第二章〜真実と真意〜(1)
第二章~真実と真意~
穏やかな朝が来て、少し遅い食卓に足を運んだのは三人。キヴィ、シルキア、ラジウである。
「はい、三人とも遅いですよ」
既に朝食を終え、待っていたクレクが笑顔でそう言った。もちろん、起きてきた彼らの朝食の準備をしながらである。
「…………」
「昨夜、ちょっと本読んでてね」
「ごっはーん!」
シルキアは眠いのか、無言のままうつらうつらしている。キヴィは欠伸を一つし、言い訳を口にした。ラジウに至ってはクレクの話を聞いていないのか、興味深々で目の前のオムレツに目を光らせている。
皆、一応はそれぞれの席へと腰を下ろした。
「もう、他の子供達は朝食を終えて外で遊んでますよ」
「はーい。いただきまーす!」
咎める言葉もなんのその。ラジウはカラ返事を返し、与えられた食べ物にかぶりつく。
まったく。と小さく呟くものの元気な彼の姿を見て、クレクは微笑を浮かべていた。
「と、自己紹介がまだだったね。そういえば」
キヴィもゆっくりと物を口に運びながら発言した。
「そうですね。いろいろとありましたし」
それに答えるのはクレクだけだったりする。
ラジウは勢い良く次から次へと食べ物を頬張り、シルキアは顔を落としたまま微動だにしない。
「短い時間だったのに長く感じたね。この三日間」
「私たちにとっては長い四日間でした」
しみじみとこの数日間を振り返る二人。それは、平和な朝を実感することによって産まれた感情だろう。
「おかわり!!」
二人に割って入ったのは、全てを平らげて綺麗になった皿。もとい、素早く食べ終えたラジウが出した皿だった。顔には食べ残しがちらりほらり付いている。
クレクは、皿を受け取ると席を離れた。
「ったく、元気だねぇ」
キヴィが呆れたように呟く。
しかし、ラジウはそんなことお構いなしに、クレクから2個目のオムレツを受け取っている。そして、先ほどと同じように頬張り始めた。
「とりあえず、ラジウ。あんたのこと。教えてくれないかね? なんでこんなところに、大人一人とたくさんの子供が住んでるんだい? 確かここは誰も住んでない空き家だったはずだけど」
「うんとね、僕はラジウ・マイナー。この城の下にある城下町の王、ホーデュ・マイナーの一人息子だよ。あそこにいるのが嫌になって飛び出してきたんだ。クレクは僕の従者で、他の子供達は僕についてきてくれたんだ」
キヴィの問いに、オムレツを食べる手を止め。視線を上にし考えるように答えるラジウ。
「ホーデュ・マイナーって、あのつい最近死んだ?」
「……そうだよ」
ラジウはキヴィのついて出た台詞に一瞬押し黙るが、頷いて返答してみせた。
「あー、酷なことを聞くんだけど……それは、本当かい?」
「本当だよ。父さんが生きてたら、僕はこんなことする必要ないもん。父さんがいなくなったから、僕は自分の身を守るために逃げ出してきたんだ……」
ラジウの反応を見て、少し躊躇いながらも問いをぶつけるキヴィ。
ラジウは内容のせいだろうむっとしながら答えた。口調もほんの少し熱くなってきている。
「おかしいねぇ……」
「何が?」
「逃げてきたって、ホーマイ国からだろ?」
「うん。父さんのホーデュのホーと、マイナーのマイの字を繋げたホーマイ国から逃げてきたんだよ。それがどうしたっていうの?」
当たり前じゃないかと胸を張るラジウの発言にキヴィは頭を掻いた。どうやら相当言いにくいことらしく一旦ラジウから視線を外した。しかし、意を決したように向き直り、ラジウと視線を交える。
「実はね、噂で聞いた話なんだけど、ホーデュ・マイナーの息子。ラジウ・マイナーは、ホーマイ国の国王にきっちり納まったと言われてるんだ」
「はっ!?」
「えぇ!?」
キヴィの言葉に思わず声をあげるラジウとクレク。
ラジウに至っては、使っていたスプーンをカランと下に落としてしまう程驚いている。
