010「08 キャンプ場に向かうまでの道程」
「08 キャンプ場に向かうまでの道程」
キャンプに行く事が決定した翌日の出社後直ぐ
勇気は、一族経営で成り立つ会社の偉い人達に呼び出される
普通一般的に、地位が下の方の社員が
偉い人に呼び出されると言うのは、不安なモノなのだが
それに輪を掛けて、勇気の気分は重かった
偉い人達、彼等の殆どが勇気にとって親戚ではあるが
勇気にとっては、本当に居心地の悪い相手でしかないのだ
で…嫌々、自社ビルの上層階にある部屋を訪ねると
勇気の僅かな味方、勇気の家の名字変更にも携った
勇気達が働く会社の社長夫婦と
一番偉い会長である、勇気の祖父母の不在が伝えられる
勇気は偉い人達の「ストレス解消」に詰られる覚悟を決めた。
呼び出された経緯は到着後、割合早い段階で勇気に知らされた
御飾りで高い地位に居る、勇気の父親が・・・
またもや「1週間程度、出社していない」と、言う事らしい
勇気が過去、警察に御世話になってからと言うモノ
自分で積み上げた地位を失った勇気の父は
仕事に対するやる気を無くし
勇気の人生をやり直させる為と、一族の名誉を守る偽装の為に
妻の実家から貰った地位を…
そのやる気の無さと、地盤の無い仕事環境の為に
持て余してしまっているのだ
勇気は、勇気の祖父母の徹底した支配によって
勇気の罪が内密になっている為に救われているが…
その分、勇気の父親は不利益を被っている
仕事でやることなす事、風当たりが強く
辛い状況に自分の父親が置かれている事を知っていて
申し訳なく思い…
勇気は「自分の父親の不逞」を重役達に平謝りするしかなかった。
勇気が謝り疲れ…偉い人の気が済んで、勇気が解放されたのは
昼を少し過ぎた位の時間であった
一度、勇気は自分の所属する課に顔を出し
『出来るだけ早く戻る』と、食堂へ昼食を食べに向かう…
遅い昼食を一人で取りながら、勇気が思い出したのは
「そう言えば最近、母にも会っていない気がする…」
と、言う事実だった
「父が朝帰りした日の朝に、顔を合わせたきりな気もする」
でも、それは…勇気の家では、高確率で何時もの事で
夫婦で罵り合った後は、買い物依存症を再発させ
勇気の母は、海外に出掛け
色々な商品を大量に買い漁って帰って来ては
自分の妹が「趣味で経営する」小さな店と
インターネットで売捌い収入を得ている人なので
心配する必要は無いし
勇気が心配した事がバレたら、勇気は母親に怒られる
『収入を得る事ができる事をしている』のだから
『誰にも何も言わせない』と…
『消費する事でしか楽しめないアナタと一緒にしないで』が
勇気の母の口癖なのだから
勇気は自分の身内の行方不明と…
最近、流行の「失踪」の事は切り離して考える事にした。
勇気が手早く食事を終え、仕事に戻ると…
違う階の別の課で働く池田が、勇気の上司と話しこんでいた
池田は、『俺の幼馴染の我儘に巻き込まれた形だから』と
課の違う勇気の分まで、休暇の日程調節をしに来てくれていたのだ
御蔭で、急な休暇の日程の変更はすんなり通ったが…
『俺は、御前の事…ちょっと、誤解していたようだ』と
池田の言う「誤解」の正体に、勇気は悩む事となる
正直、勇気には・・・
池田が何の誤解をしていて
今、何のどんな誤解が解けたのか分からなかったのだから。
紆余曲折、解決しないで通り越して
キャンプに行く日の早朝がやってきた
出出しのトラブルは、林がレンタルしてきたワゴン車だった
勇気は、昔の事で・・・
白いワゴン車が、いつの間にかトラウマになっていて
乗り込むのに躊躇する。
何か知っているのか、林が意味ありげな微笑みを見せ
勇気は焦って、言わなくていいのに
『蜘蛛がいた様に見えて怖かったんだ』と嘘を吐く
その嘘に花井が過剰反応し、勇気はそれに便乗して
花井が乗るまで勇気も乗らない事にした
出発が少し遅れる・・・
しかも、全員乗車後…大きな黒い蜘蛛を車内で発見
嘘から出た真の為に…と、言うか・・・
似た蜘蛛に噛まれて怪我した事のあった、花井が大騒ぎし
その蜘蛛に勇気も見覚えがあったので
扉の近くに居た花井が逃げ降りるのに、又もや便乗して
