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13話 転生うさぎと冒険者活動

 資料室で冒険者としての心構えと知識を学んだわたしは、ギルドの受付前で待っているセラさんとエルさんの二人と合流します。



「・・・お待たせしました」


「エルと話をして時間潰してたから大丈夫だよ。・・・で?首尾はどう?」



 わたし達がそれぞれ席に着いたのを確認してから、セラさんがクーリアさんに声を掛けます。クーリアさんは得意げな表情で胸を張りました。



「私が教えているのです。完璧に決まっているではありませんか」


「トワの物覚えがすごく良かったからな。あまり苦労しなかったよ」



 リンナさんがそう言うと、「実は年齢詐欺なんじゃないか?」とわたしの頭を撫でながら聞いてきます。ギルド登録に年齢制限はありますが、年齢は自己申告なのであまりにも見た目が幼くなければ登録できてしまいます。わたしの場合は見た目の年齢よりも、貴族に見えたのが問題だったみたいですけど。



「そっか~。トワちゃん偉いぞ~」


「・・・やめてください。鬱陶しいです」



 わたしを撫でるリンナさんが羨ましくなったのか、セラさんもわしゃわしゃと頭を撫でてきたので、ぺしっと追い払います。



「よし。それじゃあ、トワちゃんの冒険者初仕事をやろっか」



 セラさんが元気よく声を上げますが、そもそもわたしは、常設依頼が何をするのか分かりません。



「・・・常設依頼って何をするのですか?」



 わたしの質問にクーリアさんが目を瞬かせて首を傾げます。



「さっき教えた説明は覚えていますよね?」



 わたしがこくりと頷くと、セラさんはぽんと手を打ちました。



「あぁ。そういうことね。常設依頼は特に受注しなくても常時達成報告を受け付けているギルドからの依頼ってことは分かっているけど、常設依頼の内容までは分からないってことだよね」



 わたしが再びこくりと頷くと、リンナさんは額に手を当てて「あぁ、そういうことか」と呟いてから教えてくれました。



「ギルドの常設依頼はその街周辺の動物素材の納品か、薬草の納品だ。どんな動物や薬草があるのかとか群生地域とかの情報は予めギルド職員に聞けば教えてくれるぞ」


「・・・なるほど。この街は草原に囲まれていますから、動物というと狼やうさぎになるのですね」


「少し行くと森もあるが、あそこの森は魔物ばかりで危険だから、動物素材の回収ならば平原を歩き回った方が良いな」



 リンナさんとの会話が終わると、さっそく平原に行くことになり全員で席を立ちますが、会話に参加していなかったエルさんは一人で読書を続けています。



「エルさん!行きますよ!読書は終わりです。エルさーん!」



 クーリアさんがエルさんをゆさゆさと揺らして声を掛けると、ようやく本から目を離してわたし達を見上げました。すると、ちょっと驚いたように目を見開きます。



「あら?もう三の鐘が鳴ったの?トワちゃんお疲れ様。覚えることがたくさんで大変だったでしょう?」


「もうとっくに戻ってきてましたよ!常設依頼をやりに平原に行く話をしていたのです」



 あらそうだったの。とマイペースに本を片付けるエルさんを見ながら、わたしは疑問に思ってセラさんに聞いてみます。



「・・・お話しながら待っていたのですよね?」


「うん。お話しながら待ってたよ。エルは読書しながら聞いてただけだけど」



――それは会話といえるのでしょうか?



 思わず指摘しそうになった言葉を飲み込んで、こういうものだと自分を納得させました。



 街から平原まで出ると、爽やかな風が頬を撫でます。街からある程度離れた距離に冒険者らしき気配が何組か見受けられます。



「・・・他の冒険者からは離れた方が良いですよね?」


「そうですね。獲物を横取りされたとか、いちゃもんをつけてくる冒険者も居るので、狩りをしているパーティーの近くには行かない方が良いですよ」



 わたしはその言葉に頷くと、周囲を索敵しながら人の居ない場所を目指して移動を歩き始めます。後ろの四人も特に何も言わずに付いてきました。わたしから質問するか、何かミスをしない限りは傍観するスタンスでしょうか?



 少し街から離れてしまいましたが、周りに冒険者も居ない良い位置を確保しました。次は狩りの仕方ですが。



――まあ、いつも通りで良いですね。原初魔法を見られていますから大丈夫でしょう。



 索敵で周囲を探ると、やや遠い位置に狼が潜んでいるのを発見します。わたしはその方向に軽く手を振って、風の刃で静かに首を落としました。てくてくと歩いて死体を収納に仕舞って元の位置に戻ります。



――おや?皆さん神妙な顔をしていますね?どうしたのでしょう?



 わたしが首を傾げていると、セラさんは苦笑いしながら手を振ります。



「いやあ、手慣れてるなあって思っただけだから。気にしないで」



――まあ、実際手慣れてますけどね。



 でも、実は人型でこうして戦うのは初めてです。やることは変わらないのですが、やはりうさぎの方が楽に感じますね。



 そうしてぽんぽんと動物を狩っていき、ついでに近くにあった薬草も回収しておきます。これで、受付に渡せば依頼完了ですね。



「あー待った待った。折角なら死体は解体しておこう。ギルドで頼むと手数料とられるから」


「・・・なるほど」



 リンナさんの指摘で、確かにどうせならば少しでもお金を貰えた方が良いと判断したわたしは、魔法で土の壁を作り出して、頭の無い狼やうさぎの死体を逆さまの宙吊りにして貼り付けます。大量の血の匂いが周囲に充満します。この匂いで狼が寄って来るのも面倒なので、風で匂いを上空に上げながら血抜きを続けることにしました。



「な、なにやってるのかな?」



 セラさんがちょっと引いたように声をかけてきました。振り向くと、他の三人も似た反応をしています。クーリアさんなんかは顔面が真っ青です。



「・・・血抜きですけど?」



「血抜き?」



 血抜きを知らないのですか。わたしは、肉の中に血が入っていると、肉が硬くなったり生臭くなる原因になることを説明します。その説明を聞いた四人は関心したようにわたしを見つめます。



「よくそんなこと知ってるね」


「肉屋でもそんな話は聞いたことがありません」


「私も長いこと生きてるけど、初めて聞いたわ」


「そんな加工をするんだな。私達は肉はそのまま渡していたから知らなかった」



 もし、肉屋が血抜きを知らないで提供していたら、わたしの何気なくやったこの行動が知識チートとして市場に混乱を与えそうですね。もうやってしまったので今更ですが。



「それにしても、とても器用な魔法の使い方です。もはや自然を操っているようですね」



 クーリアさんが黒い瞳を輝かせながら興奮するように喋りだします。



 クーリアさんの話では、魔法を使うには基本的に呪文と魔法陣の構築が必要になるらしいです。本人の魔力の質や属性で、得意不得意の魔法があるようで、努力次第ではあらゆる属性の魔法を体得することも出来るそうです。



「魔法は呪文でイメージをして、魔法陣でイメージを固定して、そこに魔力を注ぎ込むことで初めて魔法として行使できるようになるのです。トワちゃんのように無詠唱で魔法陣も使わずに魔力だけで様々な現象を引き起こすことが出来るのは原初魔法だけなのですよ」


「・・・はぁ。そうですか」


「そうです!馴染んだ魔法ならば、呪文無しの魔法陣だけで魔法を使うことも出来ますけど、それでも、各魔法ごとの魔法陣を構築しなければいけなくて発動に時間がかかるのです!それに比べて、原初魔法は、魔法陣の構築無しであれほどの速さで魔法が使えるなんて、魔法使いの弱点を克服した完璧な魔法なのです。そもそも、今使われている魔法は、魔法をより簡単に誰でも使えるように大昔の人が考えた技術で、魔法を使う上で一番難しいイメージの固着を魔法陣を使うことによって・・・・・・・」



――な、なんだか語り始めてしまいました。



 最初は真面目に聞いていましたが、途中から専門用語が飛び出たり、クーリアさんの理論と他の有名な学者の理論を比べ始めたり、どんどんと話が難しくなってきて、わたしは遠い目をしながら聞き流すことにしました。



