表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生うさぎは異世界でお月見する  作者: 白黒兎
第四章 居場所
80/106

69話 転生うさぎと通信の魔術具作成

 聖人と魔人(神獣)の会談を終えた次の日。さっそく昨日の話題にもなった人族側の協力者との連絡手段の解決をするためにあるものを作ろうと思います。



 クーリアさんを呼んで、まずは通信の魔術具について話を聞いてみます。別にわたしの考えるものでなくてもいいわけですからね。既に存在していて作れそうなものならばそれでもいいのです。



「通信の魔術具ですか?あぁ、昨日言っていた件ですね。無いことはないですよ。まず、各ギルドの主要都市にある共筆の石板と呼ばれるアーティファクト。それと、比較的一般的なものが遺跡で見つかる古代の魔術具の通信機で、一定範囲内で同じ魔術具を持っている人に声を届けるものですね」


「・・・まだこの時代では作っていないのですね」


「悔しいですが、まだ作れません」


「・・・なるほど、遠隔での連絡をとるためには、やはり作るしかありませんか」



 わたしがポツリと呟くと、クーリアさんがやっぱり作るんですねと溜息を吐きます。無いなら作るしかないでしょう?当然のことではないですか。



「それで、どう作るのでしょう?私を呼んだということは製作を手伝えばいいのでしょう?」


「・・・魔術具の知識については、クーリアさんはわたし達の中でもダントツですからね。期待していますよ」


「ふふん!任せてください!」



 期待していると言うとクーリアさんはドヤっとした顔でわたしよりちょっと大きい、いえ、同じくらいの胸を張ります。同じくらいですよ。ええ。



 それでは期待して、わたしの考えた通信の魔術具について説明しましょうか。きっとわたしだけで作るよりも良い出来になるはずです。



「・・・では、〈思念伝達〉でわたしの考えた構想を伝えますね」



 しばらく考え込むように目を伏せていたクーリアさんですが、わたしが通信を終えると、とてもキラキラした目でぐっと身を乗り出しました。今は金色になった瞳がとても生き生きとしています。やっぱりクーリアさんはクーリアさんですね。魔法と言えばクーリアさん。魔術具と言えばクーリアさんです。ただの魔法オタクとも言います。



 そんなとても生き生きしているクーリアさんにわたしは問いかけます。



「・・・どうです?出来そうですか?」


「ラインや魔法陣の生成はかなり難しそうなので、慣れている私がやりましょう。しかし、材料が厄介ですね。これだけ繊細な魔法陣で問題無く効果を発揮させるならば、オリハルコンでもなければちょっと難しいかもしれません」


「・・・オリハルコンならばなんとか出来ると思います。小型化は出来そうですか?収納魔法や収納の魔術具で持ち運ぶとはいえ、出来れば小さい方が良いですからね」


「う~ん、確かにそうですね。ちょっと時間をください。いろいろと考えてみます。その間にトワちゃんはオリハルコンを調達してきてください。そうですね・・・。試作も入れるとインゴットで五つは欲しいです。可能ならで良いので」


「・・・大丈夫ですよ。では、ちょっと行って来ますね」



 オリハルコンと言えばそう、フェニさんの領域ですね。とりあえず手持ちにあるインゴット一個を提供してクーリアさんに研究と制作を任せます。わたしは原案を作って提案したので、制作以外でやれることは材料の調達だけでしょう。



 というわけで、弥生とスライムちゃんを連れて炎熱の領域に転移しました。弥生を連れてきたのは弥生に馴染みがある領域だからです。こういうことでもないと、中々自分から他の領域に行きませんからね。他の皆さんは最近しょっちゅうわたしの領域に来ますけど。ケイルさんとかあまり外に出ない人だと聞いたんですけどね。



 転移が終わるとすぐに赤い鳥がパタパタとやってきました。わたし達の目の前に降り立った炎鳥は地面に降りるのと同時に人の姿になります。フェニさんによく似た容姿の少女がわたしと弥生を見て目を丸くしました。フェニさんの眷族のフレイさんですね。



