12話 転生うさぎと『白の桔梗』
無事に冒険者ギルドカードを手にいれたわたしは、『白の桔梗』のメンバーとの自己紹介の為に、彼女達が泊まっている宿屋の食堂に移動しました。
わたしが席に着くと、隣にセラさんがさっさと座ります。反対側には猫耳の少女が座り、対面に、金髪の女性と赤髪の女性がそれぞれ座りました。
全員が席に座ると、隣に座るセラさんが、こほんと咳払いをします。
「え~では、私達の新しい仲間を祝して、乾杯しよっか」
「違います!まずは自己紹介でしょう!?」
「あ、そうだったね」
――わたしの両隣でコントをするのは止めてほしいのですが。
セラさんが仕切り直すように、もう一度咳払いをして、わたしを見ます。
「さて、じゃあ私からね。『白の桔梗』のリーダーをやっているセラだよ。戦闘スタイルは、剣と魔法の両方を使って皆をサポートする器用貧乏型かな」
「何が器用貧乏ですか?魔法も治療も近接も斥候も出来る万能型でしょう?嘘を教えちゃダメですよ。これから仲間になるのですから」
「そうね。後、ランクもちゃんと言わないとダメよ?『熾天使』さん?」
猫耳の人と金髪の人から修正されます。やはり、セラさんはただ者じゃなかったみたいですね。ギルド側が気を使うぐらいでしたから、予想はしていましたが。
「・・・『熾天使』?」
わたしが、気になったワードを首を傾げて聞くと、セラさんが相好を崩して答えてくれます。
「私のユニークスキルだよ。昔にちょっと色々あって、たくさんの人にバレちゃってね。それ以来、私の通り名みたいになっちゃったんだ。ちなみに、その色々あった時に、Sランク冒険者になったの。どう?スゴいでしょ?」
自慢気に話す彼女に、「・・・わーすごいですね」と棒読みで返しておきます。素っ気なく返しても、「かわいい!」と本人は満足しているので問題ないでしょう。
「あまり驚かないのね?」
「・・・なんとなく、予想はしていましたから」
「なんだか、子供とは思えないですね」
――まあ、中身は高校生?でしたし。
「こほん。次は私ですね」
今度は猫耳少女が、わたしと向き合います。髪色と同じ黒色の瞳が、わたしのことを見据えます。真面目そうな整った顔立ちで、緊張するようにぴくぴく動く耳も合わさって、とても可愛らしい少女です。
「私は獣人の黒猫族で、名前はクーリアです。獣人は身体強化の魔法を得意としている者が多いですが、私は基本の四属性魔法と空間魔法を得意としています。ポジションで言ったら、後衛の魔法使いですね。冒険者ランクはAです。分からないことがあったら何でも聞いてください」
「愛称はクーちゃんだよ。トワちゃんもクーちゃんって呼んであげてね」
「・・・クーちゃん・・・ですか?」
わたしが愛称で呼ぶと、クーちゃんは顔を真っ赤にして俯きました。怒らせてしまったのでしょうか?クーちゃんはセラさんを真っ赤な顔のまま睨みます。
「私のことは呼び捨てか、さん付けで呼んでください。こんな愛称で呼ぶのは、あの人だけで結構です」
「・・・わかりました。クーリアさん」
「そんなに私のことが特別だなんて。照れちゃうな~。えへへ」
クーリアさんにとっては特別なあだ名だったのですね。呼びやすいからと、迂闊に呼ばないように気を付けましょうか。クーリアさんの目に段々と殺意が見えてきましたが、気のせいでしょう。これは仲が良い同士のじゃれあいというやつです。きっと。
「次は私ね。私の名前はエルアーナ。エルで良いわ。種族はエルフで、弓使いよ。他には、精霊魔法と風魔法が得意で、薬の調合も出来るわ。戦闘での役割は、後方からの物理攻撃と魔法による補助支援かしら。ちなみに年齢は300歳くらいだったかしら?よく聞かれるのだけど、エルフは長命なせいか、年齢には無頓着なの。あ、そうそう、私も冒険者ランクはAよ」
エルアーナさんの自己紹介が終わりました。藍色の瞳を細めて、大人っぽい蠱惑的な笑みを浮かべています。長い金色の髪は腰ぐらいまで伸びていて、キラキラと輝いているように綺麗です。ファンタジーでは定番の種族のエルフですか。イメージ通りの人ですね。
