【01-08】アイテムボックス
では、安全な寝床(大木の中に作った洞穴のような空間)に入り、入り口を塞ぐ。なお、洞穴の周囲には、直径5㎝ほどの穴が十数個開いているので、空気がなくなったり汚くなったりする事はない。
そんな4メートル四方、高さ2メートルほどの大きさに刳り貫いた洞穴が本日の、私とコトリの寝床となっており、地面には刳り貫いたモノを細かくして敷き詰め、上部をちょっと加工してマットレスのような状態になっていろ場所に寝転んだ。
さて、就寝する前に1つ、魔力を莫大に使用する魔術【空間創作時空収納空間】と使用して、私だけの収納空間である『時空収納空間』を創っておく事にする。たぶん、この魔術を発動した後は、私は機を失ってしまうだろうと確信している。なぜならば、『現在術者が保有している最大量の魔力』を消費して、この魔術は発動をするのだから。
「わかったよ。安全だとは思うけど、何かあったら困るから、警戒はあたしがしておくよ。」
「ありがとうね、コトリちゃん。じゃあ、さっそく始めるよ。」
では早速、始めていこうと思います。今回は、無詠唱でもなく、短縮詠唱でもなく、私いしては珍しく本格的に詠唱を詠みあげて魔術を発動したいと思っている所存。だってね、初めて行使する魔術なので、しっかりとしたイメージを持って発動したいんですよ。
「遍く世界を創り出し、遍く世界を固定し、
新たな世界を司る次元神『ディメンシア』よ
我願うは我に付き従いし無双の次元
我想像するは次元を切り裂き、構築し、固定する楔
我穿つは次元を支配する永遠なる楔
遍く物質を創り出し、遍く物質にその慈悲を与え、
遍く物質の礎を司る創造神『クインメシア』よ
我願うは我に付き従いし形なきの大地
我想像するは常に寄り添い、常にその姿を隠す無なる大地
我穿つは遍く物質を取り込む永遠なる無限の大地
遍く物質を破壊し、遍く物質に裁きを加え、
遍く物質にその死を司る破壊神『ダークメシア』よ
我願うは破壊なき永遠の大地
我想像するは潤いは枯渇し自然の摂理を離れし豊饒の大地
我穿つは遍く物質を破壊なき未来へ誘う永遠なる大地
遍く物質をその身に迎え、育む環境すべてを管理し、
遍く物質の生環境を司る空間神『スぺーリシア』よ
我願うは永遠に広がる虚無の世界
我想像するは自然の摂理なき永遠の異空
我穿つは遍く物質を抱き匿う永遠なる虚無の世界
遍く物質に悠久に流れる時間を与え、
生死を管理する時間神『タイムリア』よ
我願うは永遠の時失いし虚構の大地
我想像するは輪廻廻らぬ豊饒の大地
我穿つは遍く物質の過去・現在・未来を穿つ永遠の大地
遍く物質をその空間に引き留め、
循環させる環境を創りだす重力神『グランヴィア』よ
我願うは遍く質量なき永遠の空間
我想像するは自然の事は理を廃すが物質在りし虚構の空間
我穿つは遍く物質を輪廻より解き放ち
遍く物質を無から有、有から無へと変質させる永遠なる空間
我世界の礎となりし6柱の神々に願う
我遍く物質の根幹を支配する6柱の神々に願う
我捧げるは我の力のいったんなる全魔力を与えん
汝ら6柱に願うは権能たる永遠の神力
我と汝らの力合わさりし時、永遠なる扉は開かれん
我唱えるは異界の教えの一節
かの一節は世の理を現し、自然の摂理を解く
故に我は唱える、世の理と自然の摂理を変革する故に
色不異空、空不異色、色即是空、
空即是色、受・想・行・識亦復如是
是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減
是故空中、無色、無受・想・行・識
無眼・耳・鼻・舌・身・意
無色・声・香・味・触・法
無眼界、乃至、無意識界
我願わくは世界の創始たる6柱の神々の化身たる6大神
我願わくは世界の創始たる6柱の神々の眷属たる6大神
色彩は光により発し、闇なる世界を輝き照らす
闇は輝きを隠し光ある世界に色彩を産む
故にそれは光闇の理となす
天空を流れる風は大地に潤いをもたらす
大地の潤いは天へと還り再び大地に降り注ぐ
故にそれは天地の理となす
水は天地を回り流れ大地に海原に天空に還る
火は天地を焦がし天流れる風を産む
故にそれは水火の理となす
光・闇・天(風)・地・水・火を現しは世界の理を司る楔
6属の理を創り出すは世界の輪廻を司り遍く世界に喜怒哀楽を産む
故に空間・時間・重力を超越する汝に我は請い願う
故に我は根源を司る汝ら神々に請い願う
