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versus Players II

すみません。大幅遅れとなってしまいました。

今話は「三人称」です。



 剣士の少年と魔法使いの少女も、同じように森がスポーン地点だった。視界は狭く声は辺りに木霊して、敵を見つけるのは全く容易でない。しかしポーション片手に索敵魔法を使い続けるという少女の提案に対しては、少年はどうしても頷くことができなかった。いざ戦闘になった時に魔力不足に陥ってしまっては、魔法が鍵である自分たちの連携が根本から成り立たなくなってしまう。

 もちろん、少女の策を断ったからには彼こそが索敵の責を負わなければならない。左右の林間に目を走らせ、頭上の葉の音に耳を傾け、そうして絶対にやられはしないという気概の下に尖らせ続けた神経が、彼が忍び寄る凶刃に気付くことを可能にした。

 隣を歩く彼女の一歩の直後、彼の目が右前方の樹上に銀色の煌めきを捉えた。


「フェリア!」


 次の瞬間には身体が動いていた。少女の肩を掴んで強引に引っ張り、その前へと勢いよく飛び出る。すぐさま彼は、円盾を構えた左手に電流のような感覚を得た。

 初撃は防いだ。そう頭の隅で直感しながら、彼は木々の間に敵影を探す。


「どこ──ッ!?」


 しかしその姿が見つかるよりも早く、何かが彼の脚を襲った。泥のような痛みに思わず目線がそちらへと引っ張られる。

 短剣が刺さっていた。


「二本目かよッ!」

「【物理障壁(シールド・フィジカ)】! レンヤ、敵は?」

「悪ぃ、見逃した!」


 少女──フェリアが張った半球状の障壁の中で彼は吐き捨てた。一本目の短剣の陰に隠された巧妙な二本目を見抜けなかったのも、それに気を取られて敵を見逃してしまったのも、どちらも完全に失敗だった。今もまだ短剣が飛来しフェリアによる薄黄色の障壁に弾かれてはいるが、その方向はあちらこちらと変化しており敵の位置は捉えようもない。

 こうなった以上は索敵魔法を広げるのが唯一打てる手。そう思って後ろを振り返ったレンヤは、そこで当のフェリアが両手で杖を握り、それを少し掲げて構えているを見た。


「守りは任せたよ!」


 その声を合図とするかのように張られていた障壁が崩壊する。それを目にして、レンヤは湧き始めていた困惑をすぐさま振り払った。こうなったら今の彼の仕事はたった一つ、頭脳にして相棒である彼女(フェリア)を守ることだけ。


「【アジリティ・アップ】! 」


 敏捷を上げるスキルを唱えながら、レンヤは針の一本も当てさせないようにとフェリアのそばに駆け寄る。そして彼が飛んで来た短剣を確かに弾くと、その隣で、次は私の番だとばかりにフェリアが大声を張り上げ、杖を地面に刺した。


「【火焔柱(カラム・イグニス)】! 」


 彼女の足元に直径1メートルほどの紅い円が浮かび上がる。フェリアと背中合わせになっていたレンヤは、地面に輝いているそれが魔法陣であることを──それも、重なって判読できないほど無数の図形が内部にひしめいていることからして、広範囲の敵を殲滅するような凶悪な魔法陣であることを──すぐさま理解した。

 身震いが湧き起こる。


「おいフェリア!?」


 レンヤは弾けるように背後を振り返った。

 このイベントにパーティという仕組みはない。一緒にいたのはあくまで擬似パーティであって、システム上レンヤとフェリアは無関係のプレイヤーとして扱われている。

 ──つまり、フレンドリーファイヤが起こりうる。


「俺まで巻き添えに──」

「違うから」


 フェリアの声は落ち着いていた。

 確かに、もしも彼女が辺り一帯を焼き尽くすような魔法を使ったなら剣士たるレンヤに助かる術はない。しかしフェリアはその懸念を喋っている途中で叩き斬ると、正面の木々を睨みつけながら呟いた。


「もうすぐ敵が来る」


 その小声の直後、フェリアの足元で燻っていた魔法陣が龍のような赤黒いスパークを爆発させた。そのバリバリという音の下で、1メートル大だった真紅の円は炎と閃電を飛ばしながら衝撃波のように広がっていく。魔法陣は瞬く間に道を覆って森へと入り、内側に描かれていた文字と図形を地面の上に溢れかえらせる。

 レンヤの耳にフェリアの叫びが刺さった。


「レンヤ上っ!」


 その声を聞き、林間に向けていた顔を真上へと跳ね上げる。

 ──逆光の中に、真っ黒い影が一つ。

 レンヤはグッと足を踏ん張った。盾を掴む左手に力を込めた。そしてそれをフェリアの頭上に構えようとし、いざ持ち上げ始めたとき、今度は硬いガラスの砕け散るような音が響き渡った。続け様に視界が明るくなり、光がその中に敵の姿を鮮明に映し出す。


「岩!?」


 偽物、あるいは囮。隣で同じように上を見上げていたフェリアの顔が視界の端で歪む。

 そのときだった。レンヤの聴覚が、ガラスの残響の中に一つの異質な音を──ガサガサと低木の枝葉を揺らすような音を──捉えた。


「【飛刃】! 」


 反射で放ったスキル。ふり向きながら飛ばした剣撃が、一つの茂みへと滑らかに吸い込まれていく。さっきまでの魔法陣は千切れて割れて消え始めており、白く光る斬撃は薄暗い林間に鮮明だった。

 そしてそれが着撃し草葉を切り散らした直後、その奥から「えっ」という女の声が飛び出し、土埃に包まれた何かが道の上に転がり出た。

 レンヤもフェリアも、今度こそ狼狽しなかった。


「フェリア!」

「分かってる! 【盗賊の鈴(シーフ・ベル)】! 」


 レンヤが砂煙の中の人影に正対し、その後ろでフェリアが杖を掲げる。使ったのは索敵魔法。周囲にいる敵を知るためのもの。その人数を鈴の音の回数で伝えるもの。

 辺りにはすぐさま風鈴のような音色が落ち、そしてそれは()()()()()()鳴って、シンと止んだ。


「レンヤ、敵は──」


 フェリアの言葉。しかしそれは中途で遮られた。


「私一人だけです」


 二人の目の前で、塵が静かに(ほど)ける。

 少女が一人、短剣を手に立っていた。


「そうかよ」

「不満ですかね」

「いや、安心したぜ」


 きゅっと摘みまとめられた茶髪が風に揺れている。

 レンヤは糸を張るように気を引き締め、視覚を研ぎ澄ませた。

 背は高め。装備は布製で、鎧というよりは衣服に近い印象だった。黒色と紺色なのは恐らく夜陰に紛れるためで、下はズボンタイプの動きやすさ重視に見える。両手の短剣以外に武器らしきものはなく、腰に杖を差したりもしていない。指輪も見覚えのあるもの。

 警戒を続けながら観察を済ませたレンヤは、左手の盾を少し高く構え、口元を隠しながら小声でフェリアに告げた。


「敏捷で短剣使いだな。【投擲手】だろうし魔法はない」

「いつも通りで良いね」

「ああ」


 緊張はある。さっきまでの攻撃、それに岩を囮に使うという策からして、プレイヤースキルも決して低くない。

 それでもレンヤは、自分たちが勝つのだと気を昂らせた。


「【飛刃】! 」

「っ【シャープ・ハール】! 」


 レンヤは武者震いに笑った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ワクワクします(っ ॑꒳ ॑c)
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