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Part 0 第1話

生きたかった。


悪魔たちの爪に腹部を貫かれたときだった。


熱い血が溢れ出し、意識が薄れていく中で、レイデンは生への激しい渇望を覚えた。


彼は空に向かって、かろうじて指先をわずかに動かした。


眩い光が、ひときわ明るく視界を覆った。


もう二度と感じられない最後の感覚なのだという予感がした途端、目尻から熱い雫が流れ落ちた。


やがて、柔らかな金色の髪が、彼の顔と傷ついた身体を包み込んだ。


そっと頬を撫でる手の感触に、深い温もりが広がった。


結局、死んだのだと思った。


天使が舞い降りて自分を迎え、神のもとへ連れていく、穏やかな最期のようだった。


薄暗い森の木々の隙間から降り注ぐ光の中で、正体の知れない温かさが、彼の砕けた身体を抱きしめてくれた。


『ああ……』


レイデンの唇の隙間から、かすかな吐息が漏れた。


その安らぎを一息に引き裂く声が、ちょうどそのとき聞こえてきた。


「レイデン!」


必死に自分を呼ぶ声だった。


その声に、閉じていた目がカッと見開かれた。


底に沈んでいた『深淵』の魔力が、心臓の奥底から猛々しく沸き立った。


レイデンはそのまま身を起こした。黒いコートの裾がはためいた。


頭上から振り下ろされるモンスターの重い刃を、彼は銃のフレームで受け止めた。


鋭い破裂音がダンジョンに響き渡った。


「きゃあっ!」


たった今、彼を呼んだ少女の悲鳴が、レイデンの耳を突き刺した。


「ハユル!」


レイデンが反射的に銃口を振り上げた。


その瞬間、四方からハユルを脅かしていたモンスターたちの四肢が瞬く間に引き裂かれ、その場ごとに湿った肉片が飛び散った。


その惨たらしい光景に、ハユルがピンク色の瞳を大きく見開くよりも先のことだった。


レイデンは無駄のない動きで、彼女を片腕で抱え上げた。


屈強な腕に身体を二つ折りにされたハユルの金色の髪が、汚れた地面に擦れた。


「レ、レイデン!」


ハユルは息が詰まるのか、両腕と両脚をばたつかせて彼の腕をぽんぽんと叩いたが、レイデンは意にも介さず、青い瞳を巡らせて周囲の動きを窺った。


「今、目が覚めたのか?」


遠くから飛んできて着地したアレックスが、巨大なガンブレードで敵を狙い定めながら皮肉った。


レイデンは彼の態度に眉をひそめたが、すぐに感情を消し、冷静に尋ねた。


「状況は?」


「あのコウモリ野郎の頭かち割らなきゃ、短命だか何だか知らねえけど終わんねえんだよ! 見ての通りの惨状なのに、突っ立って見物でもしてんのかよ!?」


アレックスはにやりと笑うと、赤い瞳をぎらりと光らせた。


柄を握り直した彼は軽やかに跳躍し、押し寄せるモンスターたちの首を切り刻んだ。肉片が四方に撒き散らされた。


視界いっぱいに広がる悪魔の群れは、果てが見えなかった。雑魚どもを一度に薙ぎ払うことなど、造作もなかった。


だが、生臭い残骸どもが陣取る只中から、皮膚を裂いて食い込んでくる奇怪な波動が感じられた。明らかに上位の魔力の気配だった。


死すべき定めの限界を嘲笑い、永遠を生きる『アイオン』であるというのに。


唯一神モナドの使徒である自分が、卑しき偽神デミウルゴスの手先であるサキュバスに、先代から自分に至るまで短命の呪いを受け続けるのを、黙って見過ごせるはずがなかった。


