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エピローグ 転生うさぎは異世界でお月見する

 あれからのことですが、ダンジョンでは転移が使えないことが発覚したので、急いで駆け抜けてダンジョンから外に出ました。夜明けまであと一時間も無かったですが、なんとか間に合って良かったです。もう悪魔王も倒したので関係無いのですけどね。



 それから転移で帝都に跳び、ボロボロで死にかけの状態のクーリアさんと何故か一緒に居た弥生を回収して、次に弥生の話から別行動をしている卯月達のもとへと転移しました、



 卯月達は別れた街以外の場所の街も攻略していたようで、こちらもかなり魔力を消費していたので全員まとめて説教をします。危険なことはするなとあれだけ言ったというのに。わたしの眷族達は命令違反が多すぎです。



 『新月の閉幕』を解除して、月の領域に転移して帰還すると、沢山の魔物と争った跡があちこちありました。ここであったことはわたしの〈偶像〉である永久が対応しているので、わたしも全て知っているのですが、それでももうちょっと被害を抑えられなかったのでしょうか?絶対に永久のやりすぎな魔法のせいだと思うのですよ。これ直すのわたしなのですが・・・。あ、永久はわたしですし、つまりわたしのせいということですか?なんとややこしい。わたしがやったことならよしとしましょう。



 わたし達は首謀者である悪魔王とその右腕的存在だったゼストを倒して、いくつかの街を攻略して帝国領土を去りましたが。あの後、セラさん達人間世界側の実力者が国の枠組みを越えて協力し合って帝都領土に踏み込み、まだまだ数えきれないほど蠢いていた魔物を殲滅していったそうです。



 あ、わたし達が帝都に居た間に、それぞれの主要な国の近くにゲートが現れて魔物の群れと戦っていたそうですよ。卯月達が攻略した街にあったゲートだけは卯月達のお陰で早くに閉じたそうですが、聖国と公国はわたしが悪魔王を倒すまでずっと魔物と戦っていたそうです。それと、予想通り帝国の領土境界線からも魔物が相当数漏れ出してあちこちに被害が出たそうです。その辺りは人間界側の話なのでわたしには関係ありませんけどね。



 人間界側の話としては、今回の事件は帝国の帝王がアリアドネの魔石の欠片を研究したことで起きた事故のようなものになるみたいです。ゼストも人工魔石に操られていたことにして、冒険者ギルドへの批判を少しでも和らげるようにしたとか。



 大量に発生していた魔物の変異種も、徐々にではありますが減少傾向にあるそうです。そのうち、元の通りに戻るのではないかと思います。まだ多いうちに魔石を集めるのも良いかもしれませんね。



 後に今回の事件は『帝国狂乱』という名前で歴史書に刻まれるのだと、セラさんから報告がありました。



 そうそう。神獣側の皆さんはわたしの報告を聞いて、どうやって悪魔を完全消滅させたのかとてもしつこく質問されました。なんでも、〈輪廻転生〉スキルを持つフェニさんには悪魔の魂が輪廻転生の輪に帰って来なかったことがわかったのだとか。何ですかそれ。フェニさんって魔力は神獣の中でも少ないですが、ウロボロスさんの次くらいにチートな人ですよね?



 まぁ、結局、フェニさんとフェニさんを通じてウロボロスさんにだけ方法を教えました。教えるもなにも、わたしはただ心を破壊しただけですけどね。それでも、二人からは面倒な悪魔を消滅させたことに関してお礼を言われました。



 そして、まだまだあちこちが『帝国狂乱』の後始末に追われている中、半年の月日が流れました。



 わたしは今、月の領域の住人達・・・動物以外ですが・・・を集めて、わたしの意識が目覚めた草原地帯にやってきています。



(・・・それでは、弥生達と聖獣の皆さんは準備をお願いしますね)


「「「きゅい!」」」


(お任せください!)



 うさぎ姿の弥生達が可愛らしく鳴き、ミラーが聖獣達を代表して答えました。ベガがミラーを睨んでいますが気にしないことにします。



 草原での支度は任せて、わたしはスライムちゃんを乗せて魔の森の方面へと走ります。この道も懐かしいですね。



 魔の森の比較的浅い方の一角。聖樹フローディアの木が周囲の魔物を遠ざけ、動物達が静かに暮らす小さな広場。わたしはうさぎの姿から人の姿に変えてその木の根元にある小さな墓標の前にゆっくりと腰を落とします。



 静かに両手を合わせて目を閉じました。



「・・・スライムさん。貴方のおかげで、わたしはこうして生きていますよ。・・・いろいろとありましたが、今はある程度落ち着いて平穏に暮らしています」



 しばらく目を閉じていたわたしは、ゆっくりと目を開けて、墓標に手を当てて土を払います。



「・・・だから、安心して眠っていてください。わたしの最初の、大切な親友」



 わたしの頭の上に居たスライムちゃんがいきなりぴょんと飛び降りて、スライムさんの墓標の前でぷるんっと震えました。森の中が風で僅かにざわめいたような気がします。風ですかね。