「あれれ。誰かと思ったら弥生とその主ではないですか。こんちわーっです」


「フレイさん、この間振りですね」


「・・・そういえば、弥生はついこの間までここで特訓していましたね」


「むふー。訓練が足りなかった?またあたしが相手してあげようか?」


「それはまた後程お願いします。今日は主の用事に付き添っただけですので」


「ありゃ残念。今、あたしの主は外出中なんですけど、呼び戻しましょうか?トワ様が来たと言ったらすぐに戻ってくると思いますよ?」



 弥生とフレイさんの会話を聞いている限り、仲はとても良いみたいですね。フレイさんの言葉もいつも以上に砕けていますし、弥生も表情が柔らかいです。でもフレイさんは元々こんな感じの口調だったような気もしますね。



 フェニさんは外出中とのことですが、恐らく例の調査に出ているのでしょうね。近場の獣王国にあるのは見に行けないので、代わりにちょっと遠くの場所を調べてもらっています。



「・・・いえ、邪魔はしたくないので連絡は結構です。・・・あ、でも、オリハルコンを採りに来たのですが、許可が必要ですかね?」


「オリハルコンですか?う~ん、トワ様だったら大丈夫だと思うけど、一応確認だけしてみますね」



 そう言うと、フレイさんはちょっと視線を上に向けてぼーっと空を眺め始めます。今更ですが、〈思念伝達〉しているところを余所から見るとただの怪しい奴かとてもぼーっとしている人ですね。



 なんて考えていたら、フェニさんから〈思念伝達〉が来ました。わたしの方からも繋げて会話が出来るようにします。頭の中でいつもの凛としたフェニさんの声が響きました。



(トワ?今私の領域に居るの?オリハルコンが欲しいって聞いたけれど)


(・・・ええ、まぁ、例の通信の魔術具を作ろうかと思いまして。少しだけ採っていっても良いですか?)


(どうせ使いきれないほどあるから構わないわよ。トワならば好きに持っていっていいわ)



 使いきれないほどあるのですか、なんて羨ましいのでしょう。



(トワの領域の魔力は特殊だから、オリハルコンとかの魔力を吸収する鉱物を魔力の集まる場所に置いておくと変異して新しい金属が出来るかもね。ちょっと多めに持っていって実験してみなさいな。結果が出るのは恐らく早くても数年後だと思うけれど)



 なんて良い情報なのでしょう!さすがフェニさん、わたしの天使ですね。鳥ですけど。



(・・・そういうことなら遠慮なく貰っていきますね。・・・調査の方は順調ですか?)


(ええ。といっても、まだ目的地に着くまで少し時間が掛かるけどね。もう少し領域に居ればトワに会えたのに。ちょっと残念だわ)



 フェニさんがくすりと笑います。本当に普通の良い人ですよね。他の神獣が、というよりリルさんとオロチさんが自由すぎる性格のせいで余計にフェニさんがまともに見えます。いえ、わたしの出会った人の中でもかなりまともな分類の人であることに間違いないですけど。



(・・・それでは、また今度近いうちにお茶会をしましょうか)


(ええ、そうしましょう)



 お茶会の約束をしてフェニさんとの通信を終えると、弥生が微笑ましそうにわたしを見ているのに気付きました。なんですかと首を傾げると、弥生は優しい笑顔を浮かべて口を開きました。



「いえ、主様が嬉しそうで私も嬉しいだけですよ」


「え?どこに嬉しそうなところがあったの?あたしにはいつも同じ表情にしか見えないんだけど?」



 わたしもフレイさんに同意見です。わたしに親しい人はわたしのどこを見て感情を理解しているのでしょうか?とても気になります。



 肩に乗っているスライムちゃんも嬉しそうにわたしの頬をスリスリしてきます。ひんやりとして気持ちいいですね。この領域ではとてもありがたいです。



 すると、フレイさんがスライムちゃんの存在に気付いたようで、例の怪しい目付きになってスライムちゃんを凝視します。



「・・・フレイさん?スライムちゃんは渡しませんよ」


「ぐぬぬ!なんでトワ様の領域にはそんなにかわいくて面白そうなものが多いのですか!ちょっとくらい分けてくださいよ!」


「・・・そういうのはフェニさんに言ってください」


「やです。だって怒られるもん」



 もんって・・・まぁ、わたしは優しいですからね。後でそれとなくフェニさんに言ってあげましょう。フェニさんがそれを聞いてどうするかまでは責任を持ちませんけど。



「それじゃ、主から指示もありましたし、あたしがオリハルコンの鉱脈まで案内しますね。根こそぎ採られるとさすがに困るので、ある程度自重して貰えると助かります。ま、根こそぎ採られても数年ぐらいしたらまた貯まるんだけど」