「ちょ、待ってよ! 僕、国民の前で逃げ出したんだよ!? しかもそれ、四日前の出来事だし!!」
ラジウは立ち上がり身を乗り出す。そして、信じられない! と言った表情のまま言葉をキヴィにぶつけた。
「落ち着いてくれよ。逃げ出した噂ももちろんあるんだよ。ただ、次の日には戻ってきたとか、あれはパフォーマンスだったとか。噂ではそういうことになってるんだよね」
「そ、そんな風になってたとは……通りで誰もラジウ様を連れ戻しに来ないはずですね」
「ちょ、どういうこと!?」
食後のお茶を飲みながら、キヴィは落ち着いた様子で噂を彼らに伝えた。
それに、クレクは落胆しながらも納得する。
しかし、ラジウはというと、まったく状況を飲み込めてはいない。机をバンと叩いてキヴィに説明を求めていた。
「ようするに、代役を立てられた。ってことだろうね。しかも、あんたでなく。そっちがラジウ・マイナー本人とされてるってことだね」
「ぼ、僕、偽者じゃないよっ!!」
「わかってるよ、ラジウ。ただ世間ではそういう噂があるっていうだけなんだよ。それに、あんたはあの国を捨てたんだから、そんなことはもう、どうだっていいことだろ?」
熱くなり弁護するラジウを抑えるように、キヴィは言う。
しかし、それは逆効果だったようだ。ラジウは眉を吊り上げて、口を大きく開けながら彼女に食って掛かる。
「どうだっていいわけないじゃんかっ!! 僕は、ホーデュ・マイナーの息子なんだ! 絶対良い王になって、父さんの国も守るんだからっ!!」
どうやら、ラジウの思惑とはまったく違ったらしい。大声で自分の主張を述べるラジウに、半ば押され、驚きを隠せぬままキヴィは彼を凝視している。
「……ぷっ……あははっ! あんたって、やっぱり面白いね! なんて大胆な発言するかなぁ」
そして、噴出して笑い出す。
そんなキヴィの行動にラジウはむっとし、頬を膨らませた。その後、ダンっと大きな音を立てて椅子に座る。椅子がぎしぎしと音を鳴らした。
「僕はもう、何も言うことないからねっ!」
一言そう言うと、ラジウはそっぽを向いてしまった。明らかに拗ねている。
それが更にキヴィを笑わせることになっているのだが、当の本人は気づいていない。
「ぶっ……くくく。わかった、わかった。じゃあ、今度はクレク。あんたがしておくれよ」
「え? 私ですか?」
なんとか笑いを堪え、クレクに話を回すキヴィ。
しかし、いきなり自分に話を振られ、クレクは抜けた声を出す。
そんな彼に、キヴィは当たり前。と言うように首を大きく縦に振った。
「……私は、ラジウ様の付き人ですよ。ホーデュ様とラジウ様に忠誠を誓っておりますので」
クレクはそこで一旦話を止め、優しい柔和な笑みを浮かべた。
「他の方がどうなろうと知ったことではありません。その点はご了承ください」
どうやらクレクはあまり仲良くするつもりはないらしい。明らかに言葉を強調し、宣戦布告を言い渡した。
流石にこれにはキヴィも多少頬を引きつらせる。
「人見知りが激しいだけなんだ。気にしないで」
しかし、そこですかさずラジウが自分なりのフォローを慌てて入れた。
もちろん、キヴィがそれに爆笑したのは言うまでもない。机に突っ伏し腹を抱えてひいこら笑っている。
「えぇと……キヴィさん、大丈夫ですか?」
ぴくぴくと肩を震わせる彼女に、クレクは心配そうに問いかけた。
「だ、大丈……夫っ!」
キヴィは掠れた返事と共になんとか顔を上げ、涙を拭った。よほどおもしろかったらしい。
「次はあたしだね。あたしはキヴィ・ライズン。前に言った通り町医者さ。性格は大雑把。見ての通り。そんな感じだよ」
キヴィは、さらりと自分の紹介こなす。大雑把な性格を自覚していたのか。と思わずラジウとクレクは、内心突っ込んでしまった。




