23話 転生うさぎの王都観光(魔術具店編)
「・・・リンナさん?怪我はもう治っていますよね?なんでそんなに機嫌が悪いのですか?」
「身体強化は使うなって・・・あれだけ言ったのに・・・」
――まだそんなことをぐちぐちと言っていたのですね。意外と度量の少ない人です。
「リンナの自業自得だよ。調子に乗ってトワちゃんを煽るから」
「そうですね。そもそも、手加減させて勝っておいて、トワちゃんがちょっと力を出しただけでそんなに文句を言うなんて、リンナさんはもう少し身の程を弁えたらどうです?」
「リンナ?トワちゃんはセラの次くらいには強いのよ?一度負けて落ち込むなんてお門違いだわ」
「お前ら辛辣だな!!私だってそれくらい分かってるわ!!」
相変わらず騒がしい人達ですね。でも、こんな光景も悪くないと最近は思い始めています。それでもやっぱり一人の方が気楽なことが多いのですけどね。
「大体な!あの時の惨状を体験していないからそういうことが言えるんだ。私だって途中から割と本気で動き回っていたんだぞ!?結構マジで死の恐怖を感じたからな!?」
「はいはい。リンナの話はもうその辺で良いよ。そんなことより、明日の話をしよう。王都観光をするって言ったけど、具体的にどこに行きたいとかってあるかな、トワちゃん?」
あ、リンナさんの話がそんなこと扱いされて落ち込んでしまいました。まぁ、放っておきましょうか。切り替えの早い人ですし、あんなに文句を言いながらも次はどう動こうとかきちんと考えているタイプですからね。皆さんもそれが分かっているのでリンナさんを無視して話が進みます。
「・・・そうですね。魔術具のお店を見てみたいとは思っています」
「まっかせて下さい!!!魔術具に関しては王都のほぼ全てのお店を網羅しています!!どこにでも連れて行ってあげますよ!!?」
急にテンションが天元突破したクーリアさんが詰め寄ってきます。セラさんが溜息を吐いてクーリアさんの首根っこを掴んで引きはがしました。
「お店はとりあえず、大通りの大店から見繕えばいいでしょ?他には何かない?」
「・・・後は、そうですね。王立図書k」
「王立図書館ですか!?行きましょう!是非行きましょう!!私が館内を案内してあげますよ!!!」
「クーちゃん落ち着いて落ち着いて。どうどう」
「・・・」
「見事にクーリアにドストライクな場所ね。あ、でも、私も王立図書館に行ってみたいわね。かなり昔に一度行って以来、機会が無くて入った事が無いもの」
「へぇ。それは意外だよ。じゃあ、図書館も確定ね。う~んと言っても、図書館だけで何日か使っちゃいそうなんだよね~。図書館には毎日通いつつ、間に他の場所も回るようにしようか」
というわけで、王都観光はおよそ一週間ほどの予定で、王立図書館に通いつつ道中でいろんな場所を寄り道していくことに決まりました。毎日図書館通いということで、クーリアさんのテンションが異常に高いのは仕方ありませんが、意外なことにリンナさんも楽しみにしているようです。
「私だって本くらい読むさ。せっかくだし、兵法の本とか読んでおきたいな。トワとの訓練にもっと幅を広げられるようにしないとな」
――あ、ソウデスカ。
なんとも言えない気持ちになっていると、突然セラさんが立ち上がります。
「よし!予定も決まったことだし、お風呂入ろうか?トワちゃんもね。ね?」
「そうですね。明日のために英気を養いましょう」
「二人がトワちゃんに粗相をしないように、私が護衛をするわ」
「私もお風呂に入りたい気分だったんだ。よし、行こうか」
そうしてあれよこれよと本日二回目のお風呂に行って、今日はそのまま就寝となりました。
王都観光一日目。王立図書館に向かう前に、まずは予定通り魔術具を取り扱っているお店に行くことになりました。
私達の泊まっている『春風亭』は王都の東地区側にあります。王立図書館は中央寄りですが南地区にあります。魔術具を扱う店だけならばどの区画にもありますが、沢山の種類を扱うような大店となると南地区にあるそうです。つまり、必然的にわたし達は南地区に向かうことになりました。
王都の南には獣人の部族が連なって出来た獣人国があります。あまり大きな国ではありませんが、獣人は身体能力が高くて結束力の強い種族で、武力という面では小国ながら王国の騎士団総力に匹敵すると言われています。
