003「01 罪を理解しない者達」
「01 罪を理解しない者達」
体は成長し、大人と変わりなく完成されていても
まだ、精神に幼さの残る彼等は未成年の時期
もしもの時は、獲物達を脅せば…親が示談に持ち込めば…
「なんとでもなる」と、安心して
飽く事も無く、心躍る楽しい遊びを彼等は繰り返していた
それがある時、いつの間にか…何がきっかけになったのか…
自分達がやっていた遊びが、悪夢となって
夢を浸食し、現実を蝕み、人知れず襲いかかってくる様になる。
やった後にも、先にも仲間達と共感できる
欲望に身を任せたゲームは・・・
夢の中で、夢と現実が区別付かない状態で進行し
今日も、夢なのか…現実なのか…
獲物が悲鳴を上げ暴れ、助けを求め叫んで口を塞がれる中
自分達の笑い声と、楽しげな友人達の声、歓喜による吐息
待ち侘びた喜びへの狂気が、手狭な車内を支配していった
高まる獲物への期待を抑えきれず
夢の中で思い出し、自分を諌める事なんて事ができないまま
気付くと、自分の手を無造作に獲物へと伸ばしていた…
但し、夢の中だけは・・・
その途中で、行き成り視点が回転する様に切り替る。
1番、最初に・・・
普段見上げる事の少ない、車の天井が視界に入った
先程まではっきり見えていた友人達の顔が、窓から入る逆光で隠れ
暗くて見え辛くなる
訳が分からず、1人で混乱する中…
気付いた時には、腕や肩に掛かる圧力に痛みを覚え
掴まれた足や、押さえ付けられた箇所、背中にも痛みが襲って来る
他の誰でも無い、自分が押さえ付けられているのに気付き
口を塞がれた状態で『ちょっと待て、やめろ!』と叫び
皆が嬉しそうに、楽しそうに笑うのを見てゾッとする。
「これは何時もの夢だ」そう理解しつつも
これから、夢の中で起こる出来事に対する嫌悪感が変わる事は無い
無駄と思いつつも、思う様に力が入らない体で抵抗を試みる
友人達の手が体を這いまわり、気持ちの悪さに吐き気がする
更に、これから起こるであろう事に怯え
強く触れてきた手に対して、ビクンと恐怖で体が大きく震えた
勘違いした誰かの声が聞こえて来る
一瞬、友人達の会話に華が咲き
沢山の痛みと気色悪さが、体のあちこちに押し付けられる
「こんな事、耐えられない」と、思った
活路を見出したくて、不快感から逃れる為に全力で暴れ
口が塞がれていた為に息が上がる。
また、誰かが勘違いを起こして満足気に勘違いを言葉にした
酸欠で頭が痛いのに、更なる苦痛が与えられる
暫くすると、目の前に誰かが現れて違和感を覚える声を発した
そして、自分に覆い被さってきたのは・・・
嬉しさに醜悪な笑みを零す、自分自信だった
頭の中が真っ白になる「キモチガワルイ」
周囲から押さえ付けられ、自分が自分に組み敷かれた状態で
叫び、必死で抵抗した。
そして今日も、勇気は自分の悲鳴で目を覚ます…
全身から汗が、滴る程に噴き出している
全身に水を掛けられたかの様にパジャマもぐっしょりと濡れていた
勇気は、自室のベットの上で上半身を起こし
安堵の吐息を零して、汗を腕で拭う
今日も…今の今まで見ていた筈の夢の内容は、思い出せない
親が心配して部屋の扉をノックして
ドアノブをガチャガチャと回し、何かを訴えている
扉を壊してでも、鍵のかかった戸を開けようとしている様子だ
『勇気?どうしたの?何があったの!』
何か返事をしない限り続けるであろう母親を追い払う為に
勇気は『ほっといてよ、ベットから落ちただけだから!』と
扉越しに母親を怒鳴り付けた。
そんな日が幾日も続き、その時期を境に・・・
親同士の繋がりの為に、車を出してくれていた年上の友人達が
「ゲームに飽きたのか?」ゲームへの参加を辞退し始めた
それでも、親同士の繋がりを無視する事ができなくて…なのだろう
車なら貸してくれると、言う
年齢が足りない為に、彼等は車の免許を誰も持っていなかったが
