天命騎士団、断罪(3)
やはり、父親と同じことになってしまったか……。
ジンはため息を漏らしつつ、以前に調査したリリアンジェの父親の裁判について思い出す。
リリアンジェの父親が判決を受け入れ、あっさり王都を離れたのは娘の安全を脅されたからだった。
爪を剥がすなどの苦痛を与えてから、「罪を受け入れぬというなら、娘を責めたててやるだけだ。お前の娘が共犯者となり得るだけの証言が、数多くあるのだぞ」
そのようなリス男の脅迫に、リリアンジェの父親は法定での戦いを放棄した。その父親と同じ道を、リリアンジェはたどろうとしている。
「裁判長! 私も忙しい身です。さっそくだが、判決は明日にしてほしいのですが」ヒルドが悠然とした態度でいう。
「うむ、承知した。おそらく極刑はまぬがれんだろうな」リス男がうんうん頷く。
リリアンジェはただ無言でうつむいていた。
「いざとなったら私は最終手段にでます。止めたって無駄ですよ!」ユーマがジンを見据え、鼻息荒くいった。
「僕も」とアラタナが賛同する。
「いざとなったら止めんさ」ジンはいいながらも、別の可能性を予感していた。
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次の日の法廷にあらわれたのは、リリアンジェ、ヒルド、裁判長の三人だけだった。
今日はもう審理はせず、判決がいいわたされるのみだ。
「判決の前によろしいかな」ヒルドは余裕の表情でリリアンジェに顔を向ける。「田舎で暮らしていれば、死ぬこともなかったというのに……。父親の後ろ姿でも追いかけたのか? 親不孝なことだ。その父よりも若く俺に殺されることになるとはな」
「アナタには、必ずや天罰が下ります」リリアンジェはヒルドを見据えた。
「はんっ」とヒルドは鼻を鳴らしながら、目を細める。「オマエの父もあの裁判で、『娘が天誅を下すだろう』とぬかしやがった」
「なるほど」リリアンジェはヒルドに侮蔑の視線を向けながら頷く。「こんなにも名声高いアナタが、私なんかに固執するのを疑問に思っていました」
「なんだと」
「アナタは父のその言葉に怯えていたのです。父の偉大さに怯えていたのです。だから、駆けだしで未熟な私の天誅が、気になってしかたなかったのです」
「裁判長、早く判決を聞かせてくれ!」
「……その前に、あるかたの陳述が入ることになっている」裁判長がおずおずといった。
「ほう、いったいどなたが?」ヒルドは不機嫌そうに眉をよせる。
「第一王子殿下だ」
「第一王子!?」リリアンジェは驚きの声をあげた。
「おおっ、それはそれは。はじめてお目にかかる。殿下を侮辱した男の娘の最後でも観にいらっしゃられたのかな」
「すでに部屋の外にいらっしゃる。軽口など叩かず静粛にしておれ」裁判長は叱るようにいってから、大きな声をだした。「殿下! どうぞお入りください!」
「そんなにかしこまらんでもいいぞ」奥の扉から姿を現したのはカトーだ。
なんでカトーが!?
リリアンジェは少しの間呆けていたが、慌ててカトーの元に駆けて、「バカァ!」とビンタを一閃、カトーはひっくり返る。
「違うのです! このひとはバカなだけで、けっして第一王子殿下を侮辱する意図などないのです!」リリアンジェは必死に言い訳をする。
「この無礼もの! 殿下になんたる狼藉!」裁判長は金切り声をあげて口をパクパクさせた。
「え!? え!? え!?」
「かまわん。その娘が軽率なのはよく知っている」カトーは頬をさすりながらよれよれと起き上がり、リリアンジェを指差す。「それよりも、王族特権で俺が判決をだしてやる。まずはそこの娘!」
「はあ」と気の抜けた返事しかできなかった。
「クソ真面目でバカ正直、持ちまえの正義感もどこか独りよがり。よって弁明の余地なしとし、三ヶ月間修行禁止の刑に処す」
「そう……」
「次に、ヒルド君。なんかもう色々いうのも面倒だし、とりあえず死刑ね」次にカトーは裁判長に視線をやる。「ついでにお前も死刑」
「にゃにゃにゃにゃにゃ!」裁判長は奇声と奇抜なダンスで驚きを表現していた。
うーん、今なにが起こっているのだろう?
ほとんど思考停止状態のリリアンジェは、なんとなく手持ち無沙汰を感じて、首でも傾げてみることにした。
本作の大きな山場を越えました。
あとは大詰めのエピソード、「内乱」と「救世」を残すのみです。
もうしばらく、リリアンジェとトンデモ騎士見習いたちにお付き合いください。




