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40話 転生うさぎとうさぎの親子

 三ヶ月という長いような短いような、なんとも微妙な期間寝ていたわたしは、例の親子に一日数回指輪の魔術具に魔力の補給を受けながら、傷口の浄化が消えるのを待つ日々が続いています。



――最初の頃に比べれば大分浄化も消えてきていますね。もう少ししたら強引に核の再生も可能かもしれません。



 しかしまあ、三ヶ月経っても癒えない傷を残すとか、セラさんの凄さを改めて思い知ったというか、魔物としてはもう二度と敵対したくない相手ですね。わたしが寝ていた間は浄化の力はほとんど変わっていなかったようなので、ずっと意識が無く寝ていたのも原因のひとつかもしれないですけど。



 それと、わたしの介抱をしてくれているあの親子ですが、その正体はわりとすぐに判明しました。それは、わたしが目覚めて三日後の夜の指輪の魔力供給の時のことでした。



「あるじさま~供給のお時間なのです!ってあわわ!」



「・・・あ」



 こてんとまるで天然キャラのお約束のように、何もないところで盛大に転んだ女の子はてへへと笑いながら起き上がりました。



 その時に普段は服の下に隠れていたとあるものが、胸元から出ててきてしまったようで、そのとあるものにとても見覚えがあったわたしは思わず声に出してしまいました。



「・・・あれ?それはたしか・・・」



「え?あ!これはあるじさまから貰った大切な物なのです!」



 女の子が嬉しそうにわたしに見せてきたのは、見覚えのあるひとつのお守り。そう、わたしが以前にダンジョンを探索していた時に出会ったうさぎの親子にあげたあのお守りでした。



 そんなこともあり、彼女達の正体を知ることが出来たのは良かったのですが、ここでひとつ疑問が残りました。



――あのうさぎ達ってたしか普通のうさぎでしたよね?魔物ですらなかったのにいつの間にか魔人にまでなっているってどういうことですか?



 わたしがあの親子を見てただの人間では無いと断言したのは、〈魔力感知〉や〈索敵〉の結果で彼女達の体が〈魔力体〉だと気付いたからです。



 〈魔力体〉で人の形をしているのは、魔人か聖人のどちらかです。しかし、聖人は人間の中でもごく一部の人しかなれないもので、母親はともかく子供達はまずありえないでしょう。ということは、彼女達は魔人ということになります。



 しかし、ここでまた問題が出てきます。魔人に親子のようなものはありません。



 完全な〈魔力体〉になってしまうと生殖能力が無くなるのです。強いて言うならば、マザー種の変異種から魔人になった者が生み出す魔物は子と言えなくはないですけど、あれは自分の魔力を使った分身体のような存在ですからね。やはり、あの親子の関係とは違うでしょう。ちなみに人間がなる聖人は不完全な〈魔力体〉、つまりはきちんと肉体があるので生殖能力は無くなりません。肉体はあるけど、〈魔力体〉でもあるので体が劣化しなくなり寿命が無くなるのです。



 聖人のことよりも、今は目の前にいる子達のことを考えましょうか。



――わたしと別れた後で普通のうさぎから魔人に至る何かがあったのでしょうね。それも、あの親子全員に。



 そして、その原因に一因となっていそうなのが、わたしがあげたあのお守りです。



 わたしの魔力と聖樹の魔力が込められていて、わたしの魔力と同じ特性を持つ謎のお守りですが、常に身に着けていて徐々にわたしの魔力で体が汚染されてしまったせいで魔物化した可能性はあります。



 普通の動物でも魔力溜まりなどの魔力の濃い場所に長時間いると魔物に変異するらしいですからね。もっとも、もともとの動物の体と精神では、魔物化する際の変異に耐えられなくて死んでしまうことが多いらしいのですが。



――そう考えると、三匹とも無事に魔物化したのは奇跡としか言いようがありませんね。



 それでも、魔人化に至った原因までは不明です。魔人になるには、魔物の変異種の魔石をいくつか取り込む必要があります。・・・これに関しては今考える必要は無いですかね。わたしの治療が終わってから詳しい事情を聞くとしましょうか。