そんなわけで獣人国が南側に存在するので、南地区には獣人がとても多く居ます。そして、魔力を身体強化以外であまり使えないと言われている獣人に、魔術具がとても売れるらしく、魔術具を扱う店もとても多いらしいです。
「・・・そう言う風に聞くと、魔術師のクーリアさんは獣人には珍しいタイプなのですね」
「ええ、まあ、そうですね私は身体能力も普通の人間並みしかありませんから、珍しいと思いますよ」
平然とした風な様子でクーリアさんは答えますが、少しだけ顔が強張っています。恐らく、クーリアさんがこのパーティーに居る事情というのにも絡んでくることでしょうか?今後話題にするのは避けた方が良さそうですね。
「魔術具ってなると、やっぱりザムザ魔術具店かな?」
「大衆向けならばそうですが、トワちゃんならもっと専門的な方が良いのではないですか?ドラーフのお店の方が値段は張りますが良いものが揃ってますよ?」
「・・・とりあえず大衆向けの安価なやつから見に行きましょう」
最初から特殊なタイプの魔術具見ても訳が分からないじゃないですか。クーリアさんはわたしをなんだと思っているでしょうか?
クーリアさんの案内で、三階建ての大きなお店にやって来ました。看板には『ザムザ魔術具店王都本店』と書いてあります。
「着きましたよ。ここが王国の王都に本店を持っていて各国の様々な場所で支店を出している、最も大きい魔術具店の『ザムザ魔術具店』です。一般人向けから冒険者、商人などの幅広い客層が利用しているお店で、魔術具の修理や買い取りも請け負っていますよ」
「・・・一般人向けとはどんな魔術具なのですか?」
「基本的には掃除用や収納用かな。食料を長期間保存する冷蔵庫とか、魔力を込めるだけで床に落ちている埃を取り除いてくれる魔術具とかがよく見るやつかな」
――地球で言う家電のようなものと考えれば良いのですかね。
「全ての人が魔力を持っているとはいえ、全ての人が魔法を使えるわけではありませんからね。先程獣人の話をしましたが、獣人は魔法の適正がかなり低くて、魔法スキルを覚えたりレベルを上げたりするのが人族の中でも目に見えて遅いのです」
「・・・適正ですか。そういったものもあるのですね」
「詳しいことは分からないけど、獣人の場合は体の中に魔力を取り込んで養分にして成長するから、使える魔力が少なくなる代わりに身体能力が非常に優れてるって仮説があるみたいだよ」
「・・・魔力を取り込んだら、魔人や聖人のような体に成るのでは?」
「その辺りが分からないから仮説なんだよ。エルフは魔力が非常に多く体に満ちているから、半聖人化しているせいで寿命が非常に長いって言われているけど、身体能力は人間とあまり変わらないからね。これ以上は専門の研究家の人に聞かないと私にもさっぱりだよ」
「魔術具から話が逸れているわよ?ここで時間を使うと図書館で本を読む時間が減るわよ?」
エルさんが呆れたように腕を組んで話に割り込みます。確かに、今は関係ない話題ですね。わたしはエルさんにこくりと頷いて、先頭でお店の中に入ります。
店内はまさにホームセンターといった感じで、用途や需要毎に並べられた数多くの魔術具が棚や壁に整然と並べられていました。とりあえず、目についた手身近にある魔術具を手に取ってみます。
「・・・卵?」
「あ、それは危ないから間違ってもここで起動させちゃダメだよ?」
「一応ロックが掛かっていますから、起動出来ないはずですけど」
「トワちゃんならやらかしそうな気がして・・・」
――つくづく失礼な人達ですね。
セラさんの言葉に納得の顔を見せる三人から、ふいと視線を逸らして手に持った卵の魔術具をまじまじと見ます。
卵に刻んである模様は魔法陣ですね。まだ魔法陣についての勉強はしていないので、どの記号や模様がどんな意味があるのかまではさっぱり分かりません。
「・・・ちなみに、これはどういう魔術具なのですか?」
「掃除道具だよ。部屋を綺麗にするの」
危険な物だと言っていたので少し身構えていたのですが、掃除道具と聞いて首を傾げます。そんなに危険そうには思えないですが?わたしが疑問に思ったのを気付いたのか、クーリアさんが苦笑しながら補足してくれます。
