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「どう? 」
作業台の上に何枚もホットケーキの乗ったお皿を並べて、あたしはケイトに訊く。
毎日ちまちま一袋ずつ検証なんて面倒だったし、何よりこれからまた何日か毎食ホットケーキは避けたかった。
「どうって、普通においしいですよ。
ただ、このローズはどうでしょう?
ローズウォーターの替わりに入っている薔薇の花弁の粉末、口当たり悪いですよね。思ったほど香りもないですし」
ちびっこの配合したミックス粉じゃないせいか、ケイトは思ったことを遠慮なく口にする。
「あと、このブラックペッパー。
こういうのもありなのかも知れないですけど、これだと甘味が邪魔と言うか……
あ、お嬢様のお口なら合うかも知れませんけど、如何ですか? 」
「そうぉ? 」
言われたお皿の中のホットケーキをひと欠フォークで取って口にする。
う~ん、ケイトの言うとおりイマイチかな?
甘味を押えて、チーズとベーコンでも入れたら合うかもだけど。
それだと、ホットケーキと言うよりケークサレになりそうな……
「ケイト、小麦粉出して! 」
手元に並べたお皿を片隅に寄せて、作業スペースを確保して。
小麦粉とベーキングパウダー、それからたっぷりの胡椒を合わせる。
たまごとミルクを混ぜて、ざっくり刻んだチーズとベーコン。
本来はパウンド型に入れてオーブンで焼くんだけど、時間がないからフライパンでいいか。
「これなら、どう? ケイト」
出来上がりはなんだかキャベツの入っていないお好み焼きのようになっちゃった物を、ケイトに差し出す。
「これ、いけますよ。
甘いもの苦手な人でも一枚ぺろりと食べられそうです」
一口食べてケイトが目を見開いた。
「でしょう?
胡椒にはぜったいこっちのほうがいいと思うの! 」
「お嬢様、これはどちらで? 」
「どこでだったかしら? 」
まさか前世でとはいえなくてとりあえず誤魔化す。
「ところで、お嬢様。
これ、どうしますか? 」
作業台の上に並んだホットケーキのお皿を目にケイトが訊いてきた。
そうだよね。
朝食をしっかり食べた後で焼いたんだもん、二人でこんなに食べきれる訳ない。
それに、あの父親はモニターとしてこれをここに持ち込んだんだから。
ケイトの舌はともかく、このちびっこの舌はあんまり信用できないかも?
何より、ミックス粉なんて中身のはっきりしないお手軽な物使うのって、お金も時間もたっぷりある貴族の奥方じゃなくて、ここの使用人みたいな一般の人のはず。
だったら、使用人の皆さんの意見をきいたほうが確実。
「皆に食べてもらって。
モリーとかレスターとか、庭師のお爺さんとか、門番とか」
「そうしていただけると皆は喜びますけど、いいんですか? 」
「うん。食べてもらって、感想とか意見きいてお父さまに報告して」
「じゃ、そうさせていただきます」
ケイトが軽く頷いた。
「お嬢様、お取り込み中のところを申し訳ございません。
ケネス王子殿下がお見えですが」
盛り上がっていると、表務めのメイドが突然顔を出して言う。
「え、っと。
じゃ、お部屋で待っていてもらって! 」
まさか、キッチンに、しかもこれだけ散らかっているところへは招き入れられないよね。
「構わないよ、ここで」
言いながら慌てて手を洗い、エプロンを外そうとしたら、遠慮なくケネス王子は入ってきた。
「今日はホットケーキを焼く練習? 」
首をかしげながら作業台にひろげまくったホットケーキのお皿を見ている。
と、その中の一つをぱくりと口に放り込んだ。
しかも、さっき試しに焼いたケークサレもどき。
まずいよ、あれ。
ホットケーキだと思って口に入れたら、絶対違和感がある。
しかも、いつもこのちびっこの料理に難癖をつけているという相手だし。
また、いつものように頭ごなしに「不味い! 」って言われるのを覚悟してあたしは首を竦めた。
「ふぅん、まあまあだね」
なのに、王子の口から飛び出した言葉はまさに予想外。
しかも、笑顔まで浮べている。
「ケイト、どういうことだと思う? 」
「さぁ? わたしにはなんとも…… 」
二人でこそこそ耳打ちした。
今までずっと、ちびっこの料理にダメだししてたのに、どういう心境の変化なのかな?
そういえば、この間ちびっこがお妃の候補者に決まった時、推薦してくれたのは、チーズタルトが気に入ったからとかなんとか言ってた。
あの時のチーズタルトは確か、特別なレシピじゃなかった。
ただ、ケネス用に蜂蜜の種類を変えて……
ん? あれ?
何か、大切なことを忘れているような?
「ね、ケイト。
あのチーズタルト誰が仕上げしてくれたの?
蜂蜜、なかったでしょう? 」
他の蜂蜜はあったけど、この王子の口に合う蜂蜜はあのクマミツバチの蜂蜜だけだから、どうしても手に入れたくて、無謀なことをした。
というか、蜂が巣に手を出したら襲ってきて刺されるなんてこと知らなかった。
このちびっこ料理の知識はそこそこあったけど、その他の知識は五歳児以下だったってこと。
結果、大騒ぎになってお茶会どころじゃなかったらしいんだけど、お菓子が王子の所に届いたってことは誰かが他の蜂蜜使って仕上げしてくれたってことだよね?
「さぁ?
あの時、わたしはお嬢様の側を離れられませんでしたから。
誰が、仕上げをしたのか判りませんよ。
でも、変ですね。
お嬢様の材料棚にあった蜂蜜はどれもほとんど減っていませんでしたけど? 」
ケイトが首を傾げる。
「ま、さ、か? 仕上げしないで持っていったってこと? 」
ちびっこの血の気が一気に引いた。
そりゃ、そうよね。
あのタルトレット、もともと散々ダメだしされたケネス王子に振舞うつもりで焼いたから中のフィリングほとんどお砂糖が入っていなくて味がなかったはず。
その上表面にコーティングするはずだった蜂蜜端折ったら、ほとんど味がしない。
そんな中途半端なもの、どこが気に入ったんだか。
「これ、また焼いてくれる? 」
そんなあたしとケイトの様子をよそに、ケネス王子は焼いてあったケークサレをぺろりと平らげて、満足そうな笑顔を浮べた。
もしかして、この王子。
辛党? いや、辛党までは行かなくても甘いの苦手?
そういえば、クマミツバチの蜂蜜って、同じ蜂蜜の中でも風味はものすごく強いけどさらさらしていてあまり甘くない。
それがお気に入り、ってことは。
絶対そうだ……
そりゃ、食事よりスイーツ得意だって有名な王妃様の作ったもの、人に押し付けたくなるよね。
思い出した!
攻略相手の筆頭、ケネス王子。
ゲームの中では『初心者さん向け、運営一押しキャラ』だった。
食材の好き嫌いが激しくてはっきりしている。
しかも、その好きな食材が初心者限定ログインボーナスとか初心者クエストなんかで簡単に手に入った。
いわばチュートリアル的な攻略しやすいキャラ。
今目の前にいるケネス王子のまんま、甘味が苦手でどちらかと言うと塩っ辛いものが好き。
と、言うことは……
やっちゃった?
ここで極甘のものだけ提供していれば将来のお妃コース回避できたって事だよね?
そうだよね?
そう、絶対そう!




