後編
中編をほんの少しだけ手直ししました。そちらと繋がっているので、修正前を読んだ方は少し違和感があるかもしれませんが、読み返していただくと整合性は取れてると思うので、気になる方は一つ前にどうぞ。
俺とキスをするのに飽きたのか、それとも噛むのに満足をしたのかはわからないが、とにかく俺から離れた佑里は、そのまま波打ち際まで走っていき盛大にゲロを吐いていた。海を汚すなよ、と注意をするのが先輩として人生の先達としての義務なのはわかっていたけれど、いかんせん俺もだいぶ酔っていたので今日のところは大目に見てやろうと思う。いつも厳しいだけが教育ではないのである。
ふらふらと立ち上がった俺は一応無事だった携帯を拾い上げ一度県道に戻り、どこかに自動販売機がないか探した。すると二百メートルくらい離れた場所に潰れかけた駄菓子屋みたいな店があり、その店の前に赤い色をした自販機があった。俺はゆっくり歩いてそこまで行き、ペットボトルの水を二本とお茶を購入して、また飲み物を落とさないようにしながらゆっくりと元の場所へ戻った。すると、
「うあああああああああああん!! 先輩がいなくなっちゃったあ!! 私がわがまま言ったからだあ!!」
二十歳の女が迷子になって泣き叫んでいた。
……
……やば、すげぇ可愛い。
しばらく血だらけの口を水で濯ぎながらその様子を眺めていた。しかし、いつまで経っても泣き止む気配はなく、海沿いを散歩やランニングしている人達が何事かという目で海岸にへたり込んでいる佑里を気にし始めたので、しょうがなく俺は佑里を迎えに行くことにした。
「佑里、帰るぞ」
「うっぐ、え、えっぐ……あ、しぇんぱい」
「ほれ、水で口の中綺麗にしろ」
「は、はい……お、せわかけ、ます」
俺からペットボトルを受け取った佑里は素直に水で口を濯ぎ、そして残った水を全部飲み干した。おお、酒といい水といい、飲みっぷりと体だけは一人前だな。ただし、これ以上海にゴミは捨てるなよ。
「落ち着いたか?」
「な、なんとか」
「じゃあ帰るぞ」
「……立てません」
「何?」
「お、おんぶしてください!」
俺、酔っ払いの172センチ。
佑里、泥酔の165センチ。
おいおい、コイツ無茶苦茶言い過ぎだろ……
……
……
佑里を初めて介抱したとき、俺は佑里を一人で負ぶって家まで運んだ。俺はそのとき二年生で、その日はちょうどサークルの追い出しコンパだったから確か三月のことだった思う。いつもは募らなくても沸いて出てくるはずの佑里の介抱役の一年生の男たちが、その日に限って誰も出てこなかったのだ。まあ、電柱にしがみ付いて蝉のモノマネをしている女を送り届けたいと思う奴などそういるはずないのはわかるが、さすがにそのまま佑里を放っておいて次の店に行くわけにもいかない。その日も相変わらず飲み会の幹事をしていた黒木先輩が四年生に「早くしろ」と言われて困っていたり、一年全員にお願いされたり(意外と俺は同級生よりも一年生と仲が良かった)したこともあり、俺はその当時彼女だった沙織ちゃんに断りを入れて佑里を家まで運ぶことにした。
サークルのみんなと別れてから佑里の家まで行く間はとりあえず地獄だった。まず帰ろうとした時点で佑里は「私も行く!」とか「絶対戻る!」とか喚いた。それを何とか説得して手を引っ張って帰ろうとすると「触るな!」とか「自分で歩ける!」と言って容赦なく殴ってきた。それなら好きにしろと離れて歩いていると、フラフラと車道に出て車に轢かれそうになるので危ないと思い再び近付いていくと、やっぱり殴られた。これじゃ埒が明かないと思った俺は、素早く佑里の前に回りこみ、そのまま彼女の体を担いだ。意外なことに担ぐこと自体にそれほど佑里は拒否感を示さなかったが、その代わりなのか肩に手を置いて俺の肩を噛んだ。噛まれた瞬間、なぜ一年生が進んで佑里を送り届けようとしなかったのかが少しわかった気がした。その後も楽しそうに髪の毛を引っ張ったり、足を蹴ったりする佑里に何とか家の場所を聞き出した俺は、首からペンダントのようにかけていた鍵を借りて部屋の中に入った。しかし、玄関に入ると佑里の態度は豹変した。