 オリハルコンって魔物か何かなのですかね?そのうちオリハルコン自体が勝手に動き出しそうですね。



「あ、どうせならオリハルコンゴーレム倒して貰えます?あいつ硬いししぶといし倒すの面倒なんだよね。もちろん純正のオリハルコンだから丸ごと持ち帰って良いですよ」


「・・・」



 もう勝手に動いてましたね、オリハルコン。怖いです。



 フェニさんから許可も貰い、オリハルコンゴーレムの巣食う洞窟までやってきました。洞窟ですか。崩れると面倒なので派手な攻撃が出来ませんね。



 そして入り口から歩いて数分で出会いました。ホントに体全部がオリハルコンですよ。虹色の魔力で輝いていますね。ゴーレムのくせに無駄に綺麗です。体のフォルムも、イメージしていた丸くてのべっとしたものでは無くて、カクカクとしていてロボットみたいでカッコいいですね。このまま飾って置きたいくらいです。



 全長は三メートル超くらいですかね。この洞窟、意外と天井が高いのでゴーレムの頭がぶつかるというシュールな光景は見れません。



 それにしても、ゴーレムですか。一見生命体とは到底思えない姿ですが、体が人間や動物の体でないだけで、魔物と基本的な構造は同じなのですよね。心臓部の核から魔力を体(鉱物)に通して動いているだけです。便利なところは、鉱物自体が空気中の魔力を勝手に取り込んでくれるので食事の必要が無い事でしょうか。



 ゴーレムを倒す方法は単純明快、体のどこかにある核を破壊することです。ゴーレムの核は魔力の供給だけでなく、人で言う脳に当たる役割も担っているのでこれを破壊するだけで全ての行動を停止します。っと、言うのは簡単ですが、ゴーレムに関しては核の場所が決まった場所に無く、体の鉱物の性能が良いほどダメージを与えるのが難しくなるので、オリハルコンゴーレムならばそれがどれだけ困難だかご理解いただけるでしょうか?



「・・・ちなみに、参考までに聞きたいのですが、フレイさんはどうやって討伐しているのです?」


「あたしは、一度ゴーレムを洞窟の外までおびき出してから、対オリハルコンゴーレム用に作った貫通力に特化した魔法でひたすら当てずっぽうに核に当たることを祈って乱射してます」


「・・・オリハルコンを貫通させるほどの魔法となると、確かに洞窟内では使えませんね」



 オリハルコンは物理的な防御力もこの世界屈指の硬さですが、対魔法防御も同じく世界屈指の防御力を持っています。加えて、魔力を通すことで更にその防御性が増すのですから、生半可な魔法や物理攻撃では傷すら付きません。



「・・・その魔法も見てみたいですけど・・・。ちなみに弥生ならどうします?」



 わたしの質問に弥生はとても困ったような顔をして考え込みます。弥生の魔法スキルではまだこのゴーレムに傷を付けるほどの魔法は使えません。わたしが意地悪な質問をしたかもとちらりと弥生を見ると、ちょうど考え込んでいた弥生と目が合いました。



「今の私では普通の魔法で討伐するのは不可能でしょう。重力魔法を上手く使えばあるいは・・・と考えますが、私には思い付きません」



 良い着眼点です。確かに重力魔法ならば、とても基礎的で簡単な加重の魔法を使うだけで凶悪な攻撃をすることが出来ます。例えば、その辺のオリハルコン鉱石を上から落とすように投げると同時に加重をかけてやればそれだけで高威力の攻撃が出来ます。ただ、弥生のイメージ力では凶悪なまでの加重が出来ないようなので、更にいろいろと工夫する必要がありそうですけどね。



――重力魔法を使って倒すのも良いですが、今回はもっと楽にやりましょうか。



 そもそも、オリハルコンは金属です。金属の体だからこそ出来るとても簡単な討伐方法があります。ですが、この世界の人には難しいかもしれないですね。



「・・・今日はわたしが個人的に素材を採りに来ましたし、わたしがさくっとやりますのでそこで見ててください」


「さくっとって、主でも倒すのに時間かかるんですよ?そんなあっさりとなんて無理ですよ」



 フレイさんが無理無理と右手をひらひらとさせるのを無視して、オリハルコンゴーレムにてくてくと近付いていきます。ある程度近づくと、オリハルコンゴーレムの感知内に入ったからか、わたしの方にその虹色に光るボディを向けてどしんどしんと近付いてきます。



