日常の勉強
一筋の明かりもない、完全な闇。
おかしい、前回は少なくとも色が存在したのに今回は完全に黒一色だ。
病棟に戻ってベッドに腰かけ、アリスは健診で呼ばれて居ないから記憶の整理をと瞑想状態に入ったの良いのだが、雰囲気がいつもと違う。
「ミラ?」
返事はない。
身体の調整で手が離せないのかとも思ったが、僅かな気配も感じない、そもそも居ないようだ。
まぁやることは変わらないか。
少量の混沌の欠片を手に取る。
急いで取り戻すべき記憶、思い出さなければならないことは何だろうか。
アリスとの物語記憶は前回の時点である程度復元できた。
まるで目を通していない映画の記録媒体が棚を飾るように、復元しただけで詳細を確認していない部分は多いが。
なら次は常識か?
前回一緒の引き出せた記憶はこの国についての情報が多少という程度。
これで生活していくのは無理だ、常識を優先しよう。
貨幣……通貨は仮想管理か、しかも複数種混在とは面倒な。
その道の職務でどれだけ働いたかを証明し、その証明と引き換えにその道の道具が買えるというのは、素人に市場を荒らさせない対策だろうか。
教育……国民の全てが基礎教育を受けられる、というより基礎教育が終わって初めて国民か。
生活の、国の豊かさを受け取るのにはこの程度は必要なのか、ただ生きていくのに必要以上の知識がいるようだ。
宗教……はこの国にはないな、教会は一応ある様だが宣教師の類は居ない様だ。
神の言葉を語るな、神に許しを請うな、だが神の存在は忘れるな、か。
武術はかなりやっていたようだ、身体の動かし方が変わってしまっているから完全に再現はできないだろうが打撃武器を振り回すだけならすぐにできそうだ。
む、上級武術科単位?取得はまだの様だが受講自体はしているようだな、講義についていけるのだろうか。
魔術……総合に結界が既に上級単位取得済みか、道理であれこれと魔術で対応できると思った。
おまけに上級属性単位が受講中か、取得していないという事は記憶を漁っても正確な知識は出てこないだろうな。
職業は、軍属か研究者か労働者で国が管理していて。
軍属は上官から、研究者は研究室か都市の行政から仕事が依頼される形で振られ、労働者だけは行政から仕事を貰うと。
民間営業は一切無い?この国の政治形態の片翼は民主主義だった筈だが、国民が国を運営するから国営は民営と同義とかいう屁理屈だろうか。
政治……投票権も参政権も中証以上に限るのか、二重政治のもう片翼は王政……国家規模の巨大企業と、理事会?少し違うか、必要な時にだけ介入する、王政の下の民主政治か。
民政の首相の任期が一期十年とは長いな、老人には辛いだろうというか老人を政治にしがみつかせないための十年だろうな。
気候は……一年通して少々寒く、魔素が濃いと。
魔素が濃ければ野生動物の魔獣化、魔素から直接沸く魔物の発生と害獣問題は深刻そうだが、あー軍部の仕事に入ってるし被害もほぼ無く対処できているな。
細かい情報が微妙に出てこないのはそもそも記憶していないからな気がするな、あと復元しておく情報はなにがあるか……
アルテーヌの首都はメルキナ、首都を中心に正三角の頂点に配置された衛星都市、今いる都市はベヘ、残り二つがレヴとジズ。
各都市間には鉄道が既に整備済み、衛星都市は三十年毎に水道や魔線、道路と建造物の整備のために全て更地に戻して都市丸ごと再建設している。
工期が更地に戻して再建設終了まで通してだいたい五年程、個人家屋も全て国からの貸与扱いだからできる力業だな。
工期中の五年は都市外に仮設住居を建てて、工期が終わったらそれも全部壊す、と、壊すのが好きな国だな。
む?一人暮らし禁止法?
あぁなるほど、研究者の多いこの国の一人暮らしの死亡率が危惧されてか。
あと家庭単位で二つ以上というのも家庭単位での問題から事件や事故に発展するのを防止する目的だな。
家に使用人がいるのは個人家屋なら当然であり、家が特別な訳ではないのは安心した。
この国がある大陸は……西は連合で友好国ばかりか、東には非友好国の大国が一国だけあってその所為で外交が滞っているのか。
人間至上主義の宗教国家か、非友好というか完全に敵国だな、仮想すらつける気にならんだろう。
そういうこの国は人種比率上、純凡人族が一割も居ないな、それでも凡人族が一番多いだろうが。
混血の半々や四分の一なんか当たり前にまで進んでるから、種族呼称で大いに揉めて既に諦められている。
半森人半凡人族辺りの半凡人の呼称は昔のまま踏襲されているが、その半々の呼称の段階の殆どの型で呼称が決まらなかったと言われている。
森人族と鉱人族から半森人半鉱人族を『裏切者』と言い出し始めた辺りで呼称論争は強制的に終了となり、基本的には見た目で何族に見えるかを種族として登録することになったらしい。
この国に住んでいる種族は……多いな。
獣人族と一括りに呼ぶことも多いが、犬猫狐狸猪を中心とした人に動物を足して割った様な種族だ。
アリスは、狼人族に近くなっているが狼人凡人族だった筈だ。
爬虫類に人を足して割った様な種族は竜人族と一括りに呼ぶことが多い。
こちらは蛇や蜥蜴が多いだろう、本物の竜人族も少数居る。
虫と人を足して割った様な種も一応極少数だけ居る、蜘蛛と蟻しか住んではいないらしいが。
他に妖精族も細分化しだせば色々出てくるらしいし、巨人族は住んでいないがその混血なら居るらしい。
元々凡人族が圧倒的に多かったというのにこれだけ他種族がいるのだ、半凡人呼びで良かった時代など一瞬だっただろう。
多種族共生のその先に至っているこの国と、人類至上主義の国の関係は水と油というべきだろう。




