ゴーレムの遺跡
お久しぶりです。
およそ一週間近く空いてしまったのでここまでの流れを簡単にまとめておきます。
・ゲームにログイン
・草原オオカミで死にかける
・図書館のクエストをクリア
・アルジーンとリアーナと一緒にダンジョンへ
・【不屈】で危機を突破 ←今ココ!
「ふぅ」
私は肩で息をしながら空気中に散っていくポリゴンを見下ろした。それと同時に爽やかな効果音が鳴ってレベルアップを伝えてくる。ログを見るとスキルや称号もいくつか手に入っていたけど、私はその中でもとりわけ眩しい光を放っている【不屈】を見つめて、達成感で自然と笑った。
「まあ、ギリギリの戦いはしばらくいらないけどね」
私はログ画面を閉じてアルとリアーナさんの元に向かった。
それ以降の道程はうって変わってあっけないものだった。そうというのはリアーナさんとアルが戦闘に参加したからで、いくら私がメインで行動するとはいっても魔法使いを先制して倒せる射手と一閃で数体を屠れる聖騎士がいては、むしろピンチに陥る方が難しかった。
今もまたアルが危なげなく敵を殲滅したところだった。
「さすがだね」
「まあね! このくらいなら全然ダメージも受けたりしないし」
それは私がさっき死にかけていたのを皮肉っているのだろうか。
助けてくれても良かったのにと愚痴を零すとアルは親に叱られた子どものような顔をして言った。
「それは本当にごめん。でも【不屈】は取っておいて欲しかったから⋯⋯」
「まあ確かに優秀だけど」
私は自分のステータス画面を開いてスキルの項目を見つめた。
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スキル【不屈】
必死の一撃に耐えられる者が持つスキル。致死のダメージを受けた時、HPを1だけ残して生き残る。ゲーム内一日で最大二回まで発動する。
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ほとんど全てのゲームで普遍的に実装されているスキルで珍しくもないけど、それは裏を返せばどんなゲームでも有用だと思われているということでもある。実際、絶対に死ぬ攻撃を一回受けられるというだけでも戦略の幅がかなり広がるのは間違いなかった。ざっと富士山の裾野くらい。
私がそう言うと壁際の岩に腰かけていたリアーナさんが小さく笑った。
「ふふっ、それは随分と広いですね。実際に持っている身としてはせいぜい──えっとどのくらいでしょうか?」
「ええー」
「いい例えが分からないですけど、とにかく」
彼女はアルの呆れた反応をふり払って立ち上がると、洞窟の壁に埋め込まれた壊れかけの木の扉に手を付いた。
「とにかく、これの向こうではきっと役に立ちますよ」
──ボス部屋。
私がさっき「うって変わってあっけないものだった」と言ったのも、目の前にこの扉があるからだった。一度死にかけたのも後一歩で攻略となると感慨深い。
二人が武器を手入れし終え、全員でアルが持っていたステータスアイテムを使った後、私たちはHPと防御が一番高いアルを先頭にして扉を開けた。
ゴブリンのリーダーがいるのは当然として、他にどんな敵がいるか──もっと踏みこんで言えば遠距離の敵がどれだけいるか──という心配におそるおそる足を踏み出そうとしたところで、アルが左手で私たちを制止した。
「ここならまだ気づかれてないかな……二人ともよく聞いて。敵はゴブリンの親玉が一体と子分が七匹。うち二匹は魔法使いで一匹は弓使いだと思う。それから──ゴーレムが二体いる」
前にいたリアーナさんが私と同じように首を傾げる。アルの声もいくらか困惑気味だった。それはそうだ。今まで出てきたのはコウモリやゴブリンくらいで、ゴーレムなんて気配すらなかった。
「遺跡、ということでしょうか」
リアーナさんの声が響く。
その言葉にハッとして広間の奥を見やれば、石の玉座に座るゴブリンキングの両脇に二体のゴーレムが控えていて、そのザ・土ゴーレムという見た目の中に僅かばかり歯車らしきものが見えた。
この辺りには機械文明があったのかもしれないと考え始めたところでアルの声が私の考察を霧散させた。
「私がゴーレムたちをやるからルーティはゴブリンをお願い」
「了解」
「リーちゃんはいつも通り遠距離をお願いね」
「分かりました」
「それじゃ、行くよ!」
アルが出した三、二、一の合図で私たちは敵前へと飛び出した。
結果を言えば私たちは容易に勝利することができた。リアーナさんが最初に弓で攻撃してヘイトを取り、その隙にアルがゴーレムの方へと出る。予想に反してキングも前に出てきたけど、私が棍棒のを素早く倒せたのもあってリアーナさんと一緒に対応できていた。ゴブリンキングの体力が残り少なくなってきた頃にはアルのゴーレム戦も終わっていて、最後はその大剣で撃沈。
けれどもそうやってあっという間にボスを倒せたというのに、アルとリアーナさんは何か浮かない顔だった。今は戦闘が終わって静かになった広間をぐるっと一周回っている。ドロップ品を私に任せて、蟻一匹も見逃さないという真剣さで。
そして戻ってきた時には不満げなアルをリアーナさんが苦笑しながら宥めているという状態だった。
「無かったですね」
「ほんとだよ! もう、これでおしまいだと思ったのにさー」
「まあまあ、もう少し戦闘ができると思えばいいじゃないですか──あ、ルーティさん、実はですね」
何があったのかと若干混乱していた私に、リアーナさんがダンジョンの仕組みについて軽く説明してくれた。つまり、魔法陣でダンジョンに入った場合には出る時も魔法陣を使うものらしい。私はここが初めてだったから知らなかったけど、普通はボスを倒したら帰還用の魔法陣が現れるのだそう。
広間を見まわした。ゴブリンキングは倒しているのにそれっぽいものは一つも見当たらない。それはつまり──
「そうっ、まだ攻略が終わっていないんだよ! というわけでこっちに付いてきて!」
そう言われて大人しくアルとリアーナさんの後ろを歩いていくと、ちょうど入り口とは反対側の壁面にまで連れて行かれた。それからアルは何かを探るように岸壁をなぞり、「あった」と呟いてその壁を押した。
「おー」
体が震えるくらいの大きな音を響かせながら目の前に確かにあった壁が横へと移動していき、一つの入り口を作り出した。大きさはちょうど──さっきのゴーレムと同じくらいだろうか。
この時点で私は大体を理解してしまっていた。
「耳を澄ませてみて」
言われた通りその黒い入り口の前に立って耳に手を当ててみる。
すると冷たく鋭い風の音に混じってガシャン、ゴトンというような低くて重い音が何重にも聞こえ、私の背筋に寒気が走った。
「第二ラウンドですかね?」
「それかここからが本番か、だよね」
慣れた様子のアルとリアーナさんの会話がとても奇妙に感じられた。
なお、あと五話前後でイベントに入る予定です。ルーティ覚醒の時も近い……。




