精霊の加護111 キューピッド
精霊の加護
Zu-Y
№111 キューピッド
「悪ぃ。待たせたな。」
ホルヘとアルフォンソをスイートルームに招き入れた。
「師匠、酷いっすよ。」「そうっすよ。」
「でもさ、精霊たちを見てみろよ。」
マチルダ、レベッカ、ルイーザの見立ての、ベージュのワンピを着た王国7精霊たちを、親指でくいっくいっと指し示すと、
「うお!育ってる。」「マチルダたちと同じくらいじゃん。」
「だろ?これが真っ裸なんだぜ。お前たちに見せる訳には行かねぇよな。」
「確かにそうっすねぇ。」とホルヘ。
「いやいや、見たかったっす。」とアル。
これを聞いてマチルダがゴゴゴと怒気を発し、それに気付いたアルが慌てて、
「冗談に決まってるだろ!」と必死に弁明している。
やっぱいいコンビじゃんよ。このふたり。弄りたくなった。笑
「マチルダ、その怒気は何だ?」
「え?」
「お前さ、アルのことはどうでもいいって言ったくせに、アルが精霊たちの裸を見たがったら怒るって、むっちゃ矛盾してねぇか?」
「…。」マチルダ、だんまり。
「なんだよ。だんまりか?アルはさ、少なくとも俺と出会ってからずーっとお前ひと筋だぜ。」
「…。」マチルダ、だんまり。
「ちっ、なんだよ、それ。
なあ、アル、風俗に連れてってやろうか?」
ちょっとだけ間があったが、
「いや…。遠慮するっす。」マチルダがぱあっと嬉しそうな顔をした。よし、もうひと押し。
「アル、こんなツンツンのマチルダなんか気にするこたぁねぇよ。遊女ってのはなぁ、向こうも商売だからさ、客を悪い気にはさせねぇしさ、いい夢見ようや。」
「いやいや、マジで俺、マチルダひと筋なんで。」
「お前がそうでも、マチルダはお前なんかどうでもいいって言ってるんだからさ、気にするこたぁないぜ。」
「師匠、いくら師匠でも言っていいことと悪いことがあるっす。」ムッとするアル。
「アル…。」マチルダ、落ちたかな。笑
「アル、冗談だって。お前、マチルダが絡むとやたらとムキになるのな。」さらにムッとするアル。そこへホルヘが絶妙なタイミングで割って入る。
「アル、落ち着け。
師匠、洒落がきついっすよ。」ホルヘ、いい仕事するなぁ。
「いや、アル、悪かった。言い過ぎたわ。
マチルダもごめんな。俺、ちょっと調子に乗ったわ。
ホルヘ、止めてくれてサンキューな。」ホルヘがウインクして来た。やっぱ、こいつ、分かってるわー。こうなるとホルヘも弄りたくなるわな。笑
「ホルヘ、そう言えばさ、お前、西府の受付嬢のひとりに言い寄られてるんだって?」不安そうな顔をするレベッカとルイーザ。
「へ?」不意を突かれて訳が分かんなそうなホルヘ。そりゃそうだ。嘘だもん。
「何、惚けてんの?ネタは上がってるんだぜ。」
「いや、それ、どこ情報っすか?ガセっすよ。」弁解するホルヘ。
「え、そうなのか?
カルメン?」カルメンに振る。
「あたしゃ、後輩から直に聞いたけどね。じゃあ、まだホルヘに告ってないってことか。」とっさに話を合わせてくれるカルメン。いい仕事するわ。笑
「いやいや、マジでそんな話は全然ないっすよ。」
「あ、そうか。ここでは、な。」と言って、レベッカとルイーザの方をわざと見る。不安そうになるふたり。
「師匠、そう言う意味深なの、やめてくださいよー。」
「あー、分かった、分かった。」ホルヘが困ってやがる。
でもこれで、レベッカとルイーザに対しては、十分種は播いた。笑
「ところでさ、お前らは役人たちの護衛で明日は王都に帰るじゃん。俺たちは帝国の巡視に出るから、明日でお別れだよな。
折角だから今夜は呑もうぜ。」
「いいっすね。」
「師匠、そうなると思って、買って来てるっす。これ、スピリタって言うウォトカなんすけど、なんと96度っすよ。」なぜかアルがドヤ顔だ。
「なんじゃ、そりゃ!」思わず突っ込む俺。
「まあまあ、物は試しって言うじゃないすか。」
「そうっすよ。話のネタにもなるっす。」
で、夕餉前だと言うのに、スピリタに手を付ける俺たち。ちびりと舐める。
いや、何これ。物凄いアルコール度数で、よっぽどピリピリ来るかと思ったら、とろーんと舌を包み込むじゃないの。意外と行ける?