「エルフの特徴は、長命なのと、見目が麗しい人ばかりなのと、耳が尖っていること、精霊術が使えること、後は、無関心な人が多いことかな。そういう意味では、エルは好奇心の強い方だよね。冒険者をやっているくらいだし」
「・・・無関心ですか?」
「ふふ。関心事が少ないともいうわね」
エルアーナさんの説明によると、エルフは基本的に自分の住んでいる森から出ずに一生を過ごすらしいです。精霊と自然にしか興味を示さずに、自然を害する者には一族全てが敵になって襲ってくるとか。
里を出ることを禁止しているわけではないみたいですが、エルアーナさんみたいに、里を出て、冒険者として旅をしているエルフはとても珍しいらしいです。
「では、最後は私だな」
最後の一人が、キリっとした顔と意思の強そうな赤い瞳をわたしに向けました。髪はセミロングで、燃えるように真っ赤です。女性ですが、イケメンですね。
「私の名前はリンナ。半魔族の鬼種だ。髪に隠れて少し見にくいが、角もあるぞ。大剣を扱った近接戦闘が私の役割だ。身体強化の魔法は得意だが、一般的な魔法は使えない。冒険者ランクはみんなと同じAランクだが、冒険者歴は一番長いから、冒険者に関しての質問なら何でも聞いてくれ」
「魔族も、エルフ同様に寿命が長いの。半魔族のリンナもこの見た目で、100歳超えてるんだよ?詐欺だよねえ」
セラさんの言う通り、完全に詐欺ですよね。見た目はどちらも10台後半から20代前半くらいなのですから。
しかし、見事にこの四人は別の種族なのですね。人間、獣人、エルフ、半魔族ですか。事情があるみたいな感じでしたが、今聞くべきではないですし、機会があれば知ることもあるでしょう。
さて、最後にわたしの自己紹介ですね。
「・・・わたしはトワです」
――以上。
「「「「・・・」」」」
全員からなんとも言えない視線を感じます。さすがに無理がありましたかね。いや、でも、魔人ですとか言えませんし、冒険者に登録したばかりのわたしが、魔法戦が得意ですとか言えませんから、しょうがないですよね?
「・・・えっと・・・よろしくお願いします」
必殺、上目遣いを使って、強引に話を終わりにします。セラさんとクーリアさんはコロッと落ちました。微妙な顔だったのが一転して、デレデレとした顔になっています。
「えへへ。よろしくね!」
「ま、まあ、事情があるのは最初から分かっていましたし、今更ですね。よろしくお願いします」
「まあ、セラが大丈夫だと言うなら良いでしょう」
「確かに、事情があるのはわかっていたからな。よろしく。トワ」
あっさり陥落した二人を呆れたような目で見ながら、エルさんとリンナさんも納得してくれました。
――ちょっと罪悪感がありますが、セラさんが追及してこないうちは良いでしょう。
遅くなった昼食を食べ終えて、今日は一旦解散になりました。解散といっても、わたし以外の四人は一緒なのですが。まあ、パーティー内で話し合いをしたいのでしょう。
――さて、空いた時間で、スキルの確認も兼ねて、平原まで行きましょうか。
ギルドカードを手にいれたお陰で、平原への門はなんの問題も無く通れました。門番に不思議そうな顔をされましたが。
街の入り口から程近い平原地帯と、一番近い森の入り口近くは冒険者達が、依頼や素材集めの為に多く居るため、索敵しながら人の気配が無くなる場所まで移動します。
――この辺ならば大丈夫ですかね。
街からも大分離れ、人の気配も無いのを確認すると、収納からギルドカードを出しました。
最初に見た時は驚きましたが、舞踊や体術、槍術は前世での習い事でやっていたみたいですね。わたしはそこそこお嬢様だったのでしょうか?なんにせよ、前世のわたしの経験が、まさか異世界でスキルとして役に立つことになるとは思わなかったでしょうね。
――槍は持っていないので、作りましょうか。
水魔法で槍っぽい形を作り凍らせます。はい完成です。といっても、ただの氷の塊なので、武器としては使えないと思いますけど。取り敢えず、振り回してみましょうか。
