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3層と肉と子供たち

 15日目。


 攻略組の連中は7層を攻略し終えた。

 7層は6層に比べ、楽だったらしい。誰にとっても良い事だな。



 俺のスキルは予想通り≪全能力強化≫になった。

 で、10個あった各能力強化のスキルが次の強化を選べるようになった。

 ただ、≪全能力強化≫でゼネラルを選ぶと、そういった強化が出来なくなった。双方向の強化と言うか、枠を多く使うみたいだ。

 選び終えると俺のスキルは≪全能力強化≫一つになり、他は何も無し。


 ……何も無し、なんだよ。畜生!!

 「空き枠にスキルを」なんて期待してたけど、全然ダメじゃねーか!!


 ま、それを知った時は落ち込んだしブチ切れそうになったけど、一周回って今は大丈夫だ。俺はクールだ。


 その代わり、能力値が全部Dになった。Fから一気に2個上のDなんだよ。

 ≪全能力強化≫スキルが固定値上昇効果をもっていて、それでようやく補正が入ったんだろう。


 俺、かなり強くなった。



 ステータスの能力値なんだけど、これってやっぱり倍率なんだよな。


 例えば、Fは補正無し。俺の素のままの腕力だった。腕立てとかしてみたけど回数に変化が無いし、体感だけど足の速さも変わらない。

 これがDになった途端、5割り増しって感じだ。腕立ては倍ぐらいできたし、足もかなり速くなった。しばらく慣らす必要があるぐらいだ。


 ただ、元が弱い奴は弱いままって気もする。

 例えば同じSTR:Dでも、マッチョ君は俺より強いしガリガリさんなら俺より弱い。補正一つぐらいなら下克上は難しくないと思ったし、二つ上でもガリガリさんなら勝てそうな気がする。逆にマッチョ君にはBぐらいで互角のような気がする。

 つまり、素の能力値を鍛えることがとても重要ってわけだな。


 だから筋肉をつけるために肉を食いたい、牛乳飲みたい。今の食生活にはたんぱく質とカルシウムが圧倒的に不足しているんだよ!!





 そんな訳で、ソロのまま3層に来てみた。

 ここで出てくるのは「スケルトン」「ゴブリン」に続く雑魚扱いされるモンスター、「グレイウルフ」だ。


 ウルフ、つまり狼なんだけど、こいつはかなり強い。ゴブリンなんて10匹いても勝てねぇよってぐらい強い。素の能力値で言うなら、STRが2倍でAGIが4倍ぐらいだな。他はよく分からん。

 迷宮の恩恵って言うか、ゲーム的な仕様なんだけどさ。入ったばかりなら1匹としかエンカウントしないからいいけど、奥の方で3匹4匹に囲まれると相当厳しい。

 ただ、倒せば「グレイウルフの肉」「グレイウルフの毛皮」「グレイウルフの爪」「グレイウルフの牙」「グレイウルフの骨」「グレイウルフの魔石」と、手に入るものが一気に増える。狙わない手は無い。



「怖ぇぇ!?」

「アオォォーーン!!」


 洞窟的な迷宮っていう立地が助けてくれるけど、グレイウルフの動きが早すぎて攻撃がなかなか当たらない。

 と言うか、攻撃されるのが怖くて回避に専念し過ぎて攻撃のチャンスがあんまりない。

 攻撃を避けて通路の壁に頭を当ててやろうとしても、そんな見え見えの手には引っかかってくれない。こいつら、賢すぎだろうが! INT高いよ!!


 ゴブリン相手であれば余裕で1匹1分の所を、グレイウルフ相手だと10分以上の時間をかけ、少し怪我をしつつもなんとか倒すことに成功する。

 ドロップに肉と牙があったから思わずガッツポーズ。「今夜のお夕飯はステーキよ」ってCM思い出したよ……! やべ、泣きそう。



 俺は何とかもう1匹のグレイウルフを倒すことに成功するが、それで体力が限界。肉2つを(アイテムボックス)に、意気揚々と迷宮前に戻るのだった。





 迷宮前は、大体場所ごとに割り当てが決まっている。

 俺のようなソロ野郎の居場所は入り口から離れた場所で、500mぐらい距離を取っている。攻略者サマはすぐ近くだな。奴らが優遇されるのはわりとムカつく日もあるけど、能力差を考えれば仕方がない。


