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49話 転生うさぎと月の領域

 神獣への進化を終えて一週間、その後にフェニさん達と話し合いをして、スキルの確認をした次の日。今日からはついにわたしの領域を造ることになります。



――いろいろありましたが、ようやくこの世界で安全に暮らせる場所を得ることが出来そうです。



 わたしは昨日教えてもらった領域を造る時の注意点を思い出しながら、朝からぼんやりと準備を進めていきます。一応、今日もあの三人が来るそうですが・・・神獣って暇なのですかね?



「あるじさま~、森で仲良くなった友達と一緒に領域で住みたいのです~」



 ちなみに今日はわたしはうさぎの姿で行動しています。最近は人の姿が多かったような気がしますが、やはりうさぎの時の方が落ち着きますね。身も心もうさぎです。ちょっと魔法が使えて、素手で熊をワンパンで殺せる普通のうさぎですよ。自分で言っていて悲しくなるくらい普通じゃないですね・・・。



 それは兎も角、卯月の声が聞こえたので振り返ると、卯月が何匹ものうさぎを引き連れてやってきました。あ、卯月は人の姿ですよ。〈念話〉が使えませんし、わたしがうさぎ語(何故か)分からないので、わたしと会話をする時は基本的に人の姿になっています。それにしても・・・



――さすが卯月ですね。コミュ力高すぎでしょう。普通は魔人がそこまで動物に懐かれるなんてありえないですからね。



 当たり前ですが、動物にも危険察知ぐらいはあります。スキルではなくてもっと本能的なものです。特に狩られる立場のうさぎは、普段から常に周囲を警戒して危ない物や場所には遠ざかるので、普通は自分と同じうさぎ族だとしても魔物と友達になるなんてありえないことですからね。



 現に卯月の周りには、わたしの存在に怯えてきゅいきゅいと鳴きながら寄り添っているうさぎ達が居ます。これが普通の反応です。いえ、卯月も魔人なのですから、普通ならば寄り添ったりはしませんか。



――いつの間にか馴染んでしまっていますが、うさぎってきゅいきゅい鳴きませんよね?ぷぅぷぅとか、ぶーとかいう鳴き声だったような気がするのですが・・・



 以前はこの世界特有なのかなと納得していましたけど、ちょっと気になりますね。見た目はどこにでもいそうなうさぎなのですけどね。そんなことを考えながら、わたしがじっと見詰めているせいか、うさぎ達がカタカタと震えだしてしまったので視線を卯月に戻します。



(・・・そこまで地形をいじったりする予定は無いので、そこにいる生物にも影響は出ない予定ですよ。だから、そのうさぎ達が聖樹の森の近くに住む分には問題ないと思います)



「う~ん~?よく分かりませんが、分かったのです!それじゃあ、向こうでこの子達と遊んでくるのです~♪」



――・・・・・・さて、準備を進めましょうか。



 卯月のことは親である弥生に全部任せて、わたしはわたしのやるべき事をやりましょう。



 本来の〈世界魔法〉の領域では持続魔法として指定範囲に展開させるのですが、今回の神獣用の領域は、世界中にエネルギーを渡すための地脈の源流のひとつであるパワースポットに、術者の魔力で染まった物(通称は礎の核というそうです)を設置して、そこを中心にして領域を広範囲に展開します。最後に、領域を無事に造り終えた段階で、術者とスポットに設置した礎の核の魔力の繋がりを切り離すことで独立させて領域の出来上がりです。



 さて、フェニさんが懇切丁寧に教えてくれた注意点ですけど、まず一番大事なのはスポットに設置する物です。今後はその設置する礎の核に魔力を供給して領域を維持するのはもちろんのこと、その核を通じて領域を管理したり地脈を管理したりするのにも使うとても大事なものらしいので、何をスポットに設置するかは慎重に選ばないといけません。ちなみに、フェニさん達は純神鉄(オリハルコン)製の大きな水晶玉みたいなやつを設置しているそうです。



――良いですよね、オリハルコン。ファンタジー金属の代表ですよね。わたしも欲しいです。



「少し早く来ちゃったかしら?トワが領域の核に使うものに悩んでいる様子だったから、私の領域にある山から採れたオリハルコンとアダマンタイトを持ってきたけど・・・ってどうしたの?何で手にぶら下がってきたの?」



(・・・いえ、やっぱりフェニさんは天使だと思っただけです)



「えっと、私、炎鳥(フレイムバード)なのだけど?」



(・・・こちらの話ですので、気にしないでください。その金属、二つとももらって良いですか?)



