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「お嬢様、王子さま方がいらっしゃいましたよ」
着替えを済ませて暫くボーっとしていると、ケイトが呼びに来た。
「今、行くわ」
慌てて立ち上がり帽子を手に取る。
「あ、今日の飲み物はオレンジジュースにしてね」
これはわたしの全くの好みなんだけど、オムライス(もどき)にはオレンジジュース。
何故か前世の子供の時からの癖は生まれ変わっても治らないものらしい。
「わかりました。四人分でいいんですよね」
念を押すようにケイトが確認してくる。
「うん」
っと、四人?
あーそう言ういや、今朝そんなこと言われたっけ、憶えてないや……
「ケイトっ! 」
「なんですかお嬢様、突然そんな大声をはりあげて」
「お弁当、ちゃんと、四つあった? 」
ケイトの話をぼんやり聞いて、ぼんやり作ったお弁当、四人前作った記憶がない、いつもの癖で三人前だったんじゃ、と、不意に不安になった。
「ありましたよ、何を寝ボケていらっしゃるんですか? 」
ケイトが呆れたように笑顔を浮べる。
そっか、そうだよね。
冷静に考えて、お弁当が四人前になったこと、伝えてくれたのはケイトで、お弁当包んでくれたのもケイトだから、足りなかったらその時点で何か言ってくれるはず。
「ごめん、本当に寝ぼけていたかも? 」
「しっかり、なさってくださいね」
そういえば、今日のお客様って、誰なんだろう?
それでなくてもケネスと顔合わせにくいのに、レイモンドもいっしょだったりしたら間が持たないよぉ。
そう考えたら、思わず足が止りそうになった。
エントランスホールへ降りると、予告どおり三人の人影があった。
誰だ、誰だ、誰だ?
願わくばレイモンドでありませんように。
祈る気持ちでホールを降りる。
「やあ、ロレッタ。
今日はごめんね、急に一人増やして」
ケネスが笑顔で言う。
「いえ、全然。
あんまりおもてなしはできないけど、楽しんでいってくださいね」
声を掛けてケネスの影に隠れるようにしている人影に視線を向けた。
この、野暮ったい前髪はっ……
さすがケネス、グッジョブだよぉ。
何しろ、ケネスとは気まずいし、エリオットは緩衝材の役にはたたないだろうし、これにレイモンドが加わったらどうなるかと思ったんだけど。
エリちゃんだったっけか、なら大歓迎!
「今日は、どこにする? 」
一応ケネスにお伺いを立てる。
「日差しが少し強いから、庭外れの森にしようか? 」
うん、なんと言うか、いつものケネスだ。
昨日のあの様子じゃ、まだ怒っていても不思議じゃないのに。
「今日はありがとう、あの子をご招待してくれて」
庭の一角、円錐形に整えられたトピアリーの並んだ脇を歩きながら、いかにも野暮ったいお下げの髪を揺らしてついて来る少女に軽く視線を向けてあたしはケネスにお礼を言う。
「友達になりたかったんでしょう?
なのに、昨日僕が強引にロレッタのこと送り返しちゃったから。
ごめん」
だから、昨日の今日で相手があたしのこと忘れないうちに誘って連れてきてくれたんだ。
さすが、腹を立てていてもフォローはしっかりするところってすごいな。
「ありがとう。
その、昨日はごめんなさい」
あたしはケネスに頭を下げた。
そりゃ、無自覚だったにしたって、一応ケネスの婚約者みたいなものなんだから、あれはまずかった。
「いいよ。
スタリナール侯爵から聞いたよ。
ロレッタ何も知らなかったって。
だから、今回だけは許してあげる。
ロレッタのそう言うところも好きだから」
ケネスはこれ以上ないほど極上な笑みをあたしに向けてくれた。
だけど、その笑顔こそが怖いんですけどぉ。
「ありがとう」
少し怯えながらもお礼を言う。
「そうだ、侯爵がね、君の教育係が余りに若いせいもあったって、父上に謝っていたよ」
「それって誰? 」
あたしは一瞬ケネスの言った言葉の意味がわからずに首を傾げる。
教育係なんか、あたしにいたっけか?
