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黒、ただひたすらに

それは、絶望


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一本の、縄。

それはいつものベンチの前の、桜の木にぶら下がった、違和感だった。

今日は休日。

他校に試合に出かけているらしく、運動部はいない。

僕がここに縄を結んだ理由は、特にない。

あえていうなら自分の部屋より目立つからだ。

台は、そこらへんに置いてあった脚立だ。

2段のそれを上まで登る。

これだと少し長さが微妙だが、首を入れた後脚立を蹴って倒せばいいだろう。

地面には、着かない。

縄に触れる。

ザラザラした手触りの荒い縄で、首が擦れて血が出そうだ、と取り止めもないことを思った。

そう、僕は今日、ここで死ぬ。

と、制服が少し引っ張られたような気がして、僕は振り向いた。

僕は驚いた。

ほとんど虚ろだった僕にとって、それは今日一番に強い感情だったかもしれない。

黒い髪、白い肌、黒い瞳。

あの時以来、彼女は一度も学校に来ていなかったのに、何故か今日に限って。

一条夕嘉が、そこにいた。

彼女は少し首を傾げた。

「死ぬのか。」

「もうそれしかないんだ!

僕は独りなんだよ!」

思いは、叫びとなって口をついた。


ー父さんっ…。

ー…もう、そう呼ぶな。

ここには二度と帰ってこないから。

ー母さん!

ーこっちに来ないで!

あの人の血の混じったあんたの顔なんて見たくないっ!


「僕には居場所がないんだ。


父さんと母さんの子供でもなく、

奈緒子の彼氏でもなく、

僕は、何者でもない。


必死に保とうとしていた最後の足場は今日、崩れて散った。


僕の叫びにも彼女はふむ、といつも通りの反応を返した。

そして、言う。

「…私には、君が死ぬことを止めることなどできないよ。

何故なら生かしておいたところで君が生きていられるよう救いを与えることなど私には出来ないからね。」

彼女は僕のズボンを握った。

「ただ、私は君に生きていて欲しい、と願うだけだよ。」

思ってもみなかった言葉に驚く。

脚立から降りる。

「…生きていて欲しい?」

「私の心に色を落とすのは今の所、君だけだから。」

もう、どんな理由でもよかった。

彼女は僕を必要としている。

僕には、彼女の興味対象という足場が残っている。

「…ありがとう。」

僕は膝をつき、彼女を抱きしめ…久しぶりに声をあげて泣いた。

彼女はそんな僕をいつも通り、黙って見ていた。


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