「それは、魔法の水が部屋全体に広がって床の汚れやゴミを取る魔術具ですよ。ただし、きちんと効果範囲を設定しておかないと、床どころか家中水浸しになるので、きちんと説明書を読んでから使いましょうね」
「ここでお店を水浸しにしたら、さすがに弁償の額が凄いことになるわね。トワちゃん。それを元の場所に戻しておいて。万が一にも起動することは無いはずだけれど、一応、ね」
エルさんに念を押されるように言われて、大人しく魔術具を棚に戻します。一階では街に暮らす家庭向けの商品が多いみたいですね。掃除、洗濯、料理関係のような家事のお助け用品のようなものから、クーラー、ヒーター、冷蔵庫、湯沸かし器のような家電(電気では無いですが)製品が主のようです。ぐるりと時間をかけて見て回り、次は二階上がってみます。
「二階は専門職用が多いかな。冒険者もそうだし、商人とか工場の人向けの商品が置いてあるよ」
「・・・ふむふむ」
わたしは手身近にある商品を手に取ります。赤いボールのようなものですね。わたしが手に取った瞬間またもや周りがざわめきだします。
「なんで、一番最初に手に取るやつが毎回物騒な奴なんだ?」
「ロックが掛かっていると分かっていてもひやひやしますね」
「この子は本当に目が離せないわね」
「と、トワちゃん。とりあえずそれ置いて他の見に行こうか?」
・・・この人達は本当にわたしのことをどう思っているのか小一時間くらい問い詰めてやりたいですね。まあ、それは置いておきまして、わたしは手に持っている赤いボールをクーリアさんに向けます。クーリアさんが一歩引きつった笑顔で下がりました。
「・・・で、これは何に使うのですか?」
「え、えーとですね。それは、爆裂玉といって、攻撃魔法が使えない人向けに開発された魔術具ですよ。爆裂といっても、一般的なファイアーボール一発分くらいの威力しかないので、発破作業に使われることが多いですね。冒険者でも戦闘用というよりは硬い鉱物とかの採取用に使うことが多いです」
「・・・なるほど。魔法使いが居ないパーティーではつるはしで採るしか無いですからね」
「大体の冒険者は初級魔法くらいまでは覚える人が多いんだけどね。でも、身体強化でほとんどの魔力を使うから、残った少ない魔力を魔術具の起動用に取っておくせいで、実際に魔法を使う機会はあまりないんだよね」
なるほど、以前にクーリアさんが言っていましたが、どんなに魔力が少なくても、適正が無くても、勉強と研鑽を重ねればどんな魔法でも使うことが出来るそうです。それでもやはり、魔力の効率が悪かったり、少しでも魔力の消費を抑えるために、こうした魔術具が使われるのですね。
それから、二階の魔術具をぐるりと見ていきます。一階の日用品や家電のようなものに描かれていた魔法陣と似たような記号や模様を何度も見つけ、その共通性からどんな意味なのか推察していきます。わたしが小さな風の流れを作る魔術具の魔法陣を見ていると、そんな様子をじっと見ていたクーリアさんが口を開きます。
「以前から思っていましたが、トワちゃんって研究者寄りの思考をしていますよね?何がどうしてどうなってこうなっているのかを細かく見て学ぼうとしている気がします」
「・・・わたしは適当ですよ?公式を知ったら後はその公式を使うだけで、何故その公式を使うのかとか、その公式がどのようにして成り立っているのかとかは興味がありませんから。・・・わたしは自分で使えるようになればそれで良いのです」
「まあ確かに、かなり大雑把なところがあるよな、トワは」
「そうね。かなり難しい魔法に関しては綿密に考えて試行錯誤を重ねて作り上げているけれど、感覚だけで出来る様になったら、かなり適当に使っているものね」
わたしの場合はイメージだけで大概のことが魔法で行使出来てしまうため、そのイメージをいかに強く、正確にするかで効果や魔力の消費に大きな差が出来るので、最初はかなり試行錯誤を重ねて研究しますが、何度か使ってしまえば感覚で覚えてしまうのです。後は、その感覚だけで魔法を使った方が早く魔法を行使出来るようになるので、それ以上また研究するのが面倒になるのですよね。より強く、効率的を目指すならば定期的に研究した方が良いのでしょうけど。
