24話 転生うさぎの王都観光(図書館編)
魔術具店を後にしたわたし達は、思ったよりも時間を使ってしまったため、このまま王立図書館に向かうことになりました。
「みんなさぁ。もうちょ~~~っとだけ遠慮してくれても良かったんだよ?」
「あら?貴方ならあれくらいの値段大したことじゃないでしょう?」
「まあ、確かにそうなんだけどね」
――え!?かなりの値段だったのですが、あれで大したことじゃないのですか!?
わたしが驚いて思わずセラさんを見上げると、セラさんがおどけたように肩を竦めて耳の傍まで顔を寄せこっそり耳打ちします。
「実は、今回のでようやくむか~~~~~しの依頼の報酬分が使い終わったところなんだよね。それから数年分の高ランク依頼の報酬がまだほとんど手付かずで残っているから、私も困っているんだよね」
――こんなことなら、もっと貪欲にねだれば良かったです!
どうやら、わたしの考えていた以上にセラさんはお金持ちのようでした。わたしが愕然としていると、クーリアさんがわたしの隣に並んできて補足します。
「ちなみに、エルさんもとってもお金持ちですよ。理由は知りませんが、今日セラさんが払った金額ぐらいならば痛くないくらいのお金をお持ちでしょう?羨ましい限りです」
「クーリアの場合はお金が貯まってもすぐに魔術具や魔法関係の本に使ってしまうからいけないのでしょう?それに、確かに私やセラは他と比べてもお金を持っている方だけど、貴方達だって高ランク冒険者なのだから、ある程度の貯金はあるでしょうに」
「まあ、な。否定はしない」
――この人達、一度豪遊でもしてお金を街にばらまいた方が良いのではないですか?
若干もやもやとした気持ちのまま目的の王立図書館に到着しました。少し先に学校っぽい施設も見えます。時間的に学生は授業中でしょうけど。
「ああ~。何度見てもでっかいね~。この図書館は」
「何度来ても飽きない蔵書数です!ではさっそく行きましょう!」
「クーちゃん、テンション高いな~。私がトワちゃんについてるから、皆は自由にうろついてて良いよ。・・・良いよね、トワちゃん?」
「・・・はい。構いませんよ」
ほんのちょっぴり不安はありますが、セラさんならば大体の質問に答えてくれそうですからね。勉強相手にはぴったりでしょう。テンション爆上がりでそわそわしているクーリアさんの先頭でわたし達は図書館の中に入ります。
「あら?クーリアじゃない。あと、セラも居るのね?それと、ご機嫌麗しゅうございます、エルアーナ様」
図書館のカウンターにはたくさんの人形たちが座っていて貸し出しと返却の仕事をしています。その他にも返却された本を元の場所に戻したりなどで、あちこち動き回っていました。とてもファンタジーな光景です。わたし達に声を掛けてきたのはエルフの女性でした。エルさんに似て、綺麗な顔で鮮やかな金髪をしています。
「久しぶりね、レティアーナ。まだここで働いていたのね。それと、様は止めてちょうだい」
「これは、失礼をエルアーナ。貴方を呼び捨てで呼ぶなんて私が落ち着かないけれど、仕方ないわね。・・・さて、それで、このメンバーを見るに貴方達は『白の桔梗』ね。初めての人も居るみたいだから挨拶するわね。私はレティアーナ。見ての通りのエルフよ。この王立図書館の管理を任されいる司書をしているわ。設備についてはここを利用していたセラやクーリアに聞いてちょうだい。それでも分からないこととかあったら私に聞きに来てね」
それから、クーリアさんからざっと図書館の設備の用途と、本の貸し出しや返却のやり方、本の探し方や各区画の説明、禁止事項やマナーなどが早口で説明されました。よっぽど早く本を読みたかったのか、説明が終わると我先にと図書館の中を早歩きで去っていきます。
――あれ?案内をしてくれるのでは・・・?