「降ろして」
さっきまで楽しそうに騒いでいたと思ったのに、急に冷静になってそう言った佑里。まあ、俺としてもその言葉を拒否する理由はないので、背中から佑里を降ろすと、彼女は黙って部屋の奥の方に入っていった。俺はそんな豹変した佑里の姿を玄関で眺めながら「もう帰って大丈夫なのかな?」と思っていたが、すぐにバスタオルを持った佑里が戻ってきて「あがるならどうぞ」と言い、そのまま自分は風呂場に入ってしまった。何がなんだかわからなかった俺は、とりあえず部屋の中に入りフローリングの床の上に座った。
佑里の部屋は意外と綺麗だった。しかし、それは整頓されているというものではなく、ただ物が少ないことによる綺麗さだった。テレビとベッドとパソコンの置いてあるワークデスク、そして部屋の真ん中には小さな四角いテーブルが置いてあり、俺はそのテーブルの前に座っていた。しかし、座っていてもやることがなかったので、とりあえず俺は携帯を取り出して黒木先輩と沙織ちゃんに佑里を無事家まで運んだことをメールした。メールを打ち終えたあと台所に行った俺はガラスのコップを借りて水を飲みながら現状をよく考えた。そして、さすがにこのまま風呂上りの佑里を待っているのは良くないな、という結論を出した。しかし、あれだけ飲んだ後ですぐに風呂に入ってしまった佑里をこのまま放っておくのも危ない。そこで俺はワークデスクに置いてあったいらなさそうなドイツ語のプリントの裏に『外にいるから風呂から出たら呼んで。一時間経って出てこなかったらまた見にくるから』と書いて、それを部屋の真ん中にあるテーブルの上に置くと部屋を出た。
外は三月ということもありものすごく寒かった。でも、酔っ払った俺はそんなことはさして気にせず、水を飲みながら携帯のアプリで『ぷよぷよ』をやって佑里を待っていた。しかし、いかんせん酔った手付きでの『ぷよぷよ』は難しすぎた。『ぷよ』が回りすぎるのだ。あまりにも難しくつまらなかったので、急遽『桃太郎電鉄』をダウンロードして、さてゲームを始めようとしたところで、バスタオルを体に巻いた佑里がドアを開けて顔を出した。
「……何してるんですか?」
「桃鉄」
「……風邪引くと困るんで、中に入ってください」
「いや、大丈夫そうならもう俺帰るけど」
「エッチしないんですか?」
冷静で、ひどく純真無垢な顔をして佑里はそう言った。
「そのつもりだと思って、私お風呂に入ってきたんですけど」
「え、なんで?」
「違うんですか?」
本当に、本当に理解できないといった感じで佑里は俺のことを見ていた。
「みんなそうでしたよ。酔っ払った私を家まで送ろうとした男の子はみんな私とやりたがってました」
「いや、でも俺彼女いるし」
「彼女いる男の子も私とエッチしたがってましたよ?」
「へぇ、そんなもんか。で、お前はその男の子みんなとやっちゃうの?」
「一緒に帰る途中で嫌気が差してみんな帰っちゃうから、ここまで来たのは先輩が最初です」
「そっか。でも、これから俺と帰るときはそんなこと気にしなくてもいいぞ。ということで、俺はもう帰るわ」
俺は持っていたコップを佑里に返した。今日は沙織ちゃんの部屋に泊めてもらう予定なので、俺はポケットの中に入っている合鍵を確認しながら佑里の部屋を後に、
「は、なにそれ?」
頭に奔った激痛とガラスの割れる音を聞いた俺はその場に崩れ落ちた。俺は地面に蹲りながら、後ろでドアの閉まる音を聞いた。結局、その日沙織ちゃんの部屋に行くことを断念した俺は、頭から血を流しながら五キロ離れた実家まで歩いて帰ることにした。
めでたし。
めでたし。
……
……
「先輩、気持ち悪いからもっと『そーと』歩いてください」
「はあ、はあ……バカ。そんな余裕があるか」
俺は来たとき通った県道を佑里を背負いながら歩いていた。辺りはもう若干薄暗くて、肌寒い。そんな中を大人の男女がおんぶしながら歩いているのは、小説やドラマだったら意外と良いシーンなのかもしれないが、実際の現実ではおかしいこと極まりなかったし、何よりこの男女は二人とも酔っていたり、ゲロが付いていたり、血を流していたりと満身創痍もいいとこだった。