 血抜きも終わり、風の刃で皮と牙と爪に分けて解体します。



――よし。完璧ですね。



 全て収納に仕舞ったタイミングで、鐘の音が四回聞こえてきました。まだ、鐘の音一つ分しか時間が経っていないのですね。



「四の鐘か~そういえば少しお腹減ったね」


「まだ四の鐘なのよね。初心者ならば、六の鐘くらいまで食事抜きで狩りをしているのが普通なのだけど」


「私達のパーティーに普通な奴は居ない。そうだろう?」


「だから、この魔法陣を改良することでイメージの固着を強固にしてより強力な魔法が使えるのではないかと・・・・」



――確かに、変わった人ばかりですね。



 わたしが納得していると、セラさんが突然抱き着いてきました。この人は本当にスキンシップが激しいですね。



「もう十分すぎるくらい狩ったんだし、街に戻ってご飯食べに行こうよ~」


「そうね。あれだけ狩って丁寧に解体していれば、安宿ならば二週間は泊まれるでしょう。一度街に帰りましょうか」


「賛成だ。たまには露店で肉串でも食べないか?血抜きの話を聞いていたら食べたくなってきた」


「太るよ~と言いたいけど、このメンバーにそれは無いかあ。わたしは別に良いよ」


「わたしもたまには肉を食べようかしら。最近食べていなかったし」



 とんとん拍子に話が進んでいきますが、折角なので色々と教えてもらったお礼をしておきたいです。わたしはすっと手を上げて注目を集めます。



「・・・皆さんが良ければ、わたしが料理しますよ。お肉ならば今狩ったのがありますから」


「貴方の大切な収入よ?そんな気を使わなくても良いわ」


「・・・いえ、仲間ならば、手を貸してもらうだけではいけませんから」



 わたしの主張に納得したのか、三人とも微笑みながら了承してくれました。



「じゃあ、いったん街にもどりましょうか。・・・ほらクーちゃん。そろそろ帰っておいで~」


「ひゃあ!!いきなり耳を触らないでください!」



 セラさんは未だにぶつぶつと一人魔法談義をしていたクーリアさんを実力行使で現実に引き戻して、街に引き返そうとします。



「・・・わたしはもう少しお金を稼ぎたいので、街に戻らずにここで食事にしましょう」



 わたしの言葉に振り向いたセラさんが不思議そうに顔を傾げます。



「ここでって。こんなところで火を扱うのは危険だよ?それに、焼いた肉の匂いで狼が集まって来ちゃうけど?」



 わたしは無言で、手を横にやると、土の壁を四方に組んで屋根を付けて煙突を作りました。もちろん入り口部分は人が通れるように開けておきます。



「・・・ここなら問題ありません」


「君ってさ。私の思っていた以上に規格外だよね・・・」


「・・・これぐらいならば、見せても問題ないですから」


「これが、これぐらいなの?」



 セラさんが即興ハウスを見上げながら呆れたようにわたしに言いました。他のメンバーも口をあんぐりと開けて呆然としています。



 魔人になってからのわたしの魔力量ならば、土魔法で簡易ハウスを造るくらいどうってことありません。全員が家の中に入ったのを確認したら入り口を閉じます。そのまま、ささっと土魔法でテーブルとイスを作ると調理用の台も土魔法でちゃちゃっと作ります。もはや、皆さんからのツッコミもありません。



「イスとテーブルの上に余ってる布を被せるよ。食器類は野宿のセットを使おうか。・・・トワちゃん。調理セット使う?土の台でやるよりいいでしょ?」


「・・・では、貸してください」



 さすがSランク冒険者でしょうか。順応力が高いですね。テキパキと必要なものを準備してくれます。わたしは鍋やらフライパンやらを借りて調理台に乗せます。



――うさぎを食べるのはさすがに少し罪悪感があるので、狼にしましょうか。



 共食いを避けるために、血抜きした狼の肉を取り出して、五人用にカットして一度収納に仕舞います。このフライパンの大きさでは、一度に二人分が限界ですかね。



 作る料理は、お肉の香草焼きです。今狩ってきた新鮮なお肉を草原や森で採取していたハーブ(っぽいもの)を乗せてしっかり焼いて完成です。調味料があれば味を調えるのですが、わたしは持っていないのでこれで妥協します。



「・・・どうぞ」



 二人分を焼き終わって収納に仕舞い、五人分の作業が終わったところで収納から皆のお皿に盛りつけます。時間が止まっているおかげで、全員分が出来立てで食べることが出来ます。



