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6(ロイド視点)

「こら!ベル、レオンも待ちなさい」


 慌てて兄弟を追いかける僕の声もなんのその、二人は止める間もなく、ノックもせずにお母様の部屋のドアを開く。


 二人の後ろから部屋を見るとお母様は慌ててお父様離れたところのようで、顔を真っ赤にして瞳を潤ませている。勿論そんな様子を見て二人が何をしていたかわからないような年齢でもない。


 いい歳して何をしていたんですか?という目を特にお父様に向けるがお母様と違い、動じる様子はない。むしろ「なんで邪魔をした?」とでもいいたげな雰囲気だ。僕のせいじゃないですからね。一応ベルとレオンを止めようと頑張りましたし。


 夫婦仲が良いのは素晴らしいと思うが、それにしても両親は仲が良いと思う。まあ、僕の友人達の両親たちも同じような感じらしいからうちだけではないのかもしれないけど。


 僕はロイド、15歳。現フェンジェルベル国王夫妻の間に生まれた長男。このまま何事もなく王立学園を卒業すれば王太子となる予定だ。


 この国の王侯貴族の子ども達はほぼ例外なく15歳になると王立学園に入り3年ほど寄宿舎生活を送る。そこはある意味大人たちの社交界の縮図であり、社交界に出る前の準備期間としての意味合いもある。


 第一王子である僕ももちろん学園に入学し、寄宿舎で暮らしていた。とはいえ王立学園は王都のど真ん中にあるし、理由さえあれば一時帰宅も割と簡単だ。ほとんどお菓子を食べる日となっていても、精霊の加護を受けるこの国にとて大切な精霊にまつわる行事である「精霊のお菓子まつり」の日は一時帰宅の許可が取りやすい日でもある。


 そういったわけで、お菓子祭りを家族と過ごそうと王宮に「帰宅」した僕だったが、着いてそうそうにお父様に頼まれごとをされてしまった。


「只今戻りました。陛下に置かれましてはご健勝のようで何より・・・・・」


「そんな肩肘張った挨拶をしなくても良い、といつも言っているだろう?おかえり、ロイド。元気そうで何よりだ」


「ありがとうございます、お父様」


 お父様が良いと言っても、お父様は国王陛下。周囲には侍従も護衛もいる。王子と国王の関係を最初から崩すわけにも行かない。お父様の許可を得て、僕も普段の言葉使いに戻す。


「それで、お呼び出しとはどのような御用でしょうか?特に学園では問題なく過ごしていたつもりなのですが」


「別にロイドに問題があって呼びだしたわけではない。ちょっと頼まれてほしいことがあってな。ライセル王国のローズ王女はわかるか?」


「えぇ、先日学園にも来られましたね。春から1年ほど留学に来られるとか」


「そうだ、実際に見たなら彼女の、あぁ・・・・・少し困ったところもわかるか」


「かなり積極的な方ですね。特に異性に対して・・・・・

 」


 春からの留学の準備としてフェンジェルベルに来た彼女は、僕を含め有力な男性陣に声をかけて回っていた。まあ、第5王女ということでより良い結婚相手を見つけないことには将来がないことも関係しているのかもしれないが。


「彼女だが、突然、私のもとにも手作りだという品を持ってきた」 


「彼女が手作りですか?本当でしょうか?」


「さぁ?箱も開けていないから分からん。無論彼女には丁寧に理由を説明して、丁重にお断りしたぞ。第5王女とはいえライセルの姫を無下にはできん」


 王妃の趣味がお菓子作りでそれを周りも良しとするフェンジェルベルは変わっているほうだ。大国ライセルの姫君がお菓子作りなどするだろうか?と思った僕だが、お父様から返ってきたのはそれもそうか、という答えだ。


 お父様は家族から貰うものは除いて手作りのお菓子は受け取らない。その理由は、溺愛する妻や家族に悪い、という愛妻家らしいものだが、現実問題、打算も含め大量に送られるお菓子は消費できるはずもないから当然の対応だ。


 に、しても愛妻家で知られるお父様に手作りの菓子を手渡そうとするなどなどローズ様もなかなかだな、と思っているとお父様はさらにとんでもない言葉をつづけた。


「ただ、私に受け取りを拒否されたことに腹を立てた彼女は私のもとへ向かっていたライサを躓かせよう、としたようだ」


「なんですって!お母様は?」


「ライサに何かあれば私もこうのんびりはしておらん!慣れないことをしようとしたローズ様は自分が躓きライサに抱きとめられたらしい。その弾みでライサの作ってくれたケーキは吹っ飛んでいってしまったようだがな」