オートマの運転の方法だけは皆、誰しもがそれなりに理解し…
知らなくても、それなりに運転できない事はないので
今まで通り、ゲームを続ける事にした。
若さ故、精神に幼さが残る故に…
彼等は一瞬だけ思い出される夢で見た悪夢を、現実の快楽で打ち消し
若者達は、狩りの引き際を見失っていく
彼等が見る悪夢も、それに従い最悪なモノへ悪化していく
時に、その場に居た誰かが『場所が悪いんじゃないか?』と
『狩り場を変更しよう』と提案した
全員が同意して・・・
人気の無い、防犯カメラの無さそうな田舎の方へと足を延ばす。
初めての場所、思う場所に獲物は近付いて行ってはくれない
痺れを切らし、彼等は適当な所で獲物を追掛け始めた
経験の無い場所、計画性の無い狩りは成功しないモノ
彼等は車に連れ込むのを失敗して
夜の闇の中、獲物を手加減しないまま追い詰めて
気が付けば、生きたまま最後に開放してやらなければイケナイ獲物を
力の加減を誤って、いつの間にか死なせてしまっていた。
自分達で生み出した新しい恐怖感が、彼等を支配し始める
殺してしまった事を受け入れられない彼等は
弛緩した獲物に触れ、支える力を失った関節の柔らかさに恐れを抱く
互いが互いに責任転嫁を繰り返し
彼等は遺体をそのままに、遺体に自分達の指紋やDNAを残し
パッと見では、目に見えない証拠を周辺に無数に残して
車へ乗り込み逃げ帰っていく
遠く離れた木々の中、黒猫が姿を現し
人影が静かに、赤黒い瞳で彼等を静かに見送った。
彼等は泳がされ、余罪を洗い出され…
でも、名誉と立場と身を護る為に名乗り出ない被害者や
もう、どうやっても名乗り出る事の出来ない被害者
生きていく為、残された者が生きていく為に被害届が出されない現実
示談で、多額の御金で解決していく加害者の親達、
コネクションの効く祖父母達の脅しの御蔭で
重い罪に問われる事無く
短い刑期に、恩赦が加わり…早い段階で、彼等の罪は許された。
彼等が元の様な生活を送る為の準備が、開始される
その間・・・
勇気は刑に服していた期間を誤魔化す時間をいい訳を得る為に
海外留学いう名目で、海外で時を過ごす
世間体を護る為、前に住んでいた場所にある家は売却され引っ越した
仲間達とはバラバラになったが、前と似た感じの…
何の不自由も感じない環境が、祖父母の手によって整備されていく
隣町の事件は、近くて遠いモノ
市町村を移動すれば、噂程度に真実味は失われ
都道府県を跨げば、別世界の御話
更にそれが都会でならば・・・誰も気が付く事は無い
更に祖父母は、勇気の罪を無かった事にする為に…
勇気と勇気の両親の名字を養子縁組で、親戚の名字に変更させた。
そして、親が金で解決してくれるから
祖父母がコネや伝手、権力で何んとかしてくれるから
何をしても許される、今までと同じ
元の生活が勇気の前に差し出されていた
余分な物が無くなって心機一転、清々しい再出発
目覚めた時、消える悪夢の他に…
現実には、自分達が追掛けていた筈なのに
夢では自分が追いかけられ、窒息死させられる夢を見る様になった
これは、目覚めても夢の記憶が消えない夢
無数の悪夢に苛まれ
彼等は意図あって、車に異性を連れ込む事は無くなった。
この先、彼等に狩られてしまう被害者は出ないであろう…
だが、しかし
それでも昔、狩られてしまった者達の悪夢は続いている
彼等を見下ろす事の出来る場所に黒猫が現れ、人影も姿を露わした
『少し改心したとしても許さない
大切な者を傷付けられた恨み、彼女等の恨みが消えるまでは…』
少し低い、透き通るような声が・・・
『そうだな』と、溜息を吐くかの様に吐き捨て
『大切な者を傷付けられた恨みも晴らすべきだな
椿・・・御前の気持ちを奴等にも体験させてやろう』
意味深な会話を残して2つの影は消え去った。




