68話 転生うさぎと仲間達との会議
「・・・それでは、改めてお互いに自己紹介しましょうか」
自分で言っておいてアレですが、まるで合コンみたいな始め方ですね。前の世界でそんなことをやった記憶が無いのであくまで想像と知識と偏見ですし、ここに居るのはわたし含めて七人中五人女性なのでバランスも悪いですけど。
やっと真面目な話を始めるのかという気分になっていた皆さんは、拍子抜けしたようにお互いに顔を見合わせて「まぁ、トワ(ちゃん)だからね」と頷きました。とても気に食わないですが、わたしが幹事なので文句は言わせません。幹事はそういうものではありませんか。
兎に角、自己紹介をさせるためにクーリアさんに目配せします。わたしの眷族であるクーリアさんは即座にその意図に気付きました。眷族は関係ないですか。クーリアさんは渋々と立ち上がって自己紹介を始めます。
「えっと、トワちゃ、あー、トワ様の眷族になったクーリアです。元々は獣人でしたが、人工魔人になって操られていたところをトワち、様に救ってもらいました。今回は私が人工魔人として活動していた時に悪魔にまつわる何かを世界各地に転移移送させたことについて話したいと思います・・・で、良いですかね?」
「・・・はい次です。セラさんから順番にどうぞ」
「コメント無しですか!?」
いちいちコメントしていたら時間が掛かるでしょう。クーリアさんは何を言っているのでしょうか?あれ?セラさんの顔がひきつっていますね。どうしたのでしょう?
「・・・セラさん、早くお願いします。皆さんには無理してご足労頂いたので早く話し合いを終わらせたいのです」
「本当に無理やりだったよねぇ・・・。はぁ、私の名前はセラ。熾天使のスキルを持っている聖人です。今は聖国の政にも関わっています」
セラさんがあっさりと自己紹介を終えて着席すると、今度はエルさんが立ち上がりました。よしよし、テンポ良いですね。
「私の名前はエルアーナ。ハイエルフでエルフの里の女王をやっているわ」
「次は俺か。本名は無いが名乗っている名前はゼロだ。冒険者として世界各地を旅している」
エルさんのセラさん以上に簡潔な自己紹介が終わって着席すると、すぐにゼロさんが立ち上がってそのままさくっと自己紹介を終わらせました。
Sランク冒険者だというのは省くのですね。まぁ、神獣にとってはちょっと戦える程度の聖人くらいにしか思わないので言っても仕方ありませんか。それに、ゼロさんは何回かここに来たことがあるので面識のある神獣も多いですし。
確かに時間が掛かるからコメントしませんよと言いましたが、いくらなんでも簡潔すぎてはありませんかね?まぁ、一時的な協力関係になるだけなので、お互いに顔と名前だけ憶えてもらえればいいですか。
さて、次は神獣側です。フェニさんが人当たりの良い、でもどこか圧を感じる笑顔で微笑みながら立ち上がりました、
「私はフェニックス。不死鳥という名前の方が通りがいいかしら?トワのことは私達の中では一番面倒を見ているの。トワに関することはこれからも私が間を挟むことが多いと思うけれど、よろしくね」
あの、後半は言う必要があったのですか?セラさんとエルさんの顔がまた怖い笑顔で固まっていますよ?クーリアさんがまたあたふたしています。苦労性ですね。
フェニさんが(圧のある)笑顔のまま座ると、今度はリルさんが立ち上がります。いつものゆるっとした笑顔なのですが、何故かフェニさんと同じ圧を感じました。今日の神獣の皆さんは妙に機嫌が悪くないですか?
「次は私ねぇ~。北に領域を持つ、神狼のフェンリルよぉ~。あなた達に襲われて死にかけていたトワちゃんを拾ったのも私なのよぉ~。よろしくね~」
――ですから、後半は言う必要があったのですか!?
わたしの心の中のツッコミが聞こえるはずもなく、セラさんとエルさんが苦虫を噛み潰したような顔で俯きました。ほら、空気が悪くなったではないですか。
わたしはリルさんの真意を問おうと視線を向けますが、リルさんはすかさず席に座ってあさっての方を向きます。あとで問い詰めますからね。覚悟しているといいです。
リルさんが座ったので順番でケイルさんが立ち上がりました。相変わらず大きいですね。座っていても存在感ありますからね。
「俺はヘカトンケイル。魔の森に領域を置いている。トワとはまぁ、友人と言っておくか」
ケイルさんってあまり喋らないですけど、わたしのことを友人程度には思っていてくれていたのですね。ちょっと嬉しいですね。
フェニさんやリルさんに比べればまだ普通な自己紹介だったケイルさんが座ります。そして最後にオロチさんが立ちました。
オロチさんは大きな胸を見せびらかすように腕を組み・・・なんですか喧嘩売っているのですかいいでしょうあとで覚えているといいですべつに気にしていないですけど!・・・挑発的な表情を浮かべながら口を開きました。
「妾はヤマタノオロチ。公国に領域を持っている怪蛇じゃ。そういえば、其方らのせいでトワが危険な状態になっていたのを妾の領域で匿ったのじゃったな。礼を言うぞ。お陰でトワと出会えたのだからの。・・・何故トワは妾を睨んでおるのじゃ?」
「・・・いえ、別に」
別にその大きいものが強調された格好が非常に不愉快だとかそういうことではありませんよ。そんなことより、なんでわざわざ皆さんわたしの話題を出すのでしょう?なんで話し合う前に空気をギスギスさせるのです!?
――仕方ありません。わたしがこの空気をなんとかしましょう。
「・・・こほん。えっと、この子はわたしの新しい眷族のスライムちゃんです」
とりあえず場を和ませるために、わたしの肩に乗っている小さなスライムを手に持って皆さんに見せます。スライムちゃんがわたしの意図を察してか、挨拶するようにぷるんとします。・・・ちょっと美味しそうですね。じゃなくて、可愛いですね。
皆さんが白けたような視線を送って来ますが、ギスギスするよりはマシです。このまま勢いで本題に入りましょうか。
「・・・クーリアさん、貴女が各地に送ったというものは何だったのか思い出せますか?」
「いきなり普通に会議が始まったね」
セラさんの小声のツッコミは無視してクーリアさんに視線を向けると、考えるように顎に手を当てて思い出すように視線を上にあげました。
「何だったのか・・・。何かの『物体』であったのは間違いないのですが・・・」
「世界各地にばらまいたということは、世界各地に影響を及ぼすものなのか」
「それかぁ~、ばらばらにして何かを隠した可能性もあるわねぇ~」
「なんにせよ、放置するには薄気味悪いものだの」
「うむ」
クーリアさんの言葉から神獣組が意見を交わします。
「・・・やはり、直接見に行く必要がありますか」
「ねえクーちゃん。その場所って何カ所くらいあるの?」
「え~っと、恐らく十カ所くらいですかね」
「地図を出しましょう。クーリア、書き込んで」
エルさんが収納から出した世界地図を全員が覗き込むように見つめる中、クーリアさんはひとつひとつ思い出すように印をつけていきます。
「本当にバラバラだな。強いて共通点をあげるならばどこも辺鄙な場所ってことくらいか」
「そうだな。・・・ほう。魔の森にもあるのか」
「私の領域の近くは・・・ここはたしか、今は獣人が管理している区画ね」
「はい、獣王国の聖域と呼ばれる場所の中ですね」
「エルフの里の近くにもあるのね」
「聖国の南にある廃国の遺跡群にもあるみたい。う~んこっちの方まで調査隊出せるかなぁ」
「・・・これは内密に行動する案件ですから、人海戦術は使えませんよ」
「そうだったね。となると、私が直接出向くしかないか」
「後は魔国と、公国の南東側・・・夏姫が管理している辺りにもあるわね」
「帝国にもあるぞ。今あっちの方に行くのは大変だな・・・」
書き込まれた印を見てそれぞれあの辺だと口々に喋り出します。わたしはまだこの世界をそこまで歩き回っていないので地図を見ただけではどこがどうとかさっぱりですけど。
しばらく地図を見ながらあの辺この辺と話をしていると、ふと思い付いたようにセラさんが顔を上げました。先ほどまでは特に気にしていませんでしたが、こうして近くで改めて見ると同性でもドキっとするくらいの綺麗な顔ですね。久しぶりに見たせいで思わず引いてしまいました。
「ちょ、なんで引いたの?」
「・・・いえ、久しぶりにその顔を間近で見たので思わず」
「えぇ~なにそれ?まぁ良いけど。えっと、不死鳥さん、神獣側はどの程度まで協力してくれるのですか?」
セラさんの質問にフェニさんはきょとんとした顔で首を傾け、束ねた赤い髪が揺れました。
「協力?あぁ、まぁ、協力と言えなくはないわね。人族とこうして同じ目的で動くのは随分と久しぶりだから思わず困惑してしまったわ」
「・・・寧ろ、昔は協力していたことがあったのですね」
「まだ私達が神獣と名乗る前のとても古い記憶よ。あの頃は大陸のほぼ全てが一つの国で統一されていて、他の小さな国々は細々と暮らしていたわね。って、そんな昔の話は今はいいでしょう」
「・・・ちょっと気になる話だったのですが」
「異世界への門を開いたわる~い国の話よぉ。私達自らがその歴史を終わらせたのよぉ~」
「初めての粛清をした頃の話じゃな」
「ああ。あの頃は今よりも人と関わることも多かった」
「あの国は良くも悪くも発展しすぎたのがいけなかったのよね。私達が何かするまでもなく、天使と悪魔達によってかそれ以外の原因でも滅びたでしょう」
「・・・話が戻ってきてますよ?」
わたしが指摘すると、フェニさんがちらっとリルさんを睨みました。リルさんはふいっと視線を逸らして「他のみんなも話に乗ってきたじゃない~」とぶつぶつと言い始めました。
フェニさんは話を元に戻すように咳払いをして地図に目を落としました。セラさん達も大昔の話に少し興味を持っていたようでしたが、空気が変わったのを察してすぐに地図に視線を戻します。
「こほん。まぁ、協力者というのはどちかといえば貴女達の方になるのだけどね。今回はそれぞれが手分けするのが一番手っ取り早いでしょう」
「神獣側の協力者ということね。理解したよ。私はもう自由にあちこち行き来は難しい立場になってしまったから、行けそうな場所は聖国南のここ、廃国の遺跡にある場所を調べてみようと思う」
「立場というのなら私も遠くを調べるのは難しそうね。私はエルフの里の近くにあるのを調べるわ」
「帝国方面は俺が行くか。この中で一番隠密に優れているだろうから、侵入しても騒ぎになりにくいだろう。それに、今の状況を調べるのに近々潜入しようと思っていたからちょうどいいしな」
「私が帝国に散歩して蹂躙してきても良いのだけど~?」
「・・・今派手に暴れて面倒事が起こるのは困ります。リルさんには魔国と帝国の間にある山脈を調べてもらいましょう」
「りょうかいしたわ~」
ということで、それぞれの居る場所に比較的近い場所を調べていくことになりました。ただ、問題な場所がいくつかあるようです。
「獣王国と魔国はちょっと難しいかもしれないね」
「・・・フェニさんは獣王国の聖域とやらに入れないのですか?」
「入ろうと思えば入れるわよ。あそこの結界は獣王の命と結びついているから、強引に入ると獣王が死ぬけれど、それでも良いかしら?」
「だ、ダメに決まっているじゃないですか!?」
クーリアさんが焦ったように叫びました。それを見たエルさんが「それならば」と口を開きます。
「ここは、元獣人のクーリアに言ってもらうしかないわね。この中では唯一伝手もあるのだもの。こういう時に利用しなさいな」
「うぅ・・・非常に気は重いですが、致し方ありませんね」
「魔国の方はどうするのかえ?それと、いくら妾でも、公国の夏姫の領域内に入るのは面倒事になると思うぞ?」
「・・・あぁ、オロチさんは四季姫の皆さんに敵視されていますからね・・・」
獣王国、魔国、公国の夏姫の領域はわたしがそれぞれ回ったほうが良いですかね。神獣と人族側と双方に話が出来ますし。獣王国に関してはクーリアさんと一緒ということになりますが。
「・・・では、わたしが皆さんでは行きにくい場所を回りましょう。獣王国もお手伝いしますよ。クーリアさんはあくまで元獣人ですから」
「ありがとうございます、トワちゃ、様」
「大体分担は決まったかしら?」
「大丈夫だろう。その『何か』とやらを見付けたらトワに連絡すれば良いのか?」
「そうね。私達神獣はトワと〈思念伝達〉出来るけれど、協力者達はどうしようかしら?」
「あ、言われてみれば・・・。〈思念伝達〉って覚えるの難しいの?」
「少なくとも私は覚えていないわよ」
「そもそも、〈思念伝達〉は魔物専用のスキルですよ。人が覚えるのはとても難しいと思います」
「・・・春姫さんは使っていましたよ?」
