで無かった紋様が確かに浮かび上がっていた。
アッシュはそれを見ると嬉しそうに地面に座り込んだ。
そして彼は地面に両手をつくと顔を地面スレスレの位置まで下げた。
そしてじっくりと睨み付けるようにいつまでも魔法陣を眺め回した。
☆
「おい見たか」
アッシュと同じ学校だった少年の一人が叫んだ。
「あんなに凄まじい魔法なのに魔力の残滓を感じない」
そう言ったのは、アッシュが通う学校の優等生ロン少年だ。
「めちゃくちゃ凄い魔法だった。あれならエバンス学園にでも入れるぞ」
誰かが賞賛の声を上げた。
「本当に見事な魔法だったな。俺もあんな魔法が使えたらな」
ロンが呟いた。
「でもあの変な服を着ている奴はこの間、追放になった奴じゃ?」
別の生徒が言った。
「あはは、残念だがアッシュの魔力じゃあんな上級魔法は撃てないよ」
ロンが即座に否定した。
彼らの会話はアッシュの耳に入っていた。
───また馬鹿にしてやがる。それよりエバンス学園か、それ良いな……
同級生たちの声はまだ続く。
「あの魔法は凄かったけどエバンスは無理だろ。
変態さレベルならアッシュもエバンスレベルじゃね?」
そんな声の後、大勢の笑い声が沸き起こる。その笑い声はいつまでも鳴り続き、やがて遠ざかって行った。
───くそ! いつまで笑ってやがる。きっと俺は世界の魔法理論をぶち壊してやる。
アッシュは強い視線をエバンス魔法学園の塔に向けていた。
───明日が入試の最終日か……飛び込み歓迎とか、変な学校だよな……入れるものなら入ってみろってか……
彼は嘲笑を背中に受けながらエバンス学園に向けて一歩前に出た。
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ブクマ
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50話で序章完結(作成済みです)




