表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想い出に変わるまで  作者: 篠原 皐月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/17

(7)ちょっとした追及

 土曜の夜、自宅の固定電話に着信があったものの、その発信者番号に見覚えが無かった春日は、怪訝な顔で受話器を取り上げた。


「もしもし?」

 慎重に問いかけた彼に、相手が確認もせずに捲し立ててくる。

「長井陽菜、旧姓戸塚陽菜よ。まさか分からないとか言わないわよね? 春日優輝」

 それを聞いた春日は、大学時代に同じくワンダーフォーゲル部に所属していた人物の事を思い出し、相変わらずだと笑いながら応じた。


「いや、幸いそこまで耄碌してはいない。しかし電話をかける時は、先に相手を確認した方が良いぞ?」

「そうね。そっちの連絡先が変わっていなくて助かったわ。玲に聞いたら、絶対何事かと思われるだろうし」

 ここで玲の名前が出てきた事で春日は僅かに眉根を寄せたが、いつも通りの口調で続けた。


「ところで、悪い事は言わないから止めておけ」

「は? 何を止めろと?」

「離婚を考えていて、俺に代理人を頼むつもりだろう?」

 ちょっとふざけて言い返してみると、電話越しに陽菜の地を這うような声が伝わってくる。


「あらあら……。あんたの電話、買い替えた方が良いんじゃない?」

「ちょっとしたジョークだ。邪念を送るのは止めて貰えないか? ワンゲル部史上最凶電子機器クラッシャーのお前にかかったら、それだけで容易く破壊されそうだ」

「昔から、あんたの冗談は笑えないのが大半だったけどね……。他人の黒歴史を蒸し返すのは、止めてくれないかしら?」

 うんざりとした声で言われた春日は、それ以上からかうのは止めて話を元に戻した。


「それで? 本当に他に思い当たる節が無いが、用件は何だ?」

「玲の事よ」

「佐倉がどうかしたのか?」

「何よ、最近連絡を取り合ってないの?」

 そこで意外そうに問われた春日は、正直に告げた。


「今日は土曜日だから……、一昨日の木曜日、見舞いがてら様子を見に行った。風邪をひいて寝込んでいたからな」

「は? 一昨日、マンションに行ったわけ? 何をしに?」

「食べ物と飲み物持参で様子を見に行った。それが何か?」

 すると電話越しに溜め息を吐く気配が伝わり、重ねて問われる。


「あんたの事だから、本当にそれだけで行ったのよね……。もう少し、詳細を聞かせてくれるかしら。今、どれ位の頻度で玲と会っているの?」

「月一位か? パソコンが固まったとか、埋め込み式の照明のカバーの開け方を忘れたとか時々相談を持ちかけられるが、直に見た方が早いしな」

「大抵、玲から連絡が来るわけ?」

「半々かな? 俺の方から連絡する事はあるし」

「因みに、どんな用件で連絡するの?」

「先月は、兄の所に二人目が生まれたから、出産祝いに何か贈りたいから選ぶのを手伝って欲しいと頼んだ」

 何気ない口調で春日が告げると、陽菜が呻くように言ってくる。


「出産祝い……。あんた、何でそういう無神経な事を……」

「本人は十分楽しんでいたぞ? 基本的に可愛い物が好きだからな。『あれが良いこれが良い』と散々目移りして一日がかりになったから、昼食と夕食を奢った」

「その間、あんたは何をしていたのよ?」

「何を見ても同じにしか見えないから、黙って見ていた。因みに、出産祝い云々は嘘だ」

「え? どういう事?」

「その少し前に佐倉に電話した時、ちょっと仕事の事で滅入っていた様子だったから、気分転換に連れ出す為の口実だ。選んだ物は、俺の勤務先のパラリーガルに、簡単に事情を説明した上で譲った。だから佐倉には本当の事は言うなよ?」

 一応春日が釘を差すと、陽菜からは憤然とした声が返ってきた。


「だぁああぁっ! 本当にあんたって、昔からそうよね!」

「『そう』とは?」

「さりげなく企画、さりげなくフォロー。便利屋にはならないけど、周囲に妬まれるヘマもしない、変に目立つ最前列から一歩か二歩退いた、世渡り上手な三列目の男! 単なる三枚目だったら、指さして笑ってやるのに!」

「支離滅裂な事を言われているみたいだが、それは一応、誉め言葉だと思って良いのか?」

「一応ね! だけどあんた、玲に関してだけは昔からヘタレよね!? 一体玲の事を、どう思ってるのよ?」

 そんな事を断言されてしまった春日だが怒り出したりはせず、寧ろ笑いを堪えながら答えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