Ex. 僕らのその後と、みんなのお話 その5
数日後。
あの男はすっかり集落に馴染んでいた。
“カイ”と名乗った彼は、チィの必死の説得によって住民達にも許され、そのまま集落で暮らすことになった。
チィは男のことを“カァくん”と呼び、僕らもいつの間にかそう呼ぶようになった。
「あの船はよ、設備だけは立派で、ここより便利だった。だけど、中じゃ人間同士の醜い奪い合いばっかりでさ……確かにうんざりしてたんだが、やっぱり……割り切れねぇな……」
後々、彼は少し寂しそうに、あの船での暮らしをそう振り返っていた。
そんなカァくんが今、何をしているかというと――。
「うぉおい手が止まっとるぞ! それに、そこはもっときつく縛れったろがあ!」
「すんません!! ふなじいさん! こ、これくらいですか!?」
彼はふなじいの弟子のような立場に収まり、毎日汗を流している。
今日も浜辺で、ふなじいにこれでもかと怒鳴られながら、必死に船のロープを巻き直していた。
「カァくーんー! やっほー!」
チィが、ぶんぶんと手を振る。
すると彼は、大慌てで背筋を伸ばし、ビシッとお辞儀をして見せた。
「チィさん! それにリクの兄貴! 今日も良い天気で!」
「あはは、あにきだってー!」
「これ、おばちゃんからです」
「おう、いつもすまねぇなぁ」
僕が差し出した食糧を受け取った途端、おじちゃんはまただばーっと大粒の涙を流し始めた。
「ううっ……こうやって飯を分けてもらえるなんて……本当にあったけぇ所だなぁここは……」
「こらァ! 泣いとらんではよ手を動かせい!」
「へ、へいっ!」
ふなじいに頭を小突かれ、鼻をすすりながら作業に戻るカァくん。
それを見てまたきゃらきゃらと笑うチィ。
僕は、その平和な光景を眺めていた。
◇
あの日、僕は、チィを洞窟からチィを連れて帰ってきた。
その選択が正しかったのか、ずっと一人で悩んでいた。
けれど、僕がチィの手を引いて線の上へと連れ帰ったから、彼女はこうして今日も笑っている。
『人は生きていれば、必ず良い方向に向かって行くから』
お医者さんの優しい声が、春のような風に乗って耳の奥に思い出される。
「ねー! リクくん、はやくいこー!」
「うん、今行くよ」
水と空気の合間の線の下に、色々なものが沈んでしまった世界だけど、僕たちの頭上には、まだ穏やかな青空が広がっている。
繋いだチィの手の温もりを感じながら、僕はほんの少しだけ胸を張って、一歩を踏み出した。
後日談『僕らのその後と、みんなのお話』こちらでおしまいになります。
再び、リクとチィの二人を、そして集落のみんなを見守ってくださり、ありがとうございました!!