「ええもちろん。もともとそのつもりだったし構わないわよ」



(・・・ありがとうございます)



 転移でわたしの家の前にやってきたフェニさんから手を離すと、フェニさんは収納から虹色に光る金属と真っ黒な金属のインゴットをそれぞれ十個ほど取り出してわたしの前に積み上げました。



――これが、フェンタジー金属ですか。取り込んで武器にして振り回してみたいです。



 危ないことを考えながら虹色に光るインゴットをひとつ手に取ってみると、想像していたよりもずっと軽くて驚きます。



「うさぎがインゴットを持っている姿って、なんとも言えない絵ね・・・」



 フェニさんが苦笑しながらわたしを見下ろしていますが、そんなことは気にせずに、わたしはインゴットを持ったままちょこんとその場に座って魔力を注ぎ始めます。今のわたしならばそこそこの大きさの魔鉱石だって一瞬で染められる自信があるぐらいには魔力も多くなったのですが、このオリハルコンは魔力の通りは驚くほど良いのですが、まるで底なし沼のように際限なく魔力を吸い込んで全然染まっていく気配がありません。



「トワ、いくらなんでも一日でオリハルコンのインゴットを染めるのは無理があるわよ?しばらくはそれを染めるのに魔力を使って、他の領域造りに必要なことを進めてしまいましょう?」



(・・・フェニさん、ここの小さな空間だけでいいので、領域を造ってくれませんか?夜にして月を出してください)



「それぐらいなら構わないけれど、何をする気?」



(・・・このオリハルコンを今染めます)



「無理だと思うけど・・・まぁ良いわ。小さい領域ならば大した魔力を使うわけでもないし、トワが何をするのか興味もあるからね」



 そう言うとフェニさんは片手を出して手のひらを上に向けました。その瞬間、わたしの広場が夜になり、大きな月が空に浮かびます。〈月の女神〉の効果でわたしの魔力が増えたのが分かります。ですが、これだけでは足りません。なので、もっと魔力を増やしましょう。



――月魔法『蒼月の円舞』



 月が蒼く変わり、世界が蒼い光に照らされます。フェニさんが驚いたように目を丸くしました。



「これって・・・もしかして、前にあったあの紅い月もトワの仕業だったの?」



(・・・ええ、そうですよ。言ってませんでしたっけ?)



「今初めて聞いたわ」



 公国ではこの蒼月も使ったのですが、あの時は常春の領域内だったので他の場所に影響が出なかったのでしょうか?それとも、春姫さんの結界のせいですかね?ま、別にどうでもいいですか。



 〈蒼月の進化〉のお陰でわたしの魔力が一気に跳ね上がり、同時に凄まじい勢いで回復していきます。以前よりも効果が上がっているような気がしますね。やっぱり、〈月の女神〉に変わったからでしょうか。



「すごい魔力量と回復量・・・それなら本当にすぐオリハルコンも染められそうね」



(・・・挑戦してみます)



 わたしは先ほどよりも何倍もの魔力をオリハルコンのインゴットに一気に注いでいきます。これだけの魔力を注いでも自動で回復していく量とほぼ変わらないので、わたしの魔力は全然減りません。



――もうちょっと本気で注いでも良さそうですね。



 更に注ぐ魔力の量を増やすと、オリハルコンから蒼い粒子が現れました。わたしの注ぐ魔力が多すぎて肉眼で見えるレベルになってしまったようですね。それでもわたしは未だに魔力を飲み込み続けるオリハルコンに魔力を注ぎ続けます。