 それはそうと、今日は焼肉だ。

 味付けは塩しかないけど、それでも無味パンに塩をかけただけの塩パンよりはずっといい。あれ、塩の味しかしないからな。

 ≪料理≫スキル持ちの知り合いがいないので、俺は「火種」と「燃料(薪)」、フライパン代わりの「平らな石」を購入して調理開始。ありがたい事に肉は最初からステーキ状にカットされているので、俺でもすぐに焼ける。


 グレイウルフの肉は、脂身が少しだけ乗ったものだった。全く無いわけではないが、普段の生活で食っている安い豚肉と比べると見劣りする。硬いし、味の方もお察しと聞いている。

 ただ、それでも肉なんだよ。味のしないパンじゃないんだ。口に入れた瞬間、俺の目から涙がこぼれ落ちる。

 短い牙を箸やフォークの替わりに無理矢理使っての食事は、日本で普通に生活していた時と比べるとめちゃくちゃ貧しいって言うか、みすぼらしいよ。水で汚れを落としているとはいえ手で直接触りたくないから牙を使っているけどさ、それでもたまに熱い石や肉に触って火傷しそうだよ。無味パンは柔らかすぎて食器にならないし。

 でも、それでもここに連れて来られ15日目にしてようやく食べた、味のある食事。その前には些細な事なんだ。ようやくここまで来れたんだと、感慨深いものがある。


 たった15日ぐらいだろと言うなよ。本当に辛かったんだ。

 1日2日程度なら耐えられるだろうけどさ、2週間も塩味だけってのはもはや拷問だ。人はパンのみに生きるにあらずとか言うけどさ、味の無いパンはパンですらねぇよ。



 俺は貪るように1枚目の肉を食べ切る。

 そうして、気が付いた。


 俺の事を羨ましそうに見つめる多くの視線に。

 塩との交換すらままならない、そんな連中の羨望に。

 俺が肉を食べ終えた事で、「あぁ……」と悲しそうな顔をする連中の顔に。


 その数、10数人。

 ほとんどが俺より相当若い、15歳に満たない中学生に見える。

 15日も生きているんだ、無味パンを食べてはいるだろうが、一様に痩せ細っている。アレはあんまり食べたいものではないから、食事が最低限になっているんだろう。食欲が無いのは体を動かしていない事も関係しているかもしれない。


 このあたりで肉を食う奴は今までいなかった。

 俺も昨日まではそうだった。

 だからこそ、肉の焼ける匂いに反応した中学生たちがこっちを見ていたのだろう。


 その悲痛とも言える顔に、俺はほんの少しだけ憐れみを感じ。

 それと、肉がもう一枚ある事を思い出した。



 ふむ、と俺は思考する。


 いじめをする連中から目を付けられる程度に、この子らは何もしていない。

 この子らは何もしてこなかった。ただ膝を抱えて泣いているだけだった。

 俺は雑魚でも雑魚なりに頑張り、スキルを鍛え、前に進んだ。

 何かする者しない者、俺たちの境遇に違いがあるのは当然だ。


 ただ、だからと言ってこの子らを放置するのはいかがなものかと思う。


 余裕が全くないなら助けられない。

 僅かばかりの余裕では全員を助ける事などできない。

 俺は僅かばかりの余裕があり、全員を助ける事は出来ないが、ほんの数人ぐらいなら助けられる。


 自立する意思のあるやつだけでも肉を分け与えるか? そいつらを使ってグレイウルフをより効率的に倒す。そんな事を考える。

 全員を助けられないなら、助けられるほんの数人を使い、より多くの余裕を作り、より多くの人を助ける余裕を作る。

 合理的に人を救うなら、それでいいだろう。


 ただ、そんな考えをするのは嫌だった。

 肉を小さく切り分ける方が、俺的にはまだマシな選択肢のように思えた。

 いつか戦えるようになるのを待つというわけでもなく、戦えない連中にも早い段階で飯を食わせてやりたいと、そんなふうに思ってしまった。

 戦いを強制するような真似はしたくなかった。


 合理的ではない、そんな考えで。

 俺は子供たちに肉を与える事を決めた。

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