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33/34

versus Players I

大変遅くなりました。第33部分です。




 鳴き声があった。兎が出す小さくて可愛らしいのとは違う荒くて猛々しい鳴き声で、私の攻撃がモンスターを倒したことの証だった。

 高い樹の枝の上に立ってその木霊を聞きながら投げたばかりの短剣をインベントリの機能で回収する。


「慣れってすごい」


 人間ってよくできてるなあ、と少し感動。だって少し前まで茂みの兎に怯えていたのが、今じゃ樹の上からの投擲で猪っぽいモンスターを倒せてしまっているんだから。


 初めに放り出された獣道は進んでいく間にだんだん様相が変わっていって、あるところで商隊が通れそうなくらいの少し広い道へと合流した。それまでみたいに落ち葉が敷かれていることもなく、乾いた土の、ちょっと整備された街道みたいな雰囲気をした道だった。

 最初は、探し求めていた草原とまではいかなくとも多少は見やすくなったかなって思ったんだけど、実際のところは道がひらけた分だけ森が暗く見えて、腰くらいまである草と低木の広葉樹と、何よりさっき以上に高くなった針葉樹が屋根みたいに枝を伸ばしているのが、すごく圧迫感があった。

 薄い砂色の道の両側に焦茶色の幹があって、そこから深緑色の葉っぱでできた壁がずっと伸びている。風で擦れる葉音の中にフクロウかカッコウの鳴き声が聞こえたときには、焦ってふり返った拍子に転びかけたりした。


「ギリギリで耐えられて良かったけどさ」


 ゲームのHPは減らないけどメンタルが減った。


 それがまだ昼前の話。あの後しばらくしてから「樹の上にいれば怖くないかも」ということに気が付いて、十回くらい落ちた末に【木登り】というスキルを獲得した。で、さらに二十回くらいの落下を経験した今では【木渡り】まで手に入れている。

 私は針葉樹のゴツゴツした肌に寄りかかりながら眼下に伸びる道の上で猪がポリゴンに変わったのを見届けて、同時に軽い電子音の案内で今のポイントランキングを見た。


「んー、想像通りというか、やっぱり微妙」


 620位って。

 原因はモンスターとの遭遇率がなんとなく草原とかより低そうなのと、あとは私が敵を倒すのがそもそも早くないというのがあるからかもしれない。特に樹木系のモンスターとか、物理に耐性があるのには結構な時間がかかってしまう。折角手に入れた【魔力操作】だけど、あれにはパッシブスキルで私が意識さえすればいつでも短剣に属性を入れられるという利点の代わりに、便利すぎて使ってるとあっという間にMPがなくなるっていうかなりの難点があった。

 属性攻撃それ自体は剣の効果だから私の短剣スキルと競合しないのは嬉しいんだけど、MP回復ポーションも無限にあるわけじゃないから無鉄砲には使えない。とりわけこんなところのモンスターには勿体なさすぎる。

 だから、一回MP切れを起こしてからはまだ一度も発動していなかった。

 他に620位の理由として考えられるのは。


「まあ、PVPだよね」


 私はモンスターとしか闘ってないし。プレイヤーを倒した方がポイント高いらしいし。

 最初に決めていた方針を転換する用意はあるんだけど、でもそもそも接敵しないんじゃどうしようもなくない、と思う。


「あっ」


 目の前で数字が624位に切り替わったのを見て、私はもうさっさとランキング画面を閉じた。


 高く生えた針葉樹の枝の上を歩いて細くなったら次の枝に移ったりしながら、道の隣を──道の上空を?──進んでいく。がんばって習得した【木渡り】のおかげなのか、さすがに地面とまではいかないけど、現実(リアル)にあるあの車道と歩道の間の小さなブロック、あれの上を歩くくらいには楽な感覚でいられた。枝の揺れが小さくなったのと足が滑らなくなったのと、あとは「どの枝が安定するか」みたいなことが直感で掴めるようになっていて、高所恐怖症でもないし小さな平均台の上にいる見たいな感じだった。


 こんな感じで移動するようになってから、もう二時間くらい私がやっていることに変化がなかった。いくらか歩いたら道の上に伸びる枝先の方へ出ていって前後のモンスターを確認し、いなかったら幹の近くに戻ってまた歩いて、逆にもしもいたら戦闘の準備をする。その反復。

 それを数え切れないくらい繰り返して、もうなんか草のモンスターとか猪とかにポイントの喜びを感じなくなってきた頃だった。

 同じように枝の先っぽに行くと、まず後ろに兎が一匹だけいた。


「いや、まあいいでしょ」


 とうとう見なかったことにしてしまって今度は前の方を見る。そして染みついた癖みたいに「こっちはいない」と言ってから、私はそれが間違っていることに気が付いた。

 ──何か、違うのがいる。

 ギュッと、今までどこも同じようにぼやけていた視界が勢いよく狭まった感じがした。


「プレイヤーだ」


 二人組だった。

 私は向こうから歩いて来るその二人に望遠鏡を向けた──向けようとした。でも震えのあまり樹の幹に寄りかかってでさえ照準が定まらなくて、何回も何回もレンズを覗きなおした。そしてついにブレブレの視野の中に魔法使いと剣士の姿を見とめたとき、私はそれまで滞っていた自分の血の流れがどんどん速くなっていくような感覚を覚えた。

 鼓動が耳の奥で聞こえた。


「準備しないと」


 インベントリを開き、一向に静まらない指先で画面をスクロールしながら必要なものを選ぶ。インベントリの中にはティーポットとか観光ブックとか、容量が大きいのに甘えて好き勝手に詰め込んでいた雑貨が大量に入っていて、こんな面倒をした過去の自分に煩わしさが湧き上がった。


 数十秒で、いるものが大体そろった。私は俊敏上昇のポーションを一つ掴みとって砕き割り、それからもう一瓶をいつでも使えるように腰のベルトに下げた。

 それに短剣も、投擲用のを取り出しておく。


「よし」


 大きく息を吸ってゆっくりと吐いたあと、私は短剣を握った手で自分の両頬を軽く叩き、少しだけ目を瞑った。風が皮膚を撫でるのと二人分の足音が微かに響くのと、その二つの感覚が澄みきって、次に開いた視界もいっそう明瞭になる。その中心に私が狙う二人がいた。

 そして、待ち構える私の目の前で魔法使いが一歩を踏み出した。


「──入った」



先月、一つの目標であった10万PVを達成し、さらに500人もの方々からブックマークを頂くに至りました!

皆様ありがとうございます!


あと、今話はかなり間隔をあけた更新となってしまいましたが次は数日以内に出せる……はずです。

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