プロローグ
新連載開始します!
ゴールデンウィークの暇つぶしにでも読んでいただけると嬉しいです(*^^*)
フェアクロフト国。
広大な王城の敷地内に、ぽつん、と忘れ去られたようにたたずむ小さな灰色の離宮。
ノウェスナー国の第二王女にして八歳の時からフェアクロフト国に人質として差し出されているわたし――カレンは、冷たい窓ガラスに手のひらをついて、時折漏れ聞こえてくる音楽に耳を傾けていた。
……お父様、お母様、わたし、十五歳になったわ。
本当ならば、今日のデビュタントパーティーで、わたしは白いドレスに身を包んで社交デビューを飾っていたことだろう。
だけど、人質であるわたしには、それは決して許されない。
わたしはただひっそりと、この離宮という名の牢獄で、十年の人質期間が過ぎるのを待つことしか許されていないのだ。
わたしの祖国ノウェスナー国とフェアクロフト国は長きにわたり戦争をしていた。
何年も続いた戦争が終結したのは、わたしが八歳になる前のこと。
負けたのは、ノウェスナー国だった。
そののち、両国にて和平条約が締結され、その和平の象徴といえば聞こえはいいが、要するに、ノウェスナー国を牽制するために、わたしは人質としてフェアクロフト国に滞在することになった。
和平条約を結んだとはいえ、長らく戦争下にあった両国の関係はあまりよくない。
それでも、わたしが人質になった七年前よりもだいぶ改善しただろう。
とはいえ、戦争で実の弟を亡くしたフェアクロフト国の王妃はわたしを疎んでおり、国王もまた、敗戦国の姫に目をかけるようなこともない。
わたしはただ、大人しく離宮に引っ込んでいさえすればいいだけの、囚人同然の王女だ。
「今日のデビュタントパーティーには、国中のたくさんの令嬢が招待されているんでしょうね。そしてきっと……アーネストお兄様は、たくさんの女性と踊るんだわ。だって、王太子ですもの」
アーネストお兄様はフェアクロフト国の第一王子で王太子だ。
お兄様と呼ばせていただいているけれど、当然のことながら、わたしと血のつながりがあるわけではない。
わたしより三つ年上のアーネストお兄様は、この国で、唯一わたしに優しくしてくれた人だった。
そんなお兄様も十八歳。まだ婚約者を決めていない未来の国王は、未婚の令嬢たちに囲まれてどんな顔をしているだろう。
きっと困った顔で笑って、それでも優しいお兄様は、ご令嬢たちの手を取って、順番にダンスを踊るのでしょうね。
暇を見つけてはわたしの暮らす離宮に来てお喋りの相手をしてくれるアーネストお兄様も、いい加減婚約者を決めなければならない年だ。
婚約者が決まれば、わたしに会いに来ることも減るだろう。
だって、年頃の女の子であるわたしに何度も会いに行っていたら、婚約者の人の機嫌が悪くなるものね。
わたしはあと何年、アーネストお兄様をお兄様と呼べるだろうか。
せめて、人質期間が終わるまで――あと三年は、アーネストお兄様に婚約者ができませんように……。そんな風に祈ってしまうわたしは、なんて性格が悪いのだろう。
「でも、お兄様が誰かのものになるところは、見たくないの」
この国で唯一わたしに優しくしてくれるアーネストお兄様。
そんなお兄様に、わたしが恋心を抱くのは、至極当然のことだった。
大好きなアーネストお兄様が誰かと婚約して、誰かと結婚式を挙げるなんて、想像するだけで胸が張り裂けそうになる。
……せめて、わたしが国に帰るまでは、待っていてほしいの。
物理的にアーネストお兄様と距離ができれば諦めがつくだろう。
わたしだって王女だ。人質期間を終えてノウェスナー国に帰れば、きっとお父様たちが決めた誰かと結婚する運びになるはず。
そうすればきっと、この気持ちも自然と昇華していくと思うから――
「ああ、でも……」
わたしはこつん、と窓ガラスに額をつけて、小さくつぶやいた。
「一度でいいから、お兄様と、ダンスが踊ってみたいなぁ……」
そんな日は、永遠に来ないだろうけれど。
面白い!続きが気になる!続きが読みたい!と思ってくださった皆様、
ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ








