67話 転生うさぎと協力者と神獣達
クーリアさんがやって来て、おまけに新しい仲間も増え、慌ただしい一日になってしまった日の次の日。今日はフェニさんが改めてクーリアさんから悪魔についての話を聞く予定になっています。そして、わたし達神獣が、というよりは、わたしがどう動いていくかの詳細を決める日でもあります。
朝一番(わたしの領域はずっと夜なので外の世界の時間基準です。)にフェニさんからウロボロスさん以外の神獣が揃うという連絡をもらったので、慌てて全員が座れるような大きい長机を用意して、わたしと弥生二人がかりで料理の準備をします。
ついでに、人族側で今回の件の手伝いに協力出来そうな人も呼びましょうか。一人は既に居るのでもう二人を拉致・・・迎えに行くことにします。
というわけで、転移で聖国首都にある大神殿内の智天使ソフィアさんの執務室まで転移で跳びました。
「わおー!びっくりしたー」
「なっ!?驚かさないでください、トワさん」
「あ・・・」
あら、ちょうどいいところに目的の人を見付けました。無言のまま彼女の手をとります。
「え?なになに!?」
「・・・ちょっと借りますね」
「はい!?」
「あーどうぞー。出来れば早めの返却をお願いしますー」
突然の状況についていけないソフィアさんと何故かあっさりと許可を出してにこやかに手を振るカルタさんを置いて、わたしは彼女・・・セラさんと共に一度転移で領域に帰ります。
「・・・というわけで連れてきました」
「何がというわけなのですか!?ってセラさん!?」
「えっ?えっ?クーちゃん?なにこれどうなってるのここどこ?」
「・・・ところで、エルさんの居場所はわかりますか?」
混乱しているセラさんを尻目に、わたしはクーリアさんに質問します。
「えっ?エルさん?えっと、たぶんエルフの里だと思いますけど、場所までは・・・」
「・・・時間がありませんね。仕方ありません。本人に聞きましょう」
わたしは即座に〈思念伝達〉でエルさんを呼びました。少ししてから反応が来ます。
(・・・エルさん、今何処です?場所を〈思念伝達〉で送ってください)
(な、なに突然?ちょ、ちょっと待って)
唐突すぎて混乱したのか、エルさんが正直に場所を教えてくれました。頭に地図と場所が浮かび、そのあと更に周囲の景色も浮かびます。ふむ、ここから近いのは王国と公国の国境門ですね。
(・・・今から向かいますのでそこから動かないでくださいね)
(向かうってなに?何する気なの?ちょ)
エルさんが何やら言っていましたが、今は時間が惜しいので無視です。わたしは未だに混乱しているセラさんをクーリアさんに任せて国境門まで転移しました。
――ちょっと懐かしいですね。一年も経っていないのですけど。
見た感じ国境門はあまり変わっていないようですね。ですが、遠くに公国方面に結界のようなものが見えました。これが、前に言っていた魔物と人を北側から下ろさないようにしている結界ですか。
興味はありますが、今はエルさんを拉致・・・連れていくのが先です。ここから南の森の中を行きましょうか。
しばらく森の中をうさぎの姿で駆け抜けると、妙な感覚を感知しました。意識を逸らすのと方向感覚を誘導するような効力みたいですね。結界とかではなく、精霊の力っぽいことを〈全知の瞳〉で見抜きました。少し負担が厳しいですが、そのまま〈全知の瞳〉を使って一気に森を駆け抜けます。すると、今度は普通の魔法の結界に当たりました。侵入阻害というよりは侵入を知らせるもののようですね。無視して駆け抜けます。
わたしは〈隠密〉と光学迷彩の魔法で姿を隠しながら、やってきたエルフっぽい人達の間を駆け抜け、里の入り口まで辿り着きました。エルフのイメージと違わないとても綺麗な場所ですが、今はそれも無視です。〈魔力感知〉と〈精密索敵〉でエルさんの場所を特定するとすぐにその場所へと走ります。
なにやらちょっと豪華そうな部屋の一番上座にエルさんらしき人を見付けました。らしきという表現を使った理由は髪の色が鮮やかな金髪からプラチナブロンドに変わっていました。白髪とか言っちゃダメですよ。プラチナブロンドです。
突然部屋に乱入したうさぎにざわめく部屋の中を高速で駆けてエルさんの隣まで移動すると、人の姿になります。
「・・・ふむ、魔力の質が少し変わっていますが、間違いなくエルさんですね。というわけで、ちょっと借りますね」
「魔人だ!エルアーナ様から離れろ!」
恐らく見た目詐欺なのであろうその場に居たエルフ達が一斉に立ち上がって、わたしに向けて弓矢やら魔法やらを放ってきました。ちょっと反応は鈍いですが的確にわたしだけにダメージを与える魔法を使っています。なかなかいい腕ですね。
「いけない!待ちなさい!!」
エルさんが制止しますが、もう攻撃は止められません。わたしは飛んできた魔法をひとつひとつ〈全知の瞳〉で鑑定して対抗魔法で相殺します。弓矢はアーツを使ったようでしたが、難なく素手で捕まえました。お返しに〈月神覇気〉を結構強めに放ちます。
「うぐっ!」「この威圧は・・・!?」「なんという!これではまるで神獣のような!?」
「皆落ち着きなさい!彼女は私の知り合いよ。武装を解除して。本気で戦ったら皆殺しになるわ」
失礼ですね。ちゃんと生かしますよ。もっとも、本気でわたしと敵対した場合はその限りではありませんが。
エルさんの言葉で武装解除してその場で座り込むエルフ達、わたしの威圧で動けなくはなっていませんが体に負担は掛かっているようですね。動けるだけでも大したものですが。
「あのね、トワちゃん。いきなりやってきて、借りていきますね。なんて言って承諾する人は居ないでしょう?私にも立場があるのだからもっと事前に」
「・・・それでは、時間無いので行きましょうか。安心してください。ちゃんと無傷で、かつ早めに帰しますから」
「はぁ。仕方無いわね。そういうことみたいだから少し出るわ。会議の続きはまた明日にしましょう」
エルさんを拉致して領域に戻ってくると、幸いまだフェニさん達はやってきていませんでした。これならば事前に情報を話すことが出来ますね。
「ホントにエルを連れてきたよ。神獣って怖い」
「私はアレの眷族なのですが・・・」
「まさか私達がこんなに早く揃うなんてね。それで?何をする気なの、トワちゃん?」
「・・・ええ、とりあえず、そこに掛けてください。あ、クーリアさんはあっちで弥生の相手をしてください。弥生、手短にお願いしますね」
「かしこまりました。クーリアに眷族のなんたるかをしっかりと、きっちり、手短に指導させていただきます」
「え・・・?」
クーリアさん、弥生の前でわたしのことをアレとか呼んじゃダメですよ。弥生を怒らせると怖いと思うので頑張ってください。
弥生に連れていかれるクーリアさんを見送りながら心の中で合掌します。あ、でも、わたしの敬虔な信者になるのはダメですよ。これ以上信者はいりません。むしろ、一人もいりません。
長机の上座から見て左側の列にセラさん、エルさん、ゼロさんを座らせます。春姫さんも呼ぼうか迷いましたが、フェニさんとひと悶着あったっぽいので今回は見送ります。
「・・・じきに他の神獣達も来てしまうので、出来るだけ簡単に神獣の役割やその他もろもろを説明します。その上でこれからのことに力を貸してもらいます」
「貸すのは決定事項なんだね」
「ここまで拒否権が無いと逆にすがすがしいわね」
「お前達もちゃんと巻き込まれろよ。元々、俺一人じゃ限界があるからな」
というわけで、過去に起きた悪魔と天使の事件。神獣達がその事件をきっかけに悪魔と天使が復活した時に人族の文明を滅ぼすほどの粛清をすること、地脈を通じて世界中の魔力の巡りを管理していること等々を説明しました。
説明しているうちにふと疑問に思い、説明が終わると同時にエルさんに質問してみます。
「・・・ところで、エルさんは粛清があった頃生きていたのですか?」
「私?そうね・・・」
「一度だけ経験があるでしょう?私が見逃してあげた時のことよ」
突如話に入って来た声に驚いて振り向くと、いつの間にかやってきていたフェニさんと目が合いました。わたしと目が合うとにこりと笑顔を浮かべますが、机に並んで座っているセラさん達を一瞥して「これが協力者なの?貴女を裏切った人達じゃない。どういうつもり?」という副音声が聞こえてきそうな、全く笑っていない目をわたしに向けてきます。
「・・・え、えっと、人族の中では比較的まともな人達ですから」
「言い訳は後で聞くから。それと、お説教もね」
お説教?嫌です。なんとか誤魔化しましょう。でも実際、彼女達以上に適任者は居ないのですよね。基本的にお人好しな人達ですし。
わたしが言い訳を考えていると、エルさんが驚いたように目を瞬かせながらフェニさんに話し掛けました。
「貴女まさか、あの時の不死鳥?」
「覚えていたのね、世界でただ一人のハイエルフさん。精霊王に後で文句を言われるのが面倒だったから、他の人族との関わりの薄かったエルフは見逃してあげたの。だから、粛清の時の数少ない生き残りの一族ね」
「当時はまだ公国の姫達ぐらいとしか個人的な付き合いをしていなかったおかげで見逃されたのよ。詳しくは知らないけども、あの時はほぼ全ての国が滅んだらしいわね」
「生き残ったのは、エルフの一部と公国とやらの一部の人間と、あと魔王ぐらいかしら。魔王の場合は、厳密には殺したのに復活したのだけど。そう考えると、前回の粛清は完全な人類のリセットにはなっていないのよね」
ま、魔王?魔族の国の王様でしょうか?なんだかラスボスっぽい表現で困りますね。しかし、顎に人差し指を当てながら淡々と粛清のことを話すフェニさんは、見た目の可憐さとのギャップがあっていつもよりも怖く感じますね。
「・・・さらっと流しそうになりましたけど、精霊王と会ったことがあるのですか?」
「あるわよ」
「・・・ほー。どんな方なのです?」
精霊の王様なのですから、きっと威厳のある人(精霊)なのでしょうね。
「そうね・・・一言で言うならば、偏屈なおじさんかしら」
「わかるわ。加護を受けている身としてはあまり悪口は言いたくないのだけど・・・。ちょっと面倒な性格ね」
なんだか精霊王という存在に一気に興味が無くなりました。まぁ、会う機会は無さそうなのでいいのですけど。
「・・・ところで、フェニさんは何時からここに来ていたのですか?転移の予兆を感じなかったのですが」
「ああ、トワがちょうどそこのハイエルフを連れてくる為に外出していた時よ。場を緊張させてしまうのはどうかと思って少し領域内を散歩していたの」
「・・・それはまたタイミングが悪かったですね。出迎え出来なくてごめんなさい」
いいのいいのと手を振るフェニさん。そういえば、弥生が居ないのでお茶の準備をしてませんでしたね。予め用意していたお茶のセットを収納魔法から取り出してセッティングしていきます。
すると、ちょうどそのタイミングで転移の予兆を感知しました。現れたのは意外にも時間にルーズなリルさんです。
「やっほ~トワちゃ~ん。フェニもやっほ~。それに今日は人間達も居るのねぇ~。みんなトワちゃんの知り合いかしらぁ~」
「・・・まぁ、そんなとこです。協力者にちょうど良さそうな人材を準備しました」
「ふぅ~ん・・・」
リルさんは一瞬面白くなさそうな顔をして、すぐにいつもの緩い笑顔になるとそれ以上は何も言わずにフェニさんの隣に座りました。わたしが首を傾げるとフェニさんが「気にしないでいいわ」と苦笑します。なんなのでしょう?
「それにしてもぉ~まさかあの天使ちゃんとこんな形で会うとは思わなかったわぁ~」
「私のことを知っているの?」
「うふふ~。私は頻繁に人族の街に潜り込んでいたからぁ~ちょっとだけ詳しいわよぉ~」
「神獣が平然と街の中に潜り込んでいたなんて・・・」
「頭が痛くなるわね・・・」
「こちらとしても頭が痛い話なの。リルはいつも領域でじっとしないでふらふらするのだから」
「あら~最近はフェニだってしょっちゅうトワちゃんのところに来ているじゃない~」
「貴女と違って私は神獣同士の領域を行き来しているだけだから大して問題はないでしょう?貴女の場合は人族の街に潜り込んで音信不通になるのがダメなのよ。だいだい貴女はいつも・・・」
っと、何かの地雷を踏み抜いてしまったようで、フェニさんが懇々とリルさんのお説教を始めました。まぁ、これは放っておきましょう。いつものことですからね。
弥生が死んだような顔のクーリアさんを連れてきたので、クーリアさんはセラさん達側の席のわたしに一番近い席に座らせます。
「主様、ベガ達はどうしましょうか?」
「・・・どうせ何もしなくても何かしらで話を聞いているでしょうから呼ばなくていいです。ところで、如月と卯月はどこにいるのです?」
「あの子達ならば見回りに出ています」
「・・・あぁ、定期巡回ですか。そういえば、わたしの領域はまだ魔物が現れないのですよね」
そうそう、わたしの領域には何故か魔物が自然発生しないのですよね。魔力の満ちている場所には魔物が生まれるはずなのですが・・・どういうことなのでしょう?
「トワの領域はいろいろと変だからそれくらいでは驚かなくなったわね」
「それもどうかと思うわよぉ~?」
フェニさんですらお手あげ状態なのです。わからないですよね。
「ん~。たぶん、ここに満ちている魔力の性質のせいじゃないかなぁ?」
と思っていたらセラさんがそんなことを言い出したので全員から注目を集めました。わたしが代表して聞いてみることにします。
「・・・どういうことです、セラさん?」
セラさんは「あくまで推測だからね」と前置きしてから説明を始めます。
「ここの魔力は聖樹や聖属性の魔力が含まれているから、魔物が形を作る前にその聖の魔力で消えちゃうんじゃないかな?」
「トワや一部の魔物には〈聖魔混成体〉というスキルを持った魔物が居るわ。その推測は無理があるわよ」
一瞬納得しかけましたが、確かにフェニさんの指摘通りです。なにせわたしがその〈聖魔混成体〉なのですから。他にも同じ体を持つ魔物が生まれても不思議ではありません。
「いえ、〈聖魔混成体〉は基本的に後天的に特殊な進化をした魔人が覚えるスキルです。魔物でそのスキルを持っているのは、〈死霊術〉と〈聖魔法〉を組み合わせて作られた特殊なモンスターが野生化したものです。少なくとも、今の時代での魔物学では自然な環境で〈聖魔混成体〉を持った魔物が生まれること立証出来たことはありません」
「クーちゃんの説明に付け加えて言うと、魔物学の研究の中に聖樹のすぐ近くに意図的に魔力溜まりを作って魔物が生まれるかどうかの実験をした記録があるの。その結果は、どれだけ時間が経っても魔物は生まれなかった。詳しい原因は突き止められていないけれど、聖樹の魔力と普通の魔力が混じった環境だと魔物はとても生まれにくい環境になるみたい」
「なるほど。永く生きているけどそういったのは知らなかったわ。中々興味深い話ね。トワが人間界に入ろうと思った理由がなんとなくわかったような気がするわ」
わたしが人間界に入った理由は、この世界についての情報を集めるためと、人間の生活範囲を調べてどこが安全に暮らせそうな場所なのかを調べるためですけどね。
しかし、永く生きすぎると研究意欲とかも無くなるのでしょうか?フェニさんならば知っていそうな情報でしたけど。魔物の生態とかにはあまり興味が無いのでしょうか?まあ、わたしもありませんけど。
そんな話で盛り上がっていると、ケイルさんが転移で現れました。テーブルを二手に分かれて座るわたし達を一瞥すると、そのまま何も言わずにリルさんの隣に座りました。機嫌が悪いのでしょうか?
「・・・ケイルさん?」
「ん?あぁ。気にするな。別に機嫌が悪いわけではない。ただ、特に話すことが無かっただけだ」
「それでも、挨拶ぐらいはしなさいな、ケイル?」
「すまんな。トワ、今日はいろいろと話を聞かせてもらうぞ」
「・・・はい。こちらこそよろしくお願いします」
それきりケイルさんは口を閉じて腕を組みました。とても大柄で威圧感のある見た目のケイルさんがそうしていると何にもしてなくても圧力を感じますね。フェニさんが「全く・・・」と呆れたように溜息を吐きます。なんだか今日は神獣の皆さんの様子がちょっとおかしいですね。
「ケイルっていうと、ヘカトンケイルか?あの魔の森の領域の主の巨獣?」
「ああ、そうだ。貴様は?」
「あぁ悪い。俺はゼロ。一応、トワの協力者ってことでここに呼ばれている。それで、実はずっと前に魔の森の領域であんたの眷族と戦ったんだが、その時に事情があっていいところで戦線離脱してな。相手もノリノリだったから申し訳ないことをしたとずっと思っていたんだ」
「ほう。何十年か前にそんな話を聞いたことがあるな。・・・ならば、まだ少し時間があるようだから組手でもやるか?」
「俺を勢い余って殺さないか?ちょっと怖いんだが」
「トワが連れてきた者をそうそう殺すわけないだろう。安心しろ。単なる暇つぶしだ」
「オッケー。女子率高くて居心地が悪かったんだ。それじゃ、ちょっと離れたところでやろうか」
ゼロさんずっとそわそわしてましたもんね。ごめんなさいね、女子率高くて。おまけにこれだけ美人ぞろいですし。
席を立った二人がここから見える位置のちょっと離れた場所で組手を始めました。前から思ってましたけど、ゼロさんの体術ってすごいレベル高いですよね。お互いお遊び程度とはいえ、あのケイルさんと組手が出来るって時点で凄すぎです。身体能力差すごいあるのにそれを技術だけでカバーしていますからね。