なんならば、彼女はわたしの〈思念伝達〉に割り込んできましたからね。ゼロさんもあの時のことを思い出したのか苦笑いをします。
クーリアさんが魔物専用という表現をした理由は、〈思念伝達〉や〈念話〉というのはそもそも言葉をはっきりと喋れない魔物達がコミュニケーションをとるために生み出したスキルだと言われているからだです。そのため、元々言語を操ってコミュニケーションのとれる人族には〈思念伝達〉や〈念話〉を覚えるのがとても難しいらしいのです。ちなみに、毎回言っていますがわたしも苦労しました。〈異世界からの来訪者〉が無ければ心が折れていたかもしれません。
わたしの春姫さんの話を聞いて、エルさんが深く溜息を吐いて首を横に振りました。
「あの子はいろいろと変だから一緒にしないでちょうだい。セラならばひょっとしたら短期間で覚えられるかもしれないけれど、私には無理よ」
「私も魔人になったとはいえ、まだ日が浅いですからね。覚えるのには時間が掛かると思います」
そういえば、元々動物で、今は魔人になってからそこそこに月日が経つ弥生達もまだ覚えていませんね。どちらにせよ今から全員が習得するのは無理があるでしょう。
むーんと考えるように真っ黒な夜空を見上げていると、ふと良い事を思い付いて〈全知の瞳〉で〈思念伝達〉を解析しました。
――ふむふむ。ちょっと複雑で難しいですが、ある程度制限をつければいけそうですね。
解析を終えたわたしは、黙り込んだわたしを不思議そうな、いえ、可愛らしいものを見るような温かい目で見ている皆さんを見回してクーリアさんに視線を止めました。わたしの視線を受けたクーリアさんがびくっと反応して、何か嫌な予感がするとでも言いたげに顔を引きつらせます。
「・・・連絡の件はわたしがなんとかしましょう。クーリアさん、後で手伝ってくださいね」
「え、あ、はい。・・・・とても嫌な予感がすのですが何をするのでしょうか・・・?」
「クーちゃん、頑張ってトワちゃんの非常識に付き合ってあげてね」
「貴女にならばきっと出来るわ。頑張ってちょうだい」
「というか、なんとかしないと調査にいけないからな。死ぬ気でガンバレ」
「トワ、新人をあまり酷使しないようにね」
「適度に飴もあげるのよぉ~」
「だが、あまり悠長にはしていられないだろう。早めに準備を済ませろよ」
「妾達は一足早く調査をするとするかの。人族共が取り扱っても大丈夫なものか確認も必要だしの」
「そうね。それじゃ、トワ、今日はこの辺で良いんじゃないかしら?」
わたしもいろいろとやることが出来てしまいましたので、フェニさんの提案に乗ってこれで解散にしましょう。締めの挨拶をする為に、椅子から立ち上がりました。全員の視線が再びわたしに集まります。
「・・・では、皆さん各々に、適当に頑張りましょうか」
わたしの酷い締めの挨拶に全員が苦笑しますが、そもそもわたしにかっこいい挨拶を期待するのが間違っています。わたしはそんな柄ではありません。
その後、神獣組は転移でそれぞれの領域に帰っていき、わたしは一旦セラさんとエルさんを送り届けて会議は終了となりました。セラさん達にはこのような裏側の仕事だけではなくて、表向きの仕事もありますからね。そちらはそちらで頑張ってもらいましょう。手伝う気はありません。
月の領域に帰ってくると、弥生と卯月と如月とクーリアさんというわたしの眷族達が会議後のテーブルの後片付けをしていました。それをぼんやりと見詰めながらふと思います。
何故フェニさん達はあんなにもセラさん達を敵視していたのでしょうか?さっぱり理解が出来ません。
わたしがセラさん達と別れた時のことは事前に話していましたし、あの時は仕方のないことだったのだと説明もしていました。それに納得していなかったのでしょうか?
何故フェニさん達がセラさん達を見て良い顔をしなかったのか。何故セラさん達がわたしを見る視線がどこか後悔しているようなものなのか。
わたしにはさっぱりわかりません。それが分かる何かを、わたしはどこかに置いてきてしまったようです。いえ、ひょっとしたら、元々持っていないのかもしれません。
――今は置いておきましょう。今は今やるべきことをやるだけです。考えるのは終わったあとでいくらでもあるのですから。
そうやって思考を止め、ぼーっとしているわたしを不思議そうに見る卯月と如月、心配そうな瞳の弥生とクーリアさんのもとへと歩いていきます。スライムちゃんはただ黙ってわたしの肩に乗っていました。