 しばらく魔力を注いでいると、オリハルコンがカタカタと震えだしました。底なし沼のように魔力を吸い続けていたのに、いきなり反発するようにわたしの魔力に対抗し始めます。



――もうすぐですね。



 〈蒼月の進化〉のおかげで、わたしの魔力はまだ全然余裕があります。抵抗されるまで魔力を注いだら、後は一気に魔力を込めて染め上げてしまうほうが最終的に魔力を使う量が少なくなります。というわけで、わたしはドバっとバケツを逆さまにするような感覚で魔力を一気に注ぎます。すると、一瞬だけピカっとオリハルコンのインゴットが光って消滅、否、わたしの体の中に取り込まれてしまいました。



――あ、やりすぎちゃいました。



「まさかこの短時間で取り込むほどに魔力を入れちゃうなんてね。どうするの?それを礎の核に使う?」



(・・・そうですね。もともとそのつもりでしたし)



――取り込んじゃうほど注ぐつもりは無かったのですけどね。



 今まで説明してこなかったのですが、魔力で物を染め上げてから更に自身の魔力を入れて物体自体を魔力に変質させることで自身の体の魔力として取り込むことが出来ます。



 詳しい理論とかなにがどうなってとかはよく分かりませんが、物を魔力で染めるというのは、その物を自身の魔力でいっぱいにすること、取り込むのは更に魔力を込めて物体自体を魔力にしてしまうことです。魔力返還とはまた違いますよ?物体を一時的に変質させて魔力に変えて体内に入れていて、その物体を取り出す時には魔力を染め上げた状態で元の物質として出すことが出来ますからね。もちろん、〈魔力返還〉スキルを使って魔力を回復するのにも使えますけどね。あ、それと、〈魔力体〉のスキルが無いとそもそも体の一部として取り込めません。



 まあ、さっきも言いましたがこの辺りのことはよく分からないので、こういうものだと割り切ってしまったほうが良いでしょう。わたしはそうしています。問題無く使えれば良いのですよ。初めて鉄を魔鉄に変えて取り込んだ時なんて、便利だなくらいにしか思いませんでしたし。



 話が逸れてしまいましたが、とりあえずこれで、領域の礎の核となる物は手に入りました。フェニさんから貰ったオリハルコンとアダマンタイトのインゴットはまだまだたくさんあります。フェニさん大好きです。後でいくつか取り込んで武具として使いましょうかね。



 さて、次の準備です。それは領域にする場所一帯の調査です。生きている動物や魔物、植物に細かい地形をしっかりと把握しておく必要があります。場所によっては、領域を造った後に邪魔になる地形がある時があるので、そういうものはあらかじめ排除しておくと管理が楽になるそうです。また、領域を造ると領域内には術者の魔力で満たされてしまうため、動物だった生き物が魔物に変わったり、魔物が強力な変異種に進化してしまったりして、それの対応をしなければなりません。



――といっても、ここは聖樹の森ですから、魔物はほとんど居ないのですけどね。それでも動物達が魔物化すると、ほとんどが進化時に死んでしまうでしょうから何か対策をしたほうがいいですね。



 聖樹の森と言っても全ての木が聖樹なわけではありません。わたしの住んでいる聖樹の大木がある広場は周りが全て聖樹ですけど、その他はあちこちに聖樹が点在していて、森全体でみると二割から三割くらいでしょう。もちろん、それでもとても多いのですけどね。



――先ほど卯月に指示した通り、動物達は極力聖樹の近くから離れないように呼びかけますか。聖樹の近くならば、聖の魔力の効果で、領域内の魔力の影響を受けにくくなると思いますし。



 後は少ししか居ない魔物ですが・・・弥生達の訓練も兼ねて一度殲滅しましょうか。放っておけば領域の魔力で妙な進化をしてしまうかもしれませんからね。



 ついでに森の詳しい地形を地図にして残しておきましょう。〈地形把握〉のスキルが欲しいですね。後は〈絵師〉のスキルでしょうか。この二つがあれば綺麗な地図が簡単に描けるのですけど。



 〈地形把握〉は索敵スキルの別バージョンと言えばいいのでしょうか。周囲にある木や岩、地面の状態を感じることが出来るらしいのですが、生き物は感知出来ないそうです。持っている人もあまりいない結構珍しいスキルらしいですよ?