槍を構えて、突いたり、薙ぎ払ったりと色々動いてみました。スキル補正のお陰か、それっぽい感じになっています。
――でも、なんかしっくり来ないんですよね。
前世の記憶を思い出しながら原因を探ります。ふむふむ。なるほどなるほど。前世で習っていた槍術は、実用性な動きではなくて槍舞に近いものだったのですね。舞踊スキルがやたら高いのは、社交ダンスとか日本舞踊とかの習い事だけでは無くて、槍舞も影響してそうです。
わたしの戦闘スタイルは魔法寄りとはいえ、折角人間になったのですから、武器も使えた方が良いでしょう。この際、普通の槍使いは諦めて、慣れている槍舞の動きを実戦用に改良していきますか。
それから、ずっと集中して練習していたら、気が付けば日が落ちていて、草原は真っ暗闇に包まれていました。月明かりがあるので、全く周りが見えないほどは暗くありませんけどね。
「こんなところに居たんだ?随分と探しちゃったよ」
突然、声をかけられて飛び上がるほど驚きました。先ほどまで、日が落ちているのすら気が付かなかったとはいえ、常に索敵で警戒していたので、知らない間にこんなに接近されるとは思いませんでした。
振り向くと、声の主であるセラさんが、サイドテールの尻尾を風でゆらゆらと揺らしながら立っていました。
「・・・驚かさないでください」
「いやいや、全然驚いているように見えないんだけど」
「・・・表情に出ていないだけです。とても、驚きました」
「表情に出てなかったら分かりにくいよ」
――ごもっともですが、無理に表情を作ると不自然になりますし、しょうがないですよね?
「・・・わたしになにかご用ですか?」
彼女に付き合っていたら、話が進まないのはお昼の時に学んだので、早めに用件を聞いておきます。
「普通の人ではない君と、二人きりで話をしておこうかなっと思ってね」
「・・・そうですね。わたしも、話しておいた方が良いと思っていました」
セラさんは恐らくわたしの正体に気付いているでしょう。彼女の目的を聞いて、その内容次第では人間達に関わるのを止めるような事態にもなります。
「あ、始めに言っておくけど、私は君の正体について推測はしてるけど確証はないよ?それに、今のところは、確証を得られても君に問い質す気も無い。君も迂闊に正体が解りそうな言動をしないようにね」
「・・・正体がバレると、わたしの身が危険ですからね。もとよりそのつもりです」
「うんうん。私も、冒険者としての勤めを果たすようなことにならないことを祈ってるよ」
セラさんはそう言って、見惚れてしまうほど綺麗な顔で、にこっとわたしに笑いかけました。でも、直ぐにその綺麗な顔は真剣なものになり、強烈な威圧がわたしを襲いました。
「でも、もし君が危険な存在だとわかったり、万が一でも私の仲間に傷をつけたら。その時は容赦しないから。」
普段はふざけて飄々としていますが、恐らくはこっちの彼女が限りなく素に近いのでしょう。冷たい視線と、身動きが出来ないほど強大な魔力の威圧が襲いかかり、わたしの背中に冷たい汗が流れます。
「・・・そこまで警戒するなら、何故わたしをご自分のパーティーに入れようと思ったのですか?」
わたしが疑問に思ったことを聞くと、セラさんの目は柔らかいものになり、威圧もやめました。
「一番の理由は、君がとても人間らしいと思ったから。私が今まで会ってきた中でも一段と理知的だったし、正直今でも半信半疑なんだよ?ここまで人間に溶け込めるなんて凄いね」
――まあ、元人間ですからね。
「・・・頑張ったのですよ」
「人間に溶け込もうと頑張るのが凄いよ。頭脳は人間並みでも、意識や生き方までは、そう変えられないからね。あ、後は勿論、可愛かったから声をかけなくちゃって思ったの」
可愛かったと言った瞬間に、セラさんの目が獲物を狙う目になりました。思わず一歩後ずさります。わたしが、警戒するようにじとっと見ていると、セラさんがくすくすと笑いだします。
「まあ、冗談はさておき」
――絶対本気でしたよね?ちょっと違う意味で危険を感じましたよ?