 しかし、わたしがあげたお守りで魔物になったのだとしたら、守るどころか殺していたかもしれないのですよね。



――毒物をあげていたようなものじゃないですか。三匹とも無事に魔物化してくれて本当に良かったです。



 わたしのお守りが原因だと思った理由は実はもう一つあります。それは、わたしの魔術具に魔力を供給している時のことです。



 わたしの魔術具はわたし専用の物なので、わたしの魔力でないと機能しません。ですので、魔力供給する時はわたしの魔力に変換する必要があるので、他人がやる時は専用の魔法陣を使ってとても非効率的な魔力を使う必要があります。



 ですが、彼女達の魔力はわたしの魔力に限りなく近いもののようで、普通に供給されても自動的にわたしの魔力に変換されて、少ない抵抗で魔力が蓄えられていきます。付け焼き刃とはいえ、魔法や魔術具の勉強をしたわたしはまず最初にこの現象に疑問を持つべきでしたね。



 結論を言いますと、このうさぎの親子はわたしの眷族のような存在になったということになります。



 眷族というと、天狗の一件の時に出会った天狗の眷族である美烏さんを思い出します。



 確かに彼女の魔力は長い間あの天狗の魔力によって育てられたことによって、ほぼ遜色ないほどに近しい魔力をしていました。このうさぎの親子もわたしのお守りによってわたしの魔力を浴び続けたので、体内の魔力がわたしと非常に近しいのでしょう。



 彼女達の正体が分かったところで、世話をされている内の雑談で、わたしがどのような状態でここまで連れてこられたのかが分かってきました。



 わたしの最後の記憶ではしだれ桜の前でお月見して魔力が尽きたと思っていたのですが、わたしはいつの間にか常春の領域を出て人気のない森の奥で倒れていたそうです。



 そこをうさぎの親子がわたしの気配を察知してわたしを発見し、回収してここまで連れてきたらしいですね。



 それから、面倒を見てくれている魔人に頼み込んでここに小屋を作って寝かされている。という状況らしいです。



――ただの気まぐれならば良いですけど、後で厄介な要求をされないと良いのですが。



 ただで人助けしてくれるやさしい魔人が居てくれればいいんですけどね。そんなわけ無いですよね。少しだけ回復した後が怖くなりました。



 それから、わたしの目が覚めて一週間が経ったある日のことです。あることが我慢出来なくなって親子を全員呼びました。



 どこか不安そうに跪いた三人をわたしは無表情にベットから見下ろします。



 恐る恐るといった感じで双子の母親がわたしに問いかけます。



「本日は突然お呼び出しを頂きまして、どのようなご用件でしょうか?」



「・・・わたしはこの一週間とても不便でした」



「何かご不快な思いをさせてしまいましたか?それは大変申し訳ございません」



 双子の母親は声を震わせて深く頭を下げます。双子も顔を真っ青にして同じように頭を下げました。



「・・・ええ。とても不便でした。貴方達、名前は無いのですか?・・・どう呼べばいいのか分からなくてずっともやもやしていたのです」



「・・・・・・・はい?」



「・・・だから、名前です。双子の母親だとか、女の子だとか男の子だとか、今まで濁して呼んで来ましたけど、面倒なのです。無いのですか?名前」



 双子の母親はどこか安心したようにほっと息を吐くと、顔を上げてわたしに苦笑します。



「わたくし達に名前はございません」



「・・・貴方達に言葉を教えた人はなんと呼んでいたのですか?まさか独学では無いでしょう?」



 自慢ではありませんが、独学で全く意味不明な言語を習得するのは極めて困難であるということをわたしは身をもって知っています。



 人間の記憶を持っているわたしですらそうだったのですから、元々が純粋なうさぎである彼女達が、独学でここまで違和感なく言葉を話せるのに誰かが関わっているのは最初から分かっていました。



 その第三者は彼女達のことを名前も無しにどう呼んでいたのでしょう?



