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42話 転生うさぎの神獣化計画

 わたしの神獣化計画が始動したあの日から早一週間が経ちました。



 わたしは今、うさぎの姿で聖国の西にある聖樹の森という場所に来ています。



 ええ。聖国です。アスタルト聖国が正式な名前で、公国とは真逆にある国になります。



 何故こんな場所に居るのかという説明の前に、わたしの神獣化計画についての話を詳しく説明しましょうか。



 まず魔物界・・・というか神獣と呼ばれている方達の間では、この神獣という名称は、最初は人間達が勝手につけたものではあるものの、他の魔物や魔人達との区分けにちょうどいいということで今では公認になっているようです。それと基本的には不干渉ですが、神獣達の間にはコミュニティのようなものがあって、たまに神獣達で集まって話し合うこともあるのだとか。



 それで、昔の話し合いで神獣という種にある程度定義というか基準のようなものを設けたようで、これから新しい神獣として認められるには最低でもその基準をクリアしないといけないらしいです。



 で、その基準ですが。三つあります。



 ①魔物から進化して魔人になっている。(それにプラスして相応の力が必要)


 ②意思疎通が出来る。(きちんとした会話が出来る)


 ③特定の地域に領域を持っている。



 さて、いつものように①から説明しますか。



 まず大前提として、魔人というのは魔物が人間の姿に変異することが出来て、人に近い、または人以上の知性を持っている種族になります。ゴブリンやオークなどは人の形はしていますが、人間には見えませんよね?知性も低いですし。



 さらに魔人で一番大事なものは〈魔力体〉を持っているということです。肉体の枷から外れて魔力のみで体が構成されるようになるので、自由に体の形を変えることが出来るようになります。慣れない体にすると体が動かしにくくなるので基本的には元の種族か人の形にしか変身しませんけどね。さらに神獣になるためには魔人の特性に加えて以下も必要になります。



 まずは基礎身体能力と魔力量が竜以上あること。最低でも龍の眷属よりはステータスが高くないとダメらしいです。この時点で弱肉強食世界の下位に位置するうさぎには絶望的です。



 次に強力な固有スキルを持っている。あるいは原初魔法が扱える。まぁ、簡単にいうと何か自分自身を象徴するような分かりやすい能力を持っていることですね。ちなみに、原初魔法は固有スキルが無かった場合のための譲歩だそうです。



 世界魔法あるいは世界創世スキルが使える。こちらは領域の制作と維持に必要なものらしいですね。



 わたしには固有スキルで〈月の加護〉がありますので、これは特に何もしなくても最初から該当しますね。世界魔法はどんなものなのか直接見れば〈原初魔法〉で再現出来ると思いますから問題ありません。魔力量も変異種の魔石を取り込んでいけばなんとかなるでしょう。基礎身体能力の上げかたも一応教わっています。まぁ、とりあえずこの話は今は置いておきましょう。神獣の基準の続きを説明しますね。



 ②の意思疎通ですが、人間達の扱う言語を知っていれば大丈夫です。それ以外では念話ですね。意思疎通が出来る手段を持っていても会話が出来ない、通じないような者はダメだそうです。



 最後の③ですが、領域を作るだけでも世界魔法や世界創世スキルとかいう名前だけで凄そうなスキルが必要なのですが、たとえこのスキルを持っていて適当な場所に領域を作ってもダメだそうです。



 なんでも、この世界にはいくつかの場所に世界のエネルギーが貯まる場所があるそうで、その場所から地脈といった形で川のように世界中にエネルギーが供給されているそうです。この場合のエネルギーとは属性を持たない純粋な魔力のことらしく、このパワースポット的な場所を中心にして領域を作ることで領域の維持が楽になるそうで、更にそのスポットから流れる地脈に干渉することが出来るようになるそうです。そして、そうしたスポットに領域を作って、地脈を通して周辺の魔力を管理するのが神獣の主な仕事のようです。



 魔力が乱れてしまうと魔物が増えすぎてしまいますし、魔力が長い間安定しすぎていると人族が住みついて人の数が増えすぎてしまうらしいので、そのバランスを調整することで世界に大きな変化が起きない様にしているらしいです。



