(6)友人との語らい
予めメールで連絡を取り、相手が通話可能な時間帯を確認してから、玲は久し振りに大学時代の友人へ電話をかけた。
「陽菜、久しぶり。元気だった? 今だったら大丈夫よね?」
「うん、子供はちゃんと寝かしつけたから平気よ。二人ともなると、もう毎日が戦場だわ~」
「本当にお疲れ様」
「それにしても、連絡してきたのは本当に久しぶりね。どうかしたの?」
結婚や出産を契機に自然に相手の都合を考えるようになり、以前のように頻繁に連絡を取らなくなって久しく、陽菜は言外に何か重要な用件かと尋ねてきたが、玲は苦笑まじりに理由を告げた。
「ごめん、大した事では無いんだけど、五年位前に陽菜が『男避けに』と言ってくれた指輪があったでしょう? あれが初めて役に立ったから、思い出して電話してみたのよ」
「へぇ? それはまた、どういう状況下で?」
興味津々で話の先を促してきた陽菜に、玲は昼間の経緯を説明した。それを聞き終えた陽菜は、半ば呆れながら確認を入れてくる。
「それはそれは……。面倒なお客に目を付けられたのね。一応聞くけど、その人と再婚する気は無いの?」
「二十代で離婚したり未亡人になった女は、借金を抱えていたり変な病気を貰っているかもしれないそうよ」
「うん、無いわ。あり得ない。そんな馬鹿の相手をしなくちゃいけないなんて、玲の職場ってある意味ブラックね」
即答した陽菜に、玲は苦笑いで応じる。
「そんなに困った人がゴロゴロしていないわよ。大抵の人は、真面目に婚活に取り組んでいるから」
「それにしてもね……。あんた達も指輪の一つ位、作れば良かったのに。式も後回しにして、落ち着いたらゆっくりとか言ってたら、あっという間に桐谷君が発病しちゃって」
「……そうね」
溜め息を吐きながら独り言のように言われた内容に、玲は控え目に同意した。するとそれで我に返ったらしい陽菜が、慌てて弁解してくる。
「ごめん! 責めてるわけじゃないのよ!? ちょっとタイミングが悪かったなと思ったら、つい口に出ちゃって!」
「うん、悪気は無いのは分かってるから」
「そう? 本当にごめん」
そこで陽菜が本気で謝ってから、何やら慎重に尋ねてくる。
「……あのさ、玲。この際だから、ちょっと聞いても良い?」
「何?」
「さっきの人は論外だけど、本当に再婚する気は無いの? 桐谷君が死んで、そろそろ六年だよね?」
それを聞いた玲は、苦笑しながら言葉を返した。
「別に、何年経ったら再婚しないといけないと、決まっているわけではないでしょう?」
「何となく……、玲が向こうに義理立てしているような気がして。ほら、あの気の強いお姑さん。お葬式の時の、玲のお母さんとの取っ組み合いの大喧嘩は、本当に凄くて度肝を抜かれたわ」
「……できれば、思い出させないで欲しかったわ」
つい最近、夢で見たばかりの光景に、どうしてこのタイミングで口にしてくるのかと、玲は思わず項垂れた。しかし陽菜が重ねて問いかけてくる。
「私も思い出させたくは無かったけど、あのお義母さんに今でも難癖を付けられたり、嫌がらせをされたりしてないの?」
そこで思わずカウンターに目を向けた玲は、何とも言いがたい表情になった。
「別に……、嫌がらせとか、そういう事は特には……」
「何なの? その微妙に煮え切らない物言いは?」
「本当に、何も無いから。それじゃあそろそろ切るわね。せっかくの睡眠時間を削ったら悪いし」
「分かった。それじゃあね」
疑わしそうに尋ねてきた陽菜だったが、やはり長電話はできなかったらしく、
素直に通話を終わらせた。
「本当に、どうしようかしら……」
玲の視線の先には相変わらず届出用紙があり、更にその奥に飾ってある夫とのツーショット入りのフォトフレームも同時に視界に入れた彼女は、憂鬱な表情で溜め息を吐いた。