 わたしがフェニさんにこの後のことについて考えたことを話すと、賛同するように頷いて微笑みました。ちなみに、わたしが考え事をしているうちにフェニさんが造った小さな領域は無くなっていて、今は広場に太陽の日差しが差し込んでいます。



「良いんじゃないかしら。確かにトワの眷族達はリルが魔石を与えて進化させたようだから、魔物との戦闘経験に乏しいようだし、今後はここの領域の守りと管理もやるのだから時間を有効に使って鍛えてあげたほうが良いわ」



「そうじゃな。妾も協力しようぞ」



 突然声がしたと思ったら、いつの間にかオロチさんが広場まで来ていました。恐らくは転移で来たのでしょうが、空間の歪みを感知しませんでした。何故でしょう?



「カカッ、トワよ。何故感知出来なかったか不思議かの?それはじゃな」



「分身をこの近くに居座らせていただけでしょう?今はまだ良いけど、トワが領域を造った後にはやらないでよ?」



「むぅ。ネタバラシが早すぎじゃ。つまらんのう」



 オロチさんが拗ねたように口を尖らせてフェニさんに抗議の視線を送りますが、フェニさんはどこ吹く風という風にスルーしてうさぎのわたしを持ち上げました。



「あら?思っていたよりも肌触りが良いわね・・・。そんなことより、トワはあんないい加減な神獣にはならないでね。私がしっかりと面倒見てあげるからちゃんとしていてね?」



「そやつも大概突飛も無いことをやらかす問題児だと思うがの」



――失礼ですね。わたしはそんな危ないうさぎじゃないですよ。



 心の声は出さないようにして、わたしはフェニさんに抱き上げられたまま顔をオロチさんの方に向けます。



(・・・それで、何を手伝ってくれるのでしょう?わたしの眷族達をいじめるのは許しませんよ?)



「虐めとは心外な。妾にはあのようにか弱い子うさぎを虐める趣味など無いわ。だが、多少は手荒く指導しなければ神獣の眷族としては使えぬぞ?」



――むぅ・・・オロチさんの言っていることは確かに正論ですね。わたしがずっとついている訳にもいきませんし、この際任せてしまった方が良い方に転ぶかも知れません。



(・・・では、オロチさんにも協力してもらいましょうか)



「うむ!任せておくがよい。それでじゃが、双子の片方、如月だったか?妾はあの坊主を担当したいのだが、良いかの?」



(・・・別に構いませんけど、わたしの純粋な眷族に変なことを吹き込まないでくださいよ?)



「妾は神獣だぞ?自らの眷族も育成しておるのだから安心して任せるがよい」



――オロチさんっていい加減なところがあるから心配なのですよね。後でどんなことを教わったのか如月に聞いておきましょう。



「それならぁ~私には卯月ちゃん貸してぇ~?」



 わたしが信用出来るか疑わしそうにオロチさんをジトッと見ていると、空間転移でやってくると同時にフェンリルさんがわたしに話し掛けてきました。ついでにわたしを手にいれようと手を伸ばしましたが、フェニさんがひょいっとその手を躱してわたしを胸元に抱き締めます。



(・・・フェニさん?いつまでわたしを持っているのですか?)



「あ!ごめんなさい。触り心地が良かったからつい。今降ろすわね」



「む~私も触りた~い」



(・・・近寄ったらフェニさんに燃やしてもらいますから)



「トワの頼みなら仕方ないわね」



「むぅ~~~~!!けちぃ~~~~!!」



 フェンリルさんが頬をパンパンに膨らせて抗議をしてきますが、この人にわたしのうさぎ姿を触らせるのは危険な気がするので断固拒否です。



「いいもんねぇ~代わりに卯月ちゃんをもふもふするからぁ~」



(・・・わたしの卯月に変なことをしたら月の槍で串刺しにしますからね?)



