第三話 大亀
「真上まで移動しましたが……どうやって倒しますか?」
「そうですね……後が怖いので魔力は温存して、一度斬ってみます」
身体強化魔法であれば魔力消費を抑えて対応できるだろう。
「アイラさんは倒した後回収しに来てもらえますか」
「分かりました。近くで待機しておきますね」
「では行ってきます」
そう告げてアイラさんの背中から飛び降りる。
落下の衝撃に耐えられるほどの身体強化と、武器にエンチャントを施しておこう。
着地と同時に大亀の背中に剣を振り下ろすつもりだ。
ドォーン!!
衝撃と共に大亀の体が海面へ大きく沈み込み、周囲には大きな水柱が立ち上がる。
しかし刃が通ったような手応えは感じなかった。
「確かにこれは硬いな……」
武器にシャープネスを付与するか?属性付与も試してみよう。
甲羅を割れないようなら、発現魔法も視野に入れなければいけない。
「まずはシャープネスから……」
「フリックさん!もう死んでます!」
「えっ?」
「さっきの着地で内臓がつぶれたのか……もう動いていませんよ」
「………サーチでも生命反応は無いですね……」
なんともあっけない討伐に言葉が出ない。
「……次に行きましょうか、大尉」
◇ ◇ ◇
それから三時間ほど、アイラさんの背中から飛び降りては、大亀を討伐することを繰り返した。
飛び降りる際に属性エンチャント等を付与してもみたが、効果はいま一つだった。
「どうやら斬撃と魔法にはめっぽう強いけど、大きな衝撃には弱いみたいですね」
「そのようですね。航路上の大亀はだいたい倒せたでしょうか?」
「すでに三十体以上は倒していますからね……。まだ向こうの方に点々といますが……」
「発生源の方向が分かりやすくて、ありがたいですね」
討伐も大事だが発生源の調査も今回の任務だ。
消耗次第では一度態勢を整える必要がある。
幸いにも、身体強化を中心に戦っていた俺は、魔力をそこまで消費せずに済んでいる。
だがアイラさんの方はどうだろうか。
「アイラさんが問題なければこのまま発生源の調査に向かいたいんですが、消耗はどのぐらいですか?」
「そうですね…だいたい飛び始めてから三時間ほどですよね。魔力は問題ないんですが一度補給の為に港へ戻りたいですね」
「補給ですか?俺が譲れるものでよければ譲りますよ?」
「いや……その……おなかが空いてしまいまして……」
「ははっそしたら一度戻って飯にしましょうか」
「そうしましょう!昨日宿の方に美味しいお店をお伺いしたのでフリックさんもご一緒にどうですか?」
「ではお言葉に甘えて」
◇ ◇ ◇
「はぁ~新鮮なお魚はやっぱり美味しいですね!」
「えっ……えぇ……そうですね……」
おすすめのお店に到着し、一緒に食事をすることになった。
アイラさんの言う通り料理はとても美味しい。
美味しいのだが……
「アイラさん……ちょっと頼みすぎじゃ……店員さんからすごい目で見られてますけど……」
既にテーブルの上には置き場のないほどに料理が並んでいるのだが、注文の半分も届いていない。
俺もそこそこ頼んだつもりだったが全体の五分の一ほどだろう。
「え?あっえーと違うんです!竜化している時間が長いとお腹が空いてしまいまして……」
「そ、そうなんですか?」
「はい!体が大きい分体力を使うのか、沢山食べれちゃうんですよね」
こちらに返事はしているが、アイラさんの手は止まらない。
この体のどこにそれだけの量が入っていくのかは分からない。
ペースを落とさずにただテーブルにある料理をひたすらに口へ運んでいく。
「お嬢さんよく食べるね~うちの料理は美味しいかい?」
新しく出来上がった料理を持ってきてくれた女将に声をかけられた。
「えぇ!とても!こちらのムニエルも素晴らしいし、スープやサラダも……手が止まらないです!」
「それは良かったよ。今厨房で旦那が残りの品も急いで作ってるからゆっくり食べていきな。逆にあんたはその量で足りるのかい?」
「女将……これでも七品は頼んでるんだ。そちらを基準にされると困る」
「それもそうさね。まぁうちとしては沢山食べてもらえれば助かるよ!」
どうやら店側に太客として認知されたようだ。
最初は食べきれるのかと不安にはなったが、一向にペースは落ちないし表情も変わらずとてもおいしそうに食べているので問題ないだろう。
「ははっ美味しそうに食べますね」
「うぐっ……あんまり見ないでください……さすがに少し恥ずかしいので……」
「お誘いしたのはそちらじゃないですか。普段もこんなに食べるんですか?」
「いえ……竜化は滅多にしないので……今日頼んだ分の三分の一ぐらいです」
それでも結構食うなこの人。
「それにお料理も美味しいので……ガラドーンではこういった手の込んだ料理はありませんから……」
「あぁ確かに……一度滞在した時に食べましたが……素材の味を楽しむような……」
あの時は確か、ステーキとサラダを頼んだがサラダにドレッシングがないどころか、肉に塩胡椒すらされていなかった。
「美味しくないと言っていただいて構いませんよ。竜属は食にこだわりがない方が多いので……」
「はは……」
「なので国外での任務は、こういった料理を食べられるいい機会なんです!」
道理で美味しそうに食べるわけだ。
食事は毎日の楽しみの一つだ。
それが普段から味気ないとなれば、こういう機会が嬉しいのも分かる気がする。
「良ければこの白身魚の蒸し焼き少し食べますか?スパイスが効いてて美味しいですよ」
「いいんですか?じゃあお返しにこちらの照り焼きをどうぞ」
「ありがとうございます。おっ、美味い!」
「この蒸し焼きも美味しいですね!女将!これもう一皿お願いします!」
「お嬢ちゃん……まだ頼むのかい?」
その後も届いた料理は全てアイラさんの口に吸い込まれていく。
俺はそれを眺めながら今後のことを考えていた。
このまま発生源に近づきながら討伐していけばいつかたどり着くだろうが、アイラさんの負担が大きい。
長時間竜化すれば補給に戻らなければならないし、補給の間にも発生源から大亀が航路に入り込んでくるかもしれない。
「アイラさん食べながらでいいので聞いてもらえますか?」
「どうしました?」
「食事が終わったら、一度先遣隊として来ていた部隊に大亀の弱点と討伐方法を教えに向かいましょう。」
航路上にいた大亀はあらかた討伐したし、新たに現れたとしても数体だろう。
フランさんたちも弱点がわかれば、そこまで苦戦せずに対応できる。
そうすれば、少なくとも航路の安全は確保できるはずだ。
「先遣隊に航路上の安全確保を一任し、我々は発生源に直行します」