我に寄り添い、我に付き従い、我とともに在りし
次元・創造・破壊・時間・空間・重力を超えし永遠なる空間
我希うは永遠なりし空間を維持し顕現する能力
目覚めよ時空の彼方に創られし永遠なりし空間よ
【空間創作時空収納空間】」
長い長い詠唱を詠み終えた後、予測通り私は意識を失い、マットレス(のようなもの)に横たわった。これは、仕方の寧現象である。いったいどれくらいあるのか解らないが、私が現在持っている全保有魔力を、1つの魔術にすべて込めて発動したのだ。魔力が枯渇すれば、気を失うようにできているのは世の理であり、普遍たる現実でもあるのだから。
「おつかれ。ヒカリちゃん。」
そんな優しいコトリの言葉を、気を失う一瞬で聞いたような気がした。
翌日。
朝食の後に、昨日創った【アイテムボックス】の検証をする事にした私とコトリ。
さて、昨晩長々と詠唱し、私の傍らに出現している【アイテムボックス】だが、術者であり保有者である私ですら、いったい中の空間がどれだけ広いのかは検討が付かない。
「ヒカリちゃん、ヒカリちゃんの【アイテムボックス】って、いったいどれだけ入るの?」
というコトリの質問にも、こう答えるしかない私だった。
「ん~~~~~。ちょっとわからないわね。・・・・・でも、感覚的に言えば、木星の体積以上は中の広さはありそうかな?」
そうなのだ。感覚的には、木星並みの体積がありそうな広大な空間なのだ。・・・・・私が創り出した【アイテムボックス】は。しかし、それ以上の広さがありそうな気がしている。
「それって、『何処まで入るのかな?』っていうの、気にしなくてもいい大きさだよね?」
「うん、コトリちゃん。『中の大きさは、気にしたら負け』って、ガチで言える広さだよね。惑星サイズの物体も、収納する事が可能だから。」
そのため、中の大きさは気にしない事にした。
惑星サイズの広さの空間なので、絶対に人間1人には持て余す事間違いなしだから。そんな膨大な量を抱え込む事も、使う事もできないのだよ。(やる気はさらさらないが)小さな天体ていどなら取り込む事も、頑張れば可能っだと思っている。
「次は、この【アイテムボックス】の空間内の事を説明するね。
この【アイテムボックス】の内部空間なんだけど、いくつかのいくつか・・・・というか、無数のフォルダーに別ける事ができるんだ。そういう風に設定したからね。
そして、フォルダー毎に、『加速』・『共有』・『遅延』・『停止』の4つの時間設定が可能になっている。この【アイテムボックス】の内のフォルダーにモノを入れる際、アイテムを個々に指定する事で、それぞれの時間の流れに沿ったフォルダーに入れる事ができるの。またアイテムの移動は、思考操作でいつでも可能だよだ。
まずは『加速』とは、時間の経過を時間軸から切り離して、100倍くらいまで加速させる事ができる。いろいろと使い道はあるけど、長時間の漬け込み作業とか、料理の際に活躍してくれそう。
次に『共有』とは、この世界の時間軸の流れと同じ時間経過を行っている空間の事ね。そして、この設定をした空間にのみ、この世界と同じGがあって、空気があって、天候も何もかも、現在私がいるこの場所通りに流れている。もしくは、設定した環境で、時間経過が普通に行われているというわけ。つまり、この空間内では、生きている動植物も普通に飼えるというわけだね。」
「それって、例えば馬車を利用して何処かに行ったと仮定して。この先馬車が使えない時、もしくは、乗馬もできない環境の際、その空間に生きたまま馬を放し飼いにできて、再び馬を離しておいた場所に戻らなくてもいいという事?」
【アイテムボックス】の出来る事を解説していく中で、私の説明に対し、コトリがこんな事を聞いてくる。全くその通りなので、「それであっているよ」っと伝えておく。
その後もほかの2つについて解説を加えていく。
『遅延』・『停止』は、似たり寄ったりの事があるので纏めて説明。先ほど解説した『加速』の逆バージョンなのでここでの開設は割愛するが。
「で、次からが、コトリにとって大事な説明になるんだけど、いいかな?」
「何?ヒカリちゃん?大事な説明って?」
私は、コトリに対し重要事項の説明を行う。どちらを選ぶかはコトリ次第だが、コトリには次に説明する3つの事柄から1つを選んでもらう。
「まず、前提条件として、私は『一度発動を成功させた魔術は、どんなモノにも付与できる』っていう事、コトリは知っているよね?」