 そして、オリハルコンゴーレムの攻撃射程に入り、オリハルコンゴーレムが大きく手を振りかぶってわたしにパンチをしてきました。単純ながらもそこそこの速さで繰り出された拳を〈柔術〉で受け流すようにして受け止め、今まであまり機会が無くて使わなかった魔法を使います。



 バチバチバチっと火花が散ったかと思うと、オリハルコンゴーレムは拳をわたしに受け止められた状態で制止します。わたしが拳を放すと、前側に体勢が偏っていたためかこちらに倒れてきます。潰されたく無いので倒れる前に収納に投げ込みます。



「・・・思った以上に効きましたね。これだけでも目標量はあると思いますが、もう何体か頂きましょうか。・・・どうしたのです?」



 妙に静かだなと思い振り向くと、フレイさんが唖然とした様子で固まっているのと、弥生が熱っぽい視線をしながら「さすが主様」と呟いている姿が見えます。



 弥生はいつも通りなので放っておくとして、呆然としているフレイさんはそのままにしておくわけにはいかないので、近付いて目の前で手のひらをひらひらとさせます。すると我に返ったようにはっとして、わたしのことをまるで珍妙なものもを見るような目で見てきました。



「何やったの?何あの魔法?主がちょくちょくトワ様のことを変だと言っていた理由が今正確に理解出来た気がします」



――大概失礼ですよね。この主従。



「・・・説明をしても良いですが、詳しいことは解らないと思うので、使った魔法だけ教えましょう。簡単ですよ。雷です」


「か、雷?」



 正確に言うと電気ですが、魔法が発達していて科学があまり進歩していないこの世界でそのような話をしても時間の無駄でしょう。



 わたしのやったことはゴーレムに高圧の電気を流し込み、体内にある核を破壊したのです。オリハルコンも金属ですからね。魔法としての防御力があったとしても、電気を流されればオリハルコン自体に傷は付けられなくても、中に電気を流すことは出来るのではないかと考えただけです。結果は大成功ですね。ちなみにもし失敗したら、大人しく〈全知の瞳〉で核の場所を見付けてその場所に重力魔法を使った投げ槍を打ち込む予定でした。



 これまた意外なのですが、この世界に雷魔法というものは存在しません。気象としての雷はもちろん存在しますが、馴染みの薄い雷をイメージして魔法を使うというのが困難だったからこそ存在しなかったのだと推測しています。そうそう、ケイルさんの頭を打ち抜いたレールガンも電気を使った攻撃ですよ。ある意味魔法っぽい攻撃でしたので、あの時はフェニさんとケイルさんも変わった魔法ぐらいにしか思わなかったのでしょう。



「雷、雷ねぇ・・・。どうやって使うのよ。主に聞いたら分かるかなぁ?」


「・・・とりあえず、先に進みましょう。さっきも言いましたが、もう何体か欲しいので」


「雷すら操るとは、さすが主様です」



 ぶつぶつと呟くフレイさんに先に進むよう促します。弥生は平常運転なので無視です。相手しても「さすが主様」としか言わないことはこれまでの暮らしでわかっていますから。



 電気が通じることが分かったので、洞窟の奥に居たオリハルコンゴーレムを三体ほどバチバチっと倒して収納に仕舞います。オリハルコンが大量でウハウハです。思わず小躍りしたくなりますね。しませんけど。



 しかし、洞窟奥はオリハルコンの鉱石があちこちにあってとても綺麗です。本当ならば洞窟の中なので暗いはずなのですが、魔力に満ちた領域内でかつオリハルコンがその魔力を吸っているからか、オリハルコンが発する虹色の輝きが洞窟内を明るく照らしています。



「・・・これぐらいにしましょうか。今日は案内してくれてありがとうございます」


「あーいや~。むしろ面倒なオリハルコンゴーレムを倒してくれてこちらこそ感謝というか。本当はオリハルコンゴーレムを避けながら洞窟内にある鉱石を持って行ってもらう予定だったんですけどね・・・」



 あら、そうだったのですか。でも、ゴーレム倒す方が沢山素材が手に入って、しかも含有魔力も豊富なので良いと思いますけど。あ、倒すのが非常に面倒くさいのでしたね。わたしはバチッと倒せるので忘れていました。



