【03-07】冒険者ギルドのスキップ申請(その2)
いよいよ、真打ちのご登場・・・・・の前の前座はハルナ。
「ではスキップ申請者・ハルナと、Cランク・ココリーヌの試合を始める。はじめ!」
ギルド支部長を任させているガードリさんが、2人が定位置に着いたところで開始の合図を送る。
ハルナは完全に後衛である。そして、このパーティ内では唯一の専属治癒術師であり、補助魔術師でもある。本来はこんなガチな後衛職は物理戦闘力など皆無のはずだが、私の影響もあってある程度の物理戦闘力があり、基本は行使する魔術の邪魔にならない徒手空拳である。
なお、物理戦闘の師匠が私なので徒手空拳なのであって、コトリだったらたぶんショートソードか何かを持っていたであろう。
対するココリーヌさんもまた、ガチな徒手空拳使い。
つまり、この試合は珍しくガチバトルをする事になる。まず初めに仕掛けたのはココリーヌさん。ハイキックをかました後にしゃがんで体勢を立て直し、そのまま伸びると同時に顎下へとパンチを繰り出す。対するハルナは、最初のハイキックを後ろへと下がる事で躱し、そのまま顎下へとしかけるココリーヌさんの右腕を取って、一本背負いのように投げ飛ばす。
双方とも、相手を殺す気でやっているようで、受け身などは一切考慮に入れていない。
そのため、投げ飛ばす時にわざと手を放したハルナ。手を離されたココリーヌさんは、そのまま空中で1回転し、地面に両足が着くや否や、力のベクトルを前進方向に替えて突き進んでくる。そのまま低姿勢でハルナをタックル氏に来るが、ハルナはそのタックルを迎え撃つかのように低姿勢でどっしりと構える。
そのままの状態で双方が衝突。
衝突の瞬間、体をココリーヌさんの下に潜り込ませたハルナは、一瞬で持ち上げてココリーヌさんを背中から地面につき落とす。地面にもろに背中から突き落とされたココリーヌさんは、一瞬息が止まってしまう。その一瞬を突き、ハルナは袈裟固めで締め上げていく。
さすが、私の弟子だけはあるわ~~~~。基本は柔道・・・・・というか、相手を殺すためにある柔術が基本形なんだけど、ハルナはそこに空手やらムエタイやら、ボクシングやら・・・・・。とにかく、その小柄で柔軟性を跳んでいる体全体を最大限に利用して、いろいろと教え込んでいる。
そんなハルナは、ただの袈裟固めであっても、確実に絞め殺す事を目標にしているため、一度決まってしまったら、余程の武術の達人でもない限りその絞めから逃れる事は出来ないだろう。
げんにほら、徐々にきつく締めてきているので、知らず知らずの内に絞められている方の体力・気力・精神力が減ってきている。
そろそろ、タオルでの投げてあげた方がいいのかな?
そんな事を考えていると、ココリーヌさんがハルナの背中を3回叩いた。自分からギブアップ宣言したようだね。
ギブアップ宣言を受けたハルナは、即座に袈裟固めを解いた。戦場ならば、そのまま絞め殺すまでやるべきだが、試合なのでここで終了である。
「そこまで!ハルナはCランク昇格だ。」
ガードリさんの宣言に、ココリーヌさんに手を差し伸べて立ち上がるのを解除するハルナ。さっきまで絞殺されていたココリーヌさんは、未だにフラフラとしているようだが、足取りはしっかりしているので大丈夫なようだ。
「【ハイヒール】」
そんなココリーヌさんにハルナは、回復魔術をかけていろいろと回復させていた。無詠唱で高度な回復魔術を瞬時に発動させた事に、ココリーヌさんもガードリさんも普通に驚いている。私たちにとっては無詠唱が普通なんだけど、この世界の住人にとっては無詠唱は普通ではなく異常なのかな?