「ところで、どうしてトワちゃんは魔術具が見たかったの?それこそトワちゃんの魔法なら一番必要ないものじゃない?」
セラさんが今更疑問に思ったという風にわたしに聞いてきます。クーリアさん達も同じに思ったのか、揃ってわたしを見てきました。
「・・・そうですね。目的の一つは、何か面白そうな魔法のアイデアが無いかどうかを探すためです。・・・他には、人族の生活の営みの一部を見ることが出来ますし、魔法陣の勉強にもなります」
「やたらとしっかり魔法陣を確認していましたからね。やはり勉強するのですか?」
わたしはこくりと頷きます。原初魔法はいうなれば最も燃費の悪い魔法の使い方です。魔法のイメージからイメージの具現化、行使まで全てに魔力を使います。ですが、通常の魔法では、詠唱でイメージを補い、魔法陣でそのイメージを具現化する補助をして魔法を行使するのです。
詠唱は恥ずかしいのでやる予定はありませんが、魔法陣は使えるようになれば大幅な魔力の節約や、魔術具のように別の使い方が出来るようになります。覚えておいて損はないでしょう。
「ふぅん。で?何か面白そうなイメージは湧いたの?」
「・・・まぁ、便利そうな魔法はちらほらと思い付きましたね。やはり、人間視点の製品は着眼点が面白いです」
「もし良ければその魔法実験に付き合わせてください。魔法の訓練にもなりますし、間近で見ることで私もいつか使えるようになるかもしれません」
クーリアさんが黒い瞳をキラキラとさせて迫ってきたので、やや気圧されながらも承諾します。見られて困るような魔法の練習はしないですし、普段からいろいろ教えてくれているお返しも出来ますからね。これぐらいお安い御用です。
二階もひと通り一周したので、最後に三階に向かいます。すごくあっさりと回っているように言っていますが、ここまでで鐘一つ分の時間は使っているので、およそ二時間は店内をうろついていることになります。
セラさん達もこの辺りの魔術具は大体持っているか、必要ないようなものばかりなので、基本的にはわたしが手に取ったり、質問したものを説明していました。あ、リンナさんは一階で何か買っていましたね。別行動していたので何を買ったか分からないですけど。
そして三階ですが、この階はケージに入っていて手に取って見ることが出来ないものが多いようです。
「三階はやや値段の張る物や、新商品の魔術具の他に、使えるように整備された古代の魔術具が置いてあります。他の階に比べると中上級の冒険者や、一部の行商や商人、ごく僅かですが貴族も来るそうですよ」
「貴族は貴族街のお店使えば良いのに。迷惑だよね」
セラさんは貴族が嫌いなのでしょうか?やはり昔住んでいた所だからなのか、他の街よりも感情のブレが大きいような気がしますね。なんにせよ、地雷が埋まっていそうな話題は避けましょうか。
他の皆さんも心得ているのか、セラさんの呟きには一切反応しないで、階段からすぐのショーケースを見に行きました。先ほどまでよりも皆さんが乗り気で見に行くのは、普段はこの階で買い物をしているからでしょうかね。一応上位の冒険者ですし。
わたしも皆さんに釣られるように一緒のショーケースを見に来ます。よくあるブレスレットですね。宝石に魔法陣が組み込まれているようです。紫色なのでアメジストでしょうか?かなり精巧で複雑な魔法陣が組まれていて、にわかのわたしにはさっぱりです。
「へえ。なかなか高性能な収納の魔術具だな。しかし値段が・・・う~ん」
「リンナでも余裕で買えるでしょう?いい加減収納袋からブレスレットにしなさいな」
「いやあ、これが手に馴染むんだよなあ。なかなか手放しづらくてな。あと、さすがに余裕では買えない。しばらく個人的に依頼を受けて金を貯めないといけなくなるくらいにはきついぞ」
どうやら収納魔法が組み込まれた魔術具のようですね。一般家庭から冒険者、商人とほとんどの人が重宝する道具ですが、一番安価な収納袋でも小金貨が飛んでいきます。ちなみに、上位の冒険者であるリンナさんが躊躇うほどの高価なブレスレット型の収納の魔術具よりも更に高そうなものを、エルさんが平然と使っています。この人、立ち居振る舞いもどこか品が良いですし、実はエルフの中でもお嬢様なのではないでしょうか?それとも、エルフが皆こんな感じなのでしょうか?
