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Ex. 僕らのその後と、みんなのお話 その5


 

 数日後。

 あの男はすっかり集落に馴染んでいた。

 

 “カイ”と名乗った彼は、チィの必死の説得によって住民達にも許され、そのまま集落で暮らすことになった。

 チィは男のことを“カァくん”と呼び、僕らもいつの間にかそう呼ぶようになった。


「あの船はよ、設備だけは立派で、ここより便利だった。だけど、中じゃ人間同士の醜い奪い合いばっかりでさ……確かにうんざりしてたんだが、やっぱり……割り切れねぇな……」


 後々、彼は少し寂しそうに、あの船での暮らしをそう振り返っていた。


 そんなカァくんが今、何をしているかというと――。


「うぉおい手が止まっとるぞ! それに、そこはもっときつく縛れったろがあ!」

「すんません!! ふなじいさん! こ、これくらいですか!?」


 彼はふなじいの弟子のような立場に収まり、毎日汗を流している。

 今日も浜辺で、ふなじいにこれでもかと怒鳴られながら、必死に船のロープを巻き直していた。


「カァくーんー! やっほー!」


 チィが、ぶんぶんと手を振る。

 すると彼は、大慌てで背筋を伸ばし、ビシッとお辞儀をして見せた。


「チィさん! それにリクの兄貴! 今日も良い天気で!」

「あはは、あにきだってー!」

「これ、おばちゃんからです」

「おう、いつもすまねぇなぁ」


 僕が差し出した食糧を受け取った途端、おじちゃんはまただばーっと大粒の涙を流し始めた。


「ううっ……こうやって飯を分けてもらえるなんて……本当にあったけぇ所だなぁここは……」

「こらァ! 泣いとらんではよ手を動かせい!」

「へ、へいっ!」

 

 ふなじいに頭を小突かれ、鼻をすすりながら作業に戻るカァくん。

 それを見てまたきゃらきゃらと笑うチィ。


 僕は、その平和な光景を眺めていた。


 


 

 あの日、僕は、チィを洞窟からチィを連れて帰ってきた。

 その選択が正しかったのか、ずっと一人で悩んでいた。


 けれど、僕がチィの手を引いて線の上へと連れ帰ったから、彼女はこうして今日も笑っている。


『人は生きていれば、必ず良い方向に向かって行くから』

 

 お医者さんの優しい声が、春のような風に乗って耳の奥に思い出される。


「ねー! リクくん、はやくいこー!」

「うん、今行くよ」


 水と空気の合間の線の下に、色々なものが沈んでしまった世界だけど、僕たちの頭上には、まだ穏やかな青空が広がっている。

 

 繋いだチィの手の温もりを感じながら、僕はほんの少しだけ胸を張って、一歩を踏み出した。


 

後日談『僕らのその後と、みんなのお話』こちらでおしまいになります。

再び、リクとチィの二人を、そして集落のみんなを見守ってくださり、ありがとうございました!!

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