「うさぎの子やうさぎさんと呼ばれていました」



「・・・はい?貴方達全員がまとめてですか?個人で呼ばれる時も?」



「はい。個人で呼ばれる時もそう呼ばれておりました」



 わたしは頭を抱えます。



――全員うさぎの子って何ですか!?どういうつもりだったのか小一時間ほど問い詰めてやりたいです!



「・・・もう良いです。わたしが貴方達に名前を付けます。もちろん、貴方達さえ良ければ、ですけどね」



「はいはいはい!あたし、あるじさまからお名前を頂きたいです!」



「ボクもボクも!」



「その、出来るのならばわたくしも頂きたいと思う所存です」



――どうやらわたしの名付けに関してかなり前向きのようですね。それならば、期待に応えられるよう素敵な名前を考えるとしましょうか。



 そんなわけで、三つの期待の眼差しを受けながら、むーんとその場で考えます。



 ちらっと窓の外を見ると、大きな月が夜空からわたしを照らしていました。



――わたしの眷族なのですから、月に関係する名前が良いですよね?



 ここは無難に和風名月にしましょう。よく名前にも使われるので呼んでいて違和感もなさそうですからね。



「・・・では、二人の母親の貴女は『弥生やよい』、女の子は『卯月うづき』、男の子は『如月きさらぎ』と名乗ってください」



 わたしが名前を付けた瞬間、わたしと彼女達の間になにか妙な繋がりが出来たのが分かります。



 恐らくは眷族としての繋がりなのでしょうが、今までは感じなかったということは、名前を付けるのがトリガーだったのでしょうか?だったとしたら、協力者さんがあえて名前を付けないで区別せずに呼んでいた理由も分かります。



――でも、わたしより先に名前を付ければ眷族に出来たのではないでしょうか?それをしなかったのには何か理由が?む~ん、これは直接会って確認しないと分かりませんね。



 わたしがそう考え込んでいる間も、名前を付けられた三人は大層喜んでいる様子で、双子はわいわいと騒ぎだして母親・・・いえ、弥生もそれを止めずに嬉しそうに微笑んでいます。



「主様。素敵な名前をありがとうございます」



「あるじさまありがとうなのです~♪」



「あるじさま、ありがとう!」



――ただ呼びにくいから名前を付けただけなのですが、そこまで喜んでもらえると悪い気はしませんね。



「・・・それでは、もう少しだけ魔力供給に力を貸してください」



「はい。喜んで」



「あー!あたしもやる~」



「ボ、ボクも!」



「・・・そんなにこの指輪には入らないと思いますけど、まぁ、好きにしてください」



 わたしがやれやれと首を振って左手を差し出すと、三人が順番にわたしの指輪に触れて魔力を注ぎました。



 元々一日に減る魔力の量はそこまで多くはないですし、そんなにこまめに補給しなくてもいいのですが、それを言うと三人とも悲しそうな顔をしそうなので敢えて黙っています。



――まぁ、そろそろこの魔力を使う宛も出来そうですから、常に満タンの状態の方が都合が良いですけどね。



「・・・近くに核の修復も出来そうですし、ここの管理者さんともようやく会えそうですね」



「浄化の力はまだ残っているようですが?」



「・・・これぐらいならば、多少強引にやれば大丈夫でしょう。当日は三人にも手伝ってもらいますよ?」



「もちろんなのです!」



「任せてください!」



「御心のままに」



 それから二日後の夜、再び三人に集まってもらって、わたしは指輪の魔力のほとんどを使って核の再生に成功しました。



 これでようやく、月の加護の〈月光浴〉と〈魔力自動回復〉のスキル魔力が回復していって、わたしの調子も戻っていくでしょう。それでも念のために、失った指輪の魔力を弥生達に満タンにしてもらいます。



 そして次の日、歩き回っても問題の無くなったわたしは、初めて寝ていた小屋から外に出ました。




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