 その場で転移しても良かったのですが、一度洞窟から出て改めてフレイさんにお礼を言います。月の領域に帰る前に一応弥生に確認しておきましょうか。



「・・・弥生、ブレイズさんに挨拶していきますか?」


「いえ、主様ももうお帰りになるでしたら特に必要無いかと」



 間をおかずに帰された返答にフレイさんが思わず苦笑します。わたしとしては別にどうでもいいので、弥生の意見を尊重しましょう。



「・・・では、わたし達はこれで。フェニさんによろしく言っておいてください」


「はーい。承りました。またいつでも遊びに来てくださいねっ!」



 フレイさんがフェニさんによく似た顔でウィンクするのを見てから、わたし達は転移で月の領域に帰りました。



 月の領域に帰るとすぐに弥生は昼食を作りに家へと向かいます。オリハルコンを採っている間に良い時間になってしまいましたからね。わたしは作業をしているだろうクーリアさんの下へと向かいます。



 当初わたしの作った家は弥生達とわたしが暮らすのを前提で作ってあるので、クーリアさん用の部屋は作っていないのですよね。まさか眷族が増えるとはあの当時思ってもいませんでしたし。なので、今はプリシラさんと同じ教会で寝泊まりしてもらっています。だからなのか、朝別れる時には家に居たはずなのに、今はクーリアさんは教会に居るようです。



 わたしが教会に辿り着き入り口のドアを開けると、クーリアさんが何やら虹色に輝く両手で収まるぐらいの水晶玉を持ってそれに向かってぶつぶつと呟いているのが見えました。



「・・・クーリアさん?まさかもう出来たのですか?」


「わっ!あ、トワちゃんですか。驚かせないでくださいよ。出来たというか、これではまだ距離的な限界があるので使いものにはなりません。魔力も馬鹿みたいに使いますし」


「・・・それでも形にはしたのですね」


「ええ、まぁ、ここからいろいろと詰めていくところですよ。あ、プリシラさん、協力ありがとうございました」


「いえいえ。あら、トワ様。こんにちわ」


「・・・こんにちわ、プリシラさん」



 プリシラが協会の奥からクーリアさんと同じ水晶玉を持ってやってきました。よく見ると、オリハルコンは中央にある丸い部分だけみたいで、その周囲をミスリルで覆っている二重構造のようですね。その水晶玉には魔法陣が沢山描かれていて、もはやそういう紋様のようになっていました。



「・・・ところで、オリハルコン持って来ましたよ」


「え!?もうですか!?ありがたいですが、そんな貴重品よくそんなすぐに手に入りましたね」


「・・・ここで出すとちょっと手狭になるので外に出ましょうか」


「手狭?オリハルコンですよね?」



 首をひねりながらもわたしの後ろについて歩くクーリアさんと、柔和な笑みを浮かべているプリシラさんと共に教会前まで移動すると、わたしは収納に仕舞ってあるオリハルコンゴーレムを四体その場に並べました。



――こうしてみると一体一体フォルムが微妙に違うのですね。無駄にかっこいいですね。



 並んでいる無駄にかっこいいオリハルコンゴーレムを見てクーリアさんが口を大きく開けて固まってしまいました。プリシラさんはなんて綺麗なのでしょう。と、とても平和な感想をこぼしていました。



 ふと我に返ったクーリアさんがゴーレムの一体の足元まで近付くと、トントンとノックをするように小突き始めます。



「完全なオリハルコン製のゴーレムなんて初めて見ました。よくこんなの倒せましたね。しかも原型がそのまま残っていますし。これだけあれば十分過ぎるくらいの量です」



 どうやら驚きが一周回って冷静になってしまったようですね。しばらくコンコンと小突いていたクーリアさんは困った顔で振り返ります。



「ところでこれ、どうやって加工するのです?含有魔力も多いので早々簡単に切れないと思うのですが」


「・・・そこはわたしがやりましょう。・・・とりあえず、四肢を分断しましょうか」



 含有魔力が多いのも考えものでしたね。わたしはオリハルコン製の薙刀を取り出すと、魔力を思いっきり込めて切れ味を上げていきます。それを見たクーリアさんが慌てて離れていくのを傍目に確認して、自然体の状態から縮地でゴーレムの目の前まで移動すると一息に言葉通り四肢を分断します。