「なんで、全員出来立てみたいなの?」


「・・・わたしの収納は時間を止めていますから」


「さらっと常識を覆すような凄いこと言われた気がしたのですが」


「・・・食べましょう。お腹すきました」



――本当はお腹すくことはないのですけどね



 強引に話を打ち切って食事を催促すると、セラさんは苦笑しながら両手を合わせて目を閉じます。他の三人もそれに合わせて同じような恰好になりました。わたしも慌てて真似をします。



「世界を造りたもうし神々と数多の精霊達よ。その命の恵みに感謝しこの食事を頂きます」



 セラさんに続いてわたし達も復唱して、食事を始めました。



――この挨拶、朝食の時には言いませんでしたよね?



 疑問には思いましたが、今は食事に集中しましょう。この世界での初めての料理はどんな仕上がりになったでしょうか。



 ナイフとフォークで一口サイズに切り分けて、口に放り込みます。やわらかいお肉と噛む度に肉汁がじゅわっと出てきてお肉の味ががつんときます。そこにハーブの香りが合わさって上手くまとまっているように感じられました。



「・・・ん。まぁまぁですね」



 調味料の無い中で作ったにしては及第点でしょうか。人間の体になって良い点の一つは、こうして料理をして食事が出来ることですね。



――なんだか妙に静かですね。皆さんどうしたのでしょうか?普段ならばもっとお喋りをして騒がしいのですが。



 不思議に思って周りを見渡すと、ナイフとフォークを一心不乱に使ってお肉を食べている四人の姿が映ります。若干鬼気迫る勢いを感じて少し怖いです。そんなに焦って食べなくても誰も奪ったりしないのですが。



 そして一つ気付いたのですが、セラさんの食事の仕方がとても綺麗なのです。動作が他の三人と比べてもとても優雅で洗練されています。朝見た時はそこまで違和感が無かったのですけど。



 無言の食事が終わり全員がナイフとフォークを置くと、セラさんが満足げに溜息をついて口を開きます。



「美味しかった。久しぶりに集中して食事をしたよ。トワちゃん、ごちそうさま」


「本当に美味しかったですね。塩や胡椒も使っていなかったのに、お肉の味と香草だけでこんなに美味しくなるなんて驚きました」


「えぇ。本当に。わたしには少し脂がきつかったけれど、よく食べる肉料理の生臭さを誤魔化すような強烈な味と臭いが無くてとても美味しかったわ」


「お肉が柔らくて生臭さが減ったのは、先ほどの血抜きなんだよな?これほど変わるなんて思わなかった。私の今まで食べていた肉料理はよく似たまがい物みたいだと感じたぞ」



――予想を超える大絶賛ですね。血抜きを知らない世界なのですか。料理という文化がそれほど発達していないのでしょうか?知らずにお肉類を食べなくて良かったですね。



「・・・最初の挨拶。朝は言っていませんでしたけど?」



 わたしの料理より気になることを聞いてみます。セラさん達はまだわたしの料理に興奮気味でしたが、ちゃんと教えてくれました。



「あれね。普段はやらないんだけど、格式の高い店や教会関係の場所なんかではやらないとダメな時もあるからちょっとやってみたの。トワちゃんも覚えておいたほうが良いよ」



 どうやら、セラさんの思い付きでやってくれたようです。さも当然かのように一緒にやっていた他の三人の連携はさすがパーティーを組んでいるだけはあるということでしょうか。



 食器類を魔法で洗浄して後片付けをして、全員が簡易ハウスから外に出たのを確認してから、簡易ハウスを土に還して何事もなかったかのようにしておきます。



「非常識だよね」


「非常識です」


「非常識ね」


「非常識だな」



 四人がジト目でわたしを見てきますが、もう慣れました。さて、狩りの続きをしてお金を稼ぎましょうか。



 それから一般的な冒険者の仕事終わりの目安である六の鐘まで狩りまくりました。あまりにも狩りつくしてしまって、途中で場所を変える必要がありましたが些細な出来事です。



 日がだいぶ傾き、もうすぐ夜の帳がおりてきそうな時間にギルドに帰ってきたわたし達は、常設依頼の達成報告をするために、素材引取の受付でまずはこの日の成果を引き取ってもらいます。