「トワちゃんは声に抑揚があまりないからぁ~本気か冗談か分からないわねぇ~」



――本気ですからね?



 わたしは耳を後ろに倒してジト目で訴えますが、「あら~可愛いわぁ~」とフェンリルさんには伝わりませんでした。わたしがはぁっと溜め息を吐くと、オロチさんが腕を組んで首を傾げます。大きいのが強調されて少しイラッとしました。勢い余って先にこっちを串刺しにしそうです。



「ところで、ずっと気になっておったのだがの。何故トワはずっとうさぎ姿なのじゃ?」



(・・・この姿の方が楽だからですよ。最近は人の姿の時間の方が長かったですし)



「カカッ、そうかそうか。確かに妾やリルの奴とは違ってトワはうさぎだから体が小さいからここで魔物の姿になっても問題ないの。妾達も元の姿の方が楽だが、ここで全員魔物姿ではちょいと狭くなりそうだの」



「貴女が一番場所を取るでしょう、オロチ?私の体長は少し大きい鳥ぐらいしかないもの」



「私もぉ~さすがにこの広場を圧迫する程は大きくないわよぉ~」



「いやいや、リルよ。お主も互いの巨躯だとおもうぞ?無論、妾が一番巨躯なのは否定せぬがな」



(・・・話が逸れてきていますよ?)



「ああ、本当に、貴女達と話をしているとすぐに話が逸れるのだから。まあ、いいわ。話を戻すけど、如月くんがオロチ、卯月ちゃんがリルならわたしは弥生を鍛えるわ。トワは集中して他の準備を進めていてね」



 文句を言いながらも楽しそうに微笑むフェニさんが、話を強引にわたしの眷族達の育成に戻しました。



(・・・他の準備と言われても、後は領域にする場所の地形を把握するくらいですよね?)



 わたしがフェニさんを見上げて首を傾げると、フェニさんの顔が困ったような微笑みに変わりました。



「どういう領域を造るかのイメージはもう固めたの?それと、領域を維持するための礎の核とは別に、管理しやすくするための制御装置もあった方が良いと思うから、時間も出来たし作ってみてはどうかしら?」



「今から眷族達の育成もするとなると一日じゃ終わらないだろうからね」と最後にフェニさんがちょっと楽しそうに付け加えました。意外とフェニさんもわたしの眷族の育成に乗り気のようですね。



「そうじゃの。立派な魔人にしてやる故、こちらは任せておくとよい」



「うふふふ~♪久し振りにと~っても楽しみだわ~。どんな子に育てようかしら~♪」



――なんだか、わたしの眷族育成が神獣達の娯楽にされている気がするのですが・・・まぁ、こちらは助かりますし構わないのですけど。



 それから数日間、わたしは森を駆け回って地図を作成したり、森に棲む動物達に極力聖樹の傍から離れない様に念話で注意喚起したり、領域の核を安置する施設を考えたり、フェニさんから貰ったオリハルコンインゴットを制御盤に使うために新しく染めたり(今度は取り込みませんでしたよ)、わたしの領域のイメージをしっかりと固めるためにお月見したりしていました。



 ちなみに、弥生達は最初の一日で聖樹の森に居た魔物を殲滅させられた後は、各担当の領域にお持ち帰りされて短期強化合宿をしているのでこの数日間会っていません。弥生達も今の実力ではわたしの眷族として力不足だと感じていたらしく、今回の強化合宿にノリノリで行ってしまいました。あ、弥生と如月は許可を求めてきたので承諾しましたけど、卯月だけはそのまま流れで行ってしまったようですね。本当に大丈夫でしょうか、あの子?