ケイルさんも楽しくなってきたのか、顔が肉食獣のそれになっています。あー、ゼロさんの顔が引きつってますね。中途半端に強いと苦労しますね。頑張ってください。
暇だったのでその様子を皆で見ていると、リルさんがぽつりと呟きます。
「あの子出来るわねぇ~。手加減しているとはいえあんなにケイルと素手でやりあえる人間なんて中々居ないわよぉ~」
「そうね。これならば、ケイルも良い感じに気が紛れるでしょう」
神獣側ではゼロさんを絶賛する声が多いですね。それではセラさん達人族側はどうでしょう。
「私にはもう何が起きているやらさっぱりなのですが・・・」
「あはは。クーちゃんももう少しああいう高速戦闘に目を慣らそうね。これからは単独での戦闘もあるかもしれないんだから」
「ええ。きちんと近接戦闘の訓練もするのよ。それにしても、『死神ゼロ』。Sランク冒険者の中ではあまり噂とか聞かないひとだったけれど、実力は本物ね。私も少し驚いたわ」
こんな感じの会話ですね。どちらも、あまり目立たないゼロさんのことを見直した発言が多いです。やりましたね、ゼロさん。ハーレムですよ。
「あ、不死鳥さん。もしよければ熾天使と戦った時のことを教えてくれませんか?私も熾天使の力も持っている者として、正しくその力を把握したいんです」
「ん~。そうね。制御出来ずに暴走させるよりは良いかもしれないわね。でも、私はほとんど相手出来ずに殺されているからあまり詳しくはないわよ」
「それでも、こういう機会が無いと知ることも出来ませんから」
「クーリアちゃんって言ったかしらぁ~?学校ってどんなところだったのぉ~?」
「えっ!?唐突ですね・・・。え~っと・・・」
あら、もうゼロさんに興味は無くなったようで思い思いに会話を始めてしまいました。ゼロさんの異世界ハーレム物語はまた今度ですね。今度は無いかもしれませんけど。そもそもゼロさんからしたらここは異世界ではないですね。
そうこうしているうちに最後の一人が現れました。オロチさんですね。いつものあの大きいものを強調する恰好をしています。着物はちゃんと着てください。花魁でも目指しているのですか?
「なんじゃ、妾が最後かえ?それにしても、随分と集めたの」
オロチさんがちょっと呆れたようにそう言うと、リルさんの隣に座ろうとしてテーブルに既に食器が置いてあるのを見てその隣に座りました。弥生が即座にオロチさんの居る場所にお茶と料理を運びます。
オロチさんはお茶を飲みながら金色の目を細めてセラさん達を一瞥します。そして「ほ~ん」と呟いてからは無言になりました。またこの反応ですか。
フェニさんとリルさんがくすくすと笑ってそんなオロチさんを見ます。オロチさんがちょっと不機嫌そうに「なんじゃ?言いたいことがあるならはっきり言わんか」と二人を睨みました。
「くすくす。いいえ、みんなトワのことが好きなんだなと思っただけよ。笑ってごめんなさい、オロチ」
おどけたように、でもどこか挑発するようにフェニさんがそう言うと、オロチさんはふいっと顔を背け、セラさんとエルさんがむっとした顔になり、クーリアさんがあわあわとします。なんですかこの空気。
全員が集まったことを察したのか、組手をしていた二人が戻ってきました。あれだけ動いていたのに息ひとつ乱れていませんね。化け物ですかこの人達。化け物でしたね。
さて、会議を始めようと思ったら小さいスライムがぴょんとわたしの目の前のテーブルの上に乗りました。あー、参加したいのですか。
しょうがないですねとスライムちゃんを両手に包んで抱えると、フェニさんのこほんという声が聞こえて顔を向けます。
「・・・?なんですか?」
「トワ、後で、じっくりと、お話ししましょう?」
「・・・なんでですか?」
「トワちゃんが意味不明なことするからですよ」
「相変わらずだねぇ」
どちらの陣営からも呆れた顔を向けられます。なんですかこの針のむしろ状態は。
「・・・兎に角、会議、はじめますよ」
そんな、なんともいえない空気の中、人族代表(わたしが勝手に選任)と神獣(ウロボロスさんを除く)による、これから有事の際に何度も行われることになる、かもしれない聖人と魔人の話し合い。記念すべき最初の一回目が執り行われることになりました。
 