「ええと、狼が37体にうさぎが21体、全て解体済みか。これ本当にお嬢さん一人でやったのか?」


「・・・あと薬草です」



 引き取りの職員さんが頭を抱えました。『白の桔梗』のメンバーが「私達は一切手を出していませんよ」と言って後ろで控えて見守っています。



「はあ。・・・解体手数料無しで、狼やうさぎの状態が良いから引取額が上がるな。ざっと計算して・・・銀貨一枚と大銅貨八枚だな。用意するからちょっと待ってろ」



 お金の価値は分かりませんが後ろで呆れた気配を感じたので、恐らく初めての冒険者活動としてはやりすぎたのでしょう。でも、お金が欲しかったので自重はしません。



 お金を受け取ってギルドカードに討伐証明の記載をしてもらい正面受付へ向かいます。今度は常設依頼の達成報告です。わたしがギルドカードを受付嬢に見せると、笑顔で受け取ったあとにその笑顔が引きつったものに変わり、受付に置いてある四角い台にカードを置きました。



「え~。今回の常設依頼の報告で、トワちゃんはFランクに昇格になります。おめでとうございます。次からはFランク用の依頼が受けられるようになります」



――ちょっと声が震えていますよ?



 台の上でなにか操作をしていた受付嬢からカードを返してもらい早速確認してみます。



『名前』トワ

『種族』月兎

『冒険者ランク』F



 スキルはまた今度落ち着いた時にでも確認しましょうか。受付嬢にお礼を言ってその場を後にします。外はすっかり夜になっていました。



「・・・今日は一日ありがとうございました」



 今日一日付きっきりで一緒に居てくれた四人に、ぺこりと一礼してお礼を言います。



「あはは。私達もすっごく楽しかったから全然気にしないで良いよ」


「そうですね。これからも仲間として一緒に行動していくのですから、かしこまる必要はありませんよ」



 セラさんとクーリアさんが笑顔で応えてくれます。他の二人も同じ気持ちなのか、笑った顔で頷いているのが見えます。



「この後はどうするの?」



 セラさんが皆とこの後の相談を始めると、わたしは一歩後ろに下がって頭を横に振ります。



「・・・今日はここでお別れしましょう。少し一人になりたい気分なので」



 わたしの言葉に「そっか」とセラさんが呟いて、綺麗な笑顔のままわたしと目を合わせます。



「また明日ね。今度は二の鐘が鳴るころに宿に来てほしいかな」


「・・・かしこまりました。それでは、また」



 その後、一人ひとりに別れの挨拶をしてから背を向けてその場を後にします。視界のぎりぎりまで背中に視線を感じながらその視線が消えた瞬間に路地に入り、光学迷彩で姿を消してから街を出ます。街からかなり離れた位置まで移動して、周囲の気配を確認してから魔法を解きました。



 見上げると、煌々と光る月と夜空を彩るように散りばめられた星々が目に映ります。



 わたしは収納からスライムゼリーを取り出して、団子の形に整えてから口に放り込みます。そして、小さく溜息をつきます。こうして一人になると、ずっと心の奥底でもやもやとしていた気持ちが噴出してきます。



「・・・わたしは何をやっているのでしょうね」



 わたしがこの世界に来て初めての親友を殺した相手と一緒に、仲良く歓談しながら冒険者をやっているなんて、なんて薄情者なのでしょうか。



「・・・どうして、楽しいだなんて思ってしまったのでしょう」



 別に人間達と仲良く暮らしたいわけでは無いのです。人間達の生活を知って、いろいろな場所へ行くための手段にすぎないのです。



「・・・やはり、わたしが人間だったから?」



 人間としての記憶があるが故、人と接することに飢えていたのかもしれません。本当にそれだけなのか、前世のわたしの記憶が無いわたしにはわかりません。



「・・・わたしはどうしたいのでしょう?」



 最終的な目標はずっと変わらないはずです。安寧な生活と居場所を見つける。それなのに、自分で自分が何を求めているのか分からなくなってきます。



「・・・わたしが本当に求めているものは何なのでしょうか?」



 わたしは夜空に浮かぶ月を眺めながらその月が沈んで夜空に朝日が差し込んでくるまで、自分に問いかけたその答えを探し続けました。




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