第一章〜三通りの道しるべ(19)〜
「おっ、出てきた」
アレンがちらりと見える人影に気づき、二人に合図を送った。キヴィの足の応急処置を終えたクレクがそれに素早く反応を示す。三人は洞窟をじっと凝視した。
ゆっくりと姿を現した二人のうち一人はボロボロで、泥だらけの傷だらけ。もう一方は無傷で、洞窟に入っていった時とまったくといっていいほど変化はない。
「っ! ラジウ様!!」
もちろんボロボロなのはラジウなわけで、クレクは叫ぶと同時に彼に駆け寄ったのである。
そして、ワザとだろう。思いっきりシルキアとラジウの間に割って入った。かと思うとラジウの服をパンパンと叩きだした。いつものお世話というかお節介が始まったようだ。
「わっぷ。クレク! いいよ、大丈夫だから!」
埃を吸い込んで大きくむせながら、ラジウは何とかクレクを押しのける。
クレクは眉を潜め不満そうな顔をしたが、仕方なく引き下がった。
「で、勝負はどうなったんだい?」
キヴィが、岩の上に腰を下ろしたまま、戻ってきた二人へと声をかけた。
その言葉にシルキアはラジウに視線を寄越す。お前が説明しろと、ラジウに言っているのだ。
「うんと。引き分け」
ヘラっと笑って、ラジウはあっさりと答えを述べた。
その答えに、キヴィとアレン、クレクまでもが驚いて固まる。全員違う意味で固まっているようだが。
「…………はぁ!? 引き分け!!?」
一番信じられないのだろう、アレンが口をパクパクと動かしながら声を張り上げた。今にもシルキアとラジウに食ってかかりそうな勢いだ。
「は?勝てなかったのかい?ラジウ」
キヴィも間の抜けた顔でラジウに問う。それもそのはず、彼女にしてみれば勝てるようアドバイスをしたし、勝つだろうと大方の割合で思っていたのだから。
「うん。水晶落っことして割っちゃった。ほし」
語尾に自分で星というほど、ラジウは陽気に答えた。いや、しかし笑ってはいるが口は引きつっているし、額からは一筋の汗が流れ出ている。誤魔化すのが本当に下手なラジウだった。
ラジウの行動に、キヴィとアレンが冷たい視線を送るのだが、
「……ラジウ様。いったいどうなされたんですか!? 口で星。なんて言うなんて!! 熱でもあるのではないですか!!?」
見抜けない保護者がここに居た。慌ててラジウの額に手をやり、熱を測っている。
勢いよくまくし立てたので、ラジウは固まったままクレクのなすがままである。さらに額から汗が吹き出る始末だ。
「ないよ。クレク」
しかし、心情は冷静だったらしく軽くクレクをあしらう。
「っ……ラジウ。あんたねぇ」
いつまでも固まって冷や汗を流しているラジウを見て、キヴィはため息をつく。それから少し頬を膨らませ、膨れっ面をしてから言葉を続けた。
「勝てたのにわざとやったね?」
「ちょ、待ってよ!! それってシルキアが負けたってこと!? うっそーー!!?」
キヴィの言葉にすかさずアレンが騒ぎ立てる。甲高い声の対立に、ラジウは思わず耳を塞いだ。
「あぁ、負けた」
「はぁ!? ちょっと何認めてんの!?」
喚くアレンに、シルキアは当然というようにさらりと言うが、案の定。大きな声でアレンに反論されてしまう。
「…………ふぅ」
そして、もう言い返すのも飽きたのか諦めたのか、シルキアはため息を一つもらしただけだった。
アレンはシルキアの態度に納得がいかず、再び大きく口を開けた。
「あ、だから! 引き分けなんだってば!」
「んでだよっ!? だいたい、お前。勝ったならなんでそんなに引き分けにしたいわけ? それも思いっきり納得いかないんだけど」
シルキアが何も言わないので、仕方なしにラジウはアレンが言葉を発する前に声をかけた。
しかし、やはりすぐさま反論が自分に返ってきてしまう。さらに質問が増えて。
「え……? じゃあ、アレンさんは僕に仕えたいの?」
「んなわけあるかーっ!!」
アレンの設問に、きょとんと目を見開いてさらりととんでもない事を聞くラジウ。アレンも思わず声を大にして突っ込んでしまう。
「え? だって。僕が勝ったら全員僕に仕えるって約束でしょ?」
首をかしげて、まだきょとんとしてラジウは聞いた。
その言葉にアレンは、あぁ。と小さく呟き、頭を抱え込んでしまった。どうやらようやっと、一番最初に約束したことを思い出したようだ。ラジウ達が勝ったら全員ラジウに仕える。シルキア達が勝ったらラジウ達は各々がいた場所に戻る。という約束を。
「で、アレンさんは仕えたくないんでしょ?」
「仕えたくなんかない」
ラジウの問いに未だに頭を抱えつつもきっぱりと答えるアレン。
「じゃあさ。今まで通りでいいじゃんか。何にも変わんなくてさ」
大きくアレンに頷いてみせるラジウの顔からは自信満々さが伺えた。アレンは、目を見開いて彼を凝視する。