と思ったら、その後、口の中がカーっと来た。
「くっ、はー。」「うわっ、来た。」ホルヘとアルは、涙を流してるし。
一方、うわばみなわが妻たちはちびりとやったが、どちらかと言うと平気そうである。やっぱりね。笑
お子ちゃまなマチルダとレベッカとルイーザは、おもむろに咽ていた。
『ツリたちも、欲しい。』そうなのか?
スピリタをひと口ずつ含んで、順に精霊たちに口移しで分け与えたら、速攻で発光した。アルコールが濃い分、唾液中の魔力の増幅が激しいのだろう。しかし…、
酔っ払ってスイートルームをガンガン飛び交う精霊たち。
じきに『暑ーい!』と言って、ベージュのワンピを脱ぎ捨て出した。当然、顕わになる黒の下着。
「うおー、Tバック!」
「うおー、シースルーブラ!」
ホルヘとアルが反応した途端、マチルダがアルの後ろから両手でアルの両眼を塞ぎ、レベッカとルイーザがホルヘと精霊たちの間に入って、ホルヘの視界を遮った。笑
「お前ら、こっち来い!」精霊たちを俺にあてがわれた部屋に回収し、かわいい娘たちをホルヘとアルのエロい視線から守る。パパは大変なのだ。
そこで精霊たちと、再び呑み始めた…ところまでは記憶にある。
翌朝、目覚めた俺は腹が鳴るので、昨日の晩は、夕餉前にスピリタで寝落ち…というか、酔い潰れたっぽいことに気付いた。
腹は鳴っても、微妙に気持ち悪いから食欲はない。それと頭が痛い。うー、二日酔だ。
真っ裸の精霊たちは、すでに起きていてふわふわしてたので、ソルに状態異常回復魔法を頼んだ。
ソルの魔法で、血中の二日酔成分が分解され、復活した俺。
とっとと状態異常回復魔法を掛けてくれればいいものを、俺から指示があるまでソルは、自分の意思で状態異常回復魔法を掛けてはくれないのな。
今更だけど、俺の契約精霊たちは、俺からの働き掛けがないと自分からは精霊魔法を使わない。
これも教授への報告用にメモっとこ。
それにしても精霊たちは何ともないみたいだ。
マッパの精霊たちは、当然すべてを脱ぎ散らかしていたので、まずは下着を付けさせた。ブラの装着に慣れてない精霊たちは、随分手間取っている。仕方ないので手伝ってやるが、傍から見たらシュールだろうな。苦笑
って言うか、よくよく考えたら、俺もわが妻たちにブラは付けてやったことはない。脱がすの専門だし。そう言う訳で俺も手間取ったが、第四形態の7人にブラを付けてやった。
しかしこの間、マイドラゴンがむくむくと鎌首をもたげたのには参った。昨夜、わが妻たちとは何もできなかったからな。
ついでに第三形態のソルにも簡易衣類を着せた。
精霊たちを部屋に残したまま、精霊たちが脱ぎ散らかしたベージュのワンピをすべて回収するのにリビングに出ると、ソファーでゲオルク学校の連中が寝ている。こいつら、昨日の晩は、俺たちのスイートルームに泊まったのか。
それにしても、アルとマチルダは寄り添って寝てるし、ホルヘは両腕にレベッカとルイーザを抱えて寝ている。収まるとこに収まったって感じだな。
俺、GJ。ってか、キューピッド?笑
そうだ、ちょっと悪戯してやろう。アルの手をこうしてマチルダのおっぱいにっと。ひひひ。
別部屋では、わが妻たちがすやすやと眠っていた。今日からまた旅に出るから寝かしといてやろう。
ワンピを回収して部屋に戻り、精霊たちに着させた後、精霊たちを連れてバルコニーに出ると、帝都の街並みと帝宮が見える。町並みは非常にきれいだ。治安はいいのだろう。
帝宮はと言うと、西の塔がなくなっており、東の外壁が崩れている。東の蔵の倒壊は、建物が高くなかったせいで気にしなければ分からない。
遠目に見た感じ、小破ってとこかな。大破とまではいかなくても中破ぐらいにはしとこうと思ったのにな。
それもこれも、あの帝太子イゴールどのが単身乗り込んで来て話を付けて行ったからだ。イゴールどのはなかなかの人物だし、個人的な繋がりができたのはよかった。
いっそのこと、あの無能な皇帝を退位に追い込んで、イゴールどのに継がせてやろうか?
