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召喚士の休日  作者: ittpg(三崎 まき)
エピローグ
227/228

5.スムの森を望んで ☆

挿絵(By みてみん)


「おーっ、いい眺めだな!」


 朝から上ったゆるやかな坂が終わり、森が切れた。南側の眺望が開け、なだらかにうねる大平原北部の草原が見渡せる場所に出た。

「あの遠くの山がスムの森だね」

 馬上のシールが目を細めた。ホタンの宿場町を発ってから三日目。シールには二往復目となる北街道も、ハルにとっては初めての道だ。蒼穹の下、はるか地平のかなたに貼り付くテーブル状の山塊。夏の大気に揺らぎ、ほのかな青さを空に映す影は、かつて王国と教団が二度にわたり激突したスムの森の北端だ。ハルにもこみ上げるものがあったのだろう。マシューの手綱を握ったまま、彼女はしばらく草原の向こうを遠望していた。

「……休憩すっか、シール」

「そうだね」

 日に焼けたハルの顔には笑顔が戻っていた。彼女は両手を差し出し、馬上のシールを抱き止めた。



 ※


 流れ出る小川のほとり、街道脇の土手にふたりは腰を下ろした。木陰に繋がれたマシューも、がぶがぶと水を喉に送ると脚を畳み、腹を草にうずめた。日持ちするよう焼き固めたミンナにハルは齧り付いた。シールは干し肉を割き口に運んだ。

 草むらから鳥のさえずりが聞こえた。人の姿はない。人口の減った大平原。特に北街道はもともと交通量が多くなく、すれ違う旅姿もまれだ。かつての中央街道の賑わいを知るふたりには、ずいぶんと寂しく感じられた。



「なあ、シール」

 焼きミンナを嚥下し、ハルが口を開いた。

「あたい……リリィにどーしても聞きたかったけど、どーしても聞けなかったことがあるんだ」

 語彙に乏しいハルの言葉をシールは嗤わなかった。ハルは前方、開けた景色に言葉を投げた。


「リリィの力はあたいを殺せなかった。でもエレナさんやザヅツ、ナカやフローラは殺しちまった。なぜなんだろう、ってね」

「……………」


 それはシールの心にも、ずっと澱となってわだかまっていた。

 地平の先、スムの森でも彼女は目の当たりにした。彼我入り乱れての乱戦の中、リリィの放った死霊たちは味方には傷ひとつ付けず、敵はひとりとして容赦しなかった。だったら世話になったエレナたちは、リリィにとって敵だったのだろうか。


「……………」

 ハルは黙っている。厳しい表情で。彼女もそれが引っ掛かっていたのだろう。もしそうなら、彼女にとっても愉快な真実ではないはずだ。

 だがそんな彼女に、年下の少女は救済を与えた。


「それは……たぶん、永遠にわからないよ。きっとリリィにもわからないんじゃないかな。リリィは手に入れた力を初めて使った。あたしやエスさんを救うために。うまく加減できなかったんだよ。だからすごく後悔して、後悔して……あんなこと言ったんだと思う」

 ハルはふうと肩を下げた。

「……そうだよな。あたいもそう思うぜ」


 マシューが首を起こす。歯茎を見せ、ハルに何かを訴える。

「おっ、ちょっと休憩が長くなりすぎたな」

 矢籠を担ぎながらハルが立った。ズボンの尻をパンパンと払う。

「次の宿場町は……」

「ティンリの前にコーエンがあるね。急げば暗くなる前に着くと思うよ」

「よし。今夜はそこで泊ろう。シール、行けるか?」

「うん。しばらくはあたしも歩くよ」

 シールも腰を上げ、汚れたドレスの尻を覗きながら草や土を払う。


 そして……

 彼女は見上げる。姉のような存在。道連れの旅も、永遠には続かない。国に帰れば、別々の道を歩まなければならない。


 でも、それまでは……『妹』の立場を楽しもう。


 だって……


 城に戻れば、自分は『お姉さん』なのだから。


次回、ついに完結です。明日公開予定です。

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