 そして、ついにわたしの領域を造る準備が完了しました。思念伝達でフェニさん達に連絡をすると、わたしの眷族を連れてそれぞれ転移でやってきました。



「あるじさま~。卯月と~っても強くなったのです!後で見てくださいね!」



「まだ全然課題をクリア出来なかったです。でも、ボクも少しは強くなりましたよ、あるじ様!」



「こら二人とも、数日振りに会えて嬉しいのは分かるけど、今日は主様は大切な御勤めがあって呼んだのですから、邪魔をしてはいけませんよ?」



「はーいなのです~」



「分かりました、母上」



 皆元気そうですね。たったの数日間ですが、魔力も大分増えたようですし、確かに少しは強くなっているようです。・・・ところで如月って弥生のこと母上って呼んでいましたっけ?



「う~んもっと時間があればぁ~何度か魔力を底上げして体を強化させて、基礎身体能力を強化させてあげたのにぃ~」



「まったくもって時間が足らんの。おいトワよ。領域を造った後ももう少し妾に貸し出さぬか?」



「トワなら大丈夫だと思うけど、万が一なにか問題が起きてもその時その時で修正していけばいいから、思い切ってやっちゃってね」



 わたしの眷族の育成具合に不満を言っている二人とは違って、フェニさんはしっかりとわたしのことを応援してくれてアドバイスまで言ってくれます。やっぱりフェニさんが一番頼りになりますね。



「・・・では、はじめましょうか」



 今日のわたしは人間の姿でいつもの白いワンピースの上にシンプルな白いロングコートを羽織っています。ずっと気になっていたのですが、身長が伸びたせいで、ワンピースの丈が膝丈から、太ももが半分以上見えるマイクロミニになってしまったので代わりを探していたのですが、どれもこれも丈の短いものしか無かったのですよね。セラさん達の願望が恐ろしいです・・・。というわけで、ロングコート(以前のわたしの身長に合わせて買ったのでこれも膝丈ぐらいですが)で誤魔化すことにしました。どこかのタイミングで服を買わないといけませんね。



――ん?もう取り込めるぐらいにわたしの魔力に馴染んていますし、何かで素材を付き足せば良かったんじゃ・・・?これは後でやりましょうか。今は領域造りに集中です。



 そもそも〈武具生成〉スキルで服が作れるじゃんとか考えましたが、とりあえず今は領域造りをしましょう。



 わたしは自分の中に取り込んでしまった核用のオリハルコンを球体の形にして取り出すと、それを聖樹フローディアの大樹の前に作った台座の上に置きます。そして、そこを中心に領域を造る世界魔法を使いました。



「わぁ~!」



「すごい・・・」



「さすが主様です」



 わたしが領域を展開させた瞬間に訪れた変化をみて、眷族達から感嘆の声が上がります。



 世界に夜の帳がおりて、常夜の空には満天の星々が輝き、その中でもひと際存在感のあるとても大きな満月が夜の闇を明るく照らします。そして、森にある聖樹が街燈のように淡くひかり、木々が揺れると数えきれないほどの光の粒が世界中を舞いました。その様子はまさに夜空の星々の中にいるようなとても綺麗な光景です。常世の夜のはずなのに、大きな月と世界中に舞う光の粒子のおかげでとても明るく感じます。



 わたしは礎の核から魔力の繋がりを切りました。・・・よし、問題無く領域は維持されていますね。核の前に作っておいた制御盤・・・といっても、ぱっと見はただのオリハルコンの板ですが・・・を設置して一度その場を離れます。距離を離してから、わたしは手をさっとかざして、いくつか苦労して伐採した聖樹の木を使って魔法で神社っぽい建物を建てました。あらかじめ入念にイメージして、地球で有名な神社から外観をぱく・・・似せて造ることで十分もしないで建築を終えます。大雑把なので後で細かい修正はしますけどね。



「・・・ふぅ」



「お疲れ様、トワ。とても綺麗な領域ね。正直、予想を超えすぎて言葉が出ないわ」



「ほんとねぇ~。この光の玉とか魔力の無駄なんじゃないの~って思ったけど、動物達が暮らしやすくするための灯りとしての機能と、管理する時に魔力を通しやすくする効果があるのねぇ~」