そういえば、この世界の住人が魔術を使っているところを、私はまだ見た事がないのに気が付いた。一度、何が常識で、何が非常識なのかを確認しておいた方がいいね。
「まあいい。次は誰だ?」
「それじゃあ、あたしが行きます。ヒカリちゃんはトリだから、もう少し待っててね。」
「はい、はい。コトリはちなみに何分でやるつもり?」
「ん~~~~~。対人戦は久しぶりだからね。感覚を取り戻すためにも、すこし時間をかけるつもり。」
「そうか~~~~。じゃあがんばってね?」
コトリと対戦相手が、定位置に着いた事を確認してから、ガードリさんが開始の合図を送る。
「ではスキップ申請者・コトリと、Cランク・ぺスタロニカの試合を始める。はじめ!」
今日のコトリの獲物はロングソード。実は日本刀が一番の得意武器なのだが、この国の東、海を渡った先にある島国『ジャポネシルト』という国に行かないと手に入らない。これを私から聞いたコトリは、早速この国に行く算段を始めているが、今はCランクに昇格しないとね。この町から違う町へと行くには、Cランク以上の腕前がないといけない。
一応魔術も使用するんだよ・・・・・コトリは。でもそれは補助的であり、基本は所謂”脳筋”スタイルで、イケイケゴーゴーなのだ。
対するぺスタロ二カさんは、2刀流の剣士さん。初めて見ました2刀流。ゲームの中では恰好付けでそれなりにいたんだけどね・・・・・。大剣2本でやっているやつとか、ロングソードとショートソードとかね。いろいろといましたよ。中にはハルバードとロングソードなんて色物もね。
なお、ぺスタロ二カさんの2刀流は、オーソドックスなショートソードと短剣だね。
「おっ!2刀流ですか!」
そんな、嬉々とした顔をしないの!コトリちゃん。完全に、獲物を前にした肉食獣の顔をしているよ。まあ、対するぺスタロ二カさんも、同じような顔をしていらっしゃるからね。双方、完全に脳筋様である。
「じゃあ、いくよ!」
嬉々として飛び出したコトリは、目にもとまらぬ高速剣で相手を翻弄する。どうも、徐々にスピードを上げて行っているようで、10分くらい振り回した時には、音速を突破していた。さらに、その摩擦音で空気が熱せられているみたいで、何もない場所から炎が時折上がっている。
魔術も使わないで火炎剣?を使えるとは、・・・・・・・なかなかやるのう、コトリちゃんよ。
よくよくぺスタロ二カさんを観察してみれば、表面上は頑張ってコトリの超高速剣を捌いている感じに見えるが、全身汗だくであり、持っているショートソードと短剣の刃先が黄色く変色している。
対するコトリはと言えば、汗1つ書いていない済ました顔で剣を振るっており、持っているロングソードは、これといった色による変化は見受けえあれない。
そうこうしているうちに、相手の剣が2本ともバターのように斬られ、あらぬ方向へと跳んでいく。そして、1本目が突き刺さった地面は赤くただれ、もう1本が突き刺さった石の壁は、一瞬で溶解してしまう。
何で、斬り飛ばした剣先で、そんな事が起こるのか理解できない。
剣を斬り飛ばされった時点で、ぺスタロ二カさんは両手を上にあげて負けを宣言した。これが戦場だったなら、まだまだやれる事はたくさんあるんだろうが、試合なので命を大事にしたようである。
「そこまで!コトリはCランク昇格だ。」
ガードリさんの宣言に、皆で拍手してコトリを迎える私たち。何で、たかが剣を振るっていただけなのに、火炎剣なんてファンタジーな事ができるのか、コトリには小一時間ほど問い詰めたい気分である。
「でコトリ、あそこの壁と地面、どうするつもりなのかな?コトリが考えている対処法、詳しくお姉さんに聞かせてくれるかな?」
そんな事よりも、ガードリさんも頭を抱えている壁と地面の問題を、当事者のコトリに問い詰めてみよう。
「てへっ!」
涼しい笑顔を向けて、すっとぼけるコトリ。
そんなコトリの態度に、肩を落としてトボトボと現場に向かう私。
甘やかしている感じはするが、脳筋のコトリには、こういった作業は逃げてなのだ。そのため、いっつも尻拭いをするのは私なんだけどね。だから私は、戦闘方法はガチな脳筋である徒手空拳なのに、実際は頭脳派の魔術師として頑張っているのだ。
私は無言で、ドロリと溶けた壁に向かい、そんな壁を呆然と眺めているガードリさんとガイストさんを押しのけて、壁に右手を向け無詠唱で再生魔術をかける。
「【物質再生】」
私の差し出した右手から出た淡い光は、そのまま溶けた壁に吸収されていく。すると、徐々に壁が元通りの石壁に変化していく。
「あ、あんがとな。ヒカリちゃん。」
「どういたしまして。コトリが、迷惑をかけてしまいましたね。地面の方はどうします?」
私は、ここから離れた場所にある、(現在は冷えて)赤黒く変色した地面を見つめる。ガードリさんとガイストさんも私の視線を追って、赤黒く変色した地面を見つめながら、どうしたもんかと悩んでいる。
すると、その穴の開いた地面から、いきなり大量のお湯が噴き出てきた。
「・・・・・ああ、サクラピアスって、そういえば温泉街でしたよね。」
「・・・・・ああ、何処でも掘れば温泉くらいは出てくるような土地だぞ、ここは。」
「という事は、斬り飛ばされて黄色に変色していた牽制が、地面に突き刺さり・・・・・。」
「・・・・・そのまま湯脈まで掘り抜いていったんでしょうね。その証拠に、ほらっ!」
私は間欠泉に弾き飛ばされるかのように空高く待った剣先を、右手の中指と人差し指でもって、空中キャッチする。すでにある程度冷えているため、素手でも持っていられる。持っていられるのだが、まだ少し熱いのでそのまま地面に突き刺した。
「・・・・・・今の行動で、ヒカリちゃんはCランクと認めよう。これじゃあ、試合どころじゃないからな。」
という事で私は、試験をフリーパスしてCランクに昇格してしまった。まあ、コトリ様様という事で問い詰めるのは許してあげよう。
それよりも。
すでに広場には、結構な量のお湯が溜まっている。
「この温泉、どうします?このままというわけにはいかないでしょう?」
「そうだな。場所的に建物の近くだし、あの壁の向こうはギルドの建物内にある風呂場だ。あそこには如何を繋げて温泉に改装するか。」
私の問いかけに、ガードリさんはこう答えた。
魔術についてはここでは危険という事で、後日町の外にでも出て確認するとし、今日のところは全員がCランクのギルドカードを手に入れる事に成功した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【名前】ヒカリ【性別】女
【種族】純人族(異世界人)【身分】平民(冒険者)
【得意武器】魔術(戦闘経験あり)・徒手空拳
【冒険者ギルドランク】C【所属パーティ】ご主人様とメイドさん
【登録地】冒険者ギルド・サクラピアス支部
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
なおこのギルドカード、高度な魔導具でもあるらしく、裏面には討伐した魔物が事細かに表示されていくみたいだ。それも過去半年分のデータだ。なお、記録される過去半年分のデータは、ぎロ度に登録する以前でも討伐を行っていれば表示されている。
という事は・・・・。
「あれまあ・・・・・、なんかすごい量の討伐記録があるね。ヒカリちゃんとコトリちゃんには・・・・。
「・・・・そうですね。この世界に来たのが120日ほど前なので、そこから換算されていればこの位は討伐しているでしょうね。」
「確かにね。あの森にはたくさんいたからね。オオカミさんとか、クマさんとか、巨大なウサギさんとか。」
少し懐かしんでいると、受付嬢が提案を出してくる。
「ギルドに登録前なので、ランクアップの貢献度には登録されませんが、討伐報酬は出す事は出来ますよ。あと、討伐した魔物の素材があれば買取も致しますが、・・・・・どうしますか?」
「おカネになるのなら換金してもらえるかな?いろいろやって木っ端微塵にしてしまった奴もあるけど、今のところいらないからね。素材として使えるなら、すべて買い取ってくれると嬉しいな。」
「では・・・・・・、門前にある買い取りセンターへ行きましょうか。ここでは買取できませんので。」
「わかりました。」
そうして皆でゾロゾロト西門の買い取りセンターへと向かう。何処でもよかったのだが、町の構造上に指紋が一番近かっただけである。
そこで、何時倒したのか忘れてしまった者まで、大量に魔物を取り出し、すべておカネに替えてしまう私とコトリ。買い取り価格はすぐには出ないとの事なので、3日後に又来ることを約束して観察札を受け取っておく。この観察札があれば、1カ月以内ならばいつでも換金できる仕組みになっているのだ。
さて、冒険者ギルドの用事は済んだので、お昼を食べて次はバティスティア聖教の神殿・サクラピアス大聖堂へと行きましょうか。