「君が危険では無さそうで、むしろ人間側に友好的なのだとしたら、いざというときに対処出来る私が側で監視するのが良いかなと考えたの。だから、君をパーティーに入れようと思った。理由は納得してくれたかな?」
「・・・まあ、理解はしました。わたしとしても、手っ取り早く人間世界を知ることが出来そうですから。利害は一致します。」
わたしがうんうんと頷いていると、セラさんが真面目な顔をして見詰めてきます。なんだろうと目を向けると、セラさんは小さく首を傾げました。
「私からも質問していいかな?」
「・・・どうぞ」
「トワちゃんは、何が目的で人間として生活しようと思ったの?君にとってはとても危険でしょう?」
確かに、気になりますよね。わたしのこの世界で生きる上での最終目的。それは、この世界に来たときから変わりません。
「・・・わたしの最終的な目的は、安寧な居場所を見つけることです。人間達を知らなければ、それを達成することは出来ないでしょう?だから、危険を承知で、乗り込みました」
わたしの言葉に、セラさんは目を大きく開けて瞬きます。しばらく、綺麗な顔を驚きに染めたまま、わたしを見詰めていましたが、やがて、赤茶の目を細めて細めて微笑みました。
「君も居場所を探しているんだね。それなら、君と私達は仲間だよ。立場も事情も種族も違うけど、私達の仲間だから」
月明かりに照らされて、同性でも息を呑むほどの可憐な表情で微笑むセラさんは、まるで天使のように見えました。
翌日の早朝。そういえば、この世界の時間の概念を調べていませんね。定期的に鐘の音が一定数聴こえる時があるので、時間はあれを基準にしているのでしょうか?
人の殆ど歩いていない通りをのんびりと歩き、『白の桔梗』が泊まっている宿屋の前まで来ました。そのまま宿屋に入って入り口近くの椅子に座ります。受付の人が出てきて、不思議そうにわたしを見ていますが無視します。
待っている間に、昨夜の別れ際に話していたことを試してみようと考え、暇潰しにやってみます。
昨夜の別れ際に「・・・なんで、わたしの正体が分かったのか教えてください」とセラさんに聞いたら
「ああ。魔力眼でトワちゃんを初めて見た時に、見覚えのある魔力の色をしていたからね。以前、スライムの変異種と戦っていた時に見たことあったの。森の中で見た独特な色をした魔力の持ち主と、突然ギルドに来た身元不明の子供が別人だと思えなかったから、気付けたんだよ」
それから、魔力眼は目に魔力を集めながら、周囲を見て魔力を感知すると覚えやすいと教えてくれました。
目に魔力を集めて、身体強化で使わないように気を付けながら、辺りを見渡してみます。受付の人から微弱ですが、何かあるように見えます。色もわからないですし、量とかもわからないですが、これが魔力でしょうか。
そのまま、じーっと受付の人を見ていると、外から鐘の音が一回響きました。いきなり、上階が騒がしくなります。少しすると、上階から冒険者らしき人達が次々と降りてきました。受付の人と話して、ほとんどの人がそのまま食堂へ向かいます。
「トワちゃん?そんなところで何やってるの?」
セラさん達が降りてきたようです。わたしが視線をセラさん達の方へ向けると、何故か受付の人がほっとしたように息を吐きました。セラさん達がわたしの前まで来て、少し屈んで目を合わせます。
「あー。魔力眼の練習してたのね」
セラさんの言葉にこくりと頷きます。クーリアさんは苦笑しながら受付まで行きました。
「申し訳ありません。あの子は私達の連れです。このまま、食堂を使わせて貰いますね」
