椎名砂沙美
「ねえ、お兄さん。アレ、なんのつもりなんですか?」
「恩を売っておくのと、あとはただの自己満足の追求だよ」
俺が子供たちの面倒を見るようになって3日目。
初日に俺の腕をつかんだ女子高生、「椎名 砂沙美」がそれに気が付き、何をしてるのかと聞いてきた。
俺の答えはシンプルだ。
子供たちの面倒を見るのはただの自己満足でしかないからな。
俺が無償で子供たちに肉を与えている事が周囲にばれると、いろいろと不味い事になる。
なので、子供たちには「俺から仕事を受けた事にしろ」「モンスターと戦わなくてもいい。迷宮に入って入り口で時間を潰せ」と指示してある。
これが「迷宮で戦え」であれば提案も受け入れがたかっただろうが、入り口にいるだけ、いざとなれば逃げればいいという話であれば従ってもくれる。子供たちの何人かはステータスをいじってもいない状態だが頑張ってくれるようだ。
全員にスキルを取らないようにと言っているのは、のちの布石だ。
俺のスキル育成や他の連中のスキル育成を参考に、効率良く成長するための情報を得てから頑張ればいいと思っている。
なお、スキルを取ったのは今のところ4人。
3人は物理・魔法・生産特化で、俺と同じく全部のスキルをリンクさせている。
俺と同じようなスキルが生えてくるだろうから、けっこう期待している。
最後の一人は最初からスキルを色々と取っていたという話。
子供たちは13人もいたけど、そのうち一人しかスキルを選んでいなかったというのはなかなか凄い。
話を聞いてみると、「もしもスキルを取って、そのスキル構成で詰まったらどうしよっかって考えたら、怖くて取れませんでした」という事らしい。
俺達の様に何も恐れず突き進む奴の方が不可解生物なのかもしれないな。
子供たちの様子は横に置こう。
この椎名の嬢ちゃんも俺のお仲間、ソロ攻略者である。
俺より頭一つ分体が小さく、全体的にスレンダー。短い髪の現役女子高生だ。
最初こそ他の女性グループにいたんだけど、そのグループが男のグループと接触するにあたってソロに転向したという経歴を持つ。
そりゃあそうだよな。
迷宮に長時間いるってなると、どうしても生理現象から逃れられなくなる。
具体的には言わないが、異性の前で致すというのもキツい話だろう。(噂で聞いただけだが)女を捨てられる30過ぎならともかく、女子高生にそれを言うのは難しい。
何より、男女が一緒にいるってなると体を求められるって事もあるだろうし。
娯楽の無い環境でエロいことを求めるってのは間違った話じゃないけど、誰とでもそれが出来るかってなると話も違ってくる。
俺は男だから軽い方だけど、貞操観念は人それぞれだからな。嫌がるのも無理はない。
むしろ、男グループと接触した女は最初からエロを求めていた可能性もあるか。
どうでもいい話だな。ここでサカらなければ。
一応、椎名とは情報交換をする間柄になっている。
俺は自身のスキル構成などを説明し、椎名のスキル構成についても聞いている。
椎名は物理よりで、魔法も少し使えるようにスキルを組んでいる。
物理の≪剣≫≪格闘≫≪盾≫≪鎧≫≪LP上昇≫≪ST上昇≫≪AGI上昇≫を、魔法の≪精霊魔法≫≪治癒魔法≫≪INT上昇≫を取っている。
いわゆる魔法剣士タイプだな。
で、リンクやらランクアップやらブランチやら、強化の方向性は雑だ。
ステ上げスキルはINT以外がリンク、INTだけブランチ。残りがランクアップとなっている。
リンクを選ぶとスキル経験値が共有されるようで、普通に戦って経験値を稼ぐと、スキルの使用状況に応じて経験値が入るらしい。彼女自身も体感で話しているのであまり正確な情報ではないが、似た話を他でも聞くし、そこまで突飛な予測でもないので今はこれを前提としておく。
俺の持っている情報のいくつかはこうやって彼女が経験から得たものなのだ。
椎名のスキル構成は少々脳筋構成とも言えなくもないが、何にでも手を出して中途半端になるよりはバランスがいいと思う。
そもそも、この子は仲間がいたのでソロを前提としてなかったからな。
パーティメンバーに合わせて考えたんだろう、きっと。
……最初からソロを前提にしていた俺のスキルがアレなのは、スキルで装備を整えるという発想が無かっただけだ。畜生。
なお、椎名は俺より先の4層まで進んでいて、そこで足踏み状態らしい。
俺より強い事と、ソロで何とかなるというのは別問題。
日帰りじゃあ戦闘と移動の時間の都合でそこから先には行けないし、一泊するなら見張り番の仲間が欲しくなる。
召喚魔法系は維持コストの関係で夜通し召喚し続けるのが不可能だし、人間の仲間しか頼る相手がいない。
ゲーム思考で言うなら、≪テイム≫スキルでもあればモンスターを仲間にしてどうにかできるんだろうけど。
今のところ、そんなスキルは確認されていないのでズルは出来ないって事なんだろうな。ちゃんと仲間を探せって話だ。
俺?