先代の頃から、その手先を探し出すために幾度となく悪魔どもを殲滅して回ってきたというのに。


今回ばかりは、その元凶の居場所をようやく正しく突き止めてしまったらしい。


レイデンはハユルの軽い身体をしっかりと抱え直した。頬を伝っていた温もりの余韻は、まだ消えていなかった。


「ハユル、礼を言う。また、お前が救ってくれたのか?」


「レイデン、降ろして! 大丈夫だってば!!」


ハユルがじたばたと暴れたが、レイデンは腕にさらに力を込めて、彼女を胸の中に閉じ込めた。


黒い革手袋をはめた片手で迷いなく銃口を向けた彼が、押し寄せる敵を容赦なく掃き払った。


「じっとしていろ!」


「荷物扱いしないでよ! 自分でできるって言ってるでしょ!」


ハユルは我慢できず、杖の先でレイデンの顎を思い切り押しやった。


予想外の衝撃に、レイデンの拘束がわずかに緩んだ。


その瞬間、暗闇の中から巨大な爪が、彼の隙を狙って飛んできた。


ハユルがすかさず杖に魔力を集め、爪に向かって魔力弾を放った。


そして得意げにレイデンを見上げた。


ひとこと言おうとしたレイデンは、やがて深いため息をつくと、ハユルの背に身を預けた。


「アッシャーはどこにいる?」


「レイデンが倒れている間に、一人で奥へ入っていっちゃったの。何か手がかりを見つけたみたい」


レイデンは舌打ちをひとつした。それから、遠くで剣舞のように敵を斬り伏せているアレックスに向かって叫んだ。


「アレックス! アッシャーのいる場所まで突破する!」


レイデンが虚空に手を伸ばして粒子を凝縮させると、彼の手の中だけでなく空中にも、数十挺の銃器が召喚されて整列した。


彼らは宙へ舞い上がり、悪魔たちを一気に突破しようとした。


しかし、地上にいたオーク型の醜悪な怪物たちが一斉に背骨をねじ曲げ、血色の革の翼を生やして空へ舞い上がった。


まるで巨大なショウジョウバエの群れのように、真っ黒に押し寄せて視界を遮り、突進してきた。


「ハユル!」


レイデンの叫びに、ハユルはおぞましい光景から目をそらそうと、ぎゅっと目をつぶった。


同時に、彼女の杖の先から噴き出した魔力が、球状の防御障壁を展開した。


障壁のすぐ外まで迫った怪物たちが、よだれを垂らした。


ガラスの壁一枚を隔てたように、醜悪な顔が障壁に押し寄せた。


ザンッ――!