「お、お前……ちょっと太っただろ」
「ざ、残念ながら二キロほど……」
「それなのにおんぶしろなんて頭おかしいんじゃねぇか?」
「でもカップも一つ大きくなったからチャラですよ、ほらほら」
背中に胸をぎゅっと押し付けてくる佑里。それは確かに申し分ない大きさで気持ちよかった。しかし、もそもそ動く所為で非常に背負いづらいし、カップが増えたところで体重が増えたことはチャラにはならないし、というかやっぱりコイツが喋っていることは意味がわからなかった。
「ふぅ……とにかくもう少しだからしっかり抱きついてろ」
「はい、わかりました」
「クソッ、こういうときだけ素直なんだよな、お前は」
「えへへへへ」
ぴったりとくっ付いた佑里の体温を感じながら、俺は緩やかに下っているアスファルトの道路をゆっくりと歩いた。すると前から自転車で二人乗りをした中学生のカップルがやってきた。前で自転車を漕いでいる男は俺たちに気がつくと、後ろに乗っている女に声をかけて二人で俺たちを見ながら笑った、笑いやがった。恥ずかしい。今世紀最大級に恥ずかしい。あまりの恥ずかしさに男の方に喧嘩を売ってボコボコにして彼女の前で俺以上に恥ずかしい思いをさせてやろうとも思ったけれど、その恥ずかしい格好をしているのは他ならぬ自分たちだったから喧嘩を売ることも憚られる。そこで俺はこんな姿を見られて佑里の方はどう思っているのだろうかと考えて、少し首を捻って後ろを向いてみた
……手を振っていたバカがいた。
いつも心の中で吐く溜息をリアルに吐いた。なんでこうもコイツは俺を疲れさせるんだ?
「うふふふ、見せびらかしちゃいましたね」
「お願いだからそういうのはやめてくれ」
「呆れちゃいましたか?」
「ちょっとな」
俺が一度立ち止まり少しずり落ちてきた佑里の体を持ち直すと、佑里はそれに合わせて首に回した腕に少し力を入れ、そしてそのまま俺の肩に顎を乗せた。それはなんだか縁側で首を伸ばして眠る猫のようにも思えた。そういえばコイツの気まぐれな性格は猫にそっくりだな。
「ねえ、先輩」
俺の肩に顎を乗せた佑里は、甘えるような声で耳元に囁いた。
「ごめんね」
「……どうした、急に」
「なんだか先輩に謝らなきゃいけない気がしたの」
「別にそんな必要はないと思うけど」
「今日はいっぱいわがまま言ったし、いっぱい殴っちゃった」
「いつもと変わらねぇよ」
「うん、変わらない。変われないの。変わりたいとも思わないの」
「じゃあ謝る必要なんてないじゃん」
「それはそうだけど……」
自分で言っておいて佑里は納得できない様子だった。俺はそんな不器用で気まぐれな後輩に、かつてと同じ言葉を送った……今日はコップも持ってないことだし。
「俺といるときはそんなことを気にしなくていいんだぞ」
「……うん」
「あれ、キレないの?」
「あのときは先輩がなんかスカしていたように感じたからキレただけです。あれから二年近く経って、今は先輩が本気でそう思ってることがわかったから怒りませんよ」
「……そっか」
俺は佑里の言葉を聞いて小さく頷いた。しかし、本人は変わらない、変われないなどと言っているが、同じように二年近く佑里の姿を見てきた俺は彼女が少しずつ変わってきたのを知っていた。相変わらずすぐキレるし、キレると手加減容赦がないけれど、こうやって昔より理不尽に怒らなくなったことはその証拠の一つだと俺は思う。
そして願わくば、
願わくば、佑里にはこのまま普通の女の子になってほしいと思う。
俺みたいな無気力な男に執着することなく、
普通の男に恋することができる、
普通の女の子に……
「なあ、佑里」
「はい?」
「俺のこと好き?」
「大好きです」
即答。少し緊張した。
「じゃあ俺と付き合いたい?」
「付き合いたくないです」
これまた即答。これはなんだかホッとした。
「だよなー、よかったよ」
「ん、どうしたんですか?」