「ほお、それはすごいの。じゃが、実際魔力も相当に使うであろう?魔力供給が大変ではないかの?」



「・・・問題ありません。わたしの魔力は月光で回復する能力があるので、礎の核の魔力をわたし達で補給しなくても勝手に回復しますからね」



「え、なにそれぇ~!?せこいわぁ~!!」



 少し説明しましたけど、領域は持続魔法なので最大魔力を減らして維持するのですが、わたしの制御から外れることで持続を継続するために魔力を使う必要があるのですよね。ややこしいですが、魔法としての領域と、領域の効果を持つ魔術具のような違いです。魔術具使うには魔力が必要ですからね。そういうものだと思いましょう。



 そして、わたし本体の代わりに領域を維持する魔力タンクの役割をするのが礎の核の役目です。さらに、制御盤を使うことで、領域内の地形を魔力を使ってある程度弄ることも出来ます。本来ならば、領域の維持や制御をするのに失っていく魔力の補給を定期的にやる必要があるのですが、わたしの魔力は何故か月光浴の効果が残っているので、スーパームーンが常にあるこの領域では補給しなくても自然と失った分を回復していきます。



「魔力補給が必要なくて、しかも管理も楽になるのは良いことね。地脈の干渉は問題無く出来そうかしら?」



「・・・スポットである大樹と繋がっているので問題無いと思います。一応後でラインも引いておきます」



「ライン?って何かしら?」



――ああ、神獣と言えど魔術具の知識はそこまで無いのですね。



 わたしは人間界で学んだ魔術具の知識をフェニさん達に教えます。魔術具で魔法陣を刻む際に使うラインは魔力の通りやすくするものなので、地脈の源流・・・スポットと核との繋ぎにも応用できるはずです。わたしがそう説明すると、フェニさん達は関心したように溜息を吐きました。



「それは、すごいわね。後で作業しているところを見せてくれる?私の領域にも後でやっておきたいわ」



「私にも見せてぇ~これで眷族達の負担が減らせるわぁ~」



「お主はたまには自分で魔力供給せんかい。それにしても、人族達の技術もやはり侮れんの。妾も後で作業を見せてもらおうか」



「・・・まぁ、隠すようなものでもないですし、構いませんけどね。・・・実際、ラインを引いても少し楽になるだけで、ラインを引かなくても干渉出来ますし」



 その後、核からスポットへのライン引きを神獣達に見せたあとは、各々領域内を見て回り問題点が無いかを探し回ります。細かい問題は見つかりましたが、概ね問題無いことが確認出来たので、そのままわたしの家で領域完成記念に宴会をやり(主にフェンリルさんとオロチさんが飲んでいるだけ)、外界が夜遅くになった頃に(不思議と外の時間が分かります)皆さん自身の領域に帰っていきました。



 わたしは弥生達を連れて核の前まで来ると、ちょうど月明かりが差し込むように天井に穴を空けていたため、核の丸い球体がお月様のような色で輝いていました。わたしはその核の傍に三方を置いて、さらに団子を積み上げてお供えします。特に意味はありませんが、ほんの気持ちです。



 核の部屋から出て社の縁側に移動すると、わたし達だけで小さな宴会もといお月見を始めます。淡い光の粒子が飛び交う中、大きな月を見上げながら、わたしはほうっと大きな溜息を吐いてお気に入りの団子をぱくりと口に入れます。



 常夜の闇を、大きな月と満天の星々、そして世界中に舞う光の粒子が照らし、多くの動物達が聖樹の周りで暮らし、わたし達月兎が支配するこの世界の名は――



「・・・『月の領域』・・・ここが、わたしの住む場所です」



 ようやく手に入れたわたしの『居場所』のはずなのに、なぜだが心はもやもやとします。わたしはそのもやもやの理由を探すように、わたしが創った大きな月をじっと見詰めて団子をひとつ口に入れました。




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