勇気も焦って車を降りた
橘が蜘蛛を車から追い出すまで2人が車に乗らず
出発が更に遅れた。
山中が感慨深く呟く・・・
『流石に、このサイズの蜘蛛は俺も駄目な方向だけど…
御前等2人、怖がり過ぎじゃないか?本当に駄目なんだな…
これから山に行くのに、そんなんで大丈夫か?』
花井は都会っ子らしく『正直、ちょっと自信が無いな…』と言い
勇気は笑顔で・・・
『そうだ俺、家政婦さんに
虫よけスプレー準備して貰ってるから分けてやるよ』と
鞄から、スプレー缶を数本出してドン引きされた
『俺も持参してきてはいるが…それは持ち過ぎだな』
密かに花井に一番、呆れられてしまった様だったが・・・
全員から笑いが零れた
この時、楽しいキャンプになりそうな雰囲気が
全員を包んでいた。
出発が遅れに遅れ…
早朝に集まったのに気付けば9時を過ぎている
『渋滞を避ける為に前日の夜から車を借りた
俺の配慮を無にする結果だな』と・・・
林が悲しげに溜息を吐き
『空回りするのは何時もの事だろ?運転してやるから機嫌直せ』
と、池田が宥めやっと出発する事ができたのは
10時頃の事だった。
都会から少しだけ離れた山の手の1本道
山の斜面から、青々とした美しい木々が道路に日蔭を作り
逆側の斜面に自生する背の高い木々と共に、緑色のトンネルを作る
エアコン無しで走れる山道は、比較的空いていて
皆は窓を開け、森林浴を楽しんでいた…
そう、勇気以外のメンバーは!
『電車もバスも確か、タクシーも大丈夫だったのに
勇気が乗り物酔いするとは思わなかったよ』と
花井が一番後ろの座席で、勇気に膝枕をしてやりながら
勇気の面倒を看ていた
『俺も初めて知ったよ、それに・・・
こんなに左右に揺さ振られる車に乗ったのは初めてだ』
勇気の消え入りそうは言葉に
『キャンプ場近くになったらもっと凄いですよ
覚悟しておいて下さいね、あっちは本物の山道だから』
橘が嬉しそうに笑う
今、車が走る緑のトンネルの中は・・・
夏の強い日差しが遮られ、柔らかい日の差す木陰が涼しげだ
見ているだけで・・・
日蔭の少ない都会のアスファルトから出る輻射熱と
白い物や光を反射する物が多い
都会特有の照り返しの強さを忘れさせてくれる
何処からともなく川のせせらぎも聞こえてきて
とても素敵な空間なのだが、そんな素敵な体験も
今の勇気には届かず関係ない事だった。
そんな道を越えると山間に隠れた
手遅れのな程に、高齢化が進んでしてしまい
取り返し付かない状態になってしまった街に出る
山道から解放されて道が真直ぐになり、横揺れが減って
そこでやっと勇気が、少し復活して起き出し
外の景色を眺める事ができる様になったが
山道に存在していた涼しさと交代して
都会的なアスファルトの照り返しと輻射熱が襲って来る
『給油できないから、ガソリンを無駄遣いしたくないんだがな』
と、言いつつも林が暑さに耐えきれず『窓を閉めろ』と、指示し
冷房を入れる事になった。
車の臭いでまた少し弱り、ぐったりする勇気に花井が肩を貸す
年長者達は景色を見て
時と時間、時代の流れの無残さに口を閉ざすが…
『不謹慎かもだけど…
荒廃した未来設定の漫画とかに出てきそうな風景だな!
兵士とかモンスターとか出てきそうな雰囲気だ』
山中が声を弾ませる
『おっ!いぃ~ねぇ~その発想!
この辺って面白そうだよな、土地の所有者の許可さえ取れるなら
俺は一度、この周辺一帯を使ってサバゲがしてみたいよ』
橘が笑いながら言い、意気投合した山中と橘が笑い合う
ゴーストタウン化した通りは
まさに、そう言う遊びにうってつけの雰囲気でしかなかった。
街には高齢化で出歩く人が減り、居なくなり
集客を見込めなくなった大型店舗が、配慮なく閉店して
大きな廃墟が幾つも、点在している
大きな店舗の廃墟、一つ一つに隣接した駐車場は…
交通手段が少なく、車で来る客を見込んで作った為
広大な敷地を有し…今、そこには・・・
駐車場のアスファルトを割って、草木が力強く茂り
小動物達の自然な営みが少しづつ帰ってきている
『訊き込みも出来ない環境の何処が楽しいんだか…』
林は特殊な理由で、盛り上がる2人を眺めていた。




