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クエスト【図書館の盗人】4

前の後書きに書いた通り草原オオカミのところの薬草の記述に加筆をしてあります。ほんの一文なので読み直す必要は無いです。



 司書さんの案内で小さい女の子と一緒に司書室へと入った私は、その瞬間に大体の結末を察してしまった。

 あのお爺さんが一人イスに浅く座って頭を垂れていて、その周りを鋭い目をした他の司書さんたちが取り囲んでいた。デスクに当たるほど深く下げられた白髪混じりの頭の横には、さっき「誰かが読んでるのかな」と思ったばかりの「漢和辞典」が置かれていた。


「この人だったかあ」

「本当に、私たちも困惑しているんです。一番信頼していた人だったのに、一体どうしてって。理由も話してくださいませんし」


 同類の直感だけど、多分このお爺さん司書は本をとても大事にしているし、尊敬している。私も盗んで売ってお金にするみたいな話ではないような気がしていた。

 そしててっきり今度はお爺さんが古書を盗んだ理由を調べるのかと思ったのに、正解は思わぬところから──まだまだ小さな口から──もたらされた。


「おじーちゃん!」


 私の手を握って隣に立っていた女の子が、そう叫びながら彼の方へかけ寄って行った。「おねーちゃんもたすかるし、おじーちゃんもよろこぶ?」という先ほどの質問が私の脳裏に浮かんだ。


「ああ、そういうこと」


 とうとう理解した私の目の前で、A4の紙を握りしめながら「ご本よめるひと、見つけたよ!」とタンポポのような笑顔をする彼女を目にして、お爺さんはあごが落ちるくらい驚いて固まっていた。


 あらすじはこうだった。

 お爺さんの可愛い孫娘の一人が珍しい病気を発症。お医者に診せても治し方を知らないということで図書館の本を探していたら古書の中に記述があった。けれども今度は薬の材料と作り方が分からないし、その後も薬草の生えている場所が分からない。それで薬草だけでなく歴史の本や地誌の本から薬草のありかを見つけ出そうとした。

 最初は図書館の中で本を読んでいたというから、それがきっと利用客たちが言っていた「司書さんなら見た」だったのだと思う。

 だけどお孫さんの容体が悪くなってとにかく早く解読しないといけなくなり、古書を家に持ち帰った、と。


「じゃから、本は無傷のままで儂の家にある。売ったりはせんよ。まあ、盗人が言っても詮無いことじゃがの」

「お孫さんは……」


 青年の司書さんが小さく手を挙げておそるおそる質問した。


「薬の作り方は分かった。薬草の場所についての(ページ)も見つけたんじゃ。挿し絵のおかげでの。じゃが、肝心の文章が儂には読めなんだ。昨日はメアリが──孫がとうとう血を吐いてしもうて、それでこの辞書を」


 彼はデスクの上に置かれた分厚い本の表紙を優しく撫でた。

 確かにこれがあれば漢文や読むことができると思う。けれどもそれは短時間でできるというのとは違う。

 私は目の前に現れたハチミツ色のパネルを見て、そこに書かれた Yes のボタンをタップした。


 私は何人かの司書さんたちと一緒にお爺さんの家に上がって、案内されるままにお孫さんの部屋に入った。ベッドには小さな膨らみがあって、ゴホゴホという咳の音が響いている中、彼女の両親と思われる二人が必死の形相になって看病していた。

 ベッドの横のテーブルには十冊くらいの本が置かれていて、お爺さんはその中から一冊を取り出して私に見せてきた。読みます、と言ってそれを受け取る。

 すると視界の端に時計のマークが現れた。ゆっくりと動く針が一周しきったら眠っているこの子はどうなるのか、背筋が寒くなった。


「急がないと」


 私は手元の本に視線を落とした。


 昔者、過城北門外之草野時、行人撃於狼而走、偶見小艸。葉有五尖之星、以之爲医薬、則大病之癒也明焉。蓋、人言是能療神而安也者以之哉。


「えっと⋯⋯街の北の草原を歩いているときに狼に襲われて、葉っぱに星がある? 薬草を見つけて、それが大病にも効く、と。『神』だから⋯⋯精神、かな。でも精神を癒すって何だろう」


 時間は⋯⋯まだ大丈夫そう。

 私は司書さんたちにも尋ねてみた。メタ的だけど、まだヒントらしいヒントを受け取っていないなら何か教えてくれるかもしれないと思ったから。

 そして案の定、その通りだった。


「肉体の逆ですよね? うーん、体力の反対なら魔力かなって思います!」

「あ、それだ」


 魔力を回復する草、それが分かれば「葉っぱに星がある」の意味も察せた。

 私はインベントリを開いて、草原オオカミと戦った時の【植物識別】が希少だと教えてくれた魔力草を取りだした。


「これで薬を」

「あい分かった」


 お爺さんは魔力草を鷲づかみすると急いで部屋を出ていき、五分くらいして戻ってきた時には湯気の立ちのぼるカップを持っていた。

 私は彼がベッドにかけ寄るのを見て、音を立てないようにそっと部屋を出た。数人の司書さんが私に続く。せっかくの再会に部外者は無粋に思われた。

 時計も止まっているし、きっと大丈夫。


 一ヶ月くらい経って偶然にも第一の街の図書館の前を通りかかった折、懐かしい声を聞いてふり向いた私は、その入口近くで子どもたちに絵本の読み聞かせをしている老爺と、その中でも特に熱心に聴いている二人の女の子を見たのだった。



色々とツッコミどころはあると思いますが、これにてクエスト終了です。

次回はクエスト報酬とか。あとそろそろイベントの用意もします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] (’~`*)エエヤン こういうお話好きですわぁ
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