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「どんな話してるのかな」


 ウォルターが気付かれないように声を心持ち小さくした。

 客間手前で団長と母親はこそこそと話し込んでいる。

 時折、思い出したようにじっとりとした団長の視線が送られてくるからこちらも気が抜けない。

 部屋の隅で固まった自分達は侯爵夫人の指示通りに動くしかない。何故ならばそう約束してしまったから。とりあえず様子待ちと指示待ちだ。


「どうせ碌でもない話だろう」

 両手を上げてカルロは応じる。


 侯爵夫人に従えと言われた内容は、団長をある意味追い詰めるものだった。

 いくらアデリシアのためとはいえ、演技やら彼女に迫る素振りは自分は無理だ。そう上手く望むようには出来ないと申し出れば、邪魔だけはしてくれるなと厳命された。その相手にはシルヴァールやマイカがいるから人材は足りているのだと言う。

 ちなみにウォルターは、貴方は自由に振る舞っていいですからね、と侯爵夫人に頭を撫でられていた。

 どうやら引っかき回し要員と認識されているようである。本人が望むと望まざるとに関わらず、いや狙ってやっている節は多分に見受けられるのだが、騎士団でも同じような役割である。女性に対しては言わずもがなだ。ウォルターの見てくれは幼く見えるが、実はアデリシアより年上だ。そのはずだが、はーい、とにっこりと笑うウォルターはどう見ても十代のそれだ。

 しかし、僅か数回会った人物の見極めをする侯爵夫人の慧眼には恐れ入るしかない。


「なんだあ?とりあえずアデリシアを仲良く取り合っていいって事だよな」

 ジョルジュが唇の片端を上げる。

「ああ、貴方はそれでいいですよ」

 細かい事はわかっていないでしょうけど、とこれも呆れたようにシルヴァールが応じる。


「じゃ、シルヴァール、俺とやろうぜ」

 戦おう、とジョルジュは背中の大剣を鳴らす。先程までライアンと戦っていたというのに、疲れはないのか。


「じゃって何ですか、なんでそうなるんです。嫌ですよ。お断りします」

 心底嫌そうにシルヴァールは眉を顰める。


 元々残業続きで執務室に篭もりっきりだったのだ。おまけに夜駆けで此処まで来て、あまり昨夜寝ていない。必要以上に疲れることはしたくなかった。


 ジョルジュは周囲を眺めて、カルロ、ウォルターはそのまま視線を通り過ぎさせる。実力は既にわかっているから相手としては面白くないのだ。なんでだよ、とウォルターが噛みつくが気にはしない。


「それじゃそっちの」


 アデリシアの傍らにいたマイカを指差して見遣れば、黙っていられないとばかりに背後の護衛が剣の柄に手を当てて進み出て来る。

 マイカは何も言わずに軽く首を傾げて薄く微笑むだけだ。


「まあ……それでもいいか」


 とりあえず護衛を倒してから目の前の男を引き摺り出せばいいかと思い当たる。

 三倍楽しめるではないか。

 ジョルジュは喜々として背後に背負った剣に手を伸ばした。ちき、と柄が鳴る。


 まずい。本気だ。


 慌ててアデリシアは間に割って入った。ここで剣を抜かせてはならない。

「ジョルジュ団長、止めてください!国際問題でも起こすつもりですか」

「なんだよ、止めんなよ」

「止めますって。見過ごせません!ダメです!」

「単なる親善試合だろうが。それもダメなのか」

「そうじゃなさそうだから止めてるんです」

 互いが近寄らないように大きく両腕を拡げる。


「つまんねーな。せっかく仕合えると思ったのに。こいつらとやっちゃダメなのか?」

「お願いですからここでは控えてください!」

「爺さんの言ってた内容と違う」

「詳しくは知りませんけど、すみませんが、師匠の言ってたことはとりあえず忘れてもらっていいですか」

 アデリシアは苦虫を噛み潰したような顔で言う。

 師匠が勝手に何かを約束してジョルジュを送り込んでも、こちらは受け付けられない。だからこういう事になるのだ。いつも暇潰しに面白がって瑣末事に巻き込んで……いい迷惑だ。


