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012 始まりの草原(二回目)

 


 バベルの塔の一室

 俺はドロップアイテムとは別に、クエスト達成のご褒美を選んでいた。

 まさかこれで俺がバベルの塔の封印を解いちゃって大変な事に──なんてのは勘弁してくれよな。


「あのね、僕は情報だけの存在なんだからね、そんな大それた大望は枯れ果ててるから。だいたいバビロニアの聖域の封印は未だ健在なんだからね。それとあの水晶の少女が居るのを忘れないでね」


「そうか、あの子はまだその役目を果たしている真っ最中なんだよな」


 終われば一瞬とは言えど、少し同情してしまう──それは失礼か。あの少女にはあの少女の理由があったのかも知れない。


「これがバビロニアの封印に対応している鍵だよ」


 そう言って塔の管理者は小さなメダルを渡して来た。それは金色より少しくすんだ真鍮色をしていて、大きさ五センチほど、五百円玉より少し大きい感じで、持つとずっしりと重く、魔法文字の刻印が打たれており、表には六芒星、裏にな林檎のマークが描かれている。


「売れるのか?」

「それは非売品!」


 どうやら売ってはいけないらしい。塔の管理者の目はマジだった。


〈ティロリロリロリンッ〉


▽【メダリオンを手に入れた!売ってはいけない】


 何か聞こえたような?


「何か言ったかい?」


「いや、なんでも無いから」


「ならいいけど……」


 そして靴を一足もらった。


「このスレイプニルブーツにしなよ。オススメの逸品だから。君はそのバビロニア製の身体のおかげで百メートル三秒弱の韋駄天だけど、このスレイプニルブーツは移動タイプが忍者と同じになって、慣れると水面や壁だって走れる様になるんだよ!」


 某渦巻き忍者仕様か


「いただきます!」


「あとマントを一つね」


 これに関しては使ってみてのお楽しみらしい。めっちゃ気になるわ


「あとそこのエレクトラさんを改造しておいたからね」


「改造! そんな人権を無視したことを!」


「あのね、その娘は神の使い、使徒なの!人間の訳無いでしょ! 専用のガーディアン──いわゆる従者契約を結んだ事になってるからね。君の魔力と連結する事により、無限の再生能力を持ってるし、特に火の魔法はべらぼうに突出してるから安心してね。因みに夜の伽も可能です」


「そんな中二病仕様にして──本当に夜の伽は可能なの?」


「手練手管はバビロニアの粋を極めてあるから」


 振り返ってじっとエレクトラさんを見ると、笑顔だけど、目が笑って無い。とても頼む勇気は無いな。今のところ。


「これからはエレンとお呼び下さい」


 ニコリと笑うエレクトラ──改めエレンさん──いやエレンは爆乳コスプレメイド仕様になっていた。


「コスチュームは選べないの?」


「おまかせあれ!あと語尾も選べるよ! ニャンとかイカッとか」


「その辺素晴らしい!」


 俺は思案の末に、黒ゴス風をチョイス、赤も捨て難かったけど、あえてダークなイメージで行ってみようじゃないか!あとニーソにブーツを合わせてみよう。うん、結構楽しいぞ!


「ゆうてい、見た目がクールビューティーな私にこんなモノを着せるなんて、意外とゲスいんですね」


「これも世界平和の為さ」


 スマートウォッチのついでにメイドコスプレも流行らせてみようかな。戦う美女メイドなんてファンタジーだよなあ。


「あの神になった男も意外と好きだったんだよね。自分じゃ出来なくもないけど、一人でやっても楽しく無いから君にやらせてるのが本音かも知れないな」


「話の分かる神様だ」


 頭を抱えるエレン

 どうやら心当たりがある様だな。


「あと一つはどれにする? 因みにオススメはこの八ビット初代家庭用ゲーム機なんだけどな」


「出た!オールインワン海賊版仕様だ!」


「八ビットのオリジン、十六ビットのスーパー、何故か一つ飛ばして六十四ビットのウルトラなんてのもあるよ!」


「ハンディは無いの?」


「モノクロ、十三カラー、アドバイス、ダブル、あと赤ヴァーチャルもあるね」


「悩むけどオリジンで!」


「通だね」


 俺はレトロゲーム機を手に入れたのだった。


〈ティロリロリロリンッ〉

▽【FCオリジンを手に入れました!おまけで光線銃、ディスクシステムが付属します】


 またなんか聞こえた気がするんだけど?


「ゆうてい、あと神様からクエスト達成のご褒美に神製アプリが二つ、AMAZING@.comと7/24@.comの二つがダウンロードされました。ポイントを貯めてご利用下さいね」


「お買い物アプリ!」


 そういやスマートウォッチやスマートフォンを全然確認して無いわ。


「あと神様からのメッセージを一つ。『その身体はもしもバレたらラスボス認定されて討伐される可能性があるので出来る限り秘匿して欲しい』だそうです」


「やっぱりモンスター枠なのかよ! てか人類の敵に認定されそうじゃないか!」


 このまま此処にいるのが一番安全なんだけどな──と言うわけにも行かんか。


「じゃあ行ってくるわ」


「うん! 頑張って聖域を抜けてね!」


「ああっ任せとけ」


 あのストーンサークルだよな。さて何処に飛ばされる事やら。





 草原の中にあるストーンサークルに戻ると、エレンが起動術式を唱えた。再び明滅を繰り返し、俺を地球から呼び込んだ魔法円が本当の旅立ちに誘う。


「さて、エレン、いざ冒険の旅に!始まりの草原に向かおう」


 まあ、何処にいかのかは知らんが、もはや強くてニューゲーム状態の俺に恐るモノなど皆無だ!特に竜族ばっちこいだからな。


「はあ……では頑張って聖域を抜けましょうね」


「ああっ? 頑張ろうぜ」



 そして俺は再び光の奔流に飲み込まれていった。

 のだが、遠ざかる意識の狭間で俺はほんの少しの違和感を感じていた。






 正直に言おう


 まさかとは思ったが確かに俺は違和感を感じていたのだ。


 本当だぜ!








