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クエスト【図書館の盗人】2

作中出てくる「藍奈」は「ニィナ(鎌を使っていた彼女です)」のリアルネームです。

おそらく誰の記憶にも残っていないと思うので補足。



 私を案内してくれた彼女から話を聞いた後、私は他の司書さんたちにも盗まれた本についていろいろと質問をした。

 しかし分かったのは「ほとんど何も分からない」ということくらいで、本の中身に言及してくれたのは最高齢の司書さんだけだった。好好爺という感じの彼から聞いた限りでは、薬草に関する本二冊のうち片方は調薬を主としたもので、地誌の本二冊は一方が広範囲の、他方がおそらく特定の地域のもの、そして歴史の本は地方の伝承をまとめた本らしかった。

 これに対して、他の司書さんは本についてはさっぱりという感じだった。


「どれもかなり前の本ですな。読む人はまずおりますまい。儂も内容は存じません」


 とは、お爺さん司書に次いで高齢の人の言だった。


 図書館が完全に閉ざされる時間も近づいてきて、私は依頼主の司書さんに連れられて外へと出た。


「ルーティさん、どんな感じですか? 犯人分かりそうですか?」

「いや、まだとても」


 いくら何でも本の内容だけで突き止めるのは無理がある。私がそう言うと彼女は「そうですか……」と肩を落とした。


「まあ、明日は図書館に来る人にも話を聞いて見るつもりなので」

「あ! そうしたら新しい情報も手に入るかもしれませんね」

「はい。それを狙って」


 古書の棚を利用する人はほとんどいないだろうけど、でもその分不審な人物は目立つし、記憶されやすい。もし誰かが怪しい人を見かけていたらそれはきっと大きな情報になるに違いない。

 彼女が「司書として図書館の最後の見回りの仕事がありますから!」と言って図書館へと戻っていく。


「今から一旦ログアウトして……えっと三倍だから……夕餉の後、かな? その辺りでログインしたら開館時間のはず」


 指を折って怪しい計算をしている私の背後で図書館の扉が閉まる音がした。


 高校の課題と明日の予習を済ませて、早めにお風呂に入って、藍奈と家族と夕餉を食べ終わった後の夜七時ごろに少し緊張しながらログインすると、ゲーム内ではおよそ午前九時──ちょうど図書館が開くくらいの時間──だった。

 

「よし、計算も合ってたし、頑張ろう」


 宿を出て市場の誘惑に抗いながら図書館へと向かうと、そこはもう開館されて利用客っぽい人々が出入りしていた。

 私も早速中に入って古書のコーナーへと向かう。


「せっかくだし本を読みながらにしようっと」


 そもそもここには陰陽師に関する情報収集のために来たんだから、それと並行して【図書館の盗人】を進めても罰は当たらないはず。

 そうして私は本を片手に古書コーナーをグルグルと巡り続けて、ごくたまに人に遭遇する度に最近怪しい人物を見かけなかったかどうか尋ねた。

 その結果は昼を過ぎても現れなかった。


「全っ然出てこない。驚くくらい出てこない。誰も彼も司書さんしか見かけてない。何なのこれ」

「ルーティさん……」


 司書室の飲食ができるスペースでビスケットをダラダラ口に運んでいる私を、依頼主でもある彼女が背中をさすって慰めてくれる。「本についてもあんまり分かりませんもんね」と言って彼女は昨日のリスト用紙をピラピラと振った。

 それが視界に入って一つのことに思い至る。


「そういえば、古書じゃなくて一般図書の盗難は」

「そっちは把握してませんし、多分できないと思います。一般図書は貸し出し可になってるので」

「うーん」


 私は頭を抱えた。

 聞いてみると、一般図書についてはもう印刷発行されていて比較的安価だから、ということらしかった。私が予想していたよりも技術が進んでいて驚いたけど、今この状況では全く嬉しくない。


「そうなると盗んだ理由を考えるのも難しいか」


 たった五冊の、しかも内容もあやふやなものからではとても推定できない。私は早速行き詰まってしまっていた。


 その後も古書コーナーを巡回したが特に有用な情報は得られず、しかもそっちが気になるばかりに私自身が読んでいた本の内容も全然頭に入ってこなくて、閉館の鐘が鳴る頃には私はすっかり疲弊して心が黙って静かになってしまっていた。

 成果のないまま図書館の外に出ると、夕方の涼しい風に首元を吹き抜けられて私は少し身震いした。


「お疲れさまでした、ルーティさん!」


 彼女は私の隣を歩いて図書館前の階段の下まで来ると、私に向き直って無邪気で綺麗な笑顔でそう言った。

 彼女の元気な声が心に沁みた。


「いえ、解決できなくてすみません」

「まさか、とんでもないです! 私たちだけじゃ日常業務に追われて本当に何もできなかったので、調査していただけてとても助かってます。どこかにヒントはあるはずですし、頑張りましょう! 私も仕事の合間をぬって取り組みます!」


 そう言うと彼女は今日も図書館に戻っていく。それを見届けてしばらくぼうっと立っていると、階段下の私の見上げる先でパルテノン神殿似の図書館がゆっくりとその扉を閉めていった。


「宿に戻ってログアウトしよう。明日も学校だし」


 そう決めて宿へと続く道の方へふり向いた私の視界に、今ちょうど閉店したらしい雑貨屋の店主が店の裏口から外に出て戸締りをしているのが映った。


「あれ?」


 私はもう一度だけ図書館の方をふり返った。

 ふと思ったのは、昨日もそうだったけれど正面の扉を閉めた後で司書さんたちはどこから出ているんだろうか、ということだった。



このクエストは発生条件こそ厳しいですが内容は難しくないです。

中身を難しくするだけの執筆能力が私にはありませんから……。

ミステリーを書ける人、改めて尊敬します。

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