「むか~しむかしにぃ~。人間達が増えすぎてぇ~変な技術を使ってぇ~この世界のエネルギーをた~~くさん使って~異世界への門を作ったことがあるのよぉ」



(あの時は世界のエネルギーが急速になくなった影響で、新たな生命も生まれず、木々は枯れ野も枯れ水も枯れ、地脈が大きく乱れてあちこちに厄介な魔物が生まれるわ、地面のあちこちが揺れたり、火山が脈絡もなく噴火したりと、まさに地獄のような世界じゃった)



「あの時はねぇ~普段は無関心な龍が動いたほどだったものねぇ~。異世界からなだれ込んできた生き物も一癖も二癖もある連中だったわねぇ~」



(あの時は妾達神獣と龍が協力して、怪しい技術を使う人間どもをその技術ごと根絶やしにして、異世界のよそ者共を追い出して門を次元ごと消滅させたのじゃ。そして、無くなった世界のエネルギーを長い年月をかけて回復させた)



「その頃にはぁ~また人間達も増え始めてぇ~街とか作っていたのよねぇ~。人間達が扱っているアーティファクトという古代遺産やあちこちにある遺跡はねぇ~当時の名残のようなものなのよぉ」



 そんなことならば、人間なんかこの世界から根絶やしにすれば良いのにと思ったのですが、どうやらそういうわけにはいかないようで、この世界の魂の巡りや生物の進化の関係上人間はいつか必ず復活するそうで、その輪廻を乱そうとすると今度は魔物が溢れかえって世界のエネルギーのバランスを崩してしまうそうなのです。



 結果として、神獣達は人間と魔物の数を調整して世界のエネルギーのバランスを保つことと、人間の技術がある一定の水準に達して異世界に干渉したり、昔居た異世界の生物の復活をさせた時にその技術の全てを葬り去るということを何万年も前からやっているそうです。



――話が逸れてきてますね。え~っと何の話でしたっけ?・・・あ、そうそう。神獣の基準の話でしたね。



 話が逸れて神獣の役割まで説明してしまいましたが、今は神獣になるための基準の話をしていたのでした。



 まぁ、そんなわけで、神獣になるためには三つの要素が必要なのです。



 その上で他の神獣達からも認められる必要があるらしいですが、それに関してはフェンリルさんとオロチさん、あともうひとりが協力してくれるらしいのでなんとかなるそうです。



 フェンリルさん達の話からすると、わたしが神獣になるためには、あと①と③の要素を満たすことが必要みたいですね。



 ちなみに、領域を作るだけでしたら、すでに世界魔法をオロチさんから教えて貰いましたので原初魔法で使えると思います。魔力の消費が馬鹿にならないのと、収納などと同じ維持魔法・・・つまりは魔力量を削って使う魔法なので、今のわたしが使うと神獣達の領域のような大きな領域どころか1DKくらいの部屋程度しか作れません。わたしはそこそこ魔力があると自負していましたが、思った以上に少なかったのですね。



 さて、基礎身体能力を上げる方法ですが。魔力量を一定量まで増やして意識的に魔力体をいじくりまわして身体能力を上げるしか無いようです。



 今までは眠気に襲われて勝手に進化していたものを自分の意識でやる必要があるのです。理由としては単純で、魔物は基本的に魔人種が最終進化なのでそれ以上に進化することが出来ないため、自分自身の力で強引に進化・・・もとい、体の魔力を変異させて強化するしかないそうです。



 で、魔力量を増やす方法は二つあります。ひとつは魔物の変異種の魔石を取り込む。これは既に何回かっやっていますね。



 もうひとつは人族を殺してその心臓を取り込むことです。食べるとも言います。



 なんでも人間はその存在自体が変異種に近しいものらしいので、その人族の強さ次第ではありますが、どんなに弱い、たとえば子供とかでも魔物で言う核にあたる心臓を取り込むことで魔力量を増やすことが出来るそうです。というか、それが理由で、人族は魔物に本能的に狙われるそうですよ。まるで経験値をたくさんくれるボーナスキャラですね。人族からしたらたまったものでは無いでしょうが。