「そうだったのですね。始まりの鐘が鳴る前から突然来たと思ったら、椅子に座ってずっと私を見てくるので、どうしたものかと焦ってしまいました」
それはそれは、ご迷惑をお掛けしました。
「お食事は五名様ですか?」
「トワさんは朝食は食べたのですか?」
わたしに食事は必要無いので、朝御飯は食べていませんが別に要らないでしょう。
わたしがいりませんと言おうと口を開きかけると、前に居たセラさんが他の人に聞こえないぐらいの小声で話しかけてきました。
「この時間で朝食食べている孤児は不自然だよ。食事は要らないかもしれないけど、誤魔化す気があるなら食べたほうが良いよ」
いつも通りにニコニコした顔をしているのに、声はとても真剣なでした。器用ですねこの人。でも、セラさんの意見は確かに妥当です。それに、わたしだけ食べないで、他の四人が食べているのはお互いに落ち着かないでしょう。
「・・・朝食はまだ食べていないです」
わたしの言葉に「それはそうですよね。まだ、始まりの鐘ですし」とクーリアさんが呟いて、受付の人に五人分の食事を頼みました。
「かしこまりました。五人分の朝食ですと、銀貨一枚になります」
クーリアさんが、何もないところから銀貨を取り出すと、それを受付の人に渡しました。
――通貨ですか。そういえば、教会で教えてもらうのを忘れていましたね。
時間の事といい、通貨の事といい、言葉と文字ばかりに気を取られて、生活の常識を全然知らないことに気付きました。これは、早急に対策が必要ですね。
食事の席に着くと、昨日と同じで両隣にセラさんとクーリアさん、正面にエルさんとリンナさんが座りました。
「しかし、最初の鐘が鳴る前にもうここに来て待っているなんて、随分早起きね?」
エルさんが少し呆れたように、わたしを見て話し掛けてきます。
「・・・別れる時に、次に会う時間を決めてなかったので」
「まあ、確かにそうだが」
わたしの言い分けに、リンナさんもちょっと呆れたように肩を竦めました。
「冒険者が早起き出来るのは大事なことですからね。やや、早すぎではありますが、悪いことじゃ無いですよ」
まあ、精神的な安らぎの為に寝ることはありますが、身体的な疲労で寝る必要は無いので、最近は全然寝てないのですけど。
「・・・ご迷惑をお掛けしたようで、申し訳ありません」
「どこでそんな言葉使いを覚えてくるのよ?」
謝ったのに余計に呆れられてしまいました。解せぬ。
食事中は、何てこと無い雑談をして過ごしました。わたしは聞き専で、相槌を打つだけでしたけど。食事が終わると、宿屋から外にでて、ギルドに向かいます。
ギルドの中に入ると、沢山の冒険者達で賑わっていました。
「おい。あれが噂の・・・」
「『白の桔梗』に保護された子供か」
「確かにどう見ても、何処かのお嬢様だな。あれで本当に孤児だったらいつか人攫いに遭いそうだ」
「いつみても、『熾天使』ちゃんは可愛いなあ」
「近くで見れるだけでも眼福だよな」
あちらこちらから、不躾な視線や声が聞こえてきます。仕方のないことでしょうけど、やはり、気にはなってしまいます。
「相変わらず人気ですね。『熾天使』さん?」
「最近のクーちゃん意地悪だよ?もう少し優しくしよう?」
「貴女に優しくすると調子に乗るので、却下です」
ぶう、と頬を膨らませるセラさんと、ネタにしていじっているクーリアさんの会話を聞いていると、この状態は日常茶飯事のようです。
「普段はこの時間は避けているのだけど、折角、早くからトワちゃんが来たから、一般的な冒険者の姿を見せてあげようと思ってね」