俺の急な質問に佑里は終始不思議そうな様子だった。
今はこの程度でいい。
焦ってはいけない。
だって、今佑里の傍にいるのは俺だけなのだから。
◇◇◇
……
……
沙織ちゃんに「ありえない」とフラれた俺だけど、どちらかといえばそれは佑里が言われ続けたことだった。
アイツはありえない。
アイツは普通の女の子じゃない。
アイツは常識を知らないし、
アイツは加減を知らなさ過ぎる。
アイツは可愛いからって調子に乗りすぎで、
アイツはスタイルが良いからって人を見下しすぎである。
横暴だ。
横柄だ。
富永佑里という女を間近で見て、そういうものを肌で感じた人間の大半はすぐさまその下を去っていった。一度目は酒の席だったから、となんとか許容した人間は二度目の回合で脱兎の如くその場を逃げ出した。だから三度目以降に残った人間はとても慈悲深い心の持ち主だったと思う。しかし、そんな慈悲深い心を持って佑里のことを理解した人間でも、度重なる惨事、堂々巡りの悪夢、激情のスパイラルにその身をずっと晒していると、ある瞬間に突如、予告もなくぷつんと切れてしまい、そうなればもう佑里の傍にはいられなかった。そうして長い年月をかけ一人、また一人と富永佑里の下から理解者は去っていった。一年のときから一緒にいた同じ学科の女の子も、姉妹のように仲が良かった沙織ちゃんも、そして、
「ごめんな、大槻。俺でもアイツの面倒を見ることだけは無理だった」
俺が知る限り最高に面倒見が良く、誰よりも懐が深いあの黒木先輩でさえ佑里とは共に歩むことはできなかった。
「でも、きっとお前なら――」
先週久しぶりに電話で話したとき、黒木先輩は俺に何か言おうとした。だけど、俺はそんな先輩の言葉は聞きたくなかったからすぐさま電話を切った。どれだけ尊敬していても、『お前なら――』の続きにどれだけ素晴らしい語句を並べられても、黒木先輩は佑里を見放して、諦めたのだ。佑里にとって先輩は救いだったのに、普通の女の子になれた数少ないチャンスだったのに、それを先輩は捨てたのだ。その事実は到底許せるものではなかったし、さらにそこで俺を頼った先輩を俺は軽蔑した。第一、このことで俺を頼られても困るのだ。
俺は、
俺では駄目なのだ。
俺は普通の男じゃないし、
俺は普通の人間じゃないのだ。
だから俺では佑里を救い出すことはできない。
だから俺では佑里を普通の女の子にすることはできない。
でも、佑里はきっと……いや、絶対にこんなことは求めていないだろう。彼女はそういう人間だ。今ある自分を、今まで培ってきた自分をひたすら貫く。他人の目は気にしないし、他人の意識なんて考慮しないし、他人の理解なんて必要としない。つまり俺が佑里を救いたいだの普通の女の子にするだのと言うことは、彼女にとっては迷惑でしかないし、もっと言えばそれは彼女の怒りの対象なのだ。
わかってる。それは十分、十全、十二分にわかってる。だから、これは俺のわがままなのだ。佑里を救いたい、普通の女の子にしてやりたいと思うのは俺の自分勝手なのだ。俺が、無気力な俺が望む唯一の……けれど、
けれど、もしも佑里が本気で俺を求めるようなことがあったら、
そのとき俺は、
俺は……
……
……
「今日は久しぶりに先輩と飲めて楽しかったです」
太陽がちょうど沈んでしまった頃、俺たちは佑里のアパートに続く細い路地の前に到着した。いつもなら「そのまま部屋まで運んで!」と暴れたり、再三エロい要求を突きつけられるのだが、今日は素直に背中から降りた佑里は、俺の前に回り込んでしっかりと頭を下げながらそんなことを言った。
「今度は先輩から誘ってくださいね。私、自分で計画したりメールしたりするの面倒くさくて嫌いですから」
俺はお前と一緒にいること自体が面倒くさいんだが、なんて言えたらどれほど心がスカッとすることだろうか。まあ、殴られるのは嫌だから絶対に言わないけど。
「そうだな。まあ、俺も卒論やらんといかんから頻繁にって訳にはいかないけど、偶にならどっか飲みに連れてってやるよ」
「先輩、車持ってるんでしょ? 飲み会ばっかりじゃなくてデートもしましょうよ」