それと第二帝子のニコライはマジで糞野郎だったな。トーラも嫌ってたしもう少し追い込んでもよかったかもしれん。
「ちょっと、アルぅ。」あれ、マチルダが甘い声を出してる。まじか、ビンタじゃないんかい!ちぇっ、当てが外れたぜ。
「うーん、マチルダ、おはよう。
って、あれ?ごめん、そんなつもりじゃ。」慌てて手を引っ込めるアル。
「んもう…。でも、いいわよ。寝てたもんね。不可抗力よね。」ぶんぶんと頷くアル。アルの奴、しばらく手を洗わないだろうな。
「あ、師匠。おはようございます。」ホルヘが起きた。
「なんだよ、ホルヘ。朝っぱらから両手に花かよ。」ニマニマする俺。
「あ、ほんとだ。ふたりともいつの間に。」ホルヘが両横を交互に見ている。
「ホルヘ。ミッションだ。ふたりの胸を揉んで起こせ。」
「了解っす!」え?まじで?
レベッカとルイーザの胸を揉み出すホルヘ。あれー、こいつ、揉み慣れてるわ。
「ちょっと、ホルヘ、また?」「あん。ホルヘ。だめだったら。」甘ったるい声を出して、両横からホルヘに抱き付くふたり。おいおいマジか?
「ホルヘ、お前ら、できてたの?」
「できてないっすよ。でも昔から、一緒に寝たときはこうやって起こしてましたんで。でも生乳は揉んだことないっすよ。流石にそこまではできませんよ。」
恐るべし幼馴染の従兄妹同士。
「アル、お前、ホルヘに負けてんぞ。」
「くっ。
マチルダ、頼む。」アルがマチルダを拝み倒す。
「えー?」渋るマチルダ。でも満更でもなさそうな…。
「マチルダ、お前もレベッカとルイーザに負けてるぞ。」
「えー、でも…。
…じゃあ、服の上からなら…。」
もみもみ。アル、喜び過ぎて泣くのはどうかと思うぞ。
朝餉を終え、役人たちと合流し、帝宮までエカチェリーナ姫を迎えに行く。
帝国はエカチェリーナ姫用の馬車を用意しており、王国の役人たちの外交馬車と隊列を組んで、帝国国境警備隊とゲオルク学校が護衛に就いた。
帝都を出て、国境の町バレンシー、西府経由で王都に行く。ゲオルク学校は、契約延長で王都まで護衛し、帝国国境警備隊はバレンシーまで、バレンシーからは王国国境警備隊が西府まで、西府から王都までは西府近衛隊が、エカチェリーナ姫を護衛する。
俺はこの護衛計画を立案し、鳩便でバレンシーと西府と王都に送った。この権限は、王太子殿下のご意向で、西部公爵様から直接「わが手の者は好きに使え。」とお墨付きを頂いている。
王都では、エカチェリーナ姫の一行を見送った後、帝太子イゴールどのの命令で、肉弾切込隊のホワイトタイガー獣人隊が呼び寄せられた。ホワイトタイガー獣人隊は、片膝をつき、イゴールどのへの忠誠を態度で示した。
それを確認したイゴールどのが、ホワイトタイガー獣人隊に通達した。
「虎林の里族長タイガ以下、ホワイトタイガー獣人隊に対し、帝太子イゴールが通達する。控えよ。」
ホワイトタイガー獣人隊全員が首を垂れた。
「承りまする。」こいつが族長のタイガかな?