 だが本当にそうなるとは思わなかったけどな。














「行ったか」


 バベルの塔から、塔の管理者がストーンサークルを見つめ、一言、そう呟いた。


「エレクトラと入れ替わってまでついて行くなんて……今でもまだ心の中に記憶が残ってたんだね」


 ジッと光の明滅を見詰める塔の管理者は、どこか懐かしいものをるように、旅立つ二人を見送った。

 そして

 またバベルの塔に戻っていく。

 その後ろ姿はどか嬉し気に見える。


「まさか本当に適合者が現れるなんて、まさに百億分の一の奇跡だね」









◇ ◇ ◇



 光の奔流を抜けて、俺は新しい世界に目を凝らした。そこは草原──と言うより──暗闇?


「えっ! 此処はとこだ!」


 いや、目を凝らせば周囲は何とか伺える。これもバビロニア製の身体のおかげか?


「……神殿なのか?」


 その時──胸のポケットからポロリと光の珠が飛び出して──『うう~ん』と背伸びをした。


 そしてふわふわと浮き上がり、俺の顔に近づくとこう言った。

『よろしくね! 僕はバビロニア製幽子コンピュータに搭載されている最新モバイルAIだよ!君の冒険をサポートする為にオシリィを乗っ取って──いやバージョンアップさせてコッソリついて来たんだ』


 その時ZuMaPhoneが鳴る。

〈ティロリロリンッ〉

◆ニューエリア!

◆闇の迷宮


『さてと、ここで選択肢があるんだ!君の冒険譚をウェブ配信出来るんだけど、いわゆる異世界旅ブログ風冒険小説いなんだけどね、それに投稿すると、この迷宮突破の必需品が手に入るよ!どうする?このクエストを受けるかい?』


 唖然として口のきけない俺にそのAIはこう続けた。


『与えるのは三つだよ!一つはオートマッピング、サーチ、スイープ機能付の地形アプリ、一つは迷宮の闇を敵に悟られる事なく照らす光魔法と火魔法と精神魔法のハイブリッドマジックトーチ、一つはモンスターの徘徊する迷宮の中でもキャンプ出来るある時空魔法付与されたマジックテント! さあ、受けるかい?』



 マジか……だがどれも必要になりそうなものばかりじゃないか。


「お前の名前は?」


『うふふっ僕はオシリィ+! まあ、オシリィではあるんだけどね、新たにバベルの塔の──おっと、それは秘密だった。まあ、君の旅のパートナーであり実態を持たない情報だけの存在さ!因みにバージョンアップしてコシリィ軍団も付いてるからね! さあどうする! 受ける? 受けない?』


「……受けます」


『了解でーす! ああ、大丈夫だから!アップや記事、写真は全部僕が管理するからね。ちなみにバビロニアの聖域第一階層はお試し投稿してあるからね!こちらもポイントが貰えるからよろしくね!』


「てか、何処に投稿するんだよ!」


『アルファポリスと小説家になろうに決まってるだろ? あそこが二大巨頭なんだから当然だろ? こんど第四回コンテストがあるから締め切りまでには一山超えたいよね』


 どうやら作家デビューも出来るらしい。

 いやそれマジか!


『だいたいね、異世界で活躍するのは転生者か召喚者なんだよ? だから地球にいる時にメタ情報を叩き込んでおくんだ!だってね、詳細検索してもスマートウォッチでヒットするのはこの作品だけなんだからね!酷いと思わない?』


 なんと言う戦略を立てやがるんだあのリンゴ神めっ!




「因みにその小説の名前は?」


 ふふんっとオシリィは笑い、ドヤ顔でこう言った。


『【異世界はスマートウォッチが大人気だとおっ!】さ! どう! ぐっとくる? スマートウォッチ使いたくならない!これでPVが一千万とかユニークが十万とか着いたら本屋に面出しで出版されて続々重版累計五万部とか書かれちゃうよね!うわぁっ!素敵すぎる!』


「じゃろってなんじゃろ」


『うん? 何か言ったかい?』


「いや、いいです」


 だが、もう、冒険は始まっているのだ。俺は前に進むしかない。てか本当にスマートウォッチって駄々滑ってるんだね。


「エレンそれじゃあ──エレン?」


 一緒に転移した筈のエレンは何も答えない。


「……エレン?」


 だが振り返るとそこには誰も居なかった。ストーンサークルの中の魔法円はゆっくりと明滅を繰り返しているが、それを起動した筈のエレンを見付ける事は出来ない。




「……よっぽどメイドコスプレがいやだったのか?まあ少し痛かった気はするが」


『一瞬反応があったみたいだね』


 ヤラセじゃあるまいな?


 だがたとえ異世界旅ブログ風冒険小説というよく分からないカテゴリだとしても──死ねば終わりは間違いじゃ無い。特に俺は──不死身だったかな?



 暗い闇の中──俺の孤独な迷宮探索は始まった。





◆エレンさんを探せ!

◆闇の迷宮を突破せよ!


















『せめて日間ランキングで三百位には入りたいよね。検索や最新投稿からじゃ無くて、ランキングから自分の小説に入るのって憧れるよね』















『ああっ!最初のブックマーク来た!』

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