「……どこに?」
「今日は海に行ったから次は山はどうですか? 頂上まで登るのを競争するんです」
「で、頂上でお前は酒を飲んで、俺はまた酔っ払ったお前を担いで山を下るんだろ?」
「ザッツライト」
「指立てんな」
ただの地獄巡りじゃねぇか。
「わかったよ。それも含めて考えておくから、俺はもう帰るわ」
「ねえ、先輩」
「あん?」
帰ろうとして踵を返すと、すぐに佑里が呼び止めた。まったく、これ以上俺に何を求めるっていうんだ。
「なんで、今日は来てくれたんですか?」
「……お前が呼んだからだよ」
「私が?」
「そう、佑里が。良くも悪くもそれ以外の理由はないよ」
さすがに良い理由も悪い理由も本人に向けて言うことはできないけれど、それだけは言えた。佑里が、富永佑里が直接俺に来てほしいと召集をかけた。それだけが真実で、もしも他の誰からの連絡だったらたとえ佑里がその場にいたとしても、俺はそこには行かなかった。
つまり、俺はそういう人間なのだ。
「だから、また急に飲みたくなったりしたらいつでも呼べよ」
俺は佑里にそう言って大学の駐輪場に向かって歩き出した。ただ自分でそう言ってみたものの、面倒くさがり屋の佑里が自分から連絡をしてくることはほとんどない。だから佑里の言うとおり今度はおそらく俺の方から誘うことになるだろう。俺も意外と面倒くさがり屋だし、なにより佑里と飲むのは体力気力が大量に必要で大変だから本音を言うとやりたくないのだが……ま、その辺はしょうがない。今の佑里はほとんど一人ぼっちの状態だから、アイツの周りには俺しかいないのだから、やってやるしかない。
駐輪場に行き、原付からパソコンの入った鞄を取り出した俺はそのまま近くのバス停まで歩いていく。就活などで忙しく、今日は半年振りに佑里と飲んだわけだが、やっぱりすごく疲れが溜まった。俺は佑里の下から離れていった人達を多少怨んでいたけれど、この疲れだけは認めざるを得ない歴然とした事実だった。
「いつまで続くんだろ、この関係」
複雑だと思う。茶番だと思う。でも、これは俺が俺である限り続けていかなければいけない関係であった。
「でも、まあ、ぼちぼちと頑張りますか」
そんなやる気があるんだかないんだかよくわからない気合を入れた俺は、やってきた赤い色をしたバスに乗り込んだ。
そして、その夜。
朝から酒と水以外何も口にしていなかった俺は母親が作ったちらし寿司を大量に食べた。口の中が醤油でものすごく沁みたけど、それでもかまわず俺はトロサーモンを頬張った。そして、食後のお茶を飲んだ俺はお風呂にゆっくりと浸かり、それから出ると卒論の続きに取り掛かった。佑里には格好付けてみたけれど、実はあまり進んでなくていっぱいいっぱいなのである。
自分の部屋でアイスコーヒーを飲みながらパソコンに向かうこと二時間。デスクトップの右下の時計が十一時二十六分になったとき、充電してあった携帯が鳴った。佑里ほどではないにしても、そこそこ友達の少ない俺に夜中メールや電話が来るのは珍しいことであった。そのとき調度アイスコーヒーも無くなってしまったので、新しいコーヒーを入れに行くついでに携帯を開いてみると、届いていたのはその佑里からのお礼のメールだった。
――今日はありがとうございました&ビールゴチになりました!! 久しぶりに楽しかったです! 絶対、絶対にまた飲みましょうね(はあーと)
「お礼のメール、ね。可愛いとこあるじゃん」
まったく、
本当に、
本当に、
コイツは俺の期待を悪い意味で裏切らない。
「全部台無しじゃねぇか、あの馬鹿ヤロウォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」
ブチ切れた俺は持っていたガラスのコップを床に投げつけて、
そして、
部屋を飛び出した。
――私、自分で計画したりメールしたりするの面倒くさくて嫌いですから
アイツは普段絶対に自分から他人にメールをしないのだ。
後編ですが、エピローグ付きます。感想等ある方、いつでもどうぞ。