アレックスが奇妙に笑った。


そして、その向こうのモンスターたちを一刀両断にした。


斬り飛ばされた肉片と血潮が障壁の表面に激しく飛び散り、すべり落ちて、ばらばらと降り注いだ。


絶え間なく襲いかかってくる敵に向けて、レイデンは死角のない陣形を取った。


魔力を呑み込んだ黒い空間が、彼の小銃の先から噴き出した。


黒い歪みが通り過ぎた場所は、塵ひとつ残らず、丸ごとえぐり取られたように消え去った。


彼らが薙ぎ払った跡には、モンスターたちが次々と墜落していった。


その無数の破片が、ハユルの障壁に絶え間なくぶつかって鈍い音を立てた。


道が開けると、ついに奥へと続く入口が見えた。


入口の中へ入った彼らは、虫の群れのように押し寄せてくる連中を障壁で食い止めた。


それでも隙間をすり抜けて飛び出してくる個体は、全身に血を浴びたアレックスが、狂気じみた乱斬りで斬り伏せた。


その間にハユルは入口に向かって杖を伸ばし、詠唱を始めた。


彼女の足元から、数え切れないほどの桃色の魔法陣が幾何学的に広がっていった。


レイデンはその様子を見て、ハユルの準備が整ったことを確かめた。


宙に浮かんでいた銃器が彼の手に吸い込まれ、ひとつに集まった。


彼の体格よりも大きな大口径の狙撃銃がその本体を現すと、銃口の先に周囲の粒子が恐ろしい勢いで凝縮されはじめた。


膨張した黒い光が、爆発的な波動を放った。


ハユルとレイデンは、タイミングを合わせて同時に叫んだ。


『Void Sanctuary』 『Abyssal Embrace』


ピンク色の魔力と黒い魔力がひとつに絡み合い、一直線に猛然と伸びていった。


その強烈な光の筋にかすめられたものはすべて消滅し、空間そのものが悲鳴をあげるかのように、奇怪にねじれた。


奴らは呻き声ひとつ漏らせず、跡形もなく蒸発した。


あっという間に、不気味なほどの静寂が降り立った。


レイデンは周囲を見回した。風が吹き抜けるたびに、銀髪がゆっくりとなびいた。


聞こえるのは、彼らの靴音と風の音だけだった。


だが二人は、警戒を解かなかった。


レイデンは、その場にへたり込んだハユルに歩み寄った。


「無事か? まだ終わっていない」


「早く立たなきゃいけないのに、足に力が入らなくて……」


ハユルがレイデンの背後で半開きになった巨大な扉を見つめていた、そのとき、闇を裂く破裂音とともに、見慣れた気配が近づいてきた。


「ヌナ!」


アレックスの声が空気を打った途端、ハユルの身体を押さえつけていた無力感が一気に散り、足に力が入った。


「ア、アレックス、全身血だらけじゃない……!」


黒髪と革ジャンの境目が分からなくなるほど、アレックスは赤黒い血にまみれていた。


こびりついた血から立ちのぼる悪臭が、鼻を突いた。


ハユルはためらいなく杖を持ち上げ、アレックスに向けて『Cleaning』の魔法を放った。


ピンク色の光の粒が降り注ぐと、空気中に漂っていた血生臭さと血の跡が、またたく間に消え去った。


血の跡が消えたその下から、火薬の煙の匂いが染みついたなめらかな首筋と、鋭い顎のラインが、ありのままに現れた。


汗に濡れて乱れた黒髪の隙間からのぞく赤い瞳は、獲物を狙う猛獣のように、濃く気だるい熱を帯びてぎらついていた。


耳にかかった銀色のリングピアスが、火花のようにひやりと光った。


アレックスは手に握っていた重厚なガンブレードを、床に「タン」と突き立てた。


178cmの無駄のないスリムな体躯で大股に歩み寄った彼が、ハユルの視界を呑み込むように、深く腰を折った。


細い腰を片腕でぴったりと抱き寄せたアレックスは、そのままハユルの身体を自分の胸に荒々しく密着させた。


血の匂いが混じった赤いTシャツと黒い革越しに伝わる熱い体温と、挑発的な眼差しが、ハユルの息を目眩がするほど押さえつけた。


「ハユルヌナ……」


赤い気配が漂う唇の端をゆがめ、気だるい弧を描いた彼が、耳元で低く囁いた。


「甘い魔力の香りをぶっかけて洗い流してくれたら、俺が大人しくしてるとでも思った? 余計なこと考えるな。俺の腕の中から出るなよ」


アレックスの熱い吐息にハユルの顔が火照りかけた、そのとき、物陰から冷ややかな気配が滑り降りてきた。


レイデンは一瞬のためらいもなく、アレックスの頭に銃口を突きつけた。


「状況も読めないのか。ふざけていないで、今すぐ扉の中へ入るぞ」


アレックスはハユルを離さなかった。代わりに真っ赤な目を横に向けて、レイデンを睨みつけた。


喉元までこみ上げた唸り声を吐き出す寸前、半開きの扉の隙間から、不気味な風が押し寄せてアレックスの頬をかすめた。


アレックスは短く「ちっ」と舌打ちすると、ハユルを捕らえていた手をゆるめた。


二人の視線が再びぶつかり合う前に、ハユルはその隙を逃さず、扉の奥へぴょんと駆け込んでいった。


―― ✦ ――


「おお! それでしたら、貴方には私の実験体になっていただきましょう」


アッシャーは、目の前の殺伐とした睨み合いなど眼中になかった。


両腕を大きく広げた彼は、恍惚とした顔で天を仰いだ。


その様子を見ていたサキュバスの口から、乾いた失笑がこぼれた。


彼女が背中の巨大なドラゴンの翼を荒々しく広げると、翼膜の間から赤い魔力の糸が溢れ出し、魔力陣に乗って四方へ伸びていった。


糸は避ける暇も与えず、緻密な蜘蛛の巣のようにアッシャーの全身へ襲いかかった。


アッシャーは、ぼろぼろになった白いテックウェアの裾には目もくれず、その場から微動だにしなかった。


金色の魔力でできた小型ドローンたちが素早く彼の身体を取り囲み、六角形の防御フィールドを展開した。


しかし、血色の蜘蛛の糸はフィールドの目に食い込み、亀裂を入れた。


その隙間から入り込んだ糸が一本、アッシャーの腕に突き刺さり、魔力を無理やり吸い上げはじめた。


身を削るような魔力消耗にも、アッシャーは眉ひとつ動かさなかった。


紫色の瞳が光る間も、アッシャーは宙に浮かんだステータス画面だけを食い入るように見つめていた。


「浸食率48%。実に精密な神経系への干渉ですね。素晴らしいサンプルです」


アッシャーはすぐさま身体を浮かせ、サキュバスを見下ろした。


壁には、生き物の脊椎骨が蜘蛛の巣のような魔力糸で編み込まれ、空間全体に濃い影が落ちていた。


その闇の中で、天井から染み込んだかすかな光だけが、アッシャーを包み込んでいた。


「一介のアイオン風情が……!」


サキュバスが鋭い悲鳴をあげると、指先が尖った鉤爪に変わった。


四方を絡め取った蜘蛛の糸と爪が一点に集まり、アッシャーの心臓を貫こうとした、そのとき、


パンッ――!


破裂音が空間を揺るがした。


蜘蛛の糸の流れを逆にたどって染み込んでいたナノマシンが次々と炸裂した瞬間、無防備なサキュバスの背中を正確に貫いた。

こんにちは。


この作品は、韓国を舞台に、韓国で無料連載されている小説を日本語に翻訳したものです。


お読みくださるすべての皆様に、心より感謝申し上げます。

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