 バラバラになったゴーレムの右手を拾うと、それをポイっとクーリアさんに投げ渡します。オリハルコンは軽いですが、腕だけでもかなりの大きさなので、クーリアさんがわたしの投げた腕を受け止めた時に少しよろめきました。



「・・・それだけあれば大丈夫ですか?」


「あ、はい、大丈夫だと思います。むしろこれでも多いくらいです」


「・・・では、早く制作に取り掛かりましょうか。オリハルコンの加工はわたしがやりますよ」


「あ~お願いします。魔力も抜かないと使い物になりませんし」


「・・・そういえば、魔術具には魔力が残っている素材は扱いにくいのでしたね。うっかりしていました」


「品質としては含有魔力が多い方が高値で売れますけどね」



 わたしがクーリアさんと話をしていると、静かにしていたプリシラさんがバラバラになったオリハルコンゴーレムをじっと見詰めていることに気が付きました。どうしたのでしょうか?



「・・・プリシラさん?どうかしましたか?」


「トワ様、このオリハルコンでトワ様の神像を」


「・・・却下です」



 クーリアさん並みにキラキラとした目を向けられても困ります。そしてオリハルコンでわたしの像を建てられてももっと困ります。というかもう像があるでしょう。これ以上増やさないでください。



 こっそりと持ち出されて作られても困るので、出したオリハルコンゴーレムを全て収納に戻して材料を目の前から消しました。これで大丈夫ですね。



「・・・ところでプリシラさん、そろそろ弥生が昼食を用意していると思うのであっちの家に行って来て良いですよ」


「トワ様はどうするのですか?」


「・・・わたしはクーリアさんと一緒に魔術具の作成をしますから。遠慮しておきます」


「そうですか・・・。ですが、一応弥生に頼んで食事を後で持って来ますね。気分転換にはなるでしょう」



 わたしに食事が必要ないことはプリシラさんも承知していますが、出来るだけ普通の人のように食事を取るようにしています。プリシラさんの言う通り気分転換にもなりますし、何より食事は娯楽ですからね。今では弥生の方がわたしより料理のスキルレベルが高いので彼女の作る料理はとても美味しいですし。



 それから、わたしが素材の加工、クーリアさんが魔法陣とラインの設計を何度も修正しつつ、制作をすること三日間。ようやく納得がいける通信の魔術具が完成しました。



「・・・それでは、試験をしてみましょうか。反対側の公国まで転移したら連絡しますね」


「了解です!」



 とてもテンションの高いクーリアさんを置いてわたしは公国の人気が無さそうな場所に転移しました。



 周囲に誰も居ない街道の真ん中で、収納から通信の魔術具を取り出します。



 当初予定していた試作品では両手の手のひらぐらいのサイズだったのが、スマートフォンのような形の手のひらサイズにまで小さくすることに成功しました。



 そのスマートフォンのような形の魔術具に魔力を通すと、登録した端末の名前が浮かび上がって来ます。今はクーリアさんの持っている端末しかないのでひとつだけですけど。浮かび上がった文字にタッチすると、その文字が大きくなり、その状態でもう一度魔力を流すと相手側の端末に着信します。



 お互いの魔力が繋がると端末の表面部分が淡く輝きます。成功ですかね?とりあえず、話しかけてみますか。



「・・・あークーリアさん?聞こえ」


「やったーーーーー!!!!やってやりましたーーーーー!!!!私が新しい魔術具の歴史を作ったのです!!!!にゃーーーー!!!!」



 思わず通信を切ってしまいました。最後にゃーとか叫んでましたけど大丈夫ですかね?後で悶絶してなければ良いですけど。



 現状、登録できる端末は十個が限界ですけど、わたしとクーリアさん含めて五人くらいしか使わないので大丈夫でしょう。とりあえず、今使えれば問題ありません。改良はまた後々ですね。



 さすがに完全な〈思念伝達〉とは違い、文字や見ている風景、イメージしているものなどを送ることは出来ませんが、少ない魔力で長距離を長時間話せるだけでも十分でしょう。



 こうして、わたしとクーリアさんの合作で通信の魔術具が完成しました。携帯電話ともいいます。



 これでようやくセラさん達も調査に出られますね。早くこれを届けに行かなければいけません。でもその前に、フェニさん達はすでに調査を終えているみたいなので、何があったか話を聞いておく必要がありますか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