 そんなわけで、一番手っ取り早いのは人族の街をいくつか殲滅させるのが近道らしいのですが、それは却下しました。



 別に人間を殺したくないとかでは無くて、そんなことをしたら折角死んだふりをした意味が無くなるじゃないですか。神獣になったら時間の問題だとは思いますが、せめてその時が来るまでは死んだことにしておきたいのです。余計な面倒が来ることも少なくなるでしょうからね。



 そして、ようやく最初に戻るわけですが。



 わたしは最初に自分の領域を置く場所を決めて、その場所を中心に冒険者や今は大量に現れる魔物の変異種を倒して強くなることに決めました。



 他の神獣達と地脈の繋がっていないパワースポットで、未だにセラさん達が近くにいる公国付近から離れるちょうどいい感じの場所を探した結果、アスタルト聖国の領土内にある、今わたしが居る場所になったのです。



 王国と聖国の間にある魔の森にも神獣の領域がありますが、あそことも反対側になりますので、特に干渉はしないから大丈夫だとフェンリルさんが言っていましたね。・・・何故でしょうね。フェンリルさんの「だいじょうぶよぉ~」はとても不安です。



 どうやって一週間で大陸の反対側まで来たのかと言うと、実はここへ来たのはついさっきで、ここ一週間はほぼ魔力の回復に充てていました。ほぼ満タンまで回復したのは、たくさんの魔物の魔石のストックがあったおかげですね。あの防衛戦の副産物です。



 後は、セラさん達の食糧もわたしが大半持っていたので、弥生達に料理を教えるついでに、わたしも久しぶりに自ら料理して食事をしました。基本的には何を食べても〈魔力返還〉でわたしの魔力になりますからね。そのお陰で今ではほぼ満タンに魔力を回復させることが出来ました。もちろん、〈月の加護〉のお陰でもありますけどね。



 この場所に来た方法ですが、フェンリルさんの長距離転移で一瞬でした。超長距離のしかも複数人を同時に転移させても「時々様子を見に来るからぁ~頑張ってねぇ~」といってすぐに転移して去っていくくらいには余裕があるようでした。相当な魔力を使っていると思うのですけどね。やはり、神獣クラスの魔力量ではまだまだ余裕なのでしょうか。



 さて、ここまで長々と説明したのを簡潔にまとめますと、ここまで連れてこられて放置されているのが現状というわけです。



――あ~。回想にとても時間がかかりました。



「きゅい?」



 今の声はわたしではありません。わたしの眷族達、つまり弥生達も一緒に居るのです。



(・・・とりあえず、ここのスポットの中心に簡易の家を建てましょうか。弥生達もついて来てください)



「「「きゅい!」」」



 この一週間の間、ただ魔力を回復させていただけではなくて、フェンリルさん達からいくつかスキルを覚える手伝いをしてもらいました。今後神獣になる上で便利なスキルというやつです。



 それは奇しくも、わたしが欲しいスキルランキングトップ3のスキルでした。今やった〈念話〉と、〈思念伝達〉に〈鑑定〉です。



 〈念話〉は付近の相手に直接言葉を伝えるスキルで、以前に国境防衛戦でドラゴンが使っていたものですね。



 〈鑑定〉は人や物を調べるスキルです。これはコモンスキルに該当するので暇さえあれば鑑定してレベルを上げないといけませんね。



 〈思念伝達〉は念話と似ていますが、念話と違って特定の相手と魔力を繋いで声や映像を伝えるスキルです。



 特定の相手が〈思念伝達〉が無くても大丈夫ですが、知っている相手でないとダメですし、もちろん魔力を繋げる時に相手側からもわたしと魔力を繋がないと〈思念伝達〉が成立しません。その代わりにかなりの遠距離でも使えるのが利点ですね。イメージしやすいもので例えるならば、電話のようなものだと思ってくれれば良いと思います。



 わたし達の居るこの場所は聖樹の森という名前の通り、聖樹の木フローディアが森のあちこちに多く生えています。そのお陰かどうか知りませんがこの森には魔物がいません。その代わりにたくさんの動物達がこの森に溢れています。



 わたしは聖樹の森のちょうど真ん中辺り、一際大きい聖樹の大樹を見つけました。、ちょうどその場所がパワースポットの中心地のようだったので、この場所に家を建てることに決めます。