「怪我がなかったのは良いですが、それはお母様はさぞショックを受けてらっしゃいますよね」


「あぁ、無論ローズ様のまえでは何事もなかったように振る舞っていたそうだが、彼女が去ったあとケーキを拾いに行ったときには涙をこらえていたそうだ。ライサを泣かせる者は王女であろうと許せん!ということで彼女を呼び出してある」


 そう話す、お父様はまた怒りが湧いてきたようである。一方僕はなんとなくお父様のお願いの中身がわかってきた。


「そこでだ、ローズ王女と彼女のお目付け役だという伯爵夫人と面会を組んだから彼女たちと灸を据えてきて欲しい」


「お父様では駄目なのですか?」


「結果として被害が出たのはケーキ一つなのに最高権力者が出ていくわけにもいかないだろう」


「本音は?」


「私はさっさとこの仕事の山を片付けてライサのもとへ行きたい」


 その答えに思わず嘆息する。いや実際ここから先も陛下直々に対応すると大騒ぎになりかねない。ここでローズ王女と歳の近い私が非公式に動くのは間違いではないだろう。


「出来るか?」というお父様の声は国王のそれで、果たして妻に早く会いたいのか、それとも私の腕試しか。それを悟らせない飄々としたところがお父様にはある。


「証言はあるのですか?」


「勿論。王女はそれぞれの侍女しかいない、と思っていたようだが、複数の使用人が見ているし、使用人の言葉などと言ったらこれを見せれば良い」


 そう言うと、お父様は宙を見て


「精霊よ、力をお貸しください」


 そう厳かに言う。すると僕の瞳に突然執務室にッシュ続く廊下が移る。精霊が見たものを人に見せる魔法だろう。


 向こうからは大きな箱を抱えたお母様。後ろからは豪奢なドレスのローズ王女が来る。立ち止まった二人が少し話し別れようとした時、お母様の方へ一歩踏み出したローズ王女の右足が意思を持ってお母様の足を引っ掛けようとする姿がはっきりと写っていた。もっともお母様は精霊のおかげかつまずかず、反対にバランスを崩したローズ王女がこけるようになったようだが。


「どうだ、はっきり写っているだろう」


「はい、これでは言い逃れ出来ないはずです。私にお任せください」


 そうして、無事王女に軽い脅しをかけ、伯爵夫人に国でもう一度よく教育するよう念を押した僕は兄弟たちを連れてお母様の部屋を訪ね今に至るわけだ。


 精霊達はいつでも魔法を使えるよう準備をしてくれているのを感じていたが、実際は彼らの力を借りつまでもなかった。


 最初は何を言いがかりを、といっていた彼女達も使用人達が証言していると言えばうろたえ始め、精霊も見ていた。彼らの力を借りようか?と言えば、慌て始めた。


 我が国の王妃は精霊たちのお気に入りだ。王妃を害するということは精霊たちの怒りに直結すると言えばあっさりと非を認め謝罪した。


 不思議な力を持つ精霊たちを信仰する国はこの地域には多い。ライセル王国もまたその一つだ。そんな国々にとって精霊と不思議な絆で結ばれたフェンジェルベルは最も怒らせたくない国の一つだ。


 彼女たちにしても、精霊に気に入られた王妃を害し、精霊の力を借りて断罪された、などということが国に知られれば、大きな不祥事だし、国民に知られでもすれば大きな反感を買いかねない。フェンジェルベルが小国でも長い歴史を保ち続けているのは理由があるのだ。ローズ王女はそこが勉強不足だったのだろう。


 そんなことを考えつつ、お父様から仕事を奪った形で入れたお茶をトレーに載せテーブルへ向うとお父様とお母様がまた、見つめ合っていた。まあ、精霊のお菓子祭りは恋人たちの日になりつつあるのだけど、


「お茶の準備が出来ましたよ!」


 その声にお母様はハッとしたようにお父様から離れ、お父様は残念そうにし、兄弟たちはオロンジュと戯れるのをやめて席につく。


 するとお母様がトライフルを取り分けてくださる。精霊のオロンジュには何やら話しつつ、小さな専用の皿に用意してあげたいた。


 お母様は精霊と話が出来る。といっても子供の頃からお母様と一緒にいるというオロンジュだけだけど。それでも王族でも精霊の力を貸してもらうことは出来ても会話出来る人は本当に稀だそうだから、お母様は本当に精霊に愛されている。もっともそれを特別と思ってもいなくて、少し不思議な力ぐらいに思ってところもお母様らしいところだと思う。


 みんなの前にトライフルが分けられたところでお母様がお菓子祭りの定番の言葉を口にする。


 お母様のお菓子は大好き。家族みんなでお菓子を食べる時間はもっと大好き。そんな気持ちを込めて僕もその言葉を口にした。


「精霊のご加護がありますように」

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