修行のお話
社内登用試験の関係でペース落ちています。申し訳ない。
「ん……朝か。」
朝か、とは言ってみたものの、もしかしたら昼かもしれない。それくらい爆睡した感がある。ともあれ目が覚めたので起きるとしよう。
「Oh……」
目を開いて絶句した。
目の前に広がる大きく立派な二つの山。一瞬何事かと思ったが、よくよく昨日のことを思い出して納得した。これは紛れもなく昨日俺が登頂した山である。
ふとイタズラ心が沸いてきてそのまま顔を埋めてみる。うん、餅もびっくりな柔らかさだ。
「んっ……」
山の持ち主が声を上げる。いかんいかんこんなことをしてたら起こしてしまうな。流石に疲れただろうし、もう少し寝かせてあげよう。
未練を感じながら、出来るだけ音を立てないようにベッドから降りる。
「あれ……? コウさん起きたの……?」
「あ、悪い。起こしちゃったか。」
ベッドの軋みのせいか、はたまた体温が離れたせいか、シャルが目を覚ましたようだ。
「うん、まだちょっと眠いけどね……」
「別に寝ててもいいんだぞ。」
「ううん、せっかくだから起きるよ……あっ。」
「どうした?」
シャルが声を上げる。どうかしたんだろうか?
「コウさん、おはよう。」
「あ、ああ、おはようシャル。」
微笑みながら朝の挨拶をしてくれた。なんだろうこの気持ちは。無性にシャルのことが愛おしくなる。
「よしもう辛抱たまらん。」
再度ベッドに近づいていく。
「ど、どうしたの?」
「うん無理。俺、我慢、無理。」
「ちょ、ちょっとコウさん待って。私まだ……あっ。」
俺が悪いんじゃない。シャルが可愛いのが悪いんだ。
--結局宿を出たのはそれから三時間ほど経過した頃だった。
「えーっと、本当に申し訳ありませんでしたぁっ!!」
「本当に反省してるの?」
「はい、少しは。」
実はこれっぽっちも反省していません。だって悪いのは俺じゃない。
「少しって……なんで朝からそんなに元気なの?」
「なんでってシャルが可愛いからだろ。言わせんな恥ずかしい。」
「かわっ!? もう! そんなのじゃ誤魔化されないからね!!」
「別に誤魔化してるわけじゃないんだけどなぁ……」
きっと傍目から見ればバカップルみたいなもんなんだろう。だけど二十年も経ってようやくなんだ。大きな心で許していただきたい。だからそこの人、射殺すような目でこっちを見るのはやめてください。
そんなこんなで目的地に辿り着いた。もはや俺達の集会所と言っても良い例の酒場である。
「おや、コウさん。遅かったですね。もう皆さんいらっしゃってますよ。」
「ああ、ちょっとね。」
マスターが俺とシャルを交互に見て得心の言ったような顔になる。
「ああ、そういうことですか。昨夜はお楽しみでしたね。」
「昨夜どころか今朝……へぶっ!!」
「コウさん? それ以上言ったら怒るからね?」
これが怒ってないならなんだと言うのか。まさか肉体言語によるコミュニケーションとでも言うのか。
「いてて……相変わらずキレのあるパンチですこと。」
「コウさんが悪いんだからね!!」
「ははは、若いのは良いですねえ。ほら、あちらで皆さんお待ちになってますよ。」
いつもの席を案内され、二人してそちらへ向かう。マスターの言う通り、既にみんな集まって一杯やっていたようだ。
「コウ、随分遅かったじゃないか。」
「すまんすまん、ちょっと色々ね。」
「色々って……また貴方がシャルを引っ張り回してたんでしょう? シャルもお疲れ様。こちらに座りなさいな。」
既に俺が悪いことになっている。何故なのか。
「まあ良いじゃねえか。で、ボウズ。話ってなんだ?」
「ああ、遅くなってごめん。これからのことでちょっとね。」
俺も席に着き、飲み物を注文する。まだアルコールを入れるには早いので、ジュースにしておいた。
「これからのこと……と言うと、例の堕神めの件か。コウよ。」
「うん、次の狙いがヴィエラだって分かってるわけだし、このまま黙って待ってるわけにもいかないしね。やれることはやっておこうかと。」
とは言ってもやることなんて単純明快だ。今度こそフラッグを倒しきるために強くなる。俺も、皆も。
「薄々は皆気付いてるとは思うけど、フラッグを倒すには普通の強さじゃ倒せない。アイツは言ってた。自分の肉体は仮の姿。実際には精霊と同じように概念体だって。」
「ああ、言っていたな。だが俺はその仮の姿にすら敵わなかった。」
「アラン、お前が敵わなかったのはお前が弱いからじゃない。俺はそう思っている。」
「どういうことだ?」
やっぱりそう思ってたか。確かにフラッグの動きは速いし、攻撃力も半端じゃない。だけどそれが原因でアランが負けたかっていうとそういうわけでもないと思うんだよな。