 わたしはスライムちゃんを捕まえて胸に抱くと、墓標に背を向けてその場から静かに去りました。



 再びうさぎの姿に戻って草原に帰ってくると、神獣組が集まって来ていました。



「あら?もう用事は終わったの?」


(・・・はい。フェニさん達は随分と早いですね)



 まだ夜になるまで少し時間があるのですが、っと思っていると、フェニさんが首を傾げるわたしを手で優しく包んで持ち上げました。そして、そのまま抱えて頭を撫でてきます。



「相変わらずさわり心地が良いわね。持って帰りたいくらい」


(・・・持って帰られるのは困ります)


「あ~!まーたトワちゃんを抱いてるぅ~!せこいわよぉ~」


「そうだぞ!たまには妾にも抱かせるのじゃ!!」


「トワ、念のために周囲に結界を張っておいた。これで問題無いか?」


(・・・ええ。大丈夫です。ありがとうございます)



 騒がしいリルさんとオロチさんは無視して、ケイルさんの質問に答えていると、弥生達が人の姿になってフェニさん達の机などを設置しているのが目に入りました。



 わたしはフェニさんの腕から抜け出して跳び下りると、弥生のところまで移動して話しかけます。



(・・・手伝いましょうか?)


「大丈夫ですよ。それよりも、フェニックス様達のお相手をお願い致します。あ、プリシラ、それはあちらに設置をしてください」


「わかりました。トワ様はごゆっくりしていてくださいね」



 手伝いを拒否されたので、仕方なくフェニさんのところに戻ろうとすると、卯月と如月とミラーがうさぎ同士でじゃれているのが見付けてしまいました。



(・・・おやおや、サボって遊ぶのはいけませんね)


「きゅい!?」


「きゅい~♪」


(げっ、違うのです、トワ様!卯月が全然離れてくれなくて、あたしも困って・・・)


(・・・げっ、て言った時点でギルティです。わたしも混ぜてもらいますよ)


(ぎゃーー!!)



 わたしが肉食獣の如く(うさぎですけど)逃げ回る卯月達を追いかけていると、気付けば日が落ちて星々が見え始めました、そして、それと同時に夜空に変わらない月が見えます。



(・・・そろそろ良い時間ですね)


「はい。準備は整っていますよ」



 わたしの独り言のような呟きに近くに居た弥生が答えました。気付けば招待者分の机と椅子、食べ物や飲み物、そしてお月見団子が三方に乗って用意されていました。



 そして、タイミングのいいことに、白い天使の羽根を周囲に舞い上がらせながら、セラさんとエルさん、それと出張していたクーリアさんが現れます。



「間に合った!?」


「みたいね」


「ふぅ。疲れました~」



 セラさんが席に着いたばかりの神獣達を見たあとに、近くに居たうさぎ姿のわたしを見付けて物凄い速さで捕まえてきました。



「うわ~!久しぶりのもふもふだー!あー癒される~」


「ちょっと、私にも貸しなさいな。私も疲れているのだから」



――わたしはリラクゼーションアイテムではありませんが。



 セラさん達がわたしの取り合いをしているのに気付いたフェニさんが、とても怖い笑顔でこちらにやってきます。



「貴女達。今すぐにトワを離さないと・・・燃やすわよ?」



 凄い圧のある笑顔で片手に青い炎の塊を出したフェニさんを見て、セラさんが慌てた様子でわたしを解放します。その一連の流れを見ていた神獣組が呆れたように小声で話し合いました、



「フェニもやっていることは大して変わらんじゃろう?」


「他の人に取られたくないんじゃないかしらぁ~?」


「意外と独占欲が強いのだな」


「・・・・何か?」


「「「いえいえ、なんでも(ないのじゃ)」」」



 セラさん達が指定した席に着いた頃には、夜空には満点の星空が咲き乱れ、暗い草原を優しい月の光が照らしていました。柔らかな風が草を揺らし音を立てます。



 わたしは弥生と如月と卯月を呼び寄せて、うさぎ姿で大きな岩の上に陣取りました。そう。わたしが草原で暮らしていた頃に拠点にしていた、あの岩です。



 周囲を見回すと、宴の始まりを今か今かと待つ神獣達。ここ最近どれだけ忙しかったかを話し合っている『白の桔梗』の三人。それぞれの種族ごとに固まって食事を用意している聖獣達。



――気付けば、こんなにもわたしの『居場所』が出来ていたのですね。



 それは人との繋がりであったり、家であったり、地位であったり、目に見えるものから目に見えないあやふやなものだったりするもの。



 『居場所』とは人によって違うけれど、どれもきっと近くにありすぎて見えにくいものなのではないか。とわたしは思います。



 わたしにとっての『居場所』とは、わたしと一緒にこうしてお月見をしてくれる大切な人達のこと。



 今後ももっと増えるかもしれませんし、また違う定義になるかもしれません。



 それでも、今のわたしにとってそれだけで十分でした。



 うさぎの姿で満点の星空の中に浮かぶ大きな満月を見上げたわたしは、ざわざわしている周囲に〈念話〉で始まりの合図を始めます。



(・・・それでは、お月見を始めましょうか)




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