エルさんがにこりと笑いながら話してくれました。どういう事か聞こうと顔を上げた時、鐘の音が二つ鳴りました。その瞬間、ギルドカウンターから紙束を持った男性がやって来て、ボードに貼っていきます。ボードに貼った先から冒険者達が群がって、紙を剥がして受付まで持っていきます。
「・・・成る程、依頼の張り出し時間ですか」
「そうだ。二の鐘が鳴ったら新しい依頼が貼り出される。冒険者は命を掛ける職業だ。だから、割りのいい依頼を選ぶ為に、朝一番にこうやって集まるんだ。残る依頼は、危険な依頼か割りの合わない依頼ばかりになるな」
「たまーーに、良い依頼が残ってる時もあるけどね」
リンナさんとセラさんの説明を聞きながら、活気の溢れるギルド内をぼうっと見ていましたが、ふと我に返ります。
「・・・わたし達は見に行かないのですか?」
「残念ながら、トワちゃんはGランクだから、常設依頼しか出来ないよ。それに、私達はAランクパーティーだから、残った依頼でも簡単に出来る依頼ばかりだし、緊急依頼に備えて朝一番の依頼は滅多に受けないかな」
本当にわたしに見せるためだけにギルドまで足を運んだのですね。話をしている内に、群がっていた冒険者も半分ほどに減りましたが、受付はフル稼働で、未だに列が出来ています。
「資料室に行きましょう。ギルドの資料室では、冒険者に必要な基本的な知識から、その地域独特の知識、他にも、世界の魔物図鑑やスキルの獲得方法が書かれた本が沢山あります。違う街のギルドに来たら、一度は見ておいた方が良いですよ」
クーリアさんの提案で、冒険者達が出払う三の鐘まで、資料室で勉強をすることになりました。
資料室に移動したわたし達は、適当に椅子と机を並べて、本を物色します。
「・・・魔物大全」
そういえば、わたしの種族である月兎について調べていませんね。分厚い本を開いてぱらぱらと流し読みします。ちょくちょく兎種の項目が出てきますが、結局、月兎という種族は見つけられませんでした。
――変異種や魔人は突然変異ですから、新種だったとしても不自然ではありませんね。
折角なので、スライムさんのことも調べようと、再びページをペラペラとめくっていると、クーリアさんが、本を何冊か浮かせて持ってきました。
――器用な魔法の使い方ですね。後で真似してみましょう。
「そういえば、トワちゃんは文字が読め・・・るみたいですね。教える手間が省けます。冒険者の入門書とスキル大全を持ってきました。これを読んでおけば、基本は押さえられますよ」
「そういえば、トワのスキルについて、何も聞いていなかったな。答えられる範囲で良いから教えてくれないか?戦闘時の陣形にも関わるからな」
クーリアさんがテーブルに持ってきた本を、どさどさと置いているを見ながら、どうしようかとセラさんを見ます。
――知られると面倒そうなスキルが幾つかあるのですよね。
わたしの視線から意図に気付いたセラさんが、近くに来て耳打ちします。
「コモンスキルくらいは教えておいた方が良いよ。いざというときの切り札用に隠して置くのは常識だから、エクストラやユニークは教えなくても良いから」
――コモンスキルでもヤバそうなのがあるのですが。
それでも、わたしが迷っているのを見たセラさんが、突然入り口に向けて手をかざします。
セラさんの手から光の魔方陣が浮かんで強く光った瞬間、部屋の入り口に薄い黄色の半透明の壁が出来ていました。
「クーちゃん」
「分かっていますよ。音よ消し去れ。サイレント」
今度はクーリアさんが、人差し指を立てて魔法を使いました。魔方陣の色は灰色で、先ほどよりも小さいものでした。属性や強さで変わるのでしょうか?