「帝国と王国の同盟が成ったゆえ、王国に対する備えは不要となった。王国同盟使節団正使、精霊魔術師ゲオルクどのと余の、友好と信頼の証として、対王国肉弾切込隊であるホワイトタイガー獣人隊の任を解き、獣人隊を解散する。
また、ゲオルクどのの愛妾トーラどのの郷里、虎林の里は、本日以降、帝国への恭順を誓うことを条件に、自治領として自治の復権を認める。
族長タイガ、虎林の里は帝国への恭順を誓うか?」
ホワイトタイガー獣人隊全員が一瞬ギョッとしたが、
「誓いまする。」同じ奴が答えた。やはりこいつがトーラの双子の弟のタイガだな。
「うむ。ご苦労だった。これより虎林の里に戻り、里の自治に励め。」
「はっ。」っとタイガが返事をしたものの、解散したての元ホワイトタイガー獣人隊一同は、余りの急展開に呆気に取られている。
「タイガ。」トーラが呼び掛けた。
「トーラ。里のために身を売ったのか?」タイガが切なそうに聞いて来た。
「違う。強い男を、見付けた。お頭様だ。」
「タイガどのか?俺はゲオルク・スピリタスだ。よろしくな。」
「強そうには見えない。お前、本当にトーラと釣り合うのか?」なかなか好戦的だが、このひと言は地雷を踏み抜いた。俺の精霊たちがイラっとしたのだ。
次の瞬間、精霊たちの怒気をぶつけられたタイガがぶっ飛び、ホワイトタイガー獣人隊の隊員たちは、その場にへたり込んだ。
「あ、タイガ!」トーラがタイガの所に飛んで行き、タイガを助け起こしてから、俺に跪いて詫びた。
「お頭様、なにとぞ、お許し、ください。」
それを目の当たりにしたホワイトタイガー獣人隊の隊員たちが、一斉に俺に向かって跪いた。
そのタイミングでタイガが、ようやく気が付いた。
「ううう。物凄い威圧。義兄どの、大変失礼した。俺は、義兄どのの実力を見誤った。」
「分かればよい。」ほんとは精霊たちがやらかしたんだけど、それは内緒にしとく。笑
「なあ、タイガどの。俺たちは帝国の巡視の旅に出る。まずは帝国中部のスクミンを目指す。タイガどのたちは帝国西部のエウーキ経由で虎林の里だろ?スクミンを通るよな?スクミンまで一緒に行かないか?」
「義兄どの、願ってもないこと。」
「タイガ、それがいい。タイガも、皆も、お頭様と、仲良く、なる。」
「ゲオルクどの、巡視の旅には、帝国の者たちを案内役に付ける。分からないことは遠慮なく聞いてくれ。」イゴールどのの申し出だ。
いくら同盟の条件にあるからと言っても、帝国としては、俺たちの行動の監視は必要だろう。
「イゴールどの。案内役か。もちろんそのご厚意に甘えよう。しかし、ここは入るなとか、そう言う案内は、一切受け付けない。見たい場所はすべて見させて頂く。」
「もちろんだ。」
その後、俺たち一行の外交馬車、案内役と称する監視の帝国役人たちの馬車、元ホワイトタイガー獣人隊の徒歩と言う編成で、帝都モスコペテブルを発った。最初の目的地は、帝国中部の都市スクミンだ。
スクミンの南には、広大な湿地が広がっており、その湿地に数多くある沼に、闇の精霊がいると言う。
まずは闇の精霊を見付けて、契約するのだ。
設定を更新しました。R4/9/4
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n2002hk/
カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。