家庭教師の先生も教科ごとに何人かいるけど、皆お世辞にも若いとはいえない年齢。
若いのはケイトだけなんだけど、ケイトは教育係というより、身の回りのお世話をしてくれる小間使いだから、違うよね?
ケネスはわたしの問いには答えてくれなかった。
「どうぞ、召し上がれ」
整地され手の行き届いたトピアリーが整然と並ぶ庭を取り囲むようにして木々が生える。
この先は森になるという境界線の一角で、木の枝が張り出して木陰を作っている場所で、あたしたちはお弁当を広げた。
「今日は、オムライス? 」
ケネスが言いながらお弁当箱のふたを取る。
「オムライスの時って、ロレッタいつもオレンジジュースだよね?
僕冷たい紅茶がいいって言わなかったっけ? 」
にっこりと笑みを浮べて言われた。
だ、か、ら。
その笑顔が怖いんだってば。
「ごめんなさい、わたし自分が好きだからつい。
次からは気をつけるから」
「うん、そうして」
浮べた笑顔はそのままなんだけど、少しだけ怖さが薄らいでいる。
しまった、確か前にもそういわれたんだよね。
オムライスだけに限ったことじゃなくて、ケネスは食後のお茶は必ず紅茶じゃなきゃ納得しない。
「気にしないで。
さ、いただきましょう? 」
少女の隣に座ってあたしもお弁当箱のふたを開ける。
「きれい! 」
お弁当箱のふたを取るなり、少女が呟いた。
今日のお弁当、玉子の黄色にケチャップの赤、それからブロッコリーの緑って彩りだけはきれいだもの。
「見た目だけ、実は手抜き」
隣でエリオットがぽそりと呟いた。
こんのぉ。
嫌なら食べなくていいよ。
というか、だったら来ないでくれ。
自分の手抜きは棚に上げてそう思う。
「そんなことないよ。
手がどのくらい掛かっているかじゃなくて、味でしょう。
ロレッタのお弁当はいつも美味しいよ」
ケネスがすかさずフォローしてくれる。
「……ほんとう、おいしい! 」
ケチャップライスを口に運んで少女も呟いた。
よかった、少女の口にも合ったみたい。
それにしてもこの顔が全く見えないゲームのスチルのお約束スタイル。
勘弁してよぉ。
運営さんはユーザーが自己投影しやすいようにってわざと顔を描いていないのはわかっているけどさ、さすがにここまでダサいのが自分だと思えって言われても、萎えるだけだったわ。
というか、このこ本当に目あるのかな?
そう思ったら気になって、つい少女の前髪に手を伸ばしてしまった。
「え、あのっ? 」
前髪にあたしの手が触れると少女が戸惑った声をあげた。
「ごめん、虫が止ってたから」
愛想笑いをして誤魔化す。
……一応あったよね、目。
というか、一瞬だったけど、けっこう可愛い顔してた。
「さ、遠慮なく食べて。
エリオットも、手抜きでも食べられないほどまずくないでしょう? 」
「ライスはいい、けど玉子、甘くない」
またしてもエリオットがダメだししてくる。
うっそでしょぉ。
オムライスの玉子まで甘くしろってか?
コイツの味覚信じられない。
「ごめん、ご飯の味にあわせたんだけど、ダメだった?
次からは甘くするね」
ケネスと、この女の子さえいなければ「あんたの舌どうなっているの? 」って突っ込むところなんだけど、さすがに堪えた。
「あ、そう言う訳で玉子、甘くないんだけど、大丈夫だった?
わたしとケネスは甘くない派だったから、今までのつもりでつい甘くしてないんだけど」
「すごく美味しいです!
わたしも甘いのよりこの位のほうが好きかも」
なんか、かんどーしてくれているみたい。




