21.共闘の銀閃、死を拒絶する翼
ヒッポグリフの翼が、戦場の煙を切り裂いた。
巨大な影が低空を駆け抜ける。
カテリーナの身体が、ふわりと浮いた。
次の瞬間――
強い腕が、彼女を抱え上げていた。
「掴まれ!」
パパタローだった。
ヒッポグリフの背で、彼はカテリーナを引き寄せる。
ローズが鋭く旋回した。
「おい、カテリーナ! 派手にやってんじゃねぇか。……ん?」
パパタローが、空中で顎をさすりながら、アンデッドの群れを凝視する。
彼の黄金の瞳――「狐の印」が、カテリーナと同じ「真実」を捉えた。
「……なんだぁ? アレ。おい、カテリーナ。お前んとこの『アンデッド』ってのは、背中からうようよ白いもんを漂わせんのが、流行りなのか?」
「……パパタロー様、あなたにも……見えるのですか」
カテリーナは、絞り出すような声で応えた。
死神である自分に見えるのは道理。だが、この異邦の少年もまた、この世界の「裏側」を正確に観測している。
「ああ、丸見えだぜ。気色わりぃ糸が、どっかの誰かの指先まで繋がってやがる……」
「指先?」
「ん?見えない?指先。あのピエロ。魂がないぜ?」
「ちっ」
地上からネクロスが舌打ちする。
「逃がすかいな!」
黒と赤の蛇のような口が地上の影から空へ放たれる。
だが――
エリスが地面を蹴った。
銀の剣が閃く。
空へ伸びた蛇の頭を、一閃で叩き落とした。
火花が散る。
エリスは振り向かない。
ただ短く言う。
「行け」
パパタローが叫ぶ。
「ローズ!」
ヒッポグリフが翼を大きく打つ。
突風が戦場を薙いだ。
カテリーナの視界が揺れる。
炎。
煙。
アンデッドの群れ。
そして――
その中心に立つエリスの背中。
小さく、しかし揺るがない背中だった。
カテリーナが叫ぶ。
「エリス様!」
エリスは振り向かない。
ただ剣を構えたまま、肩越しに言った。
「心配するな」
ネクロスたちを見据えたまま。
「まだ終わってない」
モルグレイブが笑う。
「三対一だぞ?」
ヴェイルが扇のように手を広げる。
「勇敢ですこと」
ネクロスが肩を回す。
「すぐ終わるで」
そのときだった。
空から、もう一つの影が落ちてくる。
黒い影。
十二。
地面へ次々と着地する。
メイド服。
戦闘装束。
メイド十二人衆だった。
一人がモップを担ぎながら言う。
「お嬢様」
もう一人が剣を抜く。
「お待たせしました」
ネクロスが眉をひそめる。
「……なんやねん」
モルグレイブが首をかしげる。
「メイダ?」
ヴェイルが笑った。
「増えましたわね」
エリスは小さく息を吐く。
「揃った」
メイドたちが横一列に並ぶ。
その中央で、アビゲイルが言った。
「姫!」
メイドが微笑む。
「掃除の時間です」
その瞬間。
十二人が同時に動いた。
戦場が――
再び、爆発した。
「掃討してやれ!」
エリスが叫んだ。