「リンナさんがどうしても欲しいなら、パーティー共用のお金からも少し出しますよ?・・・あ、これ炎系統の魔法の威力を上げる魔術具ですね。・・・ふーむ。この魔法陣の構成だと制御は補助してくれないのですか。いや、あえて制御を外して効力を高めた感じですね。炎系統は比較的得意な魔法ですが、これをつけていきなり実戦は難しそうですね」
さすがというか、クーリアさんは少し見るだけで説明文には書いてない魔術具の特性を見破っています。そして一つ一つの魔術具を丁寧に見ていき、時にはクーリアさんが解説していきます。高級品や新商品、特殊な商品を見終わったら残りは古代の魔術具です。
古代の魔術具というととても凄そうなイメージですが、そうとも限りません。あくまで古いだけで、今の時代の物の方が高性能だったりすることが多いそうですが、稀に今の技術でも作れないような能力を秘めた魔術具が見つかることもあるそうです。そして、遥か昔に神が作り地上に送ったとされる魔術具が存在します。アーティファクトと呼ばれているものですが、各国にそれぞれ国宝として実在しているそうです。しかし、いずれももう効力を失い、ただの置物に成り果ててしまっているそうですが。
「・・・アーティファクトはもう全て見つかっているのですか?」
「いくつあるのか分からないので、全て見つかっているかは分かりませんよ。でも、昔国があった場所にはアーティファクトがあるのではないかと、探索隊が世界各地を調査していると聞いたことがあります」
「そうね。少なくとも、500年前に滅んだ国にもアーティファクトがあったはずだから、跡地のどこかに埋まっているはずよね。なぜか見つからないから、もうどこかの誰かの手に渡っているのではないかと言われているけど」
「まあ、見つけても使えないようなただの置物だからね。高くは売れると思うけど、アーティファクトだと鑑定だと分かるまでにかなり時間がかかるから、割に合わないと思うよ」
なんでも、基本的にアーティファクトは特定の鑑定能力のあるユニークスキルが無いと確認することが出来ないそうです。逆に言えば、ありとあらゆる鑑定方法をはじくようなものがアーティファクトの可能性が高いと言われているそうです。
「さて、なにか掘り出し物はあるでしょうか?」
クーリアさんが上擦った声でショーケースに近づきます。歩き方もどことなくスキップしているように見えます。
「私は見てもさっぱりだからなあ。クーちゃん、なにか良さげなのある?」
「むむむ~。どれも微妙ですね。現存する魔術具でもっと良いものが作れそうです」
――古代の魔術具の魔法陣まで網羅しているのですか。クーリアさんは本当に魔法オタクですね。
わたしが呆れていると、クーリアさんはあるショーケースで立ち止まりました。
「うん?何でしょうこれ?始めて見る魔法陣ですね」
クーリアさんの声に釣られて他の全員が同じショーケースに集まります。中を覗き込むと黒い石がはめられた指輪が飾ってありました。その石を見た瞬間わたしは心の奥底から何か嫌な予感を感じ取ります。それと同時に呼ばれているような惹かれるような、わたし自身もよく分からない感覚に陥いりました。そんな中、他の皆さんがわいわいと話を続けます。
「看板には壊れた魔術具、修理不可商品って書いてあるな。効果も不明だ。でも、クーリアの言った通り、正体不明の魔法陣が刻まれているのと、正体不明の宝石がはめ込まれているからか、ものすごく高いな」
「真っ黒な宝石だね~。オニキスに近いけど、ちょっと違うね。・・・クーちゃん、あの魔法陣なんだか分かりそう?」
「う~ん、属性の無い特殊系の魔法陣なのは間違いないのですが、私の知っている中では見たことのないものですね。近いものでは、索敵や遠視に近い魔法陣があるのですが、どれも複雑に混ざり合っていてごちゃごちゃしている感じですね。もともと起動しないの前提で作ったものじゃないでしょうか?」