「俺はイガさんもアランも武器が腕に追いついてないと思ってる。実際イガさんはビゼンを使ってフラッグ相手に立ち回ってたしな。イガさんもアランも実力としては大差ないと思ってるよ。」
「そうだな、オレもそう思う。」
イガさんも相槌を打つ。ただ技術的な面を含めればイガさんの方が少し上を行っている気がしないでもない。
「だから俺は今アランとイガさんの武器を新調しようと思ってる。もちろん俺だって自分が強くなるように努力するけど、俺一人で勝てるとも思えないしな。」
「武器を?」
「ああ、アランもそうだけど、せめて前の聖剣クラスの武器がないと正直厳しいと思うんだ。」
「コウ、そうは言っても聖剣なんて呼ばれる武器がそうそう転がってるわけもないでしょう? 何かアテはあるの?」
「アテも何もお前の親父が提供してくれたぞ。」
「えっ?」
なんだ、オルデン君ミリィには話してなかったのか。
「ワシ知らんもーん。」
「お、お父様!?」
あれ? もしかしてこれって結構ヤバい感じなのか? 話さない方が良かったか……
「ま、まあその辺は出来てからのお楽しみってことで。」
「ちょっと!! お父様! それとコウも!! 後でちゃんと話してもらいますからね!!」
「「やだもーん。」」
オルデン君とハイタッチを交わす。最近オルデン君のキャラ崩壊が著しいが、この際気にしないでおこう。
「と、まあ冗談はほどほどにしておいてだな。武器の話ともう一つある。」
「なんだ?」
「アランとイガさんにはある人を紹介したい。俺もお世話になった人なんだが、性格を抜きにすれば頼りになる人だよ。」
「性格……っていうと、とっつき辛いとか?」
「いや、とてもフレンドリーな爺さんだ。だけどシャル、お前とは絶対に会わせない。」
「えっ?」
あんなエロ爺に俺の大事なシャルを会わせてたまるか。
「まぁ細かいことは良い。要は一度会っちまえばいいんだろ? ならとっとと会いに行こうじゃねえか。」
「それもそうか。コウ、その人はどこにいるんだ?」
「ああ、えっと……」
あれ? そういえばこの前見様見真似で転移試して移動してきたから……
「どこだっけ!?」
「「おい!!」」
イガさんとアランから同時にツッコミが入る。そんなこと言われたってなぁ……
『あ、レインのことだよね? それなら僕が分かるから案内するよ。ただここからは少し距離もあるし、陸続きじゃないから移動手段が必要かもね。』
「おお、ビゼン分かるのか。」
困った時の精霊様だ。ただ俺は飛べるけど二人はどうしよう……
「オルデンくーん。」
「把握。」
よし、これで移動手段は問題ないな。持つべきものは友ってことか。
「お父様!?」
「なんだよさっきから、どうしたんだミリィ?」
「どうしたんだじゃないでしょう!? さっきからお父様とコウの会話がいちいちおかしいのよ!!」
先日の一件以来、俺達の間には多くの言葉を必要としなくなった。
「さっきのは俺がオルデン君、申し訳ないけど船とか用意出来る? って聞いて、オルデン君がもちろんじゃ。ワシが手配しておこう。って言ってくれたんじゃないか。何がおかしいんだ?」
「むしろおかしくないところがないわよ!!」
「コウさん、流石に私も今のは……」
「シャル、お前もか。」
全く、これだから女は……
「とにかくだ。船の手配が済んだら早速レイン爺さんに会いに行こう。会いに行く面子は俺、イガさん、アラン、それとヴィエラだ。問題ないな?」
「ちょっ、ちょっとコウ!! 今レインって言った!?」
「なんだヴィエラ。ミリィの騒がしい病がうつったのか?」
「ちょっと!?」
「ミリィと一緒にしないで!!」
おお、さりげなく酷いこと言ってやがる。
「で、レイン爺さんのことだな。ヴィエラが聞きたいことは分かる。で、質問の答えもイェスだ。お前の知ってるレインで間違いないよ。」
「くっ! なんで言いたいことが分かるのよ!!」
いやヴィエラさん、アンタローブ脱いだ時の分かりやすさはマジ半端ないっす。
「まあそういうわけでそのレインって人は剣の腕は確かだ。だからイガさんとアランにはそこで修行して貰って、その間に俺は二人の武器を用意するよ。」
「なるほど、理解した。」
アランだけはまともに返答してくれるな。他の奴も見習うべきだと思う。
「さて、じゃあ話もまとまったようだし……コウ、シャル。貴方達二人して遅れてきたわよね? その辺の話、詳しく聞かせて頂戴。」
ミリィからの意趣返しを食らってしまった。
そしてそのまま、俺達は根掘り葉掘り昨日のことを聞かれるハメになったとさ。
最近不安定になりがちですが、キッチリ書いていきたいと思います。