「私はここで少しレティと話をしているわ。皆は行って来なさい」
「あら、エルアーナとお茶会なんて光栄ですね。奥へどうぞ。私のお気に入りで良ければ紅茶とお茶菓子が常備してありますから」
「悪いわね。それじゃ、失礼するわ」
エルさんとレティアーナさんはそのままカウンター奥の部屋に引っ込んでしまいました。というか、レティアーナさんは仕事中ではないのでしょうか?わたしが疑問に思っていると、セラさんが苦笑しながら教えてくれます。
「この図書館にある人形は全てレティアーナさんの魔法で動いていて、カウンターに居なくても館内の様子が分かるから問題無いの。それと、この人形達はレティアーナさん特製の魔術具で、レティアーナさんが直接操作しない自動迎撃モードでも冒険者のC~Bランク程度の強さがあるから気を付けてね」
C~Bランククラスの強さを持つ人形が何十体もうろついているということに驚愕するわたしとリンナさんを尻目に、セラさんはカウンターに座っている人形に話しかけます。
「レティアーナさん。七の鐘が鳴る頃になったら私達は帰るので、クーちゃんとエルさんに伝えておいてください」
人形がこくりと頷きました。それを確認すると、満足したようにセラさんはわたし達に振り向きます。
「それじゃあ、行こっか?リンナは武術に関係する本だったよね?とりあえず、先にそっちを案内するね」
「あ、ああ。頼む」
慣れた様子のセラさんがスタスタと館内を歩いていくのを見失わないように、わたし達は慌ててセラさんの後を追いました。
それから、セラさんがリンナさんを武術関連の本まで案内すると、そのままリンナさんを置いてわたしと別の場所へ向かいます。
「それで?トワちゃんはなんの本が読みたいの?」
「・・・そうですね。この世界の歴史書はありますか?」
「もちろんあるよ。こっちこっち」
セラさんの先導で歴史や古文書が置いてある区画まで来ます。わたしの身長の倍以上はある本棚がずっと先まで続いていて、ここだけで何千冊もありそうな雰囲気ですね。
「歴史といってもいろんなのがあるけど、何にするの?」
「・・・まずは世界共通の歴史からお願いいします」
「そういえば、普段気にしなかったけど、基礎教育なんて受けてないもんね。トワちゃんが読みたいなら良いけど、日常生活でほとんど使わない内容だよ?」
「・・・知っておきたいですから」
「ん。了解。じゃあ持ってくるね。トワちゃんは向こうで座ってて」
本を見繕ってくれるそうなので、わたしは大人しく言う通りに共用の大きなテーブルに座ります。この辺りはあまり需要が無いのか、わたし達以外には誰も居ないようです。
しばらくぼーっとしながら待っていると、いくつかの分厚い本をふわふわと浮かせながらセラさんが歩いてきます。そういえば、以前にクーリアさんも使っていましたが、あれ便利そうですよね?是非体得したいです。
「・・・セラさん。その本をふわふわさせるのってどうやるのですか?」
「え?ああ、これ?風魔法の応用だよ。というか、トワちゃん以前に魔法で浮いていたじゃない?」
――あ、重力魔法のことを忘れていました!
原初魔法で大概のことが出来てしまう弊害ですね。今度時間のある時に重力魔法の効果の確認をしなければいけませんね。以前使った時は完全にノリと勢いでしたからね。
「・・・あれ?セラさんが合流したのは、わたしが魔物を倒してからではありませんでしたか?」
「合流したのはたしかにそうだけど、遠目からでもトワちゃんの攻撃が見えたんだよ。かなり派手だったんだから」
「・・・なるほど」
セラさんがあの時のことを呆れたような口調で言うと、持ってきた本をテーブルの上に並べていきます。どれも古くて分厚そうな本ばかりですね。とても手強そうです。
「あまり古すぎる本だと、言い回しが難しくて読みにくいだろうから、まずはこれからだね」
そう言ってセラさんは並べた本から一冊をわたしの前に置きます。セラさん曰く、この一冊だけでほぼ問題ないくらいの情報はあるそうです。これ以上のことが知りたいならば一緒に持ってきたかなり古い本を読む必要があるとのこと。
「・・・とりあえずはこの本だけで良いです」
「りょ~かい。もし読めないのがあったらいつでも聞いてね。私はせっかくだからこの古い本読んでみようかな~と」
わたしが手元にある本を取るのを確認すると、セラさんは一番分厚くて装飾の多い本を手に取って読み始めます。少し悔しいですが、セラさんならば難しい本でも難なく読めてしまいそうですね。わたしはペラペラと本をめくります。
この世界の名前は『エデン』というそうです。これまた大層な名前ですね。楽園ときましたか。別に意味は地球と全く同じというわけでは無いのでしょうが、前世の知識があるわたし目線ですと、少し複雑な気持ちですね。地球で無かっただけマシでしょうか。
――この世界を造ったのは創造神とその眷属の五柱の神々。そして五柱の神々の眷属の精霊達という設定なのですね。
どうも宗教の本やファンタジー世界の設定を読んでいる感じがして実感が湧きません。一応この世界では神が造ったということになっているようですし、魔法という概念や天使や悪魔関係のスキルがあるのです。本当に神が存在している可能性は否定出来ませんね。
そうして読んでいくと疑問な点や意味の分からない言い回しの言葉が出てきます。それをひとつひとつセラさんに聞いて確認しながら読み進み、読み終わる頃にはちょうど七の鐘が鳴るのが聞こえました。
「・・・さすがに、一日で何冊も読み解くのは難しいですね」
「歴史書は古くて難しい書物ばかりだからね。むしろ、一番簡単な物とはいえ、良く一日で読めたね。それだけでも凄いと思うよ」
「・・・スラスラと読んでいるセラさんに言われると、ちょっとイラっとしますね」
「私は勉強したからね。高ランクの冒険者になると、昔の古い遺跡を調べたりする必要性があるから、どうしても古い言葉を知っておかないといけないんだよね。私だって最初はとっても苦労したんだから」
とりあえず一冊分の本を読んだわたしはセラさんと一緒に、他の皆さんと合流するために入り口カウンター前のホールに向かいます。
「で?誰も居ないんだけど?」
「・・・途中でリンナさんだけでも回収するべきでしたね」
「あそこから移動してる可能性もあるから、あえて寄らなかったんだけど、見ておけば良かったね」
セラさんは仕方なさそうにカウンターに座っている人形に話しかけます。
「レティアーナさ~ん。私の仲間が何処に居るか分かりますか~?」
少し待っていると人形がセラさんを見上げます。
「あら?もう七の鐘なのね?今からエルアーナをそちらに行かせるわ。リンナは2-17区画にいるわ。クーリアは1-21区画ね。私から声をかけようかしら?」
「あ、いや、エルと合流したら私が直接行くから大丈夫。あ、でも二人にそこから動かないように言っておいてもらえると助かります」
「分かったわ」
話が終わると、人形がセラさんから目を離して正面を見ます。どういうスキルや魔法でやっているのかとても気になりますが、詮索するのはマナー違反なのでぐっと我慢です。
そのままホールで待っていると、エルさんとレティアーナさんが出てきました。レティアーナさんはまた奥に引っ込んでしまい、エルさんはわたし達のところまで真っすぐにやってきます。
「ごめんなさいね。時間を忘れて話し込んでしまったわ」
「別に気にしてないよ。とりあえず、後の二人を回収しに行こうか」
まずは、二階に居るリンナさんからです。館内の地形を把握しているセラさんが先頭で、わたし、エルさんの順番で進んで行きます。気付けば学生服を着た人をちらほらと見かけますね。
「トワちゃんも服に紋章が付いていれば学生っぽいね」
「いっそ学園通ってみるのはどうかしら?いろいろ学ぶには一番手っ取り早いんじゃないかしら?」
「私とクーちゃんがいれば問題無いよ。特にクーちゃんは学園を飛び級で主席卒業した秀才なんだから」
セラさん達に出会っていなければ、学校に通うこともあったかもしれないですね。今の環境では必要性が感じられないので行く気はありませんが、どのような教育をしているのか興味は多少あります。
そんなことを話している内にリンナさんを見つけます。レティアーナさんの人形に言われた通りに動かないで待っていてくれたようです。リンナさんはわたし達に気付くと読んでいた本を閉じて立ち上がってその場で大きく伸びをします。
「まったく、この図書館はまるで迷宮だな。少し歩いただけで自分がどこに居るのか分からなくなりそうだ」
「冒険者歴の長いリンナがこんなところで迷う訳無いでしょ?ちゃんと集合場所まで来てよ」
「すまんすまん。読んでいたら興味深いことがいくつもあってな。ついつい読み進めてしまった。これじゃあ、エルやクーリアに文句は言えないな」
「そうね。私の気持ちが分かるようになったなら、今後は読書の邪魔をしないでちょうだい」
――エルさんは邪魔をしても無視して読み続けている気がするのですが。
思わず言いそうになりましたが、直前でこらえます。クーリアさんは本当に夢中になって動かなくなってしまいますが、エルさんはちゃんと周囲を確認して無視していいかどうか判断していますからね。ここでわざわざ混ぜっ返す必要は無いでしょう。
さて、リンナさんとは無事に合流出来ましたが、問題はクーリアさんですね。言いつけ通りに場所を動いていないと良いのですが。
「あ~~もう。やっぱり居ないよ、クーちゃん」
リンナさんと合流したわたし達は最後にクーリアさんと合流するべく、動かないようにと言った場所まで来たのですが、予想通りと言いましょうか、クーリアさんは新たな本を求めて移動してしまったようです。
「・・・先にクーリアさんと合流しておいたほうが良かったのではないですか?」
「いえ、恐らくどのタイミングで行っても移動していたでしょうから関係ないわ。仕方ないわね。夕食の時間に間に合わなくなるのは困るから、またレティに協力してもらいましょう」
エルさんが片手を上げると、緑色の光がふわふわと飛んで行きました。精霊でしょうか?すると、すぐにどこからともなく人形が一体やってきます。
「いつものように、クーリアはあちこち移動しながら読み漁っているみたいね。私が案内するからついてきて頂戴な」
「よろしくね、レティ」
レティアーナさん(の人形)の案内で、いくつもの本を浮かせさながら両手で分厚い本を読みつつ館内を歩くクーリアさんを見つけます。その異様な光景に近くにいる利用者も思わず本から目を離してクーリアさんを見ています。
「ありがとう、レティ。もう良いわ。後は私達でやるから」
「ありがとうございます。レティアーナさん」
エルさんとセラさんがそれぞれレティアーナさん(の人形)にお礼を言うと、そのまま人形はどこかへ去っていきます。わたしが去っていく人形を見ていると、セラさんが大きく溜息を吐くのが聞こえました。
「はぁ。これがしばらく続くのかと思うと、さすがの私でも面倒に感じるよ」
「とりあえず、クーリアを連れ帰るかぁ」
そう言うと、セラさんはおもむろに剣を手に握ります。リンナさんも狭い場所用に使う剣を取り出して周囲を傷つけないように膜を張ります。
――なぜ?臨戦態勢なのでしょう?
わたしが疑問に思って首を傾げるのと、セラさんが一瞬でクーリアさんの傍まで移動したのはほぼ同時でした。
「クーちゃん!帰るよ!っと」
セラさんが近づいた瞬間、クーリアさんの周りに突如魔法陣が出現して風の弾丸が襲い掛かってきました。セラさんは苦も無く剣でその弾丸をはじきます。
――クーリアさん・・・一体何をやっているのですか?
「おいこらクーリア!!早く帰るぞ!!」
いつの間にか正面に回り込んでいたリンナさんが声を掛けますが、クーリアさんは気付く様子もなく再び宙に浮いている魔法陣が光って風の弾丸が飛んで行きます。それと同時に宙に浮いていた本も飛んで行きました。
「・・・あれ、良いのですか?」
わたしが飛んでいる本を指差して、隣に居るエルさんに問い掛けます。
「クーリアが本を傷つける訳無いでしょう?きちんと過剰なまでの防御と硬質化の魔法が掛けられているわ。だからこそ、あれに当たると痛いわよ」
リンナさんが風の弾丸を切り伏せつつ、飛んでくる本は華麗に避けます。いくら防御の魔法が掛かっているとはいえ、さすがに本に剣を向けるのは出来ないようです。しかし、リンナさんがひきつけたおかげでフリーになったセラさんがクーリアさんの背後をとると、読んでいた本を奪うように取り上げました。
「あっ!!セラさん、まだ読んでいる途中です!返してください!」
「今日はもう終わりだよ。ほら、早く他の本も返却して。この本は借りてきて良いから」
「あ~もうそんな時間なのですか。仕方ありませんね。貸し出し手続きをやってきます」
現実世界に帰ってきたクーリアさんは、宙に浮いているいくつもの本をあちこちに飛ばします。どうやら場所は完璧に覚えているらしく、今ので返却が終わったようです。そして、セラさんに取り上げられた本を返してもらい大事そうに両手で胸に抱えました。
「・・・今更ですが、このパーティーは変人ばかりですね」
「好き好んで冒険者なんてやっている人なんてみんな変人よ」
――それは言い過ぎだと思いますけど、否定は出来ませんね。
こうして、少し問題が起きながらも王都観光初日は無事に終わりました。
ちなみに、王立図書館ではクーリアさんは有名人で、近づくだけで魔法で迎撃される危険人物として周知されているようです。これは後で知るのですが、クーリアさんが図書館に入ると、レティアーナさんから全ての図書館利用者へ注意勧告がされるそうです。
そんなことするくらいならクーリアさんに自動迎撃魔法を使わせないようにしろという話なのですが、読書の邪魔をされないために無意識に展開しているらしく、クーリアさんのお陰で図書館で騒ぐような人がぐっと減ったらしいので図書館側もそれを利用しているのであえて禁止にはせずにそのままになっているようです。




