第103話 ある意味カオスでキメラな3階
3階に到着すると待ってましたとばかりに床から光が放たれ、その中から細長いナニカが湧き出してきた。
ここも到着が戦闘の合図になっているようだ。いや、この後もずっとそうなのかもしれない。
そして光が弱まってくると、徐々にその全貌が浮かび上がってくる。
「あれは……色違いのンバかな?」
長い脚と長い首。
赤と黒のキリン柄の動物……いや、魔物っぽいもの。
どう見てもキリン風の動物である『ンバ』の別バージョンにしか見えない。
「タイセイさん。よーく顔を見てください」
タマちゃんにそう言われても、入り口から結構な距離のところにいるので顔までははっきりと分からない。
「……遠いし、顔の位置が高いし、ここからじゃ全然分からない」
「あれはンバの身体に豚の鼻を持つ魔物、『ジラーフィックピッグ』です!」
どこの恐竜映画よ!?あんまりハリウッドに喧嘩を売っていくのは止めてもろて。
それに最終的にピッグがベースになってるし、ンバじゃなくてジラフって認めてんじゃん!!
『ジラーフィックピッグとは、
鼻フックで豚鼻になっているみたいので、フィックとフックをかけ――』
「お前もそういうの良いから、って、それじゃあ鼻フックで豚鼻にしてるだけの色違いのンバじゃん!」
とりあえず3階の敵は、このキリンもどきということは分かったよ。
「さて、今回はどうや――」
「危ない!!」
ふあっ!?
バックスさんが俺とタマちゃんの前に飛び出して盾を構えると、その盾に何かが激しくぶつかった音がして、周囲に水しぶきが飛び散った。
「バックスさん!!」
「大丈夫です!!しかし油断されなきよう!アレの攻撃を直接受けるのは得策とは思えません!」
何だ?あの距離から何をされたんだ?!
特に魔力の波動なんて感じなかったぞ?それに今の水しぶ……臭っ!!臭ぁぁぁぁい!!
生臭いような、獣臭いような、牛乳を拭いたぞうきんを三日三晩生ごみと一緒に漬けていたような強烈な異臭がぁぁぁ!!
「ふぎにゃぁぁぁ!!臭いぃぃぃ!!鼻が伸びるぅぅぅ!!」
タマちゃん、どんなに臭くても鼻は伸びないから安心しな。
いやしかしこの臭いは何だ!?
盾で受けたとはいえ、バックスさんは平気なのか!?
「バックスさん!?」
「私はこれしきの臭いには普段から慣れておりますから大丈夫です!」
全然大丈夫じゃない!
奥さんも子供もいるのにどんな生活環境なのか気になって仕方ないわ!
「風さん!お願い!」
ロリ様の声に反応して、俺たちの周りに風が巻き起こる。
そして周囲に充満していた臭いはその風によってかき消されていった。
「タイセイ様!アレは口から何かを飛ばしてきました!」
口から……だと。
おい、まさか……。
ジラーフィックピッグを見ると、よくは見えないけど、何か口元をもごもごさせている。
よーくは見えないんだけど、何かニヤニヤしながらこちらを見ている気がする。
全然全く見えてはいないんだけど、歯をむき出してシシシと笑っているような気がする。
「お前ぇぇぇ!!唾飛ばしやがったなぁぁぁ!!」
「ウシシシシシシシ!」
キリンか豚か牛かはっきりしやがれ!!
シチューにすんぞこの野郎!!
『キリンも食べるおつもりですか?』
「言葉のアヤだこんちきしょー!!」
てかキリンじゃなくてピッグなんだろ?
――ぺっ!ぺっ!
今度ははっきりと唾を飛ばす動きが確認出来た。
「みんなまとまらずに散開!!」
まずはあいつに的を絞らせないようにしないと!
「タマちゃん!!」
そしてタマちゃんの遠距離で――
「くちゃいぃぃぃ……」
ああ、臭いにやられてる……。
タマちゃんは鼻をつまんで目をくるくるさせながら逃げている。
それならば――
「ロリ様!お願いします!」
「はい!風さん!お願い!」
また風が臭いを巻き上げてかき消していく。
これなら――
「くちゃいぃぃぃ……」
ああ、タマちゃんが芋虫のようにごろごろと転がっている……。
何で?臭いは消えたでしょ?また猫要素を発揮して鼻が良いから臭うとか?
「大丈夫ですかタマキ殿!?」
傍に居たバックスさんが、倒れているタマちゃんを抱え上げようと近づく。
全身べたべたの身体で……。
「あんたが原因だぁぁぁ!!」
「ぐべろげほろろぉぉぉ!!」
バックスさんの背中に渾身の飛び蹴りをかましてタマちゃんから遠ざける。
「タマちゃん大丈夫!?」
「鼻が……。私の鼻が……」
「大丈夫!ちゃんと低くてちっちゃいけど付いて――ぐべろげほろろぉぉぉ!!」
タマちゃんの身を案じた俺なのに、理不尽にも強烈なパンチをお腹に喰らった。
何故だ!?
「ロリ姫様!少しの間、私とロリ姫様だけに風の壁をお願いします!」
俺、除外された!?
「わた……わたしも……ですが……ガクッ」
あんたは自業自得だ。
『マスターも同罪だと思いますが?』
冤罪だ!!
「分かりました!!風さん!私とタマキ様を守って!!」
ロリ様酷い!?
――ぺっ!ぺっ!
ジラーフィックピッグが次々と吐き出してくる唾は、ロリ様の張った風の壁によって全て防がれる。
そしてその隙をついて、逆に風の恩恵を受け、速度も威力も格段に増したタマちゃんの放った3本の矢が、空気の唸りを上げながらジラーフィックピッグの胴体を貫通した。
「ウシシシシシシシィィィ!!」
そして毎度の様に床へと消えていったジラーフィックピッグ。
「ロリ姫様ありがとうございます」
「いいえ、タマキ様もお疲れ様でした。それで……あれはどうしましょう?」
ロリ様がお腹を押さえてうずくまっていた俺と、遥か彼方で気を失っているバックスさんを交互に見ながらそう言った。
「しばらく放っておきましょう。臭いですし」
いや、バックスさんは臭いけど、俺は臭くないよ?
「乙女心の分からない馬鹿の匂いがプンプンしますから」
ん?バックスさんは物理的に臭いだけで、そんな馬鹿な臭いはしないと思うけど?
「……そうですね。あれは多少洗ったくらいでは落ちない臭いだと思いますわ」
ロリ様は俺の顔を哀しそうな目で見てそう呟き、はあ、と大きな溜息をついた。
どうにも解せぬ!!