「なんだよ、仕合えないなら、此処までせっかく来た意味がなくなるじゃないか」

 ジョルジュは目に見えて不貞腐れた。

「いろんな奴と戦えるっていうから来たのに」

 それ、本来の趣旨と目的が変わってますよね?とは口には出さないでおく。

 賭けの対象を思い出されて自分が取り引きされるのは御免だ。


「お願いですから、ジョルジュ団長、大人しくしててくださいね?」

 念を押すとジョルジュは視線を泳がせた。

「あーもうつまんなねーな……。あ、おい、そこの!お前だよ、お前!」

 文句を言いながらも、通り掛かった家令を見つけてジョルジュは声を上げた。走り寄って行く手を阻む。


「なあ、もう一度俺とやろうぜ!」

「申し訳ございませんが勤務中ですので」

 家令は片手でいなして冷たく言い放つ。失礼、と言い残してジョルジュを避けて歩いていく。その側をジョルジュは離れずに追って歩く。

「固いこと言うなよ。さっきだってやり合ってたろうに」

「先程とは状況が違いますので」

「なんだよ、さっきは楽しかっただろ?」

「そんな事はありません。仕事ですから」

 嬉しそうにしつこく家令に絡む第二騎士団長の様子に、残された皆は息を吐き出した。

 面倒臭い。

 皆、共通に考えたことであった。


「あれ、王都に先に返した方が良くない?」

 ウォルターはこっそりとアデリシアに尋ねる。

 部屋に隠したであろう天位の杖を取って来れば、アデリシアがすぐにでも転移魔法を使えることを知っているのだ。


「でもそれだと侯爵夫人の作戦に支障が出ないか?」 

 カルロはアデリシアの首元を指差した。

 首にはあの金の枷が嵌められているままだ。

 枷には魔法で細工が施され、魔力を封じられているという振りの真っ最中なのだ。

 アデリシアが魔力を使ってジョルジュを王都に送り返したら、一発でライアンにバレる。


「師匠に呼び戻されたことにして、返しちゃおうか」

 それがいいよね、とアデリシアも同意する。

 ジョルジュは悪い人ではないが、戦いが好き過ぎてよく剣の相手を欲しがる。熱くて面倒臭いのだ。

 なかなか豪腕な第二騎士団長を相手に出来る者も少なく、よくライアンやシルヴァールへ絡んで来ていた。自分もライアン達に絡むネタによく引き出されたりしていて煩い印象しかない。


「団長にバレないようになんてどうやってやるのさ」

「見てない時にこっそりとじゃ、ダメかな?」

「うーん、少し難しいと思うが?」

 腕組みをしてカルロは考え込む。


「でも副団長だって、これ以上ジョルジュ団長の相手までするのは願い下げなんでしょう?違います?」

 シルヴァールに同意を求めてみれば、やはり頷いた。

 第二騎士団長にご指名されていたが、剣の相手をしてやる気は毛頭ないらしい。


「……いっそのこと部屋に連れ込んでみては?」

 シルヴァールの思いがけない言葉にアデリシアは聞き返した。

「は?今なんて」

「だって、アデリシアの部屋に天位の杖があるのでしょう?ならば部屋に連れ込んで、一人だけ送り返してしまえばいい」

「理屈はわかりますけど」

 何か間違いでもあったらどうしてくれる。


「魔力は戻ったとフレデリク様に聞きました。貴女の力なら問題ないでしょう?部屋に呼び込んでさっさと王都へ送るだけです」

 にやりとシルヴァールは笑う。

 天位の力を信用してくれているのはわかるのだが。 

「部屋の鍵でも締めれば、ついでに団長の動揺も誘えるかもしれないですよ?」

 侯爵夫人の企みからは外れない、とシルヴァールは太鼓判を押す。

「それもいいけどさ、保護魔法がこの屋敷にかかってなかったっけ?」

 来た時を思い出してウォルターが呟く。確か、そのせいで屋敷内には直接入れなかったのだ。


「じゃ、外に散歩に誘えばいい。それが無理なら、模擬戦しようとでも言えばジョルジュ団長なら確実に引っ掛かるはずだ」

「引っ掛かるって、カルロまで……」


 仮にも第二騎士団長相手に何たる無礼。いや、確実に引っ掛かるだろうがいいのか。

 こんな提案をカルロがするなんて意外だった。

 第三騎士団ではカルロは真面目な方ではなかったか?

 無理難題を言いがちな騎士団の荒くれ者を止める良識派であったはずなのに。周囲に毒された気がする。


「あの人を確実に送り返すつもりならそれしかないだろ」

「まあそうかもしれないけど。ホント身も蓋もないわね……」

 帰って欲しい思いは皆同じだが、それをすべて自分に押し付けるのもどうか、とアデリシアは半ば呆れる。


 そういえばと、アデリシアは周囲を見回した。

「他の皆は戻らなくていいの?」

「私は自分の馬がありますから」

 シルヴァールはライアンと共に馬で来たと説明する。


「ああ……それね、うん」

 ジョルジュとカルロ、ウォルターが一緒に来たはずだがと聞くと、二人は戸惑いながら顔を見合わせる。

 脳裏に浮かぶのはあの執務室の書類の山、だ。

 団長、副団長をここに残した状態では決して帰りたくない。自分達に押し付けられるのが明らかに目に見えている。今はどうなっているのかすら考えたくもない。


「ねえ、アディ。僕達が帰ったら、爺ちゃんの伝言伝え済みってことになるけどいいの?アデリシア、確か顔見せにすぐ帰れって言われてたよね?」

 にっこりと人好きのする笑みを浮かべてウォルターが尋ねた。


 アデリシアは目に見えて動揺して首を横に振った。

 父親から騎士団への辞職願が提出されたと聞いたが、師匠にはそれは通用しない。別問題だ。騎士団の都合は騎士団のこと。

 魔術師の師弟問題は魔術師の領分だ。


「……侯爵夫人と団長には私からお願いするので、しばらくの間いてください。お願いします」

「うん、わかった」

「大丈夫だ、任せろ」

 ウォルターとカルロは何時になく力強く頷いた。

 ジョルジュが帰還したら元も子もないのだが、アデリシアは気付かなかったようだ。


「じゃ杖をとってくるわね」

 後よろしく、と言い置いてアデリシアは階段を登っていった。


「……二人にちょっと聞きたい事が出来ました」

 アデリシアは誤魔化せたが、副団長には何か勘付いた事があったらしい。

 シルヴァールの柔らかでいてまさしく貼り付けられた笑みを見て、カルロとウォルターは文字通り凍り付いたのであった。



偏頭痛が治まりません……。

台風の時は起き上がれず最悪でした。

ついつい規定回数を越えて薬を服用し、口内炎まで……(汗)

一粒単価300円越えの薬はよくききますが、反動ダメージが大きいです。

一日一回更新を目指しますが、更新されなかった時は痛みに転げ回っているとお考えください……。

ストックもそろそろ危ないので…すみません。


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