 今更ですが、わたしや弥生達は魔物ですが、わたしは聖樹の魔力に嫌悪感を抱きませんし、弥生達も長い間、わたしがあげたお守りのにある聖樹の魔力を浴びていたせいか、聖樹の魔力に忌避感がありません。



――聖樹の魔力についても研究してみたいですけどね。何故魔物を寄せ付けないのか気になります。



 意外なことに、神獣であるフェンリルさんでも「我慢は出来るけどあまり長居したくないって思っちゃう場所なのよねぇ~」と言っていたぐらいにはこの聖樹は強力な魔除けのようなのです。これにはわたしも驚きました。



――ま、とりあえずは家を建てますか。



 聖樹に関しては時間がある時に調べるとして、今は居住スペースの確保です。



 フローディアの大樹の周りはそこそこ広いスペースがあるので、大樹の前に原初魔法で土の家を建てました。後々はちゃんとした木造建築をしたいのですが、しばらくはこれで我慢します。間取りを確認するために家の中に入ります。まだ細かい修正をするので弥生達は外で待ってもらっています。



 それから半日ほどかけて内装を整えたお陰で、満足のいける二階建ての立派な一軒家が完成しました。



 わたしが作業している間にずっと外で遊んでいた卯月と如月、それを微笑ましそうに見ていた弥生を家の中に呼びます。



 わたしは家に入ると人の姿になりました。それに合わせて三人も人の姿になります。わたしが三人に家の間取りを説明していると、寝る場所で少しもめました。わたしと一緒に寝たい双子と双子用に部屋を作ったのでそっちで寝てほしいわたしの意見が対立したのです。



 弥生が間をとりなしてくれたお陰で双子は諦めてくれました。そもそも、寝る必要が無いので滅多なことにはベットも使いませんからね。精神的につかれた時にたまに横になって目を瞑る程度です。意識はほぼ覚醒しているので熟睡することは基本的に無いでしょう。



 双子や弥生も寝る必要はありませんが、まだ魔人として慣れていないせいか、特に人の姿でいると精神的に疲れるようなので一日一回は睡眠時間をとっているようです。一応、寝なくても数日は問題無く活動が出来るようなので、わたしとしても無理に活動する必要はないと伝えて睡眠は自由にするように伝えています。



 さて、寝る場所の小さな揉め事がひと段落したので、今後の方針を立てましょう。



 まず確認しなければいけないことは、わたし自身の最終的な目標ですね。これはこの世界に来てから大きく変わりはありません。



――平和で安寧な『居場所』でのんびりお月見でもしながら暮らす。ですね。



 この居場所を手に入れる為に、わたし自身の領域を作って引きこもるというのは悪い話ではありません。むしろ、これ以上は人間界への出入りは難しいでしょうから、魔物として暮らすには一番安全といえるでしょう。元々、人間界への出入りも、情報収集が当初の予定でしたからね。ある意味では正しい形に戻ったとも言えます。



 正式に神獣として認められれば、神獣の領域は、人間界では危険な場所として不可侵と言われているので好き好んで入ってくる人族はそんなに居ないでしょう。



 正直な話を言うならば、話に流されて神獣になるような動きをしていますが、わたし自身はまだそんなに乗り気ではないのですよね。



 神獣達(の一部)が、ノリノリでわたしを神獣にしたがっているので逃げられなさそうですし、助けてもらった恩もありますし、わたしにも利が多いですし、神獣になることに反対では無いのですけどね。



 まぁ、今後、神獣になるという仮定でこの後の予定を立てるとして、まずは兎に角、魔力量を上げる為に人間を殺すか魔物の変異種を倒すかしないといけないのですよね。



 この場所は魔物が滅多に近寄らないので、本拠点であるこの場所を弥生達に任せて、わたしはしばらく聖国の北側をうろうろとすることになりそうです。



――ま、焦るものでもないですし、気楽にやりましょうかね。



 こうして、神獣化計画をてきとうに立てたわたしは、とても面倒くさそうに家から出て、うさぎの姿になって聖樹の森の中へ駆けました。




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