わたしが興味深く見ていると、全員の視線がわたしに集中します。
「これで、この部屋には誰も来ないし、声も聞こえないようになったよ」
セラさんはにっこりと笑顔でわたしを見てきますが、目は全然笑っていませんでした。ここまでさせて置いて、まだ渋れば不信感を持たれると言いたいのでしょう。
「・・・はあ。分かりました。では、コモンスキルだけお見せします」
わたしは収納からギルドカードを取り出して、名前とコモンスキルを見えるようにして、机に置きました。
「収納魔法!?」
カードを出した瞬間に、リンナさんが驚いたような声を出します。セラさんは呆れたような顔をして、他の三人は好奇心たっぷりの顔でわたしのカードを見ます。
「ええぇぇ。・・・これでどう誤魔化そうと思ってたのよ?」
「げ、げ原初魔法!!?」
「持ってるスキルも凄いけど、レベルもかなり高いのね」
「槍も使えるのか。というか、どんな暮らしをしたらこんなスキルの覚え方するんだ?」
セラさんは呆れた声で呻いた後に、小声で何かぶつぶつ呟いていますし、クーリアさんは原初魔法の項目で大興奮していますし、エルさんはスキルのレベルの高さに驚愕していて、リンナさんはわたしの今までの生活に興味を持ったようですね。
――まあ、明らかに普通の人間の子供が持っていていいスキルじゃないでしょうから、驚くのもしょうがないですよね。
わたしが小さくため息をつくと、原初魔法に興奮したクーリアさんに詰め寄られました。肩を両手でがっちりホールドして、顔を赤らめさせ、黒い瞳はギラギラと光らせて、鼻先が触れそうなほど至近距離でわたしを見詰めてきます。
「原初魔法が使えるのですね!?どうやって覚えたのですか?教えてください見せてください触らせてください!!」
――近いです近いです!あと、触らせてって何ですか!?台詞だけなら変態ですよ!?
「はいはい。クーちゃん落ち着いて!トワちゃんもびっくりしてるから。表情変わらないけど。たぶん。ほらほら、皆も落ち着こう?スキルに関しては、親しい仲でも詳しいことは秘匿するのが常識だよ?変に詮索しちゃダメだからね?」
錯乱したように、わたしに原初魔法について聞いてくるクーリアさんを引き剥がしながら、他の二人もなだめるセラさんを見ていると、やっぱりこの人が中心なのだなと思ってしまいますね。
「なにかな?」
わたしの視線に気付いたセラさんが首を傾げます。わたしをギラギラと見詰めるクーリアさんを抱き締めるようにして止めています。
「・・・いえ、リーダーっぽいなと思っていただけです」
「これでも、リーダーだからね。・・・それにしても、君が教えるのを躊躇う訳だよ。先に私だけ見ておけば良かったかも」
君は私の予想以上に非常識だなあとセラさんがしみじみと言います。わたしは無言でギルドカードを回収して収納に入れます。
――非常識で当たり前ですよ。常識の違う世界で生きてきたのですから。
魔物の時もそうですが、前世とも常識が違う世界なのです。わたしが常識外れなのは分かりきっていたことです。それでも、面と向かって言われると、ぐさりときますね。わたしは少し俯いて、視線を下げます。
「・・・わたしは非常識ですし、気味が悪いでしょう?皆さんに迷惑じゃないでしょうか?」
わたしの言葉、部屋の中はシーンと静まり返りました。遠回しに、迷惑掛けるから相手しなくても良いですよと言ったつもりだったのですが。
「これ、読んでください。早く読まないと、依頼を受けさせませんよ」
「・・・え」
テーブルの端に寄せられていた本を、クーリアさんが差し出してきます。
「もし、分からない言葉や単語があったら言ってくださいね。教えますから」
「・・・え、あ、はい」
突然いつもの雰囲気に戻ったクーリアさんに面食らいながら、本を受け取って開きます。
「さて、教えるのはクーちゃんに任せようかなっと。私は受付前で待ってるね」
「そうね。私も付き合うわ。一人だと暇でしょ?」
「私はここに残ろう。冒険者歴も長いから、クーリアの説明に補足出来るからな」
「三の鐘までに基本を押さえて、鐘が鳴ったら常設依頼をやりに平原まで行きましょうか」
先程までとは嘘のように、いつもの皆さんに戻っているのを見て、わたしは呆然と首を傾げます。
「ほら、ちゃんと読んでください。三の鐘までに間に合いませんよ」
「・・・え、あ、はい」
機械のように返事を返して、本を読みます。
――本当になんだったのでしょうか?何か皆さんの琴線に触れるワードがあったということですかね?
その後は若干スパルタ教育のクーリアさんと、詳しいけど、話がどんどん脱線していくリンナさんにみっちりと教えられ、無事に三の鐘が鳴る頃には必要最低限の知識を覚えました。ついでにリンナさんのお陰で余分な知識も覚えました。




