第15話
夜明け前の山道。
四人は静かに歩いていた。
ふと桃太郎が立ち止まる。
「キジ!
お前に渡したいものがある」
「なんだ?」
桃太郎が懐から、きび団子を取り出す。
「これを食べてほしい。
お前の眠っていた力が目覚める」
「俺に眠っている力?
それを食べるだけで目覚めるのか?」
キジは不思議そうに言った。
「ああ、虎も猿も
これを食べて力が目覚めた。」
白く、丸い。
一見、ただの団子。
だが、冗談ではないことをキジはすぐに悟った。
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「怖いか?」
桃太郎が聞く。
キジは、少し笑う。
「怖いさ」
「力を持つのが、怖い」
「また慢心するかもしれない」
風が吹く。
静かな朝の風。
あの日と同じ風。
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「慢心するなら、俺が殴る」
虎が言う。
「隠れてサボっていたら、俺がすぐ見つける」
猿が言う。
桃太郎は静かに言う。
「もう昔のお前じゃない」
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キジは、団子を受け取る。
「……腹決めたぜ」
口に運ぶ。
噛む。
甘さが広がる。
次の瞬間――
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空気が、変わった。
風が、ざわめく。
周囲の草木が一斉に揺れる。
キジの羽が逆立つ。
胸の奥で、何かが弾ける。
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キジが、ゆっくり翼を広げる。
風が集まる。
足元の砂が舞い上がる。
猿が目を細める。
「おお……」
虎が低く唸る。
「風を...」
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キジは小さく息を吐く。
翼を振る。
轟音。
突風が一直線に走る。
遠くの木がなぎ倒れる。
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「こいつはすごい……」
キジが驚いた表情で言った。
風が、従っている。
命令を待っている。
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その瞬間。
猿が嫌な気配を感じ取った。
「鬼が来る。
近い。
どうする?戦うか?」
キジが答える。
「ああ、やってやるさ」
桃太郎は力強い笑みを浮かべた。
「よし!
やってやろう。」
地面が震えた。
重い足音。
森の奥から、鬼が姿を現す。
巨大な棍棒を担ぎ、笑っている。
「なんだ。
男かよ。
まぁ、いい。
だったら全員食ってやる」
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キジは空へ舞い上がる。
「来るなら、来い」
両翼を打つ。
暴風が鬼を包む。
鬼が踏み込む。
だが、押し返される。
それでも倒れない。
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「あの突風を堪えやがった」
虎が言う。
「ほー。
風を起こせるのか。
奇遇だな。
俺もだ」
鬼が突風を起こす。
キジの風を押し返す。
「ぐっ!
こいつ!」
キジが苦しそうに言う。
「キジ!」
桃太郎が剣に炎を灯す。
「桃太郎!」
桃太郎は鋭い目つきで振り返る。
虎が言う。
「これはあいつの戦いだ。
今俺たちがやることは、助けることじゃない。
見守ることだ。」
「くっ!」
桃太郎は剣を鞘に収めた。
「キジ、がんばれ。」
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(こいつの風は俺より威力が高い。
ダメだ。押し返される。)
キジが鬼の風で吹っ飛ぶ。
「ぐあーーー!」
キジはボロボロの体で
なんとか空にいた。
「ほー。
まだ倒れぬか」
ニヤけた鬼が言う。
キジは満身創痍の体で思う。
(こ、こりゃあ、ちょっとしんどいな。
いきなり同じ力を持つやつに
出会っちまうとは...
しかも俺より威力が上だ。
勝てっこねー。)
(...同じ力?
本当にそうなのか?...
俺の力は、ただ突風を起こすだけなのか?...)
(...一か八かやってみるか。)
「ふふふ。
では、とどめを刺させてもらう。
焼き鳥は久しぶりだぜ。
死ねー!」
鬼が渾身の突風を放つ。
「ぐっ!
し、死ぬのはてめえだー!」
キジは上空で両翼を交差。
風を圧縮する。
無数の真空刃が生まれる。
真空刃は、鬼の風をものともせず、鬼を襲う。
「な、なんだこれは!」
鬼が焦りながら言う。
真空刃が鬼を切り刻む。
「ぐわー!」
鬼の咆哮が途切れる。
やがて、崩れ落ちる巨体。
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風が静まる。
朝日が差す。
キジがゆっくり降り立つ。
息は荒い。
だが、目は澄んでいる。
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猿がボソっと言った。
「す、すげえ」
虎が桃太郎に近づき、
少し笑みを浮かべて言った。
「よく我慢したな」
桃太郎は振り返り、優しい笑みを浮かべた。
「信じるって、苦しいな。」
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桃太郎が力強く言う。
「最高の仲間が揃った!
鬼ヶ島はもう、すぐそこだ!
待ってろよ酒呑童子!」