俺は男だから一緒に攻略しに行きたくないって言われるし、そもそも実力が足りてないよ。それに一緒に迷宮に行けるほど信用もされてないかな。
変な男と迷宮に行けば強姦されるかもしれないんだ。乙女らしい警戒心がちゃんとあって、良い事だよ。
「この子たちの面倒、見続ける気なんですか?」
「まぁね。怖い想像を一回しちゃったら、見捨てる事もできなくてさ」
一緒に迷宮に行けるほどの信用を勝ち得てない俺だけど、それでもお喋りの相手を務められるぐらいには椎名と仲良くなっている。
互いに生産スキルを持っていないので、情報共有ぐらいしかできないっていうのも仲良くできるポイントだ。利害関係が発生しないほうが話をしやすいんだよ。
「考えてみろよ。もしあの子らが餓死した場合、どうなると思う?
『死に戻り』はどこまであの子らを巻き戻す?
餓死する寸前? それともここに来た当初の状態? 分からないよな。
なら、最悪に備えておくのが俺みたいな大人の務めってわけさ。餓死しない程度に面倒を見てやるよ。俺がここに居るうちはね」
「そんな事より。さっさと強くなって先に進んでくれる方が私は嬉しいんですけど。
あの子らに投資した分、お兄さんの進みが遅くなりますよね」
「一緒に攻略する訳でもないんだ。気にする事か?」
「攻略情報については私頼りじゃないですか。早く私より先に進んで、色々教えてくださいよ」
戦闘能力で劣る以上、俺が椎名に教えられることはスキル関連しかない。
椎名の方が強く迷宮の先に進んでいるし、肝心のスキルだって手広くやっている分、俺より椎名の情報の持ち出しが多い。
……ヒモではないが、情けないな、俺。
椎名はふくれっ面で俺に子供たちを切り捨てろと言うが、そんな事、出来るはずもない。
話をして、一緒に飯を食って、面倒を見て。
情の一つや二つも湧くってものだ。見捨てるなんてとんでもない。
「まぁ、肉を渡すって言っても一回につき2枚分だけだし。そこまでペースダウンはしないよ」
「その小さい差が大きいんです。あとに響くんです。バタフライです」
椎名がジトっとした目でこちらを見る。
が、俺も引くわけにはいかないので、意地を張る。
「……これ以上、面倒を見る子供を増やさないって誓えますか?」
「増やす予定は無いし、増やさないように立ち回る気でいるよ。
俺のやる事だ。覚悟も何もないからさ、誓う事はできないけど、あんまり寄り道はしないだろうさ。たぶん」
「そこは断言してほしかったです」
最後には椎名も折れてくれたというか、俺の頑固さに諦めをつけたというか。年下の女の子に気を遣わせてしまった。
引くに引けなかったとはいえ、年上が何をやっているんだか。
こういう事はあんまり良くないし、今度、何か埋め合わせでもするかね。
とは言え、俺の方が弱っちいから、何ができるってわけでもないけど。
早く強くなりたいけど、今のスキル強化が終わるまで、今のペースであと5日。
先は長いな。