「クーリアで分からないものが私達に分かるわけないし、使える訳無いわね。次に行くわよ」
エルさんの言葉で全員が納得したようにその場を離れていきます。クーリアさんだけはちょっと名残惜しそうにしましたが、すぐに目を逸らしました。わたしは思わず離れていこうとするセラさんの袖を掴みました。
「え?どうしたのトワちゃん?」
「・・・あ、えっと・・・その・・・」
値段をちらりと見ます。リンナさんの言う通り、使えないとはいえ研究品としては一級なのでかなりの値段がします。わたしの手持ちのお金では到底払えないでしょう。とはいえ、ねだるのも渋ります。さすがにそこまで厚かましくはないつもりです。
「・・・その・・・」
「ん~。しどろもどろのトワちゃんも可愛いから良いんだけど、言いたいことははっきりと言った方が良いよ?言わないと後悔するかもしれないからね」
セラさんが後押しをするように優しく声を掛けてくれます。気付けば、移動しかけていた全員がその場で止まってわたしを見ていました。わたしは意を決してセラさんを見上げます。
「・・・わたし、これ、欲しいです」
わたしの言葉にセラさんは物凄く困ったように顔をしかめます。でも、わたしの真剣な様子に何かを感じたのか、表情を消してわたしに顔を近づけます。
「なんでそこまで必死なの?アレがなんだか分かるの?」
久しぶりに聞くひんやりとした声に思わず背中に冷たい汗が流れるような感覚になります。わたしは正直に言う事にしました。この状態のセラさんに嘘や誤魔化しは良くないというぐらいはすぐに分かります。
「・・・わたしにも分からないのですが、何故だかあのままにしておくのは嫌な予感がするのです。出来れば手元に持っておきたいのです」
わたしの言葉に嘘が無いことを確かめるようにじっと見られた後、表情を崩して笑顔になります。そして近づけていた顔を離して再び先ほどのショーケースを覗き込みました。
「なんだか、トワちゃんがこの指輪気に入っちゃったってさ。どうする?買っちゃう?」
「簡単に言いますけど、さすがにこの金額は割り勘でも厳しいですよ?」
「セラなら自腹で買えるだろ?プレゼントしてあげたらどうだ?」
リンナさんの台詞にセラさんはむ~っと口元に指を当てて考えるように値札を見ると、顔を上げて振り返ると「店員さん呼んでくるね」と言って歩いていきました。
「え?本当に自腹で買えるのか?あいつどれだけ貯めこんでいるんだよ」
リンナさんが驚いたような、呆れたような顔でそう言うと、クーリアさんも同じような顔で頷きます。そして、店員さんを連れてセラさんが戻ってきました。
「みんな~。今日は私がおごってあげるから、何か好きなの買いなよ。店員さん、割引はよろしくね?」
「はい!それはもう喜んで!」
店員さんの顔が隠し切れないぐらいに喜んでいますね。セラさんの言葉でわたし以外の三人がそれぞれ目的の魔術具を探しに行きます。セラさんはそれを確認するとわたしの傍まできました。
「私の見立てでも、クーちゃんの見立てでも正体不明で使えないやつだから大丈夫だと思うけど、トワちゃんの勘が危険だというならしっかりと持っててね。もし本当に危険なものなら、トワちゃんが自分でしっかりと処分するんだよ?」
「・・・分かりました」
わたしは指輪を首に掛けられるようにチェーン(ミスリル製)も買ってもらい、首にネックレスのように掛けました。宝石が見えない様に服の下に入れておきます。
ちなみに、クーリアさんは時属性の魔法陣が刻まれた用途不明の魔術具、エルさんは風と炎と氷の魔法陣が刻まれた装着した人を常に一定の温度で包んでくれる魔術具、リンナさんは武器に四属性を付与できる魔術具を選びました。言うまでもありませんが、わたしの選んだ魔術具よりワンランク下なだけで遠慮の欠片もない高額商品です。さすがのセラさんも全部見た時は頬が一瞬だけひくっと引きつくのが見えました。
 




