プロローグ
ぼくは猫ちゃんである。名前は――「かわいい」。
茶トラの毛並みは金色に輝き、陽にあたると王者のマントみたいにキラキラする。
道を歩けばみんな口をそろえて言うのだ。
「あ、猫ちゃん、かわいい!どうしたの?」
たぶん猫ちゃんは種族名で、かわいいが名前。
よくある名前みたいだけど、まあ仕方ない。人気の名前ってそういうものだし。
ちなみに「どうしたの?」は、きっと人間語で「こんにちは」なんだと思う。
そんなぼく、つい最近――勇者になった。きっかけは単純。ちょっと探検気分で入り込んだ洞窟が、実は「勇者の洞窟」だったのだ。
最深部に足を踏み入れた瞬間、世界がまばゆく光り……気づけばぼくは勇者に認定。おまけに「世界を救う力」まで授かってしまった。
まず、人間の言葉がわかるようになった。
「かわいい」「猫ちゃん」「どうしたの」以外もちゃんと理解できる。でも、理解してみて思った。
人間って、やっぱりバカだ。食べて寝て遊んでいれば幸せなのに、なぜか競い合って上に立とうとする。そして下のものを虐げる。お金なんて意味不明な紙切れや金属を集めて、何が楽しいんだか。猫ちゃん目線ではまったく理解不能だ。
あと、身体能力も大幅アップした。もともと鼠も虫も余裕で捕まえられるし、木登りも得意。でも今は、大猪や虎すら相手にならないレベルだ。もっとも、食べきれないから倒さないけど。それから、人間には猫ちゃんを目の敵にする者もいる。ちょっとお魚をもらっただけなのに、裸足で追いかけてくるおっかないおばさんとか。そんな人間からも余裕で逃げ切れるようになった。
そのかわり、ぼくには使命が課された。「世界を救え」だって。
正直どうでもいいんだけど、まあ暇つぶしには悪くない。
それと、この町で暮らしていて気づくのは、人間たちの顔が暗いこと。魔王が攻めてくるとか、貴族が横暴だとか……そういう噂ばかり。そのせいで猫ちゃんにごはんを貢ぐ余裕もなくなっているらしい。優しい人間はパンのかけらをくれたりもするけど――猫ちゃんは肉食なんだけどな。
まず、勇者としての最初の仕事。それは仲間を集めること。ぼくは五人の「下僕」を見つける必要があるのだ。
どうやらぼくは、五人の人間に力を与えられるらしい。そいつらと一緒に魔王を倒し、ついでに貴族もなんとかする……そういうことだ。
だから今日も屋根の上から、下僕候補を物色している。猫ちゃんの目には、人間には見えない「オーラ」が見える。それで、そいつがどんな奴かひと目でわかるのだ。
そのとき、筋肉質の青年が通りかかった。その青年のオーラを見た瞬間、ぼくはぴんときた。
――うん、こいつかもしれない。
ぼくはしなやかに立ち上がり、青年のあとを静かにつけていった。




