クエスト【図書館の盗人】3
なんと先日ランキング24位に本作がありました!
以前から読んでくださっている方も、新たに読み始めてくださった方も、皆さまありがとうございます。
ひとまず、ここの領主は代々教養深くて本を蒐集していたからこんなド西洋の街の図書館に古文やら漢文やらがあるのだと仮定しておきましょう。
あと、文章中の漢文は私のオリジナルで盗作とか剽窃ではないのでご安心ください。
そして【図書館の盗人】はあと一話だけ続くこととなりました……長くなってしまってすみません。
翌日。
これまで通りに高校に行き、部活を終えて帰ってきて、夕餉を家族と取ったりした後の午後八時ごろ。
私はゲーム内で図書館が閉まってしまう前にと、今日の課題を後回しにしてゲームにログインしていた。閉館後にログアウトしても現実では十時くらいだし、何より明日は土曜日。
時間はかなりある。
真昼の太陽の下、私はもうとっくに見慣れてしまった真っ白い図書館に入る。
「ルーティさん、こんにちは!」
「こんにちは」
それから私が彼女に何を言わせる間もなく昨晩気になったことを尋ねると、彼女は「私たち司書には司書専用の出入り口があるんです!」と言って私を司書室の中へと案内してくれた。
確かに部屋の隅には人が二人並べるくらいの幅の木製扉が設置されていて、ささくれが目立っていたりドアノブのネジが緩んでいたりと、かなりの使いこみ具合だった。
そして私がこの扉の管理者──つまりは扉の鍵の持ち主で、この司書室全体の管理者──が誰なのかを聞くと、彼女から告げられたのはあの最年長のお爺さん司書の名前だった。
そうするとこの部屋の施錠なんかについては彼に聞けば良いということか。
私はあの立派な髭をたくわえた姿を探して司書室の中を見わたし、ここにはいないことに気が付いた。
「彼は今日はお休みで?」
「そうしたら司書室も図書館も開いてませんよ! でもそういえばお見かけしていないですね。朝は確かにいらっしゃったのに……」
彼女の反応からも何となく彼が重要そうであることが察せられて、私は彼が現れたらすぐに私を呼んでくれるようお願いした。
「任せてください! それで、ルーティさんのことはどこに呼びに行けばいいんですか?」
「いつも通り、古書の棚に」
クエストと違って陰陽師についての情報収集は未だに進む兆しが見えていないし、とりわけ「陰陽師になる方法」に限れば情報はゼロと言ってもいいくらいで、今は少しずつでも古書を読み進めていく必要があった。
けれども、そうは問屋が卸さなかった。昨日と同じように古書の棚に向かったところで私はそこにいた一人の利用客に声をかけられた。どうやら私が探していた「不審な人物」を見かけたらしい。
「不審者、と言うのは憚られる感じなんだが、伝えといた方が良いと思ってな。こっちだ」
高く林立する本棚の合間をぬって彼の後ろをついて行くと、そこには確かに昨日まではいなかった不審な人物がいた。
「とどか、ないっ!」
本棚の陰に隠れて様子を窺っている私たちの目の前で、五、六歳くらいの小さな女の子が高いところの本に手を伸ばしていた。もしかしたらこれまでの行動のどれかが【図書館の盗人】の正解を踏んでいて、それで状況が変化したのかもしれない。
「あそこは辞書の棚だからな。あんなちっこい嬢ちゃんが頑張って読もうとするもんでもねえだろう」
「まあそうですね。話を聞いてみます。教えてくださってありがとうございました」
元いたところへ戻っていく男性に礼を言ってから、私は本棚の陰を出て今も必死に背伸びをしている幼女に声をかけた。
「こんにちは。どうかした?」
「うぇっ!? あ、えっと……」
彼女が私の方をふり向いて驚きの声を上げる。
私はなるべく優しい笑顔を心がけながら「探してる本があるの?」と聞いた。そうするとしばらく辺りをキョロキョロ見わたして焦っている感じだった彼女は、ペシっと自分の頬を叩いて洋服のポケットから一つの紙片を取り出した。
「あのね、これがよめなくてね、よむためのご本をさがしてたの!」
そう言いながら彼女は折りたたまれていた紙を開いていき、最終的にA4くらいの大きさになったそこには私のよく知る「漢文」が書かれていた。
本棚を見ると、いわゆる「漢和辞典」のような本は誰かがどこかで読んでいるのか場所が空いていて、残念ながら彼女が欲しがっている本はなさそうだった。
そう伝えてガッカリした彼女に私は「もしかして」と思って聞いてみた。
「これ読めるけど、読んであげようか」
「ほんと!?」
「うん。『昔者、過城北門外之草野時』だから『むかし、街の北の草原を通り過ぎた時』って書いてあるよ」
「ほんとによめるんだね!」
喜びとも安心とも取れる彼女の表情に、どうして小さい子がこんなメモを持っているんだろうと不思議に思ったところで、全く予想もしていなかった言葉が彼女の口から飛び出した。
「じゃあさじゃあさ、これでおねーちゃんもたすかるし、おじーちゃんもよろこぶ?」
「うん……え?」
頭がフリーズする。本が読めると助かる……特殊な種族か何かとも思えないけど。
全く理解できずに自分でも微妙な顔をしているなと思い始めたころ、今度は「ルーティさん!」と私を呼ぶ声が聞こえてきた。とても司書さんが図書館で出すとは思えない大声で。
彼女はとうとう私を見つけると、肩で息をしながらかけ寄って来て私の腕を引っ張った。
「いた! ルーティさん、早く来てください」
「えっと今この子が」
「誰が一緒でもいいですから! 一大事なんです!」
私はA4の紙を持った幼女と顔を見合わせて、一体何だろうねとお互いに首を傾げた。
後出しで申し訳ないのですが、この話に対応して、すでに掲載済みの話(特に主人公が薬草と草原ウサギを取りに行くところ)を少し改変するかもしれません。