「うん、現実世界では不可能だという話だけど、ゲーム世界ではそれは可能なったよね。」
「そう、そんな感じ。そしてこれは、あくまで仮定の話なんだけど。私が唱えた詠唱の中に、般若心経の一節があったよね。」
「・・・・確かにあったね。たしか、『色不異空、空不異色、色即是空、空即是色。受・想・行・識亦復如是。』と、『是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減。是故空中、無色、無受・想・行・識、無眼・耳・鼻・舌・身・意、無色・声・香・味・触・法。無眼界、乃至、無意識界。』の部分だよね。」
この言葉の列は、『舎利子』という言葉のみ抜けてはいるが、一応続きで並んでいるお経(般若心経)の一節である。『舎利子』というのは人の名前なので、あえて私は飛ばして詠んだだけで、飛ばして詠んだ事に大きな意味はない。
「そうそう。この詠唱文は、昨日あの瞬間、私が考えたモノで、もともとこの世界には存在していない詠唱のはず。そして、仏教の教えなんてたぶんないだろから、もともと般若心経自体、この世界にはない神もしくは御仏の教えのはずだよね。それなのに、詠唱した時は、普通にこの部分も言霊として発動していたの。
それが意味するモノは・・・・・。」
「それって、『あのゲーム内で身につけたスキルは、この世界でも問題なく使用可能』っていう事?」
「そういう事。たぶんだけど、私たちがこの世界に来たように、あのゲームの概念みたいなモノが、この世界の概念と融合した結果、こんな事が可能になっているんだと思う。十中八九、この予想は当たっているとは思うけど、検証のための実験を行っていきたいの。」
「それが、さっきヒカリちゃんが言っていた選択肢?」
「そういうことね。」
ここまでの話をした後、改めてコトリに対し、実験という名の選択肢を与える私。
コトリに与えた選択肢は、次の3つだ。
1つ目。『桃園の誓い』というスキルを利用して、私が持つ【アイテムボックス】を間借りして使用する方法。
この方法を使用すると、私が持つ【アイテムボックス】にコトリ専用のフォルダーを作り、それを利用するため、フォルダーの容量に取り込めるアイテム量が左右される。フォルダー自体は、コトリが自由に作る事ができるので、そのあたりのデメリットはないに等しい。しかし、何を入れているのかが、私にまるわかりというデメリットは解消されていない。
また、副次効果で、私の持っているスキルの一部や、私が指定した魔術が使用できるというメリットは存在している。しかし、わたしからある程度離れた場合、【アイテムボックス】を含め使用できなくなる可能性は大となる。その距離は全く持って不明なので、そこら辺を検証しないといけないが。
2つ目。『魔法付与』という付与魔術の1つを使って、コトリの体内に直接【アイテムボックス】を付与する方法。
この方法だと、コトリ自身に【アイテムボックス】を直接付与するため、アイテムの管理はすべてコトリが行うので、何を入れているのかは誰にもわからないのがメリットかな。
デメリットとしては、コトリが持つ最大魔力に比例して【アイテムボックス】が創られるため、内部空間の広さが見当つかない事。付与された瞬間の最大魔力量で【アイテムボックス】が創られるため、それ以上成長しない事。このデメリットは、私に対しても言える事だね。
実際、私ですら、自分の【アイテムボックス】の広さが、創ってみるまで解らなかったのだから。
3つ目。『魔法付与』という付与魔術の1つを使う事は同じだが、付与する先が人体ではなく、無機質のアイテムだという点。
所謂『魔導具』というモノを作りだして、それを所持するという方法だ。
これのメリットとしては、どんな物体にも【アイテムボックス】が付与できる事。まあこれは、【アイテムボックス】に限らず、どんな魔法でも同じ事が言えるんだけどね。
デメリットといえば、持っていないと利用できない事と、盗難・紛失のリスクが付きまとう事。あとは、付与先の物質の状態とランクに比例する事だろうか。
暫くの熟考の結果、コトリが選んだのは2番目の選択肢だった。私と同じで、最大魔力を一瞬で使用するため、絶対に魔力不足で気を失う事が確実。という事で、コトリに対しての【アイテムボックス】の付与は、今晩就寝前に行う事が決定した。
なので、今日のところは、ほかのスキルの検証